-医務室-
アラガミから人になった謎の青年を連れ、第一部隊が極東支部に帰って来た。ペイラーやツバキに報告を入れ、そのまま青年を医務室に連れていった。
ペイラーとルミコは青年からサンプルを採取すると、検査のためラボラトリに籠ってしまった。その間、第一部隊と第二部隊、それからリッカ、アネット、フェデリコが青年が寝かされている病室に集まっていた。
そんな中、アリサは寝かされている青年の手を握り続け、片時も傍を離れないまま丸一日が過ぎていた。
「…ユウ…」
「なあ、アリサ…本当にユウだと思うのか?確かに似てるっちゃ似てるけど…髪が白かったり目が赤かったり…俺達の知ってるユウと特徴が違いすぎて未だに信じられないんだけど…」
「間違いないです。私には分かるんです。」
コウタが誰もが思った疑問をアリサに問いかける。保護した青年は髪と肌は白、瞳の色も赤銅で瞳孔は縦に伸びている等、ユウキの身体的特徴とは似ても似つかないのだった。
加えて所持していた神機は2つとも黒くなり、形が変わっていた。所有している神機の数や持ち物等、ユウキしか持っていないはずの物を持ち、顔つきも似ているとは言え、目の前に居る青年がユウキだとは素直に信じられないのが、アリサ以外の人間の意見だった。
そしてしばらく沈黙が続くと、サンプルの解析と診察を終えたペイラーとルミコが医務室に入ってきた。
「 博士、ルミコ先生…この子の容態は?」
「自発的な呼吸もしてるし脈もある。それに脳波にも異常は無い。取り敢えずは、ちゃんと生きてるし何の問題もない。」
「じきに目が覚めるって思ってていいんですか?」
「うん。さっきも言ったけど異常は無い。目を覚ますのも、時間の問題だよ。」
サクヤがルミコに保護した青年の容態を聞いてみる。どうやら何も問題ないようだ。リンドウの予想通り、近いうちに目を覚ますだろうとの事だった。
取り敢えずは一安心できそうな状況だと分かると、ソーマが腕を組んだまま誰もが気にしていた青年の正体をペイラーに投げ掛けと、ペイラーは資料を読みながら答えていく。
「それで…こいつの正体は…?」
「…見た目や黒い色に変わっているが2つの神機を持っている。そしてリッカ君が渡した専用のホルダー、それから神機使いの腕輪…この子の所有物、それから腕輪のIDを照合した結果…」
そこまで言うと、ペイラー読んでいた資料から目を離し、皆の方を向く。
「この子は間違いなく『神裂ユウキ』君だよ。」
ペイラーの報告を聞いて、その場に居た者はざわめき始めた。口々に『良かった』や『やった』と喜びの声をあげる。
「ほ、本当に…?」
「良かった…良かった…」
「ほら、私の言った通りでしょう?!」
コウタが信じられないと言いたそうな声をあげつつも喜び、リッカは喜びのあまり涙を流して喜んでいた。そしてアリサは自分の言った通り、保護した青年がユウキだったと見抜いたと得意気になっている。
「あの、博士、ルミコ先生…この子がユウなら、その…『アラガミ化』の件は…?」
「その事なんだけど…現状、以前の様にアラガミ化の兆候は見られなくなったみたいなんだ。」
「…どういう事だ…?」
皆が喜ぶ中、サクヤはユウキが居なくなる原因となったアラガミ化がどうなったのかをペイラーに尋ねる。もしアラガミ化の一件が何も好転していなければ、一年前と同じことを繰り返す事になる。
しかしサクヤの心配は杞憂に終わった。ペイラーが言うには、アラガミ化の心配はないと言うが、アラガミ化は現在の技術では治療できない。ペイラーの言っている事と現実で食い違うため、ソーマは詳細な説明を求めた。
「アラガミ化が治った…と思えば良いのか?」
「そう思ってもらって構わないよ。この先、何かイレギュラーな要因でもなければ、彼のアラガミ化が進行する事はないだろう。」
リンドウがペイラーに結論を聞く。リンドウの思った通り、どうやらアラガミ化は治ったとの事だった。
