『佐世保鎮守府』を進発した輸送船は、夜闇の中を緋乃本の首都へ向けて波を蹴っていた。
その足が止まる。
前方に展開する、複数の篝火ーーーー探照灯の光が、輸送船を捉えていたからだ。
「何者か?」
財前の誰何に対する答えは、砲火だった。
輸送船の周囲に、轟音と共に無数の水柱が立ち上がる。
「何でこんな⁉︎……安全な仕事のはずだったのにぃ!」
艦長席にしがみついて、財前が叫ぶ。
傍の堂豪は、何を語るでもなく前方の不届者達を睨み付けていた。
弾着が輸送船に近付き、とうとう外殻を舐めるまでになった。
次は命中弾が来る。
弾着!船体が炎に包まれた。
ーーーーただし、敵の船が。
目を剥く堂豪の目の前で、水飛沫を上げて輸送船を追い越す影が複数、踊った。
六人編成の単縦陣が二編成。
堂豪が呟く。
「あれが……艦娘……か」
二つの隊の内の一つ、敵の探照灯に照らされた少女がこちらに手を振るのを見て、堂豪は艦娘の胆力に思わず苦笑していた。
「ヤッホー!元帥さん見てるぅ〜?」
輸送船に手を振っていたのは川内の姉妹艦、軽巡洋艦『那珂』だ。
敵の探照灯も、彼女にかかれば“自身を照らすスポットライト”に過ぎない。
「那珂ちゃん張り切ってるね♪」
「そりゃあ久しぶりの『那珂ちゃん・オン・ステージ』だからね!」
那珂を制するどころか煽ってるのは、白露型駆逐艦『村雨』だ。
その後ろには姉妹艦達『夕立』『五月雨』『涼風』『春雨』が続いている。
「じゃ村雨さんも、ちょっと良いトコ見せちゃおうかな♪」
「素敵なパーティ、始めましょ♡」
「いよいよ私達の出番ですね!」
「おぅよ五月雨!しばらく遠征ばっかだったからな……涼風の本気見せたげるぅ!」
「わ、私は輸送任務の方が性に合ってるんですけど……え?魚雷ですか?ハイッ!」
那珂の描く不規則な航跡を、一人の脱落者も出さずに辿る駆逐艦達。
最前線で活躍した『第四水雷戦隊』の名は伊達ではない。
もう一つの艦隊は、ひたすら敵艦隊目掛けて全速航行を続けていた。
大きく弧を描き、輸送船に対して横っ腹を見せる単縦陣の敵艦隊を真正面に捉える。
その先頭に立つのは那珂の姉、軽巡洋艦『神通』だ。
武者を思わせる鉢金の下で、凛々しい美貌が殺気を孕む。
「神通、行きます!皆さん、続いて下さい」
神通は、那珂のように自由自在に転舵したり加減速したりはしない。
真っ直ぐ、敵と正面衝突する気かと思わせる程に真っ直ぐに突っ込む。
ギリギリで微妙に進路をズラし、すれ違いざまに砲弾や魚雷を叩き込む。
神通麾下の『華の二水戦』が得意とする戦術「逆落とし」だ。
随伴艦の存在を無視するかのような
神通の行き足。
ところが、随伴艦の『朝潮』『大潮』『満潮』『荒潮』『
「一発必中!肉薄するわ!」
「さぁ、アゲアゲで行きましょう!」
「アンタ、真面目にやらないと神通さんに怒られるわよ!」
「あら〜♪大潮ちゃんはこれが真面目な態度なのよね〜♡」
「……みんな……真剣」
真剣でなければ、神通に置いていかれる。
置いていかれたら、戦闘後にどんな仕打ちが待っているかを、彼女達は骨身に沁みて知っている。
かくして、「自由奔放に戦場を駆ける四水戦」と「戦場を切り裂いて進む二水戦」によって、堂豪元帥を狙った艦隊は為す術なく蹂躙されるのであった。
艦隊帰投後、旗艦達の姉が地団駄踏んで悔しがったのは、言うまでもない。