-極東支部、独房-
ユウキが第一部隊の手で捕獲されたその日の夜、ユウキは質の悪い硬いベッドで目を覚ました。しかし、両手の位置を変えるために動かすと、ジャラジャラと鎖の音が聞こえてきた。どうやら両手は前で手錠に繋がれているようだ。
(捕まったか…)
身体は起こさずに目線だけで辺りを見る。打ちっぱなしのコンクリートや鉄格子の見える景色から、自分が捕まった事が分かる。
(極東支部の…独房か…?いや、そこ以外はあり得ないか…)
ここに来る前後の状況から自分の居場所を特定する。『さて、これからどうするか…?』と考えていると、足音が聞こえてきた。ヒールの音から女性。無意識かなのか音が大きく良く響く。それなりに強い脚力の持ち主…となれば誰が来たのか、ユウキは粗方察しがついた。
「起きていたのか…」
「お久しぶりですね…」
凛とした声が響く。それを聞いたユウキは身体を起こして、鉄格子の向こう側に居る人物を見据える。
「ツバキさん…」
ユウキは視線の先にツバキが居るのを確認すると、立ち上がってツバキの前まで歩くと、2人の目線が合う。
(…以前とは別人の様だ…)
久しぶりにユウキの顔を見たツバキはその豹変ぶりに内心驚いていた。以前の様な明るさは無くなり、あらゆる者を警戒しているかの様な鋭く乾いた目をしていたのだから、ツバキの反応も当然とも言えるだろう。
「…何故…勝手に出ていった…?」
雰囲気に飲まれかけたが、意を決してツバキが話しかける。
「…人でもアラガミでもない俺が…ここに居られるとでも…?それとも、俺に…支部で暴れさせて…それを理由に殺すつもりなんですか?」
「違う…」
「違わないでしょう?支部でアラガミ化して暴れたら、気兼ねなく不穏分子を始末できる…」
「違う!!何故そう卑屈に考え…」
「違わねぇだろっ!!」
ツバキが何故出ていったのかと聞くと、殺されるからと素っ気ない態度で答える。考えすぎだと諭そうとするが、それを聞いたユウキは逆上する。
「テメェらが…他人が何考えてるかなんて分かるはずねぇ!!どうせニコニコ笑って助けるなんて言いながら、腹ん中じゃどうやって俺を殺そうか考えてんだろ?!」
「そんな事は無い!!私達は本気でお前を…」
逆上したユウキは勢いに任せて怒鳴り散らす。鋭く睨んでくる眼光と勢いのある声量に圧されかけたが、ツバキも負けじと声を張る。どうにか説得してユウキを大人しくさせようと思ったが、突然ユウキがフラフラとした動作で膝をついて踞る。
「おい、どうした?」
ツバキがしゃがんでユウキの様子を見ようとする。するとユウキが小さく痙攣する。
「ヴゥ"ゥ"ゥ"ウ"ウ"ゥ"ゥ"ゥ"…」
次いでユウキが低い声で唸る。
『ビキビキッ!!』
するとユウキの頭や背中から、以前にも生えた角や大きな棘が生えてきた。そして瞳孔が縦に割れた真紅の目でツバキを睨み、涎を垂らして鉄格子に噛みついた。
『ガリガリッ!!ギギ…キィィ…』
噛まれた鉄格子が不快な音と共に少しずつひしゃげていく。
「な…にを…?」
『バキッ!!』
ツバキが困惑する中、ユウキは鉄格子を喰い千切る。
『ガリッ!!ガリッ!!』
そして口に残った鉄格子だったものをバリバリと噛み砕いて喰ってしまった。しかしまだ腹は満たされないのか、ユウキはツバキと目があうと、ツバキ目掛けて飛び込んできた。
『ガンッ!!!!』
「っ?!」
「グルルルルル…」
ユウキはそのまま鉄格子に頭突きをして、唸りながら真紅の目でツバキを睨む。しかしその数秒後、瞬きの後に両目を大きく見開いた。
