mission91 正体不明
-贖罪の街-
2072年4月10日、教会を中心とした旧市街地では、立派な髭を生やした人の顔を持ち、獅子の身体、背中のマントの下から赤い翼状の刃物が飛び出した黒いアラガミ『ディアウス・ピター』と、極東支部所属の第一部隊が戦っていた。
「いっけぇ!!」
コウタがオラクル弾を撃つ。ディアウス・ピターはそれを右に飛んで避けるが、今度は避けた先の足元に、サクヤが撃った狙撃弾が飛んで来て、ディアウス・ピターは思わず後ろに下がってしまう。
「そこっ!!」
しかしディアウス・ピターがどう避けるか予測していたので、サクヤはすぐさま狙いを変えて、ディアウス・ピターの左目を撃ち抜く。
『ガァァァッ?!』
「オラオラァ!!」
ディアウス・ピターは突然のダメージに大きく仰け反り、その間にコウタが爆破弾を連続で撃ち込む。するとディアウス・ピターは先のダメージと爆破弾の爆風に圧されて完全に動きを止める。
「リンドウ!!」
「今だっ!!ソーマ!!」
サクヤとコウタがリンドウとソーマにとどめのチャンスが来た事を伝えるべく、2人の名を叫ぶ。
「うぉぉぉぉぉおお!!」
「おぉぉぉぉぁぉあ!!」
リンドウとソーマが神機を振り下ろす。するとディアウス・ピターはV字に切り裂かれて絶命した。
-エントランス-
任務を終えた第一部隊が極東支部に帰ってくる。神機を預けた後、エントランスにやってきた。
「それじゃあリンドウ、後はお願いね。」
「わぁってるって。」
サクヤが任務後の報告書をリンドウに任せると伝えると、リンドウは頭を掻いてヒバリの元に向かう。
「それじゃあリンドウさん、お疲れっす。」
「おう、しっかり休めよ。」
「…」
コウタが労いの言葉をかけると、階段を降りながらリンドウが右手をヒラヒラと振って返す。ソーマは特に何も言わないまま、リンドウが下階に降りるのを確認すると解散になり、各自好きなように移動し始めた。
「お疲れ様です。特に何も問題はなかったみたいですね。」
「ああ、何も…な。」
「…」
リンドウの声が小さくなり、表情も少し暗くなる。リンドウの言う『何もない』がどういう意味なのか、ヒバリが今回の任務でもユウキは見つからなかったと察した。
「それじゃあ、報告書です。いつもの様にツバキさんに提出、お願いしますね。」
「了解。」
リンドウはヒバリから報告書を受け取る。そしてその後エレベーターで自室に向かった。
-ラボラトリ-
自室で報告書を書き終えたリンドウがツバキを探して歩き回る。役員区画、エントランス、神機保管庫、訓練室、挙げ句第ニ、第三部隊の自室に聞きに行ったが、ツバキは見つからなかった。
大方見て回ったが何処にも居ない。何処に行ったのやらと思っていると、まだラボラトリに行ってない事を思い出した。
『最近いくことがなくなったせいですっかり忘れていたな』と考えながら、リンドウはペイラーの研究室に入る。
「すいませーん、姉上いますかぁー?」
いつもの様にどこか暢気で気の抜ける口調でリンドウが部屋に入るなりにツバキを呼ぶ。
それを聞いたツバキは頭が痛いとでも言いたげに右側のこめかみ辺りに右手を添える。
「リンドウ…部屋に入る前に合図くらいしろ。それから何度も言っているだろう。ここでは姉上と呼ぶな。」
「失礼しました。」
口では謝っているが反省の色が見えないリンドウ、その様子を見てため息をつくツバキ…何度も繰り返されたやり取りをいつも通りに終わらせ、ツバキはリンドウの要件を聞く事にした。
