20XX年……
熱狂的なファンに支えられたブラウザゲーム『艦隊これくしょん〜艦これ〜』は、とうとうサービス終了の日を迎えた。
そのサービス最終日――――
僕は自宅のパソコンの前で、その瞬間を待っていた。
苦労して揃え、ボーナスは元より食費を切り詰めて課金アイテムを買い漁って育て上げた艦娘達は、全員を遠征から帰還。
損傷も全て回復させ、戦意高揚アイテムで全員『キラキラ状態』にしてある。
「みんな、お疲れ様」
思わず口にしていた。
これまでの思い出が走馬灯のように蘇る。
初めての出撃……
羅針盤荒ぶる2-4『沖ノ島海域』攻略……
編成縛りで血圧を上げまくった3-2『キス島撤退作戦』……
理不尽なレ級に悶えた5-5『第二次サーモン海戦』……
そして、数々のイベント海域……
全てが懐かしく、大切な記憶だ。
あと10秒――――
9――――
8――――
あれ?画面がボヤけるぞ。
6――――
僕は泣いていた。
当たり前だ、何年も苦楽を共にした家族を失うのに、悲しくない訳がない。
さよなら、みんな。
僕は目を閉じる。
2――――
1――――
――――ゼロ。
そして暗闇の中、BGMが消えた。
「……い……く。…………とく」
遠くで誰かが呼んでる。
聞き覚えのある声。
潮の香りが鼻をつく。
「……いとく。ていとく」
体を揺すられる。
え?
ここは僕のアパートだぞ。
僕以外、誰も居るはずがない空間だぞ。
慌てて目を開けると、僕の目の前には信じられない光景が広がっていた。
白いクロスが貼られた壁は板張りに、布団を取ってテーブル代わりにしていたコタツは豪勢な木彫の机に、窓サッシは観音開きの窓に変わっていた。
窓の外に見えていた私道は穏やかな大海に置き換わり、潮風を室内に運んでくる。
これは……
見回すと、壁には『夜戦主義』の掛け軸。
部屋の隅には空母の模型を飾った箪笥。
まさか……
そして何より――――
「提督、起きて下さい」
僕の体を揺らすロングヘアの眼鏡っ子美少女。
「お……大淀?」
「お目覚めですか?提督。寝室はちゃんと用意してあるんですから、執務室でお眠りになられるのはお控え下さいね」
眼鏡っ子は、いたずら小僧を諌めるような口調で僕を叱る。
……ちょっと待て。
「……君は……大淀……なのか?」
「どうしたんですか提督。藪から棒に。私が軽巡洋艦『大淀』じゃなかったら、一体何者なんです?」
僕の問いに笑顔を浮かべる大淀。
それは「彼女ならこう笑うだろうな」と妄想していた通りの笑顔だった。
ウソ、だろ?……
PCの画面の向こう、二次元の住人だったはずの大淀が、奥行きを、質量を持って僕の目の前に居る。
「提督?大丈夫ですか?もう夜も遅いですし、就寝された方がよろしいのでは?」
心配げな大淀の声も、僕の耳には殆ど届かない。
これは、もしかして……
そう、僕は――――
『艦隊これくしょん〜艦これ〜』の世界に入り込んでしまったようだった。