「あの、俺達の前に現れた時、アラガミから人に戻ったんですけど…本当に何もないんですか?」
「現状、調べた段階ではね。おそらく、このアラガミから人に戻った…と言うのが、アラガミ化の兆候がなくなったカギだと思うんだけど、こればっかりは本人から何があったのか聞いてみないと、何とも言えないね。」
ペイラーはアラガミ化が治ったと言うが、アラガミ化は治らないと言うのが常識として広まっている。どうしてもペイラーの言った事を素直に信じられない。ましてや完全にアラガミ化した状態から人間になったのだ。それを目の前で見た者の1人てあるコウタが本当にユウキに何の異常もないのかが気になっていた。
「何にしても、この子は…ユウは色んな問題を解決した上で帰ってきた。そう思って良いんですね?」
「うん。最大の懸念事項であるアラガミ化は、もう進行しないと思う。」
サクヤが以前の様にユウキがアラガミ化して暴走する事はないと確認すると、ペイラーは諸々の諸問題を解決して帰って来たと太鼓判を押した。
「良かった…」
以前の様な問題はないと聞いて、アリサは安堵して穏やかな表情になる。その最中に、ユウキの手がアリサの手を握り返してきた。
「う…ん?」
そのままユウキが身動ぎする。そしてゆっくりと目を開けると、縦に伸びた瞳孔に赤銅の瞳が顔を覗かせ、その後虚ろな目で目線だけを動かして辺りを見回す。
「「ユウ!!」」
アリサとリッカの声が重なって目を覚ましたユウキの名を呼ぶ。
「やった!!起きた!!」
「心配かけやがって…」
「ほんと、目が覚めてよかったわ。」
「…フッ…」
コウタ、リンドウ、サクヤ、ソーマが安堵した声をかけると、それに続いて周りもユウキに声をかける。
「っ?!」
しかし、突然ユウキが大きく目を見開き、ベッドから跳ね起きて第一部隊達から壁を背にする限界まで距離を取る。
「ユウ?!どうしたんだよ!!」
「無理もないわ。あんな拒絶のされ方したら…私の事も避けたくなるでしょう…」
「だ、大丈夫ですよユウ。私たちは…」
「だ、誰だ?!」
以前よりもさらに低くなったユウの一言でその場が凍りついた様に静まり返る。
「え?な、何を言って…」
アリサが少し震えて信じられないと言った雰囲気の震えた声でユウキに問いかける。
「こ、ここは何処だ!?あなた達は一体なんだ!?」
気が付いたら知らない場所に連れてこられてパニック状態になったユウキが怯えた目で第一部隊達を見ながら大声で色々と聞いてきた。
「落ち着いて。『君』、名前は?」
「な、名前…?なまえ…」
ペイラーがユウキを落ち着かせ、試しに名前を聞いてみるとユウキは大人しくなる。
「ぼ、『僕』の…名前…?」
吃りながらユウキは右手で頭を抱えて考え込む。自分の名前を答えられない様子からユウキに何が起こったのかを察する。
「どうやら、記憶を失っているようだね…」
「「「…」」」
「……そ…」
ペイラーはユウキの様子から記憶喪失だと判断する。思わぬ症状に周りも困惑して黙ってしまう中、アリサがボソッと何かを呟く。
「…え?」
「ウソです!!!!」
「っ?!?!」
ユウキが呆けた瞬間、アリサがユウキの肩を掴んで嘘をつくなと迫ってきたため、少し落ち着いたはずのユウキは余計に怯えた目でアリサを見る。
「ユウが…皆の事や…『私』の事を忘れるなんてウソです!!!!忘れたフリをしてるんでしょう?!」
「止めなさいアリサ!!今彼を追い込む様な事はしないでくれ!!」
「でも…でもぉ!!」
記憶喪失だと聞いたアリサは信じたくないが故に嘘だと決めつけ少しだが錯乱した。ペイラーはユウキを問い詰めるのは危険だと言ってアリサをユウキから引き離す。
しかしアリサはそれでもだだっ子の様にユウキに問い詰めようとする。仕方ないのでペイラーはサクヤとリンドウにアリサを任せて先に医務室から出させる。
「すまないね。まだ本調子じゃないだろう?今はこのまましばらくゆっくりしていてくれ。それじゃぁ皆、容態は追って伝えるから、早く持ち場に戻ってくれ。」