「で?何の用だ?」
「いや、いつもの様に任務の報告書を持ってきただけですよ。」
そう言うとリンドウはツバキに報告書を手渡す。
「どうやら、いつも通りのようだな。」
「ええ、いつも通りです。」
2人の『いつも通り』というその言葉の意味を察したペイラーは、背凭れに背中を預けて、大きくため息をついた。
「彼が居なくなってもう1年か…早いものだね。」
「…そう、ですね。」
「…」
ユウキがエイジスから消えて1年が経った。しかし、その間に何の手がかりも得られなかった。こんな状態では少しずつユウキが生きていると信じる者は減っていき、最終的に極東支部での捜索は打ち切られる事となった。
後は未だにユウキの生存を信じる第一部隊とその他のごく僅かな神機使いが、任務の片手間に捜索する程度となっていた。
これで良かったのかと皆が後悔しながら考え、黙り込んでしまう。その空気に耐えられず、リンドウは『それじゃあ、俺はこれで…』と言って出ていった。
そしてエレベーターに乗り込み、エントランスに向かう途中、支部内に居るであろう人物に会ってない事を思い出した。
(…ん?そう言えば、アリサを見なかったな。自室にも居なかったし…)
エレベーターの中で、ツバキの居場所を探している時に、アリサの部屋にも聞きに行ったが、部屋の主は居なかった。ここ最近になってようやく任務に出られる様になったが、まだまともに戦える状態ではない。
任務に行く際はリンドウかサクヤに必ず許可を取るようにしているため、その報告が来ていないとなると、少なくとも任務には出ていない。ならば支部内に居る可能性が高いのだが一向に見つからなかった。
(…また…か?)
1つ思い当たる節がある。危険だから何度も止める様に言ったのだが収まる気配はあまり感じられない。すぐにでもヒバリにビーコンを追ってもらおうかと考えているとエレベーターが開いた。
「あれ?リンドウさんじゃないっすか?」
エレベーターが開くとほぼ同時に、2週間前に転属となった神機使い『真壁ハルオミ』が立っていた。
「え?ああ、ハルオミか。なあ、アリサ見てないか?」
「アリサ?さっきエレベーターで下に降りたのは見ましたよ。」
アリサの所在について考えていたため、リンドウは遅れて返事をする。『どうせならついでに』と言った軽い気持ちで、リンドウはアリサの居場所についてハルオミに聞いてみると、リンドウにとって予想通りの返事が来たので、この後のどうするかが決まった。
「あーそうか、分かった。」
「?」
来たばかりのハルオミは事態の状況を把握しきれていない様だった。リンドウは1度エレベーターを降りて、入れ替わりでハルオミが乗り込む。
(一応招集かけるか…)
帰ってきたばかりだが、リンドウは第一部隊を集める事にする。そしてヒバリに連絡を取ってもらうため、ミッションカウンターに向かった。
-エイジス-
リンドウ達が再度集まり、出撃てからしばらくした後、少し不健康な痩せ方をして艶のない銀髪になってしまったアリサが管制塔の頂上をフラフラと歩いていた。
「…あっ?」
ボンヤリとしたまま歩いていたが、ここに来てふと我に帰る。そして辺りの景色を見て、ここが極東支部ではない事が分かった。
(また、来てた…)
こんな事があったのは今回が初めてではない。特にする事がない状態だと何かを考える訳でもなく、フラフラとエイジスに足を運ぶ。そんな事をもう何度もやっている。