「ギィ…ア"ア"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ア"ッ!!!!ア"ッ"ア"あ"?!?!ア"ぁ"ぁ"ぁ"ア"ッ!!!!」
『ブシュッ!!ゴポッ…ボジュッ!!』
角や棘が突然汚い音と共に液状化して消えたと思いきや、また同じ場所から生えては同じように消えると、生えては消えると言うのを何度も繰り返していた。
アラガミ化の際の激痛でユウキは悲鳴を上げる。そしてツバキの元から離れ、痛みに耐えながらヨロヨロと壁際まで移動する。
『ガンッ!!!!』
ユウキはコンクリートの壁に頭突きをする。
『ガンッ!!!!』
コンクリートにヒビが入る。しかしユウキは頭突きを止めない。その間にも角や棘は何度も再生と崩壊を繰り返している。
『ガンッ!!!!』
さらに強力な頭突きをする。今度は額を切って血が吹き出てきたが、それでも頭突きを止めず、何度も何度も頭を打ち付ける。傷は広がり、グチャグチャになって、顔が血塗れになっても打ち付け続ける。
頭を打ち付ける、奇声をあげて暴れ回ったユウキだったが、数十分経った頃には力尽きた様に横向きに倒れ、微かに息をしつつも動かなくなった。まだ血が着いているがアラガミ化も収まり、今のところは大人しくなったようだ。
「…分かったでしょう…?」
ツバキに背中を向けたまま、立ち上がることもせずに、ユウキは弱々しい声で話しかける。
「俺はもう人間じゃない…アラガミにもなりきれない…」
先程の様にアラガミ化する度に、そうならないように抵抗していたのだろうか。だとしたら今のような発狂したかのように絶叫し、自傷するのをアラガミ化が発症する度にやっていたのだろうか…そんな事を考えながら、ツバキはユウキを見ていた。
人には戻れない、アラガミになる決心もつかない、人とアラガミとの狭間で揺れ、どちらにもなれない事による肉体的、精神的な苦痛は当の本人にしか分からないだろう。ツバキはこの何も出来ない状況に苛立ちを覚えていた。
「放っておいてくれ…独りにしてくれ…」
「…」
ユウキは最後にツバキを拒絶する言葉を吐き、そのまま口を開く事はなかった。現状ではこれ以上何か話しかけても無駄だと悟ったツバキは一度ここから離れる事にした。
「…しばらくは面会謝絶だ。無断で出撃した事…じっくり反省するように…」
他人の神機を使った事によるアラガミ化…ここだけ聞けばユウキの自業自得とも言えるが、それは仲間を助けたいが故の行動だった。それでも助けられなかった者も居たが、実際に助かった者も大勢居る。
死んだと思われていた弟のリンドウが帰ってきたのもそんな無茶のお陰だった。しかし、無茶をしてでも大勢の仲間を救った本人が苦しんでいるのに、何も手を貸す事が出来ない。そんな自身の無力さを噛み締めながら、事務的な連絡をしたツバキは独房を後にした。
-深夜-
ツバキが去ったあと、ユウキは起き上がる事なくあのときのまま硬い床の上で横になり続けていた。そんな中、またコツコツとヒールの音が聞こえてきた。ヒールの音は少しずつ大きくなり、ユウキの後ろまで来ると足音は止まった。
「面会謝絶だぞ…」
ユウキは振り替え事も起き上がる事もせずに、後ろに来た者に面会謝絶だと言って話しかける。
「アリサ…」
ユウキの言った通り、後ろに立っていたのはアリサだった。ユウキが生きている事を直に確認出来て嬉しいのだが、どこか悲しそうな笑みを浮かべてユウキの背中を見つめていた。
「分かってます…さっき、ツバキさんから聞きました。だから、振り切って来ちゃいました。」
「…」
態度にこそ出さなかったが、アリサが命令違反をした事をあっけらかんと答えたので、ユウキは内心驚いていた。
