深海棲艦の艦載機が発見された事で、鎮守府は一気に慌ただしくなった。
無理もない。
深海棲艦は艦娘と同等の力を有する存在だ。
今までの“こちらの世界”の戦力とやり合うのとは、危険度が段違いだ。
とりあえず、鹵獲した艦載機は鎮守府の技術主任である工作艦『明石』に預け、夜間哨戒をする部隊を編成して、僕が寝ている間の指揮を長門に任せる。
先日、金剛に押し切られる形で「日替わり秘書艦制」を採用したが、今後は「日替わり夜番指揮艦」も決めねばなるまい。
ゲームでは『僕が起きてる時間』にしか戦闘は起きなかったが、この様な世界でも“ゲームの常識”が通用するとは限らない。
「朝、起きたら鎮守府が壊滅してました」なんて事態になったら、目も当てられない。
余談だが、今夜の哨戒艦隊旗艦に任命された川内は「夜戦だぁぁぁぁ!」と喜んでくれた。
いや、夜戦になったら困るんだから、変なフラグ立てないでね、割とマジで。
懸念された襲撃もなく迎えた朝、鹵獲した艦載機について聞きに、明石の主戦場である『工廠』に向かう。
油と鉄の匂いが立ち込める工廠内では、明石が艤装『艦艇修理施設』のアームを駆使して艦載機と格闘していた。
明石は……グロッキーだった。
桃色の長い髪はボサボサ、肌にも艶は無く、目の下には球磨…じゃない、クマまで出来ている。
「あ、提督。明石の工廠へようこそ」
いつもの挨拶も生気が感じられない。
「徹夜したのか?大事な体なんだから、無茶するなよ」
「だ、大事な体って、提督……♡」
なんせ工作艦は鎮守府には明石一人なのだ。
何かあっては困る。
何故か顔を赤らめている明石は、吃りながらも判明した事実を説明してくれた。
「今までは艦載機は勿論、深海棲艦の艤装を入手した事はなかったので、苦労しましたがーーーー」
言いつつ、艦載機の装甲をバリッと引き剥がす。
え?そんな無理矢理なの?と思ったが、どうやら“そういう作り”らしい。
「これにも、“妖精さん”が乗るようなんです」
外殻を外した土台には、明らかに『操縦席』と思しきスペースが設えられていた。
“妖精さん”とは、小人サイズの精霊のことだ。
艦娘をディフォルメしたかの様な外見の彼女等(男性型は未観測だ)は、艦娘の艤装や艦載機を操作操縦したり、鎮守府の施設の運営をしてくれる“縁の下の力持ち”だ。
「“妖精さん”は?」
「墜落した段階で脱出したか、消滅したか……機体には残ってませんでした」
“妖精さん”は厳密には死なない。
消滅したようでも、艤装が直れば何もなかったかの様に姿を現わすのだ。
それにしても……深海棲艦サイドにも“妖精さん”が居るのか……なんか変な感覚だな。
「燃料、弾薬は残ってませんでした。ウチの艦載機なら、矢や式神符に戻ってたところですかね」
「どこから来たと思う?」
「燃料タンクはそれほど大きくありませんでした。増槽を取り付けるようなハードポイントもないので……」
やはり近海、か……
明石の沈黙が、僕の予想を肯定していた。