財前さんと一緒に鎮守府に上陸した緋乃本軍人は、色とりどりの勲章を胸一杯にぶら下げた老人だった。
白髪白髭、皺だらけの外見ながら背筋は伸び、挙措に衰えは感じられない。
堂豪と名乗った老軍人(なんと元帥閣下だ)は僕の目の前に歩み寄ると、深々と頭を下げた。
「横菅の坊主が失礼を働いたようだな。申し訳ない」
「あ、いや、喧嘩腰だったのはむしろ此方の方で……」
見るからに偉そうなのに、まったく偉ぶらない堂豪元帥に好感を抱く。
でも「亀の甲より年の功」って言うしなぁ……そういう戦略なのかも。
と、疑う自分に若干の嫌悪を抱きつつ、鎮守府執務室で緋乃本との二度目の会談が始まった。
結論として、緋乃本サイドの要求はやはり「鎮守府の戦力が欲しい」であった。
ただし、その扱いは『編入』というより『同盟』に近い。
いや、それよりも尚こちらに甘いか。
緋乃本の支配地域全域での行動の自由を約束し、どこでも補給を受けられるように手配するというのに、戦力提供は任意ーーーーつまり、緋乃本が助太刀を頼んでも、こちらが「出撃したくない気分」なら出撃しなくていい、というのだ。
拍子抜けするくらいの破格の待遇だ。
「正直な話、これ以上敵を作りたくないんじゃよ」
苦笑する元帥の顔には、疲れからか影が差していた。
島国の緋乃本は、東の大洋を挟んだ位置と北方に大国と接している。
一神教に支配された多民族国家『ベイグランド神聖帝国』と、社会主義国家の『オロール社会主義人民共和国』だ。
以後、鎮守府では便宜的に『ベイ帝』『オロ社』と呼称する。
緋乃本はオロ社の前身である『ロスチャンネル経済産業国(ロス経)』と局地的な戦争を行い、辛勝を収めていた。
それまで緋乃本に友好的だったベイ帝は、これ以降徐々に経済的に緋乃本を追い詰めてくる。
後進国として見下していた国が、自国と匹敵する程の大国を局地戦とはいえ破ったのだ。
ベイ帝としては面白くないだろう。
将来へのリスク管理として、緋乃本の国力を落とそうというのは当然と言えば当然だ。
一方、緋乃本に敗北した事が契機になって、ロス経ではクーデターが勃発。
新たに誕生したオロ社は、緋乃本への意趣返しに燃えている。
また、オロ社の南方、緋乃本の西方にある大陸は、両者が領有を狙うフロンティアだ。
西方大陸や南西諸島を版図に加えたい緋乃本としては、二大国と事を構えている現状で僕等を敵に回している余裕がないのだ。
……どっかで聞いたような話だな。