ペイラーが一言持ち場に戻る様に言うと、その場に居た者はそれぞれ自分の持ち場に戻るために医務室を後にした。
-リンドウの部屋-
ユウキが記憶を無くして帰ってきた翌日、第一部隊とリッカはリンドウの部屋に集まっていた。
「記憶喪失か…博士が言うのには、長期的なアラガミ化が影響してるじゃないかって言ってたが…」
「本当なんですかね…その話。」
「…昨日の話を鵜呑みにするなら…な…」
リンドウがソファに背中を預けながら昨日の事を思い出す。そして未だにユウキの記憶喪失に懐疑的なコウタにソーマが口を挟む。
「ユウが嘘をついてるって事?」
「仲間だと思った連中からある日突然殺意を向けられたら、誰だっていい気はしないだろう。可能な限り早くここを出ていくために無関係な人間を装ってる可能性も…」
ユウキが嘘をついているのがとコウタが聞き返すと、そうなっても仕方ないとリンドウが返す。
「でも!!腕輪や所有物からユウだって事は分かってるんですよ?!やっぱり記憶を思い出してもらってハッキリさせた方が良いです!!」
そんな中、青年の正体はユウキだとはっきりしているの以上、それを伝えて記憶を取り戻させる方が良いとアリサが主張する。
「けどさ、皆から酷い事たくさん言われたんだよ?辛い過去なら…忘れたままの方が良いかも知れないよ?」
アリサの主張に対してリッカはユウキが極東支部で受けた扱いの事を思い出させるのは酷だと待ったをかける。
「じゃあいつまでも記憶が戻らなくても良いんですか?!ユウが今まで積み上げてきた過去や思い出、私たちと過ごしてきたユウが戻って来なくても良いって言うんですか!!」
「ッ!!」
しかし、記憶を無くして別人となってしまったユウキのままで良いのかと、アリサはリッカを捲し立てる。それに対して八つ当たりを受けている様に感じたリッカは腹を立てる。
「そんな事言ってないよ!!ユウが受けた扱いを考えたら無闇に思い出させるのはやめた方が良いって言ってるの!!」
その結果、リッカは強い口調で無闇に思い出させる必要はないと怒りを露にして反論する。そして、そのまま2人は睨み合う。
「お、落ち着いてよ2人とも!!」
一触即発は空気にコウタは素早く仲裁に入る。
「まあ、すぐに思い出させるってのは…俺も同意できないな。また脱走しかねない。」
「だがそれでアイツの過去が変わる訳でもない。俺達はともかく、他の連中がユウに危害を加える可能性だって十分にある。早めに記憶を取り戻して対策を練った方がいいじゃないか?」
「そ、そうですよ!!ユウの身を守る為でもあるんですから、早く記憶を戻してあげるべきです!!」
記憶を取り戻す時期はもっと慎重に選ぶべきだとリンドウが言う。それに対してソーマがユウキの事を恐れる連中から身を守る意味でも早く記憶を取り戻させる方が良いと返すと、アリサもソーマの意見に同意する。
「…でもね、それがユウを苦しめる事もあるかも知れないわよ?アリサなら…分かるでしょ?」
「私ならって…あっ…」
『アリサなら分かる』と言うサクヤの一言にアリサは何の事だと一瞬考えたが、すぐに合点がいった。かつて辛い記憶を封印し、その記憶を取り戻した時に大きく取り乱したりした事を思い出して、アリサの勢いは弱まる。
「私達だって、ユウの記憶が一生戻らなくても良いとは思っていないわ。ただ、思い出すにしても心の準備が必要だと思う。それまでの間は私達がユウを守ってあげればいいじゃない。」
「…そう…ですね…」
サクヤの言っている事も分かる。無理に思い出させてアリサの時の様に錯乱してしまう事もあり得るだろう。
「…ごめんなさい。失礼します。」
「あっ…ま、待ってよアリサ!!」
急激に気持ちの昂りが冷めたアリサはいたたまれなくなって部屋を早足で出ていき、コウタがその後を追いかける。
そのしばらく後に今度はリッカとソーマも部屋を出ていった。
