艦娘達の生活の場である寮は広大だ。
それぞれ艦種毎に
・戦艦/航空戦艦寮
・正規空母/装甲空母/軽空母/水上機母艦寮
・重巡洋艦/航空巡洋艦寮
・軽巡洋艦/重雷装巡洋艦寮
・駆逐艦寮
・潜水艦/潜水母艦寮
・食堂 兼 補給艦/給糧艦部屋
・工廠 兼 工作艦部屋
と別れており、駆逐艦は姉妹艦や縁故艦で相部屋、それ以外は個室を与えられている。
また、食堂に隣接する形で『会議室』という名の宴会場が存在し、イベント海域クリア後にはプレイヤーたる僕の知らない所で祝勝会など開いていたそうだ。
そして今、長らく宴会場としてしか使われてこなかった『会議室』に、本来の役割が与えられていた。
「提督は……日本との開戦を望んでるのか?」
口火を切ったのは、伊勢型航空戦艦二番艦の『日向』だ。
気さくな姉と違ってぶっきらぼうなこの武人は、遠慮仮借なく切り込んで来た。
この一言に、大半の艦娘が動揺する。
無理もない。
大日本帝国海軍艦艇の記憶の一部を引き継いでいる日本の艦娘にとっては、「日本と敵対する」という事は自身の存在意義を否定するに等しい行為なのだ。
がーーーー
「
「そうデース!何処の馬の骨とも知れない輩に使われるなんて、ノーサンキューね!」
ドイツの戦艦『ビスマルク』とイギリス生まれの“帰国子女”戦艦『金剛』が、僕のフォローに回ってくれる。
僕にべた惚れな金剛はともかく、海外艦娘達は「日本を護る」という使命への拘りが無い分、僕の行動には好意的だ。
祖国から僕の鎮守府に所属を移したのに、更にまた別の場所に移るというのは抵抗があるのだろう。
金剛が擁護側に回ったことで、自然と姉妹艦である『比叡』『榛名』『霧島』も擁護側に着く形になる。
「まぁ、この世界において
日向とビスマルクが睨み合う中で、妙高型重巡洋艦『妙高』がさりげなく修正を入れる。
そう、この世界は「僕が元いた世界」ではなく、「艦娘達が活躍していた『艦隊これくしょん』の世界」とも違う、パラレルワールドだった。
僕や艦娘達にとっての「日本」はこの世界には無く、「緋乃本」という名の別の国なのだ。
「敵に回すかどうかは相手の出方次第だね。横菅の対応があちらの総意とは思えない」
僕は日向の問いに答えたが、確証があって言っている訳でもない。
追撃が来るか、交渉が来るか……
僕としてはそこで対応を決めたいと思っていた。
「なんの反応も無かったら、どうしますか?資源はともかく、食糧などは保存が……」
「 ⁉︎ 食糧は大切です!ちゃんと食べないと『腹が減っては戦は出来ぬ』ですよ!」
物資面で問題提起したのは、食堂の長である給糧艦『間宮』だ。
その発言に、正規空母の『赤城』が側から見て滑稽な程に慌てる。
さすが『大食“艦”』と呼ばれる艦娘だけはある。
「間宮さん、食糧はどれくらい保ちそう?」
「そうですね……一ヶ月くらいなら……」
「……なら、一週間待とう。それで緋乃本からリアクションが無ければ、他の国にモーションを掛ける。それでどう?」
会議室がザワつく。
各々が近場の席の艦娘と議論を始めていた。
収拾がつかなくなってきた、その時。
出入口の扉が勢いよく開け放たれ、スクール水着にセーラー服の上着だけを羽織った少女が入ってきた。
偵察に出していた潜水艦部隊の旗艦、『伊 58』だ。
出撃用ドックからここまで走って来たのか、ゴーヤは深呼吸で息を整えると僕に敬礼する。
「てーとく、船が一隻接近中でち」
一隻か、なら……
「対応が早いな。接岸を許可しよう」
「相手の事、聞かなくても良いでち?」
「財前さんの輸送艦でしょ?」
「おぉ〜、当たりでち!」
いつの間にか、会議室の中にいる艦娘全ての視線が僕に向いていた。
「一隻で来たって事は、交戦の意思はない。交渉するつもりなら、代表は僕と(そこそこ)友好的な財前さんが選ばれるのは必然だよ。さ、みんなで出迎えよう」
とりあえず緋乃本と開戦!という事はなさそうだ。
僕は小躍りしそうになるのを堪えつつ、努めて平静を装って会議室を出るのだった。