「ユウ…一つ…聞かせてください。」
アリサはその場にしゃがんで、未だに背中を向けるユウキに、可能な限り近い位置で話しかける。
「ユウは、今でもここに…アナグラに戻って来たいと思ってますか?」
「…そんな事…できる訳ないだろう…」
ほんの一瞬の間の後にユウキが答える。その答えは『No』だった。アラガミ化が急速に進行している以上、極東支部に戻る訳にもいかない。
『やっぱりそう答えるか…』と言いたげにアリサは悲しそうな顔になる。だが少し考えた後、もう一度ユウキに話しかける。
「それは…皆に、その…拒絶されたから…ですか?」
「…」
アリサは歯切れが悪く、ユウキが皆の前から消えた理由を聞く。しかしユウキは横になったまま何も答えない。
「も、もしそうなら…大丈夫です!!例え他の人がユウを拒絶しても、私は絶対貴方を拒絶しません!!私だけは…何があっても貴方の味方ですから…だ、だから…」
「皆がどう思ったとか…そんなのは関係ない。俺のアラガミ化が治らない以上…アナグラに居る事は出来ない」
アリサが必死にユウキに戻って来るように説得するが、手応えがない為か少しずつ語気が弱くなる。その不安が的中したように、ユウキは帰る意思はない事を伝える。
「…なら、色んな前提を無視して…ユウの本心を聞かせてください。自分の身体の事とか…何も気にする事がなければ…戻りたいと思いますか…?」
「仮定の話なんて意味がない…それで本当に戻りたいと言って戻って来たとして…いずれ俺はアラガミになってここで暴れる…そうなったら俺は殺される。」
「… 」
現状がこうだったら…そんな仮定の元で帰りたいのかと聞かれても何の意味もない。現実はそうはならないのだから、その事について語っても机上の空論と言うものだろう。
「そうなったら極東支部だけじゃない。外部居住区の人にも危険が及ぶ。それに、極東支部からオラクル資源を分配されているような支部は資源不足になって支部の維持も難しくなる。アナグラで危険なアラガミを飼うってことがどういう事か…少し考えれば分かるだろ…」
「…」
相も変わらず冷めた態度でユウキは現実的な話をする。
「…帰って寝ろ。明日もあるんだろ。」
ユウキは冷たく突き放す。それを聞いたアリサは悲しそうな表情になって立ち上がる。
「ユウ、私は今でも…貴方に帰ってきて欲しいと思ってます。」
去っていく直前、帰ってきて欲しいと伝えると、アリサは『また来ますね』と言って今度こそ場を去っていった。
-2時間後-
アリサが去って2時間が経ち、傷も治り、血も綺麗にしてユウキはベッドに戻っていた。
「…っ!!」
そんな中、ふと何かが気になってユウキ目を覚ました。
(この気配…呼んでるのか…?)
上体を起こしてベッドに座る。何かしらの気配を感じ取り、そこに呼ばれているような気がしてならなかった。
(何故かわからない。けど、あの鳥人のアラガミ…妙に気になる…)
極東支部に来る直前に戦っていたアラガミ…クロウの事が妙に頭にちらついて離れない。目の前で人形へと進化した事が原因かとも思ったが、進化する前の鳥形態の時から何かが気になっていた事を思い出す。
『ジャラ…』
(…行くか…)
気になる理由は分からない。どうせここには居られない。ならばそれを知るにもいい機会だろうと思い、ユウキ立ち上がる。そして鎖の擦れる音を発して鉄格子の前まで移動する。そしてユウキは両腕に力を込めた。
-1分後-
『ビィィィイッ!!!!ビィィィイッ!!!!』
「な、何だッ?!」
皆が就寝中に突然けたたましい警報が鳴り響く。当然部屋で寝ていたツバキの部屋でも大音量で警報が鳴り飛び起きる事となった。
