-エントランス-
『パンッ!!』
防衛戦が終わり、タツミと第一部隊が帰ってくる。そしてエントランスに行くと待ち構えていたかのようにツバキが立っていた。そのままユウキの方にまっすぐ歩いてくると、すぐさま平手打ちを繰り出す。
ビンタされたユウキはその勢いに負けて倒れこむ。そしてツバキは倒れたユウキを睨み付ける。
「神裂ユウキ…お前は自分が何をしたのか分かっているのか?!」
ツバキが鬼の形相でユウキを睨む。その場に居た全員が恐怖し、思わず萎縮する。
「…ごめ"ん"な"ざい"…」
ツバキに凄まれたユウキは泣きながら叩かれた頬を擦り、正座して謝った。
「ヒーローごっこがやりたいなら居住区のゴロツキでも相手にしていろ!!我々の戦いは他人は勿論自分の命を守る戦いでもあるんだ!!勝手な真似は許さんぞ!!」
しかしツバキが怒るのも当然の事だ。一人が軽い気持ちで勝手に出ていって戦場を混乱させれば部隊にも、護るべき人にも被害が広がる。周りの人間をそんな危険に晒したユウキのやった事を許す訳にもいかない。ツバキが怒るのももっともだ。
「ま、まあ姉上…ユウも反省している様だし、取り敢えず今回はこの辺にしません…か?」
「私達技術班がしっかり見てなかったのも原因ですし…今日のところはそれくらで…」
実戦に出て感じた恐怖、そしてツバキが鬼の形相で繰り出したビンタと説教でガチ泣きしているユウキを見て、自分のやった事を理解しただろうからもう十分だろうと言うリンドウ。そしてユウキが戦場に出たのは大した敵ではないからと油断して神機の管理から目を離した自分にあると言ってリッカはユウキを庇った。
しかしツバキは鋭い目付きのままリンドウとリッカを睨んだ。
「お前達は持ち場で仕事をしただけだ。糾弾されるべきは私情と軽い考えで動いたこいつだ。一から仕込み直してやる!!今から訓練を始めるぞ!!」
「ヒェェェエ!!」
ツバキは奇妙な悲鳴を挙げて泣いているユウキの首根っこを掴み、引き摺って訓練室に連れていこうとする。
「あ、あの…」
ユウキが連れていかれる中、アリサがおずおずとツバキに話しかける。それを聞いたツバキはユウキの首根っこを掴んだまま立ち止まる。
「も、もし良かったら私も一緒に良いですか?」
アリサは言いにくそうに訓練に同伴したいと言い出す。それをツバキは無言で睨み返す。
「私も、しばらく実戦から離れていたので…戦い方を思い出すためにも…その…」
「良いだろう。ただしユウキとは別メニューになるだろうが…構わんな?」
ここ最近のアリサの心情を考えると、下心があるのはすぐに分かる。しかし、ようやく最強戦力のユウキが帰ってきたと思えば役立たずとして帰ってきたのだから、極東支部の戦闘力はガタガタなままだ。
さらにアリサ自身の戦闘能力が著しく下がっているのは事実で、少しでも戦闘力を取り戻すのであれば大いに結構な事だ。ツバキはアリサの同伴を許可する。
「わ、分かりました。」
「それからリッカ。」
「は、はい!!」
アリサが返事をしたのを確認すると、不意にツバキがリッカに話しかける。
「ユウキの神機の調整は任せたぞ。」
「分かりました!!」
ツバキはリッカにユウキの神機の整備を任せると、ユウキを引き摺って訓練室に向かう。そしてそれをアリサが追いかけ、ユウキの再訓練が始まった。
-訓練室-
アリサが別室で訓練を始めると、ユウキも訓練室に入る。黒くなった神機を両手に持ち、オウガテイルと対峙していたのだが…
「何だそのへっぴり腰は?!体幹を意識して腰を入れろ!!身体全体を使え!!」
「はいぃぃぃ!!」
ツバキが腕だけで神機を振るうユウキに檄を飛ばし…
「装甲で防いだら即収納して反撃だ!!いつまでも装甲を展開してるんじゃない!!」
「はひぃぃぃい!」
時にはいつまでも守りの姿勢から動かないユウキに喝を入れ…
「どの敵を攻撃するかなどいちいち迷うな!!そんな事で悩んで動きが鈍るくらいなら目についたヤツから倒していけ!!」