「…すまねえなサクヤ。本当なら俺が止めるところだったんだが…どうにも言いづらくてな…」
「いいわよ別に。女の子の悩みは女の方が話しやすいし聞き入れやすいもの。」
アリサとリッカの剣幕に圧されてリンドウは止める事が出来なかった事をサクヤに謝る。
「…アイツの記憶、すぐにでも戻してやりたいが…それもそれで危ない気がするしな…」
「リンドウ…」
「さて、どするかな…」
リンドウとしても、本音はすぐに記憶を取り戻して欲しいが、記憶が戻った時に何をするか分からない。逃げ出すくらいならまだ良い、最悪ユウキが怒りに任せて牙を向けるかも知れない。過去に何があったのか教えた方が良いかも知れないが、教えるとユウキの心が耐えられない気もする。
どうしたものかと考えが行き詰まり、思わずリンドウは頭を掻きむしった。
-エントランス-
アリサがリンドウの部屋から出ていき、コウタがそれに続いた後、エントランスに向かおうとエレベーターの中に乗っていた。
「なあアリサ、大丈夫?さっきの…」
コウタが心配そうにアリサの顔を覗き込む。リッカと言い争った事もそうだが、思い出したくない事を思い出した事でまたアリサの精神に大きな負担をかけていないか気にしていた。
「…別に、大丈夫ですよ。」
アリサは素っ気なく返すと、丁度エレベーターの扉が開いた。エレベーターを降りる。すると…
「あっ皆さん!!」
「ブッ?!」
「な、なんて格好してるんですか!!」
ゴスロリドレスを着たユウキが手を振っていた。
「聞いてください!!分かりましたよ、『私』の事!!」
ご丁寧に一人称まで変えていた。しかも自分の事が分かった事がよほど嬉しいのか、ユウキ本人は目を輝かせて喜んでいた。しかし、声は変わらず低いままだったので、端から聞くと気色悪いだけだった。
コウタはその姿を見て吹き出しつつ慌て、アリサは何故かちょっとだけ怒っていた。
「ハルオミさんから聞いたんですけど、どうやら私は悪い魔女に魔法をかけられて性別を男に変えられた女の子だそうです。私の事を知ってる人が身近に居て助かりました。」
「な、何やってやるんですか!!ユウは正真正銘の男の子ですよ!!」
アリサがハルオミの言った事はウソだと教えるが、ユウキはキョトンとしていてよく分かっていないようだった。アリサが必死にユウキは男子だと説明している中、コウタがユウキとアリサに聞こえない様にこっそりとハルオミに話しかける。
「は、ハルさんマズいですって!!ユウは女装とかさせられると冗談じゃないくらいにぶちギレて…めちゃくちゃ恐いんですよ?!」
「え?大丈夫大丈夫!!スッゲー似合ってるし、本人も乗り気だし。何より可愛いからな。あの姿を見たときはもう男でもいいやって思ったわ。」
「…記憶戻った時どうなっても知りませんよ…」
似合っているから良いじゃないかとハルオミはヘラヘラと笑いながら話す。しかし過去にユウキに女装させてひどい目にあった事のあるコウタは気が気でなかった。
そんな中、アリサはユウキを着替えさせる為に自室に連れて行った。しかし背が伸びていた事もあり、以前着ていた制服は入らなかった。仕方ないのでアリサがそこに有るもので見繕ったワンピース風のパーカーとレギンスをユウキに着せ、何度もユウキは男子だと説明してこの事態は終息したのだった。
-数日後-
ユウキが帰ってきてから数日経った。その間に自分の過去やフェンリルの役目など、世界情勢を(主にアリサやリッカから)一から教えてもらいながら生活していた。しかし当の本人は記憶を取り戻す事もなく取り敢えず普通に生活していたのだが…
『ビーッ!!ビーッ!!』
突然極東支部に警報が鳴り響く。丁度食堂で昼食を食べ終えていたユウキは何事かと思いエントランスにやって来るとタツミと第一部隊が居るのが見えた。
「今俺以外の第二部隊は別任務に出てるんだ。悪いけど今回の防衛戦、手伝ってくれないか?」
(防衛戦…?何かと戦うのかな?)
