横菅を脱出したものの、僕等は早速行き詰まってしまった。
「提督、これから……如何いたしますか?」
大淀に問われて、僕はとりあえず元いた海域ーーーー僕の世界の小笠原に当たる海域に向かった。
しかし、何処に何があるのかも分からない状態では、何処にも行きようがないなぁ。
執務室を出て鎮守府内を当てもなく散歩しながら呟いていると……
「提督、提督!」
何処からか僕を呼ぶ声が。
すぐ側の植栽、桜の大木から一人の艦娘が降って来た。
空中で回転し、音も立てずに綺麗に着地する。
忍者よろしく現れたのは、軽巡洋艦『川内』だ。
「川内、まだ夜じゃないよ」
「提督……私が夜戦好きだからって、昼間活動しない訳じゃないからね」
口許を覆うマフラーの上で、川内のジト目が僕を射る。
川内は無類の夜間戦闘好きで、任務の無い日でも夜になると元気になって周りに煙たがられる程なのだが、今日の用件は「夜戦しよう!」のお誘いじゃないらしい。
「ねぇねぇ提督、提督に見せたいものがあるんだ。私の部屋に来てよ」
「え⁉︎女の子の部屋に行くの?」
「別に襲ったりしないから安心してよ」
カラカラと笑う川内。
でも非リア充な僕としては、女性の部屋に入るなどというイベントには耐性がないのだ。
(川内はゲームキャラ、川内はゲームキャラ……)
心の中で呪文のように唱えつつ、僕は川内に手を引かれて艦娘達の生活する寮へと足を踏み入れた。
生まれて初めて入る女子の部屋は、いい匂いがした。
自分の妄想し得ないモノを感じるにつけ、「この艦娘達は生きているんだ」と実感する。
が、そんな実感とは裏腹に、川内の部屋には家具らしい家具が無かった。
板張りの壁と床と天井。
かろうじて天井照明はあるが、他は皆無、何も無い。
「川内、これは……」
「あぁ、ちょっと待ってね。今机出すから」
と言うと川内はおもむろに床板の一角をダン!と踏んだ。
すると床板がクルリと回って卓袱台が現れる。
こんな調子でベッドなんかも隠されてるのか?
唖然とする僕をよそに、川内は壁板に隠された収納スペースから数枚の紙筒を取り出した。
「これを見せたかったんだ♪」
川内が卓袱台に拡げたのは、僕の居た世界の地図に似た、しかし其処彼処に明確に違いのある地図の数々だった。
これはまさか……
「川内、これは……」
「横菅だっけ?そこで無断で譲り受けて来たんだ♡」
横菅の司令部から盗んできたのか⁈
僕は、自慢気に胸を張る川内に衝撃を受けた。
ーーーーなにせ、そんな指示は出していなかったのだから。
確かに出撃用ドックに空きは有ったし、なくても海に浮けない程度なので鎮守府から横菅に出るのは簡単だ。
しかし、僕に無断で、自己の判断で勝手に行動する事があるとは思わなかった。
「提督……怒ってる?」
真剣な顔で地図を睨んでいた僕に、川内が恐る恐る尋ねる。
「あ、いや、ちょっと驚いただけ。怒るなんてとんでもない。お手柄だよ、川内」
僕は川内の頭を撫でて労をねぎらった。
セクハラとは言われないよな?