-1カ月後、ユウキの部屋-
ユウキが超現象の果てに、エイジスから消えて1ヵ月が経った。そんな中、極東支部内、ユウキの部屋では…
「アハハ…それはなかなか大変でしたね。」
元々医務室のベッドで寝かされていたアリサがユウキのベッドに座って談笑していた。
「はい…フフッ!!そうなんですよ。あのときのコウタが可笑しくて…」
アリサは手を口元に当てて楽しげに、そして上品に笑う。ただし、アリサの目の焦点は合っておらず、誰も居ない空間に向かって話しかけていた。
「…」
「…色々と手を尽くしたが…」
「重症ですね…」
アリサの治療や様子見に来ていたソーマ、ツバキ、ルミコがため息をつく。
元々は病室で治療を受ける予定だったアリサだが、目が覚めると同時にユウキの部屋に入り浸り、空虚に向かって話しかけ始めたのだ。
そんな状態が1ヵ月続き、どうにかアリサを正気に戻そうと、ツバキとルミコが手を打ったがどれも空振りに終わり、今に至るのだった。
「あ、そう言えば配給で珍しくクッキー入ってたんですよ。ユウ、甘いもの好きでしたよね?食べますか?」
そう言ってアリサは脇に置いてあった箱を開ける。その中から薄茶色のチョコクッキーを1つ取り上げる。
「はい、あーん…美味しいですか?」
アリサが何もない所にクッキーを持っていき、指を放しすとクッキーがベッドの上に落ちる。しかし、アリサはまるで目の前でユウキがクッキーを食べているかのように、感想を聞いている。
「まだありますから、沢山食べてくださいね。」
そう言ってアリサはまたクッキーを摘まんで、ユウキが居ると思わしき場所にクッキーを運んだ。
「…どうにか出来ないですか?ルミコ先生?」
「原因は分かってる。ユウキ君が目の前で消えた事…止められる状況だったのに止められなかった事…それがきっかけで現実を受け入れられなくなって妄想に逃避したってところなんだけど…」
ユウキが消えて以来、アリサはユウキに想いを告げて恋人同士になった妄想の世界に逃げ込んでいた。甲斐甲斐しく惚れた男の世話をする姿はとても幸せそうだ。
ただし、空虚に話しかけている事と焦点の合ってない目のせいで端から見るととても不気味な雰囲気を醸し出している。
「ユウキを連れてくる事が出来れば…手っ取り早いんだがな…」
「…」
「ソーマ?」
ユウキは生きている、それを証明して正確にアリサに伝えられれば正気に戻るかも知れないと思ったが、その最有力となるユウキ本人をアリサに会わせる方法が取れないとなると、どんな方法であっても正確性に欠ける。
どうすればアリサを正気に戻せるのか考えていると、徐にソーマがイラついた様子でアリサの元へと歩いていく。
『バシッ!!』
するとアリサの手を叩いてクッキーを叩き落とした。
「「ッ?!」」
「な、何するんですかソーマッ!!ユウが食べてるのに!!」
「いい加減現実を見ろ!!!!」
ソーマの予想外の行動にツバキとルミコは固まり、アリサは怒り狂うが、それを上回る勢いでソーマが怒鳴る。
「アイツが居なくなってから1ヵ月経ってるんたぞ!!!!いつまで妄想に逃げている気だ!!!!」
「バカな事言わないでくださいっ!!!!ユウはずっと私の隣に…あれ?」
ソーマはユウキの居ない現実を受け止めずに逃げ続けるアリサを見て苛立ちを抑えきれなくなり現実を突きつける。しかしアリサはそんなはずないと逆上し、ユウキが居たはずの場所を見る。
「あ、あれ?ユウ…?どこ?ねぇ?」
辺りを見渡してもユウキは居ない。アリサはその事を理解するとエイジスでの事を思い出した。
「あぁぁあぁあぁああああぁぁぁぁぁあぁぁあぁあぁああああぁぁぁぁぁ!!!!」
「アリサ!!」
「軽率だぞソーマ!!」
ユウキを連れ戻せなかったどころか行方不明になった事を思い出してアリサはベッドに顔を伏せ、大声で泣きだした。
ルミコはアリサを落ち着かせようと声をかけ、ツバキは短絡的な行動を取ったソーマを叱責する。
「…クソッ!!」
ばつが悪くなり、ソーマは思わず踵を返してユウキの部屋から出ていった。
-神機保管庫-
技術班が任務から戻ってきた神機の整備をしていると、作業中の技術班員がリッカに話しかける。
「リッカさん、ここの調整なんすけど…ちょっ?!リッカさんストップストップ!!」
「ひゃっ?!えっ?!何?!」
突然大きな声で呼ばれ、リッカは驚いてすっとんきょうな声をあげる。
