白龍皇の尻尾 ―VANISHING TAIL―   作:鍋やん!

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拙い文章ですが大目に見て頂けると嬉しいです。


プロローグ

「急げ!止まるな!」

夜が更け山の動物たちが深い眠りにつく頃、それを遮るように、男の叫び声にも似た大声と、十数人分の乱れた足音が響いていた。ここはフィオーレ王国にそびえる山の中。つい先ほど、その麓にある集落が襲われていた。彼らはそれを行った張本人、盗賊ギルドと呼ばれる連中だ。いつも通りであるならば、ここまで慌ただしくなるということはありえない。仕事を終えた後は、集落に火を放ち、住人ごと焼き払うのが、彼らの常套手段だ。こうする事で追っ手の注意を引きつけ、自分達は夜の闇に紛れて確実に逃げきることができる。しかし、今の彼らがやっている事は、あまりにも不自然だ。大声や足音を響き渡らせ、全速力で走っている。これでは眠りについた動物達がパニックを起こしてしまったり、下手をすると夜行性の肉食獣に気づかれてしまったりするかもしれない。そんな当たり前な事も理解できない程に、彼らは冷静さを失っている。

 

なぜか?

 

トラブルが発生したからだ。

食料やわずかにあった金目の物を奪い、火を放ったところまでは良かった。あとは夜の闇に紛れながら、アジトを目指すだけだった。だが、彼らの命運はそこで尽きた。突如として数十にも及ぶ火の玉が遥か上空から降り注いできたのだ。それらはまるで意思を持っているかの様に盗賊達だけに命中した。今まで自分よりも弱い者達を襲って来た彼らにとって、そんな物に太刀打ちできるはずもなく、多くの仲間が火の玉の餌食になった。辛うじて逃れた者、火の玉の直撃を受けてもなんとか動けた者は、一目散に山の中へと逃げ出した。それが冒頭の状況を生み出したのだ。しかし、その時間も長くは続かなかった。彼らの目前に翼の生えた人間が降りて来たからだ。その翼は生物的な物ではなかった。背中から白い翼角が伸び、風切り羽は青くガラスの様に透き通っている。顔はよく見えず、男か女か判別できなかったが、その様は月明かりによく似合っていて、あまりの美しさに声を漏らす者もいたかもしれない。ただ、それはこの非常事態でなかったらの話だ。目の前の人物が火の玉を放った元凶である事は誰が見ても明らかだった。そして彼らの中にある確信が生まれた。

 

「あいつは魔導士だ。」と。

 

この世界には数多くの魔法が存在する。魔法には大きく分けて二種類あり、覚えて身につける「能力(アビリティ)系」と道具を使う「所持(ホルダー)系」に分類される。そのどちらかは判らないが、どちらにしろ、目の前の人物が魔導士で、自分達に対して攻撃を仕掛けて来たということに変わりはない。彼らは自分達が出せる限りの殺意を視線に込め、魔導士に向けた。その視線を受け取った魔導士はようやく口を開いた。

 

「やっと追いついたぞ、盗賊ども」

 

若い男の声だった。口ぶりから考えるに、住人の救出でもしていたのだろうか。だがそんなことを気にしている場合ではない。全員が彼の目的を悟ってしまった。「俺達を捕まえに来たのだ」と。そんな盗賊達の胸中を余所に、魔導士の男は手に取った依頼書を見ながら質問する。

 

「集落ばかりを狙う盗賊ギルドというのはお前らの事で間違いないな?」

 

怖気づいているのを悟られまいと先頭に立っている男が声を荒げて答える。

 

「だったらなんだよ!」

 

それを肯定と取った魔導士の男は戦闘態勢に入る。

 

「お前らを捕らえる」

 

そう言い終えると同時に、彼は翼を大きく広げた。その気迫に盗賊達は怯んでしまうが、彼らの中の誰かが声を上げた。

 

「ビビってんじゃねぇ!相手はたった一人だ!俺達に手ぇ出したこと後悔させてやろうぜ!」

 

その言葉で士気が一気に上がり、「おおー!」という雄叫びと共に、一斉に魔導士に向かってそれぞれが持つ魔法を繰り出した。一斉に放たれた魔法の弾幕は、様々な軌跡を描きながら一人の男の下へと向かう。男には全く動く気配がなかったが、異変は起きていた。男の周囲を、数え切れない程のルーンが二本の輪を作り、高速で回転していた。恐らく魔法を発動しているのだろう。男は静かに魔法の名を詠んだ。

 

「《バギ》」

 

途端に木の高さ程の竜巻が発生した。その風で、男へと向かっていたあらゆる魔法弾がかき消されてしまった。盗賊達は一時言葉は失ってしまったが、勢いを失うことはなく、次の魔法へと移ろうとした。しかし、突然、体から力が抜けてしまった。

 

「ぐっ……うぅ……なんだこれは?」

 

「テメェ……何……しやがった!?」

 

盗賊達がそれぞれ男に問いかけるも、彼はそれに答える事はなかった。しかし、その代わりと言うべきか、翼の輝きが増しているように感じられた。それを見て誰かが思い出したのか、自らの知識を確認するかの様に話し始めた。

 

「光の文字に力を減らす能力……?聞いたことがあるぞ。あいつぁ白龍皇だ!」

 