「ヒバリ!!何があった?!」
『ま、待ってください!!今調べ…え?!』
「どうした?!」
ツバキは内線でヒバリに連絡を入れると、ヒバリもまた警報で起きたらしく、慌てたような声で返事をする。そして途中から困惑したような声色に変わる。
『ど、独房フロアから脱走者です!!間違いなく…ユウキさんです!!』
「クッ!!何を考えているのだアイツは!!」
ヒバリは動揺して声を大きくしてユウキが極東支部から逃げた事をツバキに伝える。それを聞いたツバキは顔を歪めて、ここには居ない逃走犯に毒づき、ワイシャツから何時もの制服に着替え始める。
「第一部隊を出撃させる!!全員叩き起こせ!!ヒバリ!!ヤツの反応をロックしておけ!!」
『はい!!』
「すぐに私も指令室に向かう!!準備ができ次第指令室で第一部隊のサポートにまわれ!!」
ツバキは着替えながらヒバリに指示を出す。そして数分もしないうちに着替え終わり、指令室へと走った。
-5分後、指令室-
「諸君らも気付いているかも知れないが、神裂ユウキ大尉が極東支部から逃走した。」
指令室にはツバキ、ユウキの反応を追っているヒバリ、そして第一部隊が集まっている。そんな中、指令室にツバキの声が響く。
「第一部隊にはこれから神裂ユウキ大尉を連れ戻してもらう。殴ってでも構わん。強引にでも連れ戻せ!!」
「「「「了解!!」」」」
任務は当然ユウキの捕獲だ。全員拒否する理由が無いどころか願ったりな任務だ。任務を聞いた第一部隊はすぐに快諾する。
「それでツバキさん、ユウは何処に?」
「エイジスだ。」
-エイジス-
ユウキは極東支部を脱走し、気配に導かれるままエイジスの管制塔までやって来た。特に確証があった訳でもないが、何となくここに居ると思った。
「ここだったか…」
ユウキがエレベーターを降り、管制塔の頂上にたどり着く。そこには背を向けて両腕を組んで佇んでいるクロウが居た。
「何故…俺を呼んだ?」
「レイヴン…オレノコ…マッテイタ…」
クロウは相変わらず誰の事か分からない者の名を呼んでいる。しかしこの場にはユウキしか居ない。まるで『お前は神裂ユウキではない』と言われてる様に思えて不快感を感じていた。ましてや人間とアラガミの狭間で揺れている状況ではなおさら癪に障る発言だった。
「レイヴン…悪いがそいつの事は知らない。俺は俺だ。神裂ユウキだ!!」
その不快感を払拭するようにユウキは叫ぶ。そして神機を両腰から引き抜いてクロウへと突っ込む。クロウもそれに合わせて滑空し、ユウキに高速で接近する。
『ギィンッ!!』
ユウキが両腕の神機を外から内に振り抜く。それに対抗してクロウも長い両手の爪を振り下ろし、甲高い金属音が辺りに響いた。
両者の動きが一瞬止まる。その隙にクロウがユウキの神機を掴み、神機を抑え込んだまま身体を寄せて右足でユウキの腹を蹴り飛ばす。
「グッ?!」
突然の強烈な痛みにユウキは表情を歪ませる。しかし蹴られて後ろに跳んで行くのを利用して、ユウキは両腕の神機を引き、クロウの両手による拘束から神機を解放する。
だが両手がフリーになったのはクロウも同じだ。クロウも離れていくユウキに向かって跳び、右手の爪をユウキに向かって突き出す。対してユウキは左の神機の装甲を展開し、クロウの爪を受ける。
(グッ?!強い…けどっ!!)
想像以上の腕力でそのまま押し通されそうになったが、そのまま装甲を外に向けて傾けると、クロウの左爪は外に向かって流れていった。相手の胴が空いた隙にユウキは地を蹴って、右手の神機を内に巻き込みながら一気に懐に入り込む。
(もらった!!)
