僕は有り得ない事態に混乱する頭を冷やすため、とりあえず寝室で一眠りさせてもらう事にした。
朝になれば、きっと自分の部屋で目を覚まして「あぁ、変な夢を見た」って笑うに違いない。
――――甘かった。
「司令官、朝なのです」
朝を迎えた僕を起こしに来たのは、茶色の髪を後ろでアップに纏め――――きれていない少女だった。
暁型駆逐艦『電(いなづま)』だ。
うん、やっぱり実在してるね。
僕を揺り起こす手には温もりさえあった。
これはもう確定だ。
ここは艦これの世界、なんだよな。
クローゼットに並べられた、何故かサイズぴったりな軍服の袖に腕を通して執務室へ。
その道中、ふと外を眺めて異変に気付いた。
景色――――動いてね?
そのことを電に尋ねると、少女は怪訝な顔でこちらを見つめ返してきた。
「鎮守府が移動するのは当たり前なのです」
「………………………………………………」
十秒ほどは石になってたと思う。
あ、ここ『艦これ』の世界とも違うわ。
……でも……
色々な海域にいきなり出撃してたり、最前線から唐突に鎮守府に攻め込まれたりしてるんだよなぁ……
案外そういうもの……だったのか?
首を捻りながら執務室に到着。
ここまで僕をエスコートしてくれた電は、一礼すると下がっていった。
室内には昨晩の『大淀』の他に数人の女性が居た。
巫女服っぽい装いの黒髪ロングは一航戦の正規空母『赤城』。
同じ黒髪ロングでもチアリーダーっぽい服と威圧感が赤城とは一線を画す
黒髪ツインテールで一番偉そうにしてるのは航空巡洋艦『利根』だ。
「おはようございます、提督」
にこやかに挨拶する大淀に対して、他の艦娘達は表情が固い。
何か問題が発生しているのだろうか?
「おはよう、みんな。……で、大淀、何かあるのかな?」
「はい、実は……」
笑顔から一気に真剣な表情に変わった大淀は、デスクの上に海図を広げた。
たおやかな指が小笠原諸島の父島を指し示す。
「現在、我等が『佐世保鎮守府』が存在する地点がここ……の、筈なのですが……」
「筈?という事は……」
「はい、何も無いんです。島影一つ」
「それはつまり航路の計算をミスっt……」
「有り得ません」
ピシャリと言われて、僕は口をつぐんだ。
ですよね〜。
……分かったから睨まないでくれ。
「やはり、深海棲艦の罠……だろうか?」
長門が腕を組んで独り呟く。
深海棲艦……『艦これ』における、僕等の敵。
こうして艦娘達が生きて(?)動いている以上、深海棲艦が存在する可能性はあるけど……
そんな理不尽かつ意味不明な事が、あいつらに出来るだろうか?
状況は全て不明、という事か。
なら方針は……
「先ずは周囲の偵察だな。赤城、利根、偵察機の発進は……出来るよね?」
「それは……勿論」
「出来るに決まっておろう。提督よ、気でも触れたのか?」
「あ、いや、なんでもない。蒼龍、飛龍、航空巡洋艦のみんなにも出てもらおうか」
僕の指示に、呆れたような顔で応じる二人。
艦載機の発着は問題ないみたいだな。
「装備は変更しておくように。水観じゃなく水偵でね」
「了解しました」「承知した」
水観ーーーー零式水上観測機は、水偵ーーーー零式水上偵察機より航続距離が短い。
無計画に偵察をするなら、水観より水偵の方が効率は良