「マニピュレータが高速モードのままですよ!!そのまま作業したら機材も神機も壊れますよ!!」
「あ…うん、そうだね…ごめん…」
自分の不注意で部材や機材もだが自身も危うく怪我をするところだった。危険な行動をして周りに心配をかけた事をリッカは素直に謝る。
「やっぱりまだ出るべきじゃありません。もう少し気持ちを落ち着けてから戻って来てください。」
「でも…仕事回らない…」
ユウキが消えてからと言うもの、その事を忘れようと仕事に没頭しているようで上の空のままなリッカを見た整備士はリッカにもう少し休む様に伝える。
しかしリッカは自分も仕事をしないと神機の整備が追い付かないと弱々しい声で反対する。
「今の貴女を見ているとその内怪我しそうで心配ですよ。仕事なら俺達が何とかしますから、落ち着いたら戻って来てください。」
「…うん…ごめんね。」
少し悩んだ後、リッカは整備士の言う通り、少し気持ちを落ち着ける為に休むことにし、仕事を任せて自室に戻っていった。
-エントランス-
人も疎らになってきたエントランス、カウンターにはいつもの様にヒバリが立っており、珍しくその側にはゲンも居た。そして任務から戻ってきた第二部隊がヒバリの元へ報告に来た。
「ヒバリちゃん、戻ったよ。」
「あ、タツミさん、お帰りなさい。」
タツミはいつもの口調、いつもの表情でヒバリに話しかける。これにヒバリもいつもの様に返事をするが、どちらも声の雰囲気にいつもの勢いや明るさは無く、何処か沈んだ雰囲気だった。
「…その様子じゃあ見つからなかったみたいだな。」
「…すいません。俺達の力が及ばず…」
「ああ、悪い。責めたつもりはなかったんだけどな。」
ゲンが第二部隊の様子からユウキが見つからなかったのだろうと察すると、ブレンダンは申し訳なさそうな顔になる。
「そうですよ。ユウキさんが居なくなってから未だ手がかりになるものが一切ないんですから。見つからなくても仕方ないですよ。」
「…先輩、もう帰ってこないなんてこと…ないですよね?」
ユウキが消えてからの1ヶ月、手がかりとなるものが何一つ無いままだった。そんな状況では見つからないのも無理は無いとヒバリは第二部隊を励ます。しかし、アネットは1ヵ月も見つからない現状に不安を覚えて思わず最悪の可能性を口にしてしまった。
「ユウキさんの捜索、もっと長く広い範囲で続けた方がいいしょうか?」
「難しいだろうな。防衛班があまり長いこと抜けると外部居住区の守りも薄くなる。広範囲捜索は比較的自由な第一部隊に任せるしかない。」
「私のワガママなのかも知れないですけど、まだ…ユウキさんに何もお返し出来ていないんです。何が何でも…捜しだしてみせます。」
「そうだな。俺もアイツには恩がある。必ず見つけよう。」
捜索のかいなく、未だに痕跡も見つかっていないが、カノンとブレンダンはユウキの捜索に意欲を見せ、タツミも大きく頷いた。
「…でも、先輩が見つかったとしても…皆に酷いこと言われて、今のアナグラに…戻って来てくれるでしょうか?」
「可能性は…低い…と思います。」
「「「…」」」
しかしアネットはユウキが出ていくきっかけなった騒動を思い出す。戻って来ても身内から殺意を向けられるのでは戻って来たくなどないだろう。深く考える必要もない問いに、ヒバリが当然の答えを返すと周りは言葉を返す事が出来なかった。
-食堂-
第三部隊のうち、ジーナとフェデリコは任務を終えて昼食を食べていた。しかしユウキがどうしているのか気がかりで、あまり食事は進んでいなかった。
「先輩、どうしてるでしょうか…?」
「あの子強いから、大丈夫だと思いたいけど…アラガミ化も抱えてるとなると…」
『生存の可能性は限りなく0に近い』その事実をジーナは口にする事はなかった。そんな中、いつもの様にシュンとカレルのコンビが席につき、続いてもう1人の神機使いも同じ席について話し始める。
「あのバケモノが消えてひと月か…毎日毎日捜索捜索、支部長代理もめんどくさい仕事ばっかり押し付けやがって…」
「大した報酬も無いのもな…自分から出ていったやつの捜索なんて無駄だってのによ。」
「ま、でもこのまま見つからなければ身内に殺されるなんてこともなくて良いじゃないの?」
口々にユウキが居なくなって仕事が面倒になった事への文句や自分達が暴走したユウキに殺される可能性がなくなって安心したと話している。