ユウキが内から外に神機を振る。相手は隙だらけ。確実に入ると思った。
『ギンッ!!』
しかしクロウは左爪で神機を受け止める。そして今度は受け止めた神機を軸にしてハンドスプリングの要領で上下反転して、ユウキの神機を飛び越える。そして上下逆さまになりながら今度は右手をユウキに向けてオラクル弾を発射する。
「ッ!!」
思いがけない奇襲にユウキは驚いたが、神機を振った時の勢いを利用して身体の軸を右に流し、大きく右に傾けてオラクル弾を回避する。そして今度はユウキが左の神機を振り上げてクロウを迎撃する。
しかしクロウは右の翼を広げて左の神機を上から叩き付けて無理矢理軌道を逸らせる。
(クッ!!次は…!!)
互いに決定打を与えられる状況だったが、互いにそれを回避した。ユウキはクロウの次の行動を予想し、倒した身体の軸を少し戻す。クロウはユウキの後ろに綺麗に着地する。するとほぼノータイムでクロウは回転して爪でユウキを切り裂いてきた。予想通りの行動にユウキは前に跳び、クロウの爪を躱す。そして再度後ろに跳びクロウに接近する。
「喰い千切れ!!」
ユウキは右に回転しながら右の神機で捕食口『メビウス』を展開してクロウの脇腹を捕食する。しかしクロウは咄嗟に後ろに下がって被害を最小限に抑えて、長い両手を振り下ろして反撃する。それを見たユウキは追撃を止め、一旦後ろに下がった。
追撃を中断した隙に、クロウは振り下ろした両手をそのままユウキに向け、両手からオラクル弾を発射する。それを見たユウキは地を蹴り前に出る。装甲を展開してオラクル弾を防御すると辺りに爆煙が立ち込める。
しかしすぐに爆煙を突っ切ってきたユウキが右の神機を振り下ろす。
『ブシャッ!!』
クロウは後ろに下がるが間に合わず、ユウキの一撃を受けて大きな裂傷を作り、血を吹き出しながら倒れる。その勢いを殺し切れず、背中から倒れた後に一度転がって俯せに倒れて動かなくなった。
(何だ…?随分と呆気ない…手応えも無い…これなら進化する前の方がよっぽど強かったぞ?)
思ったより呆気なく戦いが終わった事にユウキは拍子抜けしていた。結局何故コイツが気になっていたも分からないまま戦いが終わってしまった。そのままとどめを刺すべく、クロウの元に歩く。
「レイ…ヴン…」
「ッ?!」
倒したと思ったクロウがまた自分の事をレイヴンと呼ぶ。ユウキは思わず身構えて警戒した。
するとクロウは倒れたまま右手に光の珠を作り、それを少し離れた所に投げると突然光の柱が勢い良く立ち上がった。
「な、何だっ?!」
ユウキは突然起きた超常現象に混乱する。数秒程呆けていると唐突にクロウが話しかけてきた。
「ソノヒカリニ…ハイレバ、スベテヲ、シル…モノガ…イル…」
「何を…言って…?」
まさか命乞いのつもりかと思い、話を続けさせる前に倒さねばとユウキは思う。しかし、クロウの言う『全てを知る者』と言うのが気になってとどめを刺せずにいた。
「イケ…ソノ、サキニ…オマエノ…モトメル、コタエ…ガ、アル…」
「っ?!」
クロウの言葉にユウキは驚愕して両目を見開く。求める答えがある、この先に、もしかしたらこれでユウキが抱える問題を解決出来るかも知れない。都合の良い解釈だとは思っているが、自身のアラガミ化をすぐに治すにはそんなものに縋る以外に方法が無いのも事実だった。
クロウを殺してしまうともう『全てを知る者』の情報が手に入らないだろう。このまま殺してしまっても良いのだろうか…そんな事を考えていると、後ろから数人が走ってくる足音が聞こえてきた。
「ユウ!!」
「…」
アリサの声が聞こえて振り替えると、第一部隊が総出でユウキの事を追いかけてきた。
「何だ…?これ…いやそんなのどうでも良いや!!戻って来いよ!!ユウ!!」