(忘れようと思っても…全然、忘れられないですね…)
ユウキの事を忘れようとすると、ユウキの事を考えて最後に別れたこの地へと無意識に来てしまう。アーク計画の一件から立ち直れたと思っていたが、結局ユウキにおんぶに抱っこだったのだと自嘲する。
実際、ユウキはもう居ないと言われてから半年は、ユウキの部屋に引きこもり、廃人の様に無気力になっていたのだ。そこから外に出てツバキやヒバリの雑務を手伝えるようになったのが数ヶ月前、小型種のアラガミ討伐に出られるようになったのは数週間前とごく最近の事だ。
外に出る様になってから、時折ユウキの事を考えてはフラフラと神機も持たずにエイジスに行ってしまうが、これでもかなり立ち直ってきたと言うのが他者からの見方である事をアリサは知らない。
そんな事を考えてしばらく経った後、数人の足音が聞こえてきた。
「よう、アリサ。」
「リンドウさん…皆…」
声をかけられて振り替えると、そこにはリンドウ、サクヤ、ソーマ、コウタが居た。
「その様子なら、怪我とかも心配ないみたいね。」
「来るのはいいけど、神機くらいは持って行きなよ。」
「…帰るぞ。」
サクヤ、コウタ、ソーマがそれぞれアリサに声をかける。三者三様、かける言葉は違うが、皆アリサの事を心配している様だった。
しかし、それを聞いたアリサは『また心配をかけてしまった』と少し表情が暗くなって、第一部隊から顔を背ける。
「…ダメですね、私…ユウその事、忘れなきゃって…思うんですけど…忘れようとすればするほど…会いたくなって…」
アリサは顔を背けたまま下を見る。『ユウキの事を忘れて歩き出さないと…』と思うのだが、そうすると余計に会いたくなる。未だに最初の一歩さえ踏み出せていない現実に、アリサは自嘲するように笑う。
「無理に忘れる必要はないわ。」
そう言ってサクヤはアリサの元に歩み寄る。
「心の傷が癒えるまでは辛いだろうけど…でもそれは、貴女が生きている証でもあって、あの子が生きた証でもあるのよ?」
「サクヤさん…」
「辛い気持ちをいつまでも引きずらなくてもいいけど、あの子の事を忘れる必要はないわ。」
サクヤはアリサの抱える心の痛みもユウキが生きた証だと言い聞かせ、辛くても忘れるなと諭す。
「ユウの事を忘れないまま、あの子の分まで笑って生きる…その方が天国に居るかも知れないあの子も安心できるでしょ?」
「…」
『天国に居るユウ』と聞いたとたんに、アリサは俯き表情は暗くなる。それを見たサクヤは心の内で言葉選びを間違えたと思い慌ててフォローを入れる。
「…天国、なんて言ったけど…私たちだって、まだユウが死んだなんて思ってないわ。だから、任務の終わりにユウの捜索をしてるの。気持ちが落ち着いたら、今度一緒に捜索しましょう?」
「…はい。」
「よし、じゃあ帰るか。」
サクヤの説得も通じて、アリサは帰る事にする。リンドウの一言で全員が踵を返し帰り始める。アリサは少し立ち止まっていたが、第一部隊から離されつつも数秒後には歩き出す。
『ズガァァァンッ!!』
しかし、突然アリサの後ろに黒い人形のアラガミが空から勢いよく降りて来て、轟音と共に着地した。
「な?!コイツ?!」
「クロウ!!」
「チィッ!!」
「逃げろアリサァ!!」
第一部隊とアリサが振り替えると既にクロウは右腕を振り上げ眼前のアリサに狙いを定めていた。
(私…死ぬ…?)
振り下ろされる爪を見たアリサは自らの死を悟る。
(このまま死ねば…天国で…ユウに会える…?)