「うわぁぁぁん!!」
最後はツバキの怒号にアラガミへの恐怖で泣きながらオウガテイルに向かっていく。そして休憩に入ったアリサに泣いているのを見られて慰められる日々を送っていた。
「人類の天敵アラガミ、やつらはある特徴がある。それは何だ?」
「ワカリマセン…」
「…アラガミには弱点がある。それは何処だ?」
「ドコデショウ…」
「…そのアラガミに唯一対抗できる武器とそれを扱える者、それを何と言う…?」
「コムギコカナニカダ…」
ついにツバキの額に青筋が浮かぶ。
「ふざけているのか貴様ぁぁぁあ!!」
「ひぇぇぇえごめんなさいぃぃぃい!!」
場を和ませようとしたおふざけがツバキの逆鱗に触れ、激怒したツバキを見て泣きながらユウキが謝る。座学でも毎度泣かされるユウキだった。
そんなこんなでツバキの訓練は1週間程続き、その間にどうにか戦えるレベルには動きが良くなっていった。
-鎮魂の廃寺-
ユウキが多少戦えるようになった頃、ツバキはユウキに中型種『コンゴウ』の討伐任務を与えた。しかし記憶が未だに戻らない事もあり、万が一を考えてリンドウ、コウタを同伴させ、それにアリサが着いて行き、4人編成で旧寺院に向かった。
先頭にリンドウ、その後ろにコウタ。さらに後ろにアリサ、最後尾にユウキと言う布陣で旧寺院の中庭にやって来た。ターゲットが見つからないまま歩いていると…
『グォオオオ!!』
壁の上からコンゴウが降りてきた。
「来た!!」
「行くぞお前ら!!」
「ユウ!!手筈通りの陣営で…」
『ズシンッ!!』
「…え?」
アリサが事前にリンドウから出ていた指示をユウキに確認させると同時にユウキの方を見る。すると上からコンゴウと似たシルエットのアラガミ、ハガンコンゴウがユウキの隣に降りてきたため、アリサは途中で言葉を止めてしまう。
「ハガンコンゴウ?!」
「「ユウ!!」」
記憶を失い、戦い方を忘れた今のユウキでは禁忌種を相手取る事は出来ない。リンドウ達はコンゴウから目を離し、一斉にユウキのフォローに向かうが、それよりも早くハガンコンゴウが右腕をユウキに振り下ろす。
「っ!!?!」
何とか両手の神機で装甲を展開して防御するが、ハガンコンゴウの腕力に負けて吹っ飛ばされる。
「邪魔だぁ!!」
リンドウが右手を神機に変形させつつハガンコンゴウの前に出てカバーに入る。内から外に右腕を振るうが、ハガンコンゴウは後ろに下がって回避する。そしてその間に先のコンゴウが壁の上に上り、ユウキの方へと走って行くのが見えた。
「アリサ!!コウタ!!ユウのフォローに入れ!!」
「そうしたいんすけど!!」
「こっちにも新手が!!」
反撃にハガンコンゴウが殴りかかってくる。それを上に飛んで、右腕を下から上に振り上げてカウンターを入れつつ、ユウキへ加勢するように指示を出すが、当のコウタは新たなハガンコンゴウ、アリサはコンゴウ堕天種の突然の乱入と奇襲攻撃を避けつつ体勢を立て直すのが精一杯だった。
「チィッ!!堕天種に禁忌種の追加だと?!」
リンドウは間の悪さに悪態をつくと、すぐにユウキに別の指示を出す。
「ユウ!!コンゴウを倒せ!!倒せないと思ったらすぐに逃げろ!!どうにか逃げ続けろ!!いいな?!」
「ユウ!!逃げろ!!」
「逃げて!!ユウ!!」
それを聞いたユウキはすぐに立ち上がり本殿の方へと階段を上がっていく。しかしコンゴウの方が足が速く、本殿の前に来た辺りであっさりと追い付かれてしまう。
『グォオオオ!!』
「うわぁぁあ?!」
ある程度近づいてきたところでコンゴウは体を丸め、タイヤの様に前転しながらユウキに突っ込んできた。ユウキは横へと飛び込む様に飛んで避けた。
腹からダイブしてコンゴウの攻撃を避けたは良いが、ユウキが立ち上がるまでの間にコンゴウも体勢を立て直し、ユウキの方を向くと腹が膨れる。
(空気を吐き出してくる?!なら、一気に近付く!!)