それを聞いた他の者達は、全身から血の気が引くのを感じた。白龍皇と言えば大陸中にその名を轟かせる程の人物だ。彼は光の文字を浮かび上がらせ、あらゆる属性の魔法を操り、近接格闘にも秀で、大きな翼で空を舞うその様から、荒々しい龍に例えられ、いつしか白龍皇と呼ばれる様になった妖精の尻尾(フェアリーテイル)のS級魔導士である。だが、彼の噂に不思議なものが一つあった。相対した者の魔力を半減させるというのだ。それは放たれた魔法だけに留まらず、体内に蓄えられた魔力でさえも半減していくという、本当であれば恐ろしい魔法だ。この話を初めて聞く者は必ずこう思うだろう。「そんなもの作り話だ」と。しかし、この話が本当であったら今の状況も納得が行く。始めは火の魔法、次に風、そして力の減少。これだけの材料でも充分理解できた。噂は本当だったのだと。そして、その噂の白龍皇から最終勧告が告げられる。

 

「降伏するなら今の内だぞ?武器を捨てろ。そしたら擦り傷程度にしてやるよ。」

 

だが、彼らにとって唯一の救いの道を

 

「へっ!誰がするかよそんなもん!おいテメェら!奴を倒しゃあ俺らの名が上がるってもんだ!ブッ殺せぇぇぇ!」

 

無視してしまった。もう彼らに救いはない。

 

「そう、か……。まあ俺にとってはそっちの方が都合がいい。普通に眠らせる事もできるが、俺はそこまで優しくないんでなぁぁぁ!!」

 

ここに来て初めて白龍皇に憤怒の色が浮かんだ。今までただひたすらに押し殺して来たのだ。この件の調査で幾つも灰にされた集落を見てきた。それに黒焦げになった亡骸も。つい先程の集落もそうだ。白龍皇の迅速な対処の賜物で、死者こそ出なかったものの、住人達は全てを奪われ絶望していた。その様子がかつての自分と重なってしまった。そのとき湧き出てきた怒りを今まで取っておいたのだ。奴らに全てぶつけるために。白龍皇は一気に飛び上がった。そして風の魔法を使ったときの様に体の周りを光の文字が回転する。しかし、数だけは違った。風の魔法のときは二本だったのに対し、今回は四本の輪が回っている。それはつまり、威力が上がっている事を表している。準備が整ったのか、光の文字が霧散し、代わりに巨大な雷雲が発生した。美しかった月も今は姿を消してしまい、僅かであるが稲光が見える。しかしこれだけの雷雲がありながら、雨粒が一滴も落ちてこないのはあまりにも異様に感じられる。それはまるで白龍皇の怒りが空に投影されているようだった。

 

「おいおい!ありゃやばくねぇか!?」

 

盗賊達はその光景を前に身動き一つできなかった。

白龍皇がそんなことを気にする筈もなく、盗賊達に向けた最初で最後の一撃を放った。

 

「《ライデイン》!」

 

雷雲から盗賊の人数分の雷が放たれた。盗賊達が最後に見たのは、その稲光だけだった。雷雲が消え、月夜が戻ったときには、既に盗賊達の意識は刈り取られていた。いくら激情に身を任せていたとはいえ、さすがに依頼内容を忘れてしまうほど彼は馬鹿ではない。その後、かなり遅れて来た評議院の強行検束部隊に全員まとめて引き渡した。既に日も昇りかけていたので彼はすぐに翼を展開し、直接ギルドへと向かった。怒りの余韻を残さないように、飛びながら心を落ち着ける。それが終わる頃、丁度ギルドに到着した。俺の帰る場所、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に。二時間は経っただろうか。向こうを出たあたりで恐らく五時になっていたから、今は七時頃だろう。もうギルドも開いている頃だ。

 

「帰ったぞ」

 

彼はドアを開けたが、そこにいたのはギルドマスターであるマカロフ・ドレアーと看板娘のミラジェーン・ストラウス、通称ミラだけだった。

 

「む?おお!お前か!よく帰ったのう!」

 

「あら!おかえり!」

 

マスターは朝だというのにもう片手に酒瓶を持っている。普通なら注意するべきなんだろうが、このギルドでは酒樽のまま飲み干す女魔導士がいるのでなんとも思わない。感覚が鈍ってしまっているようだ。ミラは料理の仕込みを終えたのか、カウンター席に掛けている。

 

「みんなはまだ来ないのか?マスター?」

 

賑やかなギルドしか知らないので少し寂しく感じる。

 

「もうそろそろ来る頃じゃろう。それより依頼はどうじゃった?」

 

端から見れば至って普通の質問だろうが、彼にとっては少し意味が変わってくる。マスターは心配していたのだ。今回の依頼は、彼のトラウマを刺激するのに充分だったから。滅多に取り乱すことがない彼が、激情に身を任せたのがその証拠だ。だが彼はトラウマに押し潰される程弱くはない。少しずつ乗り越えつつあるのだ。

 

「大丈夫だよマスター。中途半端な鍛練はしてないから。」

 

「うむ、そうか!」

 

少し複雑そうだが嬉しそうだ。マスターはギルドのみんなを我が子同然に想っている。彼との年齢差を考えると祖父ような気もするが、細かいことは気にしない。家族であることに変わりはないから。

 

「その様子だと朝ごはん食べてないでしょ?よかったら作るわよ?」

 

「いや、また今度お願いするよ。家でひと眠りしてくる。」

 

ミラの料理はどれも非常に美味いが、徹夜での仕事だったため睡魔が襲ってきている。こんな状態で食べても折角の料理を味わうことができないため、一先ず家に帰って寝ることにした。

 

「そう?じゃあ後でね!」

 

「ああ、後で。マスターも後でな!」

 

「おう!ゆっくり休め!」

 

ギルドを出て、彼は帰路につく。

 

彼の名はヴァーリ・ルシファー。白龍皇と呼ばれる妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の男候補の一人だ。




小説というものを初めて書いたので、おかしな点が多々あると思いますが、ご指摘頂けると有り難いです。今後もよろしくお願いします。
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