深海棲艦を察知したのは、最上率いる『第一哨戒艦隊』ではなく、後を引き継いだ鈴谷を旗艦とする『第二哨戒艦隊』だった。
「艦影見ゆ、数は……
鈴谷と交替で観測機を飛ばしていた軽空母『祥鳳』が、観測結果を伝える。
「艦影一……さすがに今度は“交渉に来た輸送船”じゃないよね」
緊張する鈴谷が唇を舐める。
続報が入ったのは、そのすぐ後だった。
「艦影は深海棲艦と判明!艦種は……」
観測機の“妖精さん”と通信している祥鳳が、言いかけて絶句する。
「あ〜、わざわざ言わなくてもソレで判るわ。“レインコートの憎い奴”よね?」
鈴谷は軽く流すが、その通信を聞いている鎮守府の僕等は背筋に氷塊が通るのを感じた。
戦艦レ級!
戦艦でありながら、航空戦はおろか場合によっては先制雷撃までこなす化け物だ。
人呼んで『一人聯合艦隊』。
艦載機を拾った時から覚悟はしていたつもりだが、やはり実際に出くわすと恐怖感は半端ない。
今の艦娘達はゲームの上のデータなどではない、血の通った存在なのだ。
万が一沈められでもしたら、それはゲームデータのロストではなく“死”となる。
ゲームの「どれだけ大ダメージを負っても、一回の戦闘で轟沈する事は無い」という仕様が生きているとも思えない以上、戦艦をワンパンチで大破させる相手に正面から挑む無謀は避けたい。
哨戒艦隊の帰還を命じようとしたその時、通信機の向こうから妙な台詞が流れて来た。
「祥鳳さん、観測機は無事?」
「あ、はい。健在です」
「……おかしくね?」
「は?」
「いやさ、観測機が見つけたソレがマジでレ級だったら、観測機襲われてないかなぁ、って」
何を言ってるんだ鈴谷は?
「確かに、目標はこちらに注意を払っていないようです。気付いてない筈ないのに……」
「よし!ちょっち行ってみようか!」
何言ってんだ!このバカ!
「提督〜、いくらなんでもバカはなくない?」
あ、声に出てた。
「ともかく帰って来い!偵察ならもう充分だ!」
「え?何?通信機の調子が悪くて、良く聞こえな〜い♪」
よくもそんな見え透いた嘘を。
「こちら鈴谷〜、艦砲射撃の範囲に入ったけど、やっぱり何もしてこないね」
もう接敵してる⁉︎
「近接距離まで行こっかな」
もう勘弁してくれ!
「鈴谷、吶喊しま〜す……あっ」
ザッという雑音と共に、鈴谷からの通信が途絶える。
「鈴谷あああぁぁぁぁぁぁ!!」
ーーーーで。
「どうしてこうなったんだ……」
頭を抱えて机に突っ伏す僕。
その目の前にはーーーー
「いやぁ、途中で岩礁に足取られちゃって、コケた拍子にホントに通信機が壊れちゃってさ♪」
自損事故で中破した鈴谷と……
「……………………」
その艤装(スカート)を掴んで俯く深海棲艦レ級の姿があった。