ユウキは両足に力を入れて前に出る。その後コンゴウが空気弾を発射したが、その頃にはユウキはかなり前に出ており、空気弾の軌道よりも下を潜っていた。その結果、ユウキは思惑通り一気にコンゴウに近付く事が出来た。
「当たれっ!!」
ユウキはコンゴウの懐に入ると、両手の神機を外から内に振り抜く。ユウキの攻撃はコンゴウの胴体を二の字に斬りつけた。
「当たった!!」
攻撃を当てて喜んでいると、今度はコンゴウがその場で1回転して殴りかかる。
「っ?!」
何とか両手の神機で装甲を展開して攻撃自体は防ぐが、踏ん張りの効かない体勢で防御したため、そのまま大きく後ろに飛ばされ、ゴロゴロと転がって小さな怪我をいくつも作る。
その途中で体勢を直し、踏ん張りの効く体勢で両足を着け、後ろに飛ばされたのを踏ん張って止める。
『グォオオオ!!』
「ッ?!?!」
コンゴウが大口を開けて吠える。その瞬間、ユウキの頭の中で目の前に立つ黄色い服を着た少年の後ろで大口を開け、少年を喰おうとするコンゴウと目の前のコンゴウが重なる。
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"ぁ"ぁ"あ"あ"!!!!」
そこからユウキを支配したのは恐怖だった。目の前で誰か誰かが死ぬかも知れない怖さ、その対象が自分になる恐ろしさ、そう言った恐怖がユウキを埋めつくす。その恐怖を払拭する様にユウキは叫び声を上げる。
そのままユウキは吠えるコンゴウの顔面へと右の神機を横凪ぎに振る。続いて左手の神機で左上から右下に斬り下ろす。続いて両手の神機で右から左へと横凪ぎに神機を振り、コンゴウの胴を斬る。
しかし、コンゴウはがら空きになったユウキの右側に左フックで反撃すると、その攻撃は綺麗にユウキの右脇腹へと決まる。
「ぐぅフッ!?!!」
殴られたユウキは勢い良く吹っ飛ばされ、石造りの壁の基礎に後頭部をぶつける。
(い、痛い!?!!死ぬ?!?!)
後頭部をぶつけて意識が飛びそうになる。だが脇腹の痛みで意識が飛ぶ事はなく、両手の神機から手を離して、ただひたすら脇腹を押さえて痛みに耐えるしかなかった。
そして同時に後頭部から熱を持った様な感覚と違和感を感じて、左手で触れて見ると、手には血が着いていた。
『殺される』そう思い、早く逃げなければとは思うのだが、痛みと恐怖で体が動かない。コンゴウが右腕を振り上げ、動けないユウキにとどめを刺そうとする。
『グチャッ!!』
しかし、振り上げた右腕は後ろから何者かに喰われて消えた。
「ユウ!!」
声の主はアリサだった。アリサがコンゴウの後ろから捕食してバーストする。しかしコンゴウが悪あがきに体を回転させて左腕の裏拳で反撃する。それをアリサは後ろへ大きく下がって躱すと、その後ろからリンドウとコウタが加勢に来た。
「たたみかけろ!!ぶちのめすぞ!!」
「いっけぇ!!」
リンドウの合図と共にコウタが雷属性のオラクル弾を連射してコンゴウの動きを止め、その間にリンドウが一気にコンゴウへと接近する。
「リンドウさん!!渡します!!」
アリサがリンドウに受け渡し弾を渡し、リンクバーストさせる。
「うぉぉぉおおお!!!!」
咆哮と共にリンドウがコンゴウに右腕を振り下ろす。右上がりに裂傷を付けられたコンゴウはコアを斬り裂くと、膝から崩れ落ちて倒れた。
「ユウ!!」
コンゴウを倒したのを確認すると、アリサは一目散に壁に凭れているユウキの元に駆け寄る。先程の戦闘でそこら中小さな怪我をし、頭から血を流しているユウキを見ると血相を変え、急いで治療の準備を始める。
「怪我してますね。すぐに手当てを…ユウ?」
しかし、アリサが治療の準備を始めようとすると、ユウキは右手の神機を掴むと、ゆっくりと立ち上がる。そしてフラフラとした足取りで倒れたコンゴウへと歩いて行くと、右腕を振り上げた後に勢い良く振り下ろす。
『ザシュ!!』
「殺さなきゃ…」
「お、おい…ユウ…」
小さく呟きながらコンゴウの胴体を斬りつける。その異様な光景を前にコウタは引きながらも声をかける。
『ザシュッザシュッ!!』
「殺さなきゃ…」
「ユウ…何を…?」
また呟きながら斬りつける。アリサもユウキの変化に戸惑いながらも声をかけるが、ユウキは止まらずにまた斬りつけ始める。
『ザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッ…』
「殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃころさなきゃコロさなきゃコロさナキャ殺さナきゃ殺サなきャこロサナきャコロサナキャ殺さナキャ殺さナきゃ殺サナキャコロサナキャコロサナキャコロサナキャ…」
呪詛の様にひたすら呟きながら何度も右腕をコンゴウを斬りつける。
「ユウ、もういい…止めろ。」
何度も右腕を振り下ろすユウキの腕を掴んでリンドウが止める。すると目から光の消えたユウキがギョロッとした目でリンドウを見る。
「こいつは僕を殺そうとしたんだ殺さないと殺される、だから…コロサナイト…」
そう言ったユウキは再びコンゴウの方を見て右腕を振り下ろそうとする。
「落ち着け。こいつはもう死んでる。見てみろ。」
攻撃を再開しようとするユウキを再度止めたリンドウがコンゴウを観察するように言うと、ユウキは取り敢えず大人しく従う。
「コアを破壊した。こうすればアラガミは死ぬ。」
「…ハァ…ハァ…」
リンドウが何故コンゴウが死んだのかを説明する。リンドウの言った通り、コンゴウの胴体に埋め込まれていた青いコアはズタズタに切り裂かれていた。
座学でツバキから聞いていたはずだが、そんな基本的な事を思い出せない程に追い詰められた状態から解放されたと分かると、急にユウキは全身の力が抜け、荒く、肩で呼吸し始める。
「もうお前の命を狙うヤツはいない。戦いは終わったんだ。」
リンドウの言葉が決め手になり、完全に安心したのか、ユウキはその場に座り込む。それをアリサとコウタが手を貸して立たせる。
「よし、帰るぞ。」
ユウキが立ち上がり、動ける事を確認すると、リンドウが帰還するよう指示して、コンゴウ討伐任務を終了した。
To be continued
あとがき
皆様もう終わりますがGWいかがお過ごしでしょうか?私は初日から体調を崩して今日まで治らなくてずっと寝てましたorz
小説の方はピルグリム零をベースにしたコンゴウ's討伐任務でしたが、結局相手をしたのはただのコンゴウだけでしたが。うちの子も断片的に記憶を取り戻した気になるなど、牛歩ペースで進展しています。
次話もまた読んでいただけると嬉しいですm(_ _)m