「戻って来なさい!!これ以上心配かけないで!!」
「帰るぞ!!ユウ!!」
光の柱が立ち上がる超常現象を前にコウタは驚いていたが、すぐにユウキへと意識を向けて帰るように説得する。それに続いてサクヤとリンドウもユウキに帰るよう促している。
「…そいつが言ってたんだ…この先に、俺の求める答えがあるんだってさ。」
皆が帰るように言っているのだが、ユウキは第一部隊に向き直ると全く関係ない話をし始める。
「何を言ってる?!バカな事言ってないで戻るぞ!!」
会話の流れが読めずに混乱しつつも、ソーマは都合の良い話はないと切り捨てて再度ユウキに帰るように言い、強引にでも連れて帰ろうとユウキに歩み寄る。
『シャキンッ!!』
「ッ?!」
小気味良い音と共にユウキは右手で神機をホルダーから引き抜いてソーマに突き付ける。
「…じゃあアラガミ化を治す研究は何時完成するんだ?」
「それは…」
ユウキの問いにソーマは口ごもる。
「俺がそれまで人の姿を保っていられる保証もない。研究が完成する前にアラガミ化してしまえばそれでお仕舞いだ。そしてそのまま支部内で暴れたとして、被害を出さずに確実に俺を殺せるか?」
「ユウを…殺す…」
「そんな事…」
研究が完成するまで人でいられるとは限らない。そんな状態で極東支部に居座れば支部の崩壊、外部居住区への侵攻、そしてアラガミ化したユウキ討伐の為に多くの犠牲者が出る可能性は十二分にあり得る。その対策としてユウキを殺す…コウタとアリサは自分がそれを最後までやれるとは思えずにハッキリと答える事が出来なかった。
「俺がアナグラに居るだけで多くの人が危険に晒される。アラガミ化をどうにかしない限り、俺はアナグラに戻る事は出来ない。」
「…」
「じゃあ、ユウは極東支部から離れて支援も無しにここから先どうするんですか?!」
実際にユウキが極東支部でアラガミ化した時、殺す事に迷っている間に更なる被害が出る可能性だってある。ユウキが支部崩壊の不安要素の塊となった以上、極東支部から離れる事が最も確実に不安要素を潰す手段だとユウキは説明する。
それを聞いたリンドウは自身にも覚えがあるのか、苦虫を潰した様な表情になり、アリサはどうにか思い止まらせようと、極東支部の外で他の支援も無しに生き延びることなど不可能だと、だから戻って来いと遠回しに伝える。
「自分なりにアラガミ化を制御する方法を探す。その間にソーマの研究が先に完成すれば…それで治す。」
「で、でも…」
アラガミ化を止められないのなら戻れないと言うユウキの考えは変わらない。どうせ帰れないならばクロウの口車に乗るのもまた一興、結局ユウキの帰らないと言う意思は変わらなかった。
アリサはどうにか考えを改めさせられないかと必死に考えていると、不意にユウキが微笑んだ。
「大丈夫…必ず帰ってくる。だから、待ってて。」
「…」
矛盾だらけの必ず帰ると言うを約束し、ユウキは神機をしまって踵を返し始める。
「さようなら。」
「っ?!」
しかし第一部隊に背を向ける直前、アリサには小さく呟く様な声でユウキから別れの言葉が聞こえてきた。この一言で分かった。この男は帰ってくる気などないのだと。
「まっ…ッ?!」
アリサがユウキを追いかけようと走り出す。しかし、倒れていたクロウが間に入り、アリサに爪を振り下ろす。咄嗟に装甲を展開して爪は防いだが、勢いを殺せずに後ろに大きく飛ばされる。
「ぐっ?!」
「うわっ?!」
飛ばされたアリサはリンドウとコウタにぶつかりそのまま2人を巻き込んで後ろに倒れる。その間にソーマが前に出ようとするが、クロウが素早く爪をソーマに突き出す。ソーマは咄嗟に後ろに下がって躱す。するとクロウが両手の掌からオラクル弾をソーマとサクヤに撃つ。対してソーマはサクヤの前に立ち装甲を展開する。サクヤを狙った1発とソーマを追尾した1発の計2発を装甲で受け止める。