それを聞いたフェデリコは頭に血が上り、怒りに任せて勢いよく立ち上がる。
「いい加減にしてくださいよ!!!!」
「「「ッ?!」」」
突然怒鳴られ、シュン達は驚いてフェデリコの方を向いた。
「先輩が出ていったのはアンタ達が先輩を追い詰めたからだろうでしょう!!」
「知るかよそんな事!!あのバケモノが勝手に出ていっただけだろうが!!」
「ならシュンのせいだな!!元々お前の一言が原因なんだからよ!!」
「…ッ!!」
シュンは出ていったユウキの自己責任、そして別の神機を使いは過去にユウキを殺せと言ったにも関わらず、きっかけは自分じゃない、だから自分には関係ない、自分は悪くないと全ての責任をシュンに押し付け、ユウキを追い詰めた事から逃げる言葉を聞いて遂にフェデリコがキレた。
「アンタだって先輩を殺せって息巻いてたじゃないですか!!アンタのせいでもあるだぞ!!」
「うるさいな。稼ぎが増えるんだから別に良いじゃないか…」
しかしカレルはいつもの様にあくまでも金にしか感心がない。良くも悪くもドライな態度がよりフェデリコの神経を逆撫でした。
「ふざけるな!!!!」
「止めなさいフェデリコ!!」
フェデリコが殴りかかる勢いでシュン達に詰め寄る。それをジーナが間に割って入り止めようとするが、フェデリコはそれを押し退けてでも殴ろうとするので、ジーナはフェデリコを抑えるのに必死になっていた。
-外部居住区外-
リンドウ、サクヤ、コウタの3人は作戦領域とは別の場所、だだっ広い荒野でアラガミを倒していた。
「よし、この辺のアラガミは片付いたな。」
そう言ってリンドウは辺りにアラガミが居ない事を確認して神機に変形させた右腕を元に戻す。
そして数秒程辺りを見回して確認していると、リンドウの端末に通信が入っていきた。
『お疲れ様。いや、まだ早いかな?』
リンドウが電話を取ると、端末越しにペイラーの声が聞こえてきた。
「そうですね。むしろ本命の仕事はこれからですから。」
『…彼が消息を絶ってから1ヵ月、1度もビーコンに反応がなかった。生きていても、もう周辺には居ないかも知れない。これからはもっと広範囲な捜索に切り替えないといけないね。他の部隊が未だ混乱している状態では、君たちに捜索を任せるしかない。負担をかけてばかりで悪いけど…』
「いいですよ。これも仕事のうちですから。それに、個人的にもまだアイツに返せてないデッカイ借りがあるんでね。」
エイジスでの一件から1ヵ月経ったが情報は何もない。そのせいか捜索を諦める者、ユウキの事を忘れて仕事に没頭する者、厄介者が居なくなって喜ぶ者、未だにショックから立ち上がれぬ者…反応は人それぞれだが、支部内の統率が乱れているのは間違いない。その混乱の中、捜索に時間を割け、自由に動けるるのは第一部隊だけだ。
反応さえ無いとなると支部や作戦領域付近に居ないのは間違いない。そうなると今まで目を向けなかった様な場所を直接捜索するしかないが、第一部隊以外が自由に動けないとなると、人手が足りないまま広範を囲捜索するしかない。
このままでは第一部隊の負担は計り知れないだろう。しかしかつてアラガミ化から救いだしてもらった事もあり、リンドウは難しい捜索でも快諾する。
『…すまないね。何か反応があれば追って伝えるよ。それじゃあ、よろしく頼むよ。』
『ブツッ!!』と言う音と共に通話が終了する。リンドウは端末を片付けるとサクヤとコウタの方を向いて今後の指示を出す。
「よし、この辺りの捜索、始めるか。」
「ええ、行きましょう。」
「…」
リンドウがユウキの捜索を始めると指示を出す。サクヤは頷きながら返事をするが、コウタからは返事がなかった。どうしたのかと思い見てみると、俯いて何かを考え込んでいる様子だった。
「どうした?コウタ。」
「あ、いや…あいつ、いっつもバカみたいに飯食ってたじゃないですか?だからその、腹…空かせて待ってるんじゃないかなって。」
「…」
ユウキはとにかくよく食べる。それだけ自身の代謝が良く、エネルギーを消費すると言うことだ。しかし、言い方を変えれば食事が満足に取れない状態が数日続くだけで命の危機に陥ると言うことでもある。
外部居住区の更に外となると、もしかしたら何処かで飢え死にしているのではないかとコウタは不安に思っていたのだ。
それを聞き、サクヤは考えないようにしていた最悪の事態も、もう考えて動かないといけないと思い、憂鬱になって黙ってしまった。
