Fate/white lotus   作:mistermoon

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仕事と歓送迎会の忙しい季節ですね


#-2 新都の晩

冬木の街は川を挟んでおよそ二つの地域に分かれている。古くからの町並も残る西側の深山町、そして都会化しつつある東側の新都である。衛宮切嗣の拠点は新都の一角に立つオフィスビルの一室である。一般的な魔術士であるならば新都ではなく深山町に陣取るであろう――なぜならば彼らは逆行し根源を捜し求めるから近代的なものはあまり好まないだろうという考えによるものだ。また御三家と呼ばれる遠坂、間桐、アインツベルンがどれも深山町に屋敷を構えているというのも大きい。

 

尤も御三家への警戒とある程度のサービスを求めて、魔術士の名門でもあるアーチボルト家の嫡男であるケイネス=エルメロイ=アーチボルトは新都のハイアットホテルに泊まっているのだが。しかし彼ほどの大物の拠点を切嗣が把握していないなどということはなかった。恐らく他のマスターも――少なくとも御三家はケイネスの拠点を把握していることであろう。

 

*

 

――召喚から一時間後。静かな夜であった。

キャスター主従は拠点で合流した久宇舞弥に外を見張らせつつ話し合いを始めた。

 

例の殺人現場は白蓮の助けも借りて迅速に片付けた。自分の居た痕跡と殺人鬼の死体をどうにかするだけであったのだが。死体は見つからないよう未遠川の近くに魔術で痕跡を消して埋めた。子供には暗示をかけて近所に向かわせた。男が両親を殺して出て行ったという単純なものだ。犯人はもういないのだからこの事件が解決することはない。だがそれは今回の話とは無関係であるので割愛する。

 

「まず初めに。先刻も名乗りましたが、キャスターとして召喚された聖白蓮といいます。私の本体は生きていて、そして封印されています」

「どういうことだ?英霊であるならば座から呼び出されるのではないのか――」

 

嫌な予感がした。ということは彼女は英霊ではない?では何なのだろうか。切嗣の一瞬の狼狽を見て白蓮はこう語った。

 

「私は以前に人間たちによって魔界と呼ばれる場所に封印されました。人間に危害を加えるつもりはなかったし、実際に危害など加えたことはありませんでしたが。しかし私はやりすぎたのでしょう。人間と人間ならざるものを同じように扱っていましたから。――そして私自身も既に人間を辞めていました」

 

人間と妖怪が分け隔てなく暮らせる世界。元は私欲を隠し、そして正当化するための建前であった。しかしいつしか両存在の調和を望むものへと本当に変わっていた。しかし力のある妖怪に手を貸すと考えられて結局は人間からノーを突きつけられた。彼女が力を貸していたのは力の強くない、人との共存を望む妖怪たちであったのだが。だがそんなことは関係なく、彼女は封印され、そして今イレギュラーなプロセスを経て第四次聖杯戦争(冬木の地)へと降り立っている。

 

「一体何者なんだ?」

「そうですね――僧侶であり元は人間の魔法使い、この世界の基準に合わせるなら不老不死の魔術士と言えば理解しやすいかもしれませんね」

 

ただしあくまで僧侶ですよ、と彼女は付け加えた。

 

*

 

久宇舞弥は久宇舞弥以前のものを持たない。それはかつて切嗣に助けられた戦場に置いてきたものだ。今は衛宮切嗣の所有物(どうぐ)として生きており、それは本望である。彼の大切にするコンテンダーにすら嫉妬することもあった。しかしその心を知る者はいない。そして今まさに彼女は小さな嫉妬を覚えていた。キャスターである聖白蓮に対してだ。悔しいが魔術の腕ではキャスターに敵うことはないし、彼の武器としてもキャスターのが上だ。また、今までは私と立てることもあった作戦も彼女と立てるのだろうか?私は見張りと情報収集くらいしかできないのか?