「グゥッ!!」
「クッ…ソ、ソーマ!!」
ソーマが装甲で防御している間に、クロウは急接近して装甲を殴りってソーマとサクヤを転倒させる。
そしてその間にユウキは光の中へと消えていき、クロウも第一部隊が倒れているうちに、続いてその光の中へと飛び込んだ。
「クッ!!」
一番早く立ち上がったアリサが光の柱に向かって全力で走るが、光の柱が弱まり始めた。
「ユウゥゥウ!!」
アリサが必死に手を伸ばす。光はまだ消えてない。間に合う。そう思ったアリサは光の中へと飛び込んだ。
『ズシャッ!!』
しかしアリサは光の柱を突き抜けて盛大に転んだ。一瞬何が起こったのか分からなかった。アリサが急いで振り替えるが、その間に光の柱はスゥと消えてしまった。
「…ユウ?」
何が起きたのか理解出来ないアリサがどうにか絞り出した様なか細い声でユウキを呼ぶ。
「お、おい…」
「消え…た…?」
「な、何が…」
「どう、なってる…?」
リンドウ達も何が起きているのか理解出来ていない様子で言葉に詰まり混乱する。光の柱が立ち上がったり、その光に入ったユウキとクロウが消えたりと、続けざまに超常現象を目の当たりにしたため無理もないだろう。
「ユウ…?どこ…?」
そんな中アリサも状況が理解出来ていないのか、辺りをキョロキョロと見渡してユウキを探す。
「か、隠れてないで…出て…来て…?」
何かの間違いだと、ただ自分がユウキを見つけられないだけだと必死に言い聞かせ、アリサは現実を受け入れまいと目線だけで辺りを見てユウキを探す。
「ねぇ…ユウ…?」
理解する事を拒んでいたが、遂にユウキが目の前から消えたと理解し始める。
「あ、ぁぁあぁ…」
ユウキが自らの意思で自分達の元から現実を理解した途端、アリサは心の中で足元から崩れ落ちる様な感覚を覚えた。
「あぁぁあぁあぁああああぁぁぁぁぁあぁぁあぁあぁああああぁぁぁぁぁ!!!!」
アリサの泣き叫ぶ声が響いた。
この日、1人の少年が世界から消えた。奇しくもその日は、少年が1年前に神機使いとなった日だった。
2072年 4月10日 神裂ユウキ M.I.A
仲間が居なくなった…この世界では在り来たりな事だ。珍しい事ではない。しかし、消えたのは大事な仲間…無茶をしてでも仲間を救い、バラバラになりかけていた俺達をまとめあげ、他人の悩みを自分の事の様に考えて一緒に悩んだ様な奴だ。
それがたった一度、人成らざる力を見せつけた事で全てが狂い始めた。その結果、自身の危険性を知ったアイツは、自ら俺達の元から姿を消した。未然に防ぐ事が出来たのに、俺達はその可能性をことごとく取り零した。
こうして最後は目の前で仲間が光に飲まれて消えた。すぐそこにあった手に、手を伸ばしても届く事はなく、俺達はその手を掴み損ねてしまった。
そして俺達と共に戦った仲間…神裂ユウキが帰ってくる事は…もう二度と無かった…
極東支部第一部隊活動記録
著:ソーマ・シックザール
『ガコンッ』
歯車が回り出す…もう、運命は変えられない…
To be continued
後書き
長らく放置して申し訳ありませんでしたm(_ _)mその割りには本編は盛り上がりに欠ける様な出来に…うごごごご…
今回でユウキとクロウの因縁が明かされる…事はなく次回に持ち越しになりました。他にもユウキがアナグラから出ていくどころか光の柱に飲まれてこの世から消滅したりしました。GEの世界観では違和感のある描写ですが…まあ、『ある存在』が関わっている時だけなので…どうかお許し下さいm(_ _)m