「…とにかく捜そう。何をするにしても、まずはアイツを見つけないとな。」
「…そうですね。」
リンドウがユウキを捜すように促す。コウタは頷いて捜索に気持ちを切り替える。
「よし、見つけたら説教の後にまた皆で飯でも食おうか。」
しかし、同じような不安を持っているのはリンドウも同じだった。表面的にはいつもの様にお気楽な雰囲気で捜索を始めるが、このまま見つからないのものではないかと言う可能性が何度も頭を過る。それを振り払う様に小さく頭を横に振って歩きだした。
-ソーマの部屋-
ユウキの部屋を出ていったソーマは自室に戻り、イラついているのを表しているかのように、ズカズカと乱暴な歩調で歩き、ドカッと勢いよくソファーに座る。そして目の前のテーブルに目を向けると、アラガミ化を制御するために研究した未完成の研究レポートの束が目に映る。ソーマはそのレポートを手に取り眺める。
「クソッ!!!!」
『バサッ!!』
レポートを読んでいるうちにまた、研究が間に合わなかった事を思い出して表情を歪める。そして腹立たしい現実への鬱憤を吐き出す様に、ソーマはレポートを思いっきり地面に投げて叩き付ける。
(まただ…)
ソーマは肘をついて俯き、かつて自身が死神と呼ばれていた時の事を思い出していた。
(また…仲間を守れなかった…っ!!)
死神と呼ばれた自分を普通の人間として接し、他者との確執を取り払うきっかけとなった友を助ける事が出来ずに喪った。目の前居たのに連れ戻せなかった事が、結局死神と呼ばれていた時から何も変わってないのだと言われている様な気がして余計にイライラする。
「チクショウ…ッ!!」
出来ることならアリサの様に、ユウキが生きている架空の世界に逃げ込みたい。しかしそんな事をしてもユウキが帰ってくるわけでもないのだが、この1ヵ月の捜索で手がかり1つ見つからないのでは、ユウキの死と言う現実も受け入れざるをえない。
信じたくない現実を受け入れなければならない、そんな現実に苛立ちを覚えてソーマは表情を歪ませた。
Next Part 91
後書き
リザレクション編完結です。リザレクション『復活』の名の通り、『ノヴァ』以外にも色んなものが復活したり復活フラグを立てたりしたオリジナル要素ですが色々とグダグダな展開になる要因になってしまった気が…
R編を読んで貰えば分かるかも知れませんが『東京喰種』にハマった事もあって少し展開を参考にしています。この章もアニメ1期のop『unravel』をイメージして書いていました。(ただ面白くなっているかは自信がありませんが…)
次章以降は基本完全にオリジナルになるので、胸糞展開やグロ展開もバンバン増えていきますので、これからも読んでやるよと言う寛容な方はお気をつけください。
下でオリキャラの紹介や用語紹介となります。興味の無い方はスルーしてください。
Norn -登場人物-
神裂ユウキ
使用神機
右手:
刀身:雷炎刀
銃身:アルバレスト極
装甲:剛汎用シールド極
左手:
刀身:氷神刀
銃身:サイレントクライ極
装甲:ティアストーン極
攻撃が通じないヴァジュラ変異種との戦闘でユーリの神機を使用し、以降は不安定ながら2つの神機を使用できるようになる。
その際、神機との適合率が100%を越えた者『ブレイカー』へと成長、より神機を自由に使える力『ブレイクアーツ』が使用できる様になる。
しかしその代償にリンドウの神機の時と合わせて複数の偏食因子を取り込んだ事でアラガミ化が再発、漏斗型の抗体持ちにも関わらず、かなり早くアラガミ化が進行した。最後にはクロウに敗北後、生き抜く為には人のままでは生き残れないと悟り、自ら黒く鋭い鉤爪の四肢にボリュームのある長い白髪に頭と背中に黒い翼の生えたアラガミへと変貌する。
その直前、エイジスで光の柱にのまれて消える超現象に巻き込まれ、M.I.A認定された。
Norn -用語-
P16偏食因子
偏食因子そのものが捕食能力をもつ偏食因子。特に偏食因子を好んで捕食する。偏食因子を捕食した場合は他の偏食因子を取り込んで増殖する。これによって偏食傾向を書き換える事ができる。ユウキに適合していない神機が後に適合したのはことため。
元々はユウキが神機使いになるよりも以前からユウキの細胞核に宿っていたもので、ユウキが多数の偏食因子を取り込んだ事で、自浄のために偏食因子の生成過程が血中に流すものに変化している。