タツミと第一部隊が話しているのを聞いたユウキは『防衛戦』と言うワードが気になっていた。先日アリサやリッカからアラガミと言う怪物相手に戦っていると聞いた。今回その怪物と戦うのだろうかと考えていると、リンドウが話を進める。
「分かった。任せな。」
リンドウは任務を承諾すると、タツミは頷いてヒバリの方を見る。
「よし。ヒバリちゃん、敵はオウガテイルだけなんだよな?」
タツミはヒバリに敵の情報を確認する。
「はい。数は少し多いですが、敵はオウガテイルだけです。」
「よぅし。聞いたなお前ら。すぐに出撃するぞ!!」
「「「「了解!!」」」」
任務の話が終わるとタツミと第一部隊は飛び出して行った。それを見ていたユウキは極東支部ではアラガミと戦うのが生業だと聞いていた事もあり、アラガミと戦いに行ったのだろう考えた。かつてはユウキ本人も部隊を率いて最前線で戦ったと言うのだが、記憶がないせいかどうにもピンと来ない事もあり、ユウキは軽い感覚で考えていた。
(ここで活躍できれば…皆の役に立てる…ヒーローになれる…!!)
戦場に行くにはあまりに相応しくない心意気で神機保管庫に向かう。
(あれ、誰も居ない?)
((…))
(…え?)
神機保管庫に行くと、別の場所で作業でもしているのか誰も居なかった。何が起きているのかと思っていると、ふとユウキは黒い2つの神機の方を向く。
(この武器…使える?)
右手側に翼の様な刃文の黒刀に翼を模した黒いシールド、烏の頭の様な狙撃銃、左手側に幅の広い直刃の黒刀、黒羽のシールド、少し堅牢や造りになった烏の頭の様な狙撃銃を装備した黒い神機2つを両手に取って戦場に出た。
-外部居住区-
「な…に…?これ…?」
2つの神機をホルダーに携えて外部居住区に来たユウキが見たものは血を流している化け物(アラガミ)と人間の死体が無造作に転がっている光景だった。
漂う血の匂いに思わずユウキは両手で口を覆う。
「う、おぅえッ!!!!」
女子供が戦場に出ることから、化け物相手に治安維持と言っても喧嘩の仲裁程度の認識で来てみれば、想像よりも遥かに凄惨な事態にユウキは吐き気を覚えて踞るが、そのまま戻してしまおうと思っても結局何も出てくる事はなかった。
『グォォォオッ!!』
「ヒィッ!!」
いつの間にか後ろから咆哮と共に白い怪物、オウガテイルが現れた。小さく悲鳴をあげると、何かを考えるよりも先に右手で神機を引き抜いた。
「う、うわぁぁぁぁあ!!」
神機を横に振るのだが、へっぴり腰な上、腕だけの振りでまともな攻撃になる事はなかった。オウガテイルが尻尾を振って神機にカウンターを当てる。競り合いに負けて神機は逆方向に弾かれてしまい、ユウキに大きな隙ができる。胴ががら空きになったところでオウガテイルがユウキに飛びかかる。
「来るなぁぁぁぁあ!!」
頭上から飛びかかるオウガテイルに向かって今度は左の神機を引き抜いてオウガテイルに向かって突き出す。
『ブシュッ』と小気味良い音と共に血が吹き出して神機の切っ先がオウガテイルに突き刺さる。それでもなお吠えてユウキを威嚇する。それを見たユウキは恐怖し、左の神機をブンブンと振り回す。そのうちにオウガテイルが神機から抜けて投げ飛ばす。
オウガテイルは体勢を崩したまま着地し、なかなか立ち上がる事が出来ないままになっているところをユウキは覚束ない足取りで近づく。未だに立ち上がる事が出来ないオウガテイルに向かって、ユウキは神機を振り上げる。
「死ね!!死ね!!シね!!シネ!!死ね!!死ネ!!」