ユウキが最後に戦い、消息不明となった相手に殺される…ユウキと縁のあるアラガミに殺されるのなら、もしかしたらユウキと同じ場所に行けるかも知れないと、ありもしない幻想にアリサは縋る。
(…それも、いいかも知れませんね…)
ユウキの元に行けるなら死んでもいいやと、逃げる事も、反撃する事もなく、今の状況を打開する事を諦める。
それを知ってか知らずが、クロウが振り下ろした爪は止まる事なくアリサに迫る。
「「「アリサァァァァァァアアアッ!!!!」」」
『ズガァァァンッ!!』
しかし、クロウの爪がアリサの眼前に迫る中、今度は白い影が上から轟音と共にクロウとアリサの間に着地する。その直前にクロウは後ろに飛んで避け、即座に白いアラガミの後ろを取って左手の爪を付き出す。
それを白いアラガミは急速に右回転して右手でクロウの左手を掴む。そしてクロウの左手を掴んだまま右足で一気に前に出て、左手の爪を付き出す。
『ブジュッッ!!』
肉を引き裂き血が吹き出る音と共に、白いアラガミは左手の爪でクロウの胴体を貫いた。そしてその手の中にはクロウのコアが掴まれていた。
『スパンッ!!』
白いアラガミがコアを掴んでいた左手を握ると、黒い鉤爪がコアを輪切りにした。その後、クロウは黒い煙になって消えると白いアラガミは姿勢を直してアリサの方に振り向いた。
「な、なんだ?!コイツ?!」
「アリサを…助けたのか…?」
「見て!!腕輪と神機!!それも2つ!!」
「バカな…これじゃあまるで…」
黒く鋭い鉤爪の両手に同様の獣脚、色素が抜けた様に白い身体、身体と同色の顔とボリュームのある長い白髪、頭と背中からは黒い翼を生やし、鋭い目付きで縦に割れた瞳孔に『黄金の瞳』のアラガミと目が合う。
そしてコウタの一言で第一部隊は右手の赤い腕輪、両腰に差した2振りの『黒い神機』を確認する。これらの特徴から『とある神機使い』を連想するのだが、相手はアラガミだ。第一部隊が警戒していると、アリサは白いアラガミを見るとフラフラと歩み寄っていく。
「待てアリサ!!相手はアラガミだぞ!!」
リンドウが白いアラガミに近づくアリサを止めようと叫ぶが、アリサは聞こえていないのか変わらずに白いアラガミに近づく。
「ユウ…?ユウ…ですよね…?」
「「「「ッ?!」」」」
アリサの一言で第一部隊の誰もが驚愕した。確かに持ち物など、ユウキの特徴と一致する部分は多数ある。しかし相手がアラガミであることには変わりない。仮にこのアラガミがユウキだとしても、1年前に言っていた『ユウキを殺せるか』と言う状況になってしまう。
ここは慎重に、逃げるか捕らえるかが出来ればベストだが、アリサはアラガミになっていようが仲間だった頃のユウキだと信じて疑ってない様だ。
「帰って…きて…」
その瞬間、白いアラガミが黒い煙に包まれ、身体が崩れ落ちる。そして煙が晴れるとそこにはボリュームのある長い白髪、片目が隠れる程の前髪、縦に伸びた瞳孔に赤銅の瞳、アリサと同じかそれ以上に色白な肌、そしてボロボロになった黒いコートとスラックスを来た美女に見える男性が居た。
しかしユウキと似ていると言われれば似ているが、外見の特徴が変わりすぎていて本当にユウキなのか疑わしい。
第一部隊が困惑し、アリサはフラフラと歩み寄る中、目の前の男は突然膝から崩れ落ち、アリサがそれを抱き抱えてその場に座り込む。
そして腕の中に抱いた人肌の熱と規則的な呼吸で、腕の中に居るユウキと思わしき正体不明の男は生きているのだと実感する。
「あ…ふ…ふぁ…う、ううぅぅぁぁぁ…」
未だ第一部隊はユウキだと確信が持てないが、アリサはユウキだと確信している様だ。青年が生きていると分かるとアリサは泣き出し、しばらくユウキを抱いたまま泣き続けた。
To be continued
あとがき
アラガミ化の一件で変わり果てたユウキらしき正体不明の人物が登場しました。
居なくなって自分の中で決着を着けたり、リンドウさんと違い、化け物と蔑んで追い出し帰ってくる事を望んでいない者も居る中、ユウキ(?)や周りの反応をうまく書けると良いのですが…
お絵描きもしたいし、でも更新もしたいし…うーん、どうしたものか?