 

しかしこの戦いが終わればキャスターは消える。そう思うとなぜだかまたコンテンダーに嫉妬している久宇舞弥がいたのであった。

月は雲に隠れている。

使い魔である蝙蝠はまだ有益な情報を持ってきてはいない。

 

*

 

どう切り出すべきだったのだろうか。

 

「僕の方針はマスターを暗殺してこの戦いに終止符を打つことだ」

「マスターを殺す必要があるのですか?」

「サーヴァント同士を戦わせればそれを監視する他のマスターも多いだろう。またサーヴァントがいなくなったマスターは必然的に弱い立場になる。僕はむざむざ危険に身を晒すつもりはないし、君もわざわざ人前で積極的に戦う必要はないと考えているんだ」

「それでは私にはどうしろと?」

「キャスタークラスは――ステータスを見てもそうだが、陣地の作成が出来るのだろう?サーヴァントが残り少なくなるまで力を溜めておいてもらいたい」

「一理ありますが、しかし他のマスターを殺すということには賛成いたしかねます。聖杯を得るためになぜマスター同士が殺し合いをする必要があるのでしょうか」

「それはね、サーヴァントを失っても令呪さえ残っていれば他のマスターを失ったサーヴァントと契約をできるからだ。そのリスクを排除したいだけだよ」

「そういう意味ではないのですが――まぁいいでしょう。ではこの聖杯戦争に参加しているマスター以外に被害を出さないと約束してくれますか?」

「ああ、それは問題ない」

 

先程の雨生龍之介は除くが。

 

「では貴方を信じましょう。貴方は私に似ている部分があります」

 

人類の平和を望んだ切嗣と異種族の調和を望んだキャスター。

一を切り捨てて多を選択する切嗣と自らを切り捨て人間の意志を尊重したキャスター。

 

「ええと、ここらにお寺はありますか?」

「柳洞寺という寺ならあるようだ」

 

切嗣は地図を広げて霊地でもあるその寺に赤ペンで丸をつけた。

 

「そこならば私は陣地にしやすいと思いますが、しかしそこを拠点にしては主人である貴方に差支えがありそうですね」

「結構な霊脈があるからね。他のマスターは間違いなくチェックするだろう。僕自身が寺を拠点にするのでなければ危険を避けるために他の場所のが――」

「では貴方も明朝から寺に拠点を移しましょう。なぁに、お寺の人は私が守ればよいのです」

 

頭を抱える切嗣であった。

 

*

 

同時刻――冬木ハイアットホテル

 

ケイネス=エルメロイ=アーチボルトは先ほど川の向こうから感じた魔力の奔流の残渣がこのホテルからそう遠くない場所にあることを把握していた。マスターが誰かは分からないが、使い魔による感知を掻い潜る魔術士、もしくは掻い潜ることができるサーヴァントがいることは理解している。必然的にまだ仕掛ける段階ではないということだ。

 

「マスター、いいのですか私が出なくとも」

「ふん、いずれ尻尾を出す。今は私からモノを盗んだ生徒のが問題だ」

「あらケイネス、まだ()()()()()を引きずっていたの?」

 

槍の主従の会話に女性が加わる。

 

「見くびるなソラウ、単に賊がどう戦うかが気になるだけだ。それに私の召喚したディルムッド(こいつ)が奴の召喚したサーヴァントなどに負けるわけがないだろう」

「はっ、このディルムッド=オディナ、必ずやマスターのご期待に副います」

 

ケイネスは内心ではこの槍の騎士をどうしたものかと考えている。魔力供給のパスをつないだ婚約者のソラウがこのサーヴァントに魅了されつつあると気づいているからだ。

 

兎にも角にも先ほど生まれたマスターがこの要塞化したホテルに今攻め込んでこないのならば、とりあえずは動きに警戒するだけでよいと考えていた。

 

*

 

間も無くアーチャーとアサシンの三文芝居が始まろうとしていた。




作中の白蓮は東方星蓮船登場以前のものです
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