両手の神機を振り下ろしてオウガテイルを何度も切り刻む。頭を喰い千切られた少年や少年の首が踏み千切られて転がってくる光景、上半身と下半身が切り分けられた少年や頭のない大男が頭の中で何度もチラつき、『いつか自分もこうなる』と死への恐怖が鮮明にフラッシュバックする。
「死ねッ!!死ねよッ!!死んでよぉぉおっ!!」
泣きながら何度も何度も神機を振り下ろす。オウガテイルは既にミンチになるまでにバラバラになっているが、それでも死の恐怖を払拭するように何も考えずに何度も神機を振り下ろし続ける。
そんな中、ユウキが右腕を振り上げたところで誰かに掴まれ、その動きを止める。誰かが襲ってた。そう思ったユウキは咄嗟に右に回転する。
「うわぁぁぁぁあ!!」
悲鳴に近い叫び声を出して回転した状態で左の神機を横に振る。その際視界にはリンドウが映るが、今のユウキには正常な判断は出来ない。何の迷いもなくユウキは神機を振り抜く。
しかしリンドウは左手でユウキの左手を掴む。その状態のままリンドウはユウキの頭へと頭突きを繰り出す。ユウキは一瞬視界にノイズが入った様な感覚になり、両手の神機から手を放して頭を抱えて尻餅をついて座り込む。
「ッてぇ…お、お前こんな石頭だったかぁ?」
リンドウは頭を抱えてユウキに話しかける。一度目の前の事態から目を離せた事でユウキは一気に冷静になる。
「り、リンドウ…さん…?」
「よう、落ち着いたか?」
目の前に居るのがリンドウだと分かると、ユウキは落ち着きを取り戻す。するとリンドウだけではない、第一部隊が揃っている事にようやく気が付いた。
「何でここに居るのか分かんねぇが無事ならよかった。」
リンドウが手を差し出す。とにかく助かった。ユウキはリンドウの手を取り立ち上がる。
「帰るぞ。お前ら。」
特にユウキに怪我等はなかったと分かるとリンドウ達は極東支部に帰還した。
To be continued
あとがき
3月4月はプライベートが忙しかったぜちくせうorz入学、入社のシーズンと言うのもあって、真新しい制服やスーツを着た人を見ると『あんな時期もあったな』としみじみ思う今日この頃…
小説の方は保護した青年の腕輪のID等でユウキだと分かりましたが、記憶をなくしてあら大変と言う状況。
書いといてなんですが記憶喪失ってそんな都合よく過去の出来事だけを忘れるんでしょうか?今まで使ってた言語とかを忘れる事はないのだろうかと少し疑問に思いました。
下に帰って着たユウキの設定を書いておきます。どうでもいい方はスルーでお願いします。
神裂ユウキ(3)
使用神機
右手:
刀身:黒翼刀 (ロングブレード)
銃身:黒ノ嘴(スナイパー)
装甲:黒翼ノ楯(シールド)
左手:
刀身:ノワールブレード(ロングブレード)
銃身:ブラックストーカー(スナイパー)
装甲:ダークフェザー(シールド)
アラガミ化の一件で失踪し、一年越しに帰ってきた。その際黒い翼のアラガミの姿で帰ってきたが、アリサをクロウから助けた後人に戻る。
その際肌は白くなり、白髪に赤銅の瞳に変わり、瞳孔は縦に伸びた姿に。
長期間のアラガミ化の影響か、記憶をなくしている。そのせいか、ハルオミが『元々は女性だった』と言うウソを簡単に信じる程に他人を疑わない様になっていたり、アラガミとの戦いを喧嘩の仲裁程度に考えるなど、考えが足りない一面が目立つようになる。
失踪事件から1年経ち、誕生日(仮)に帰って来たため、年齢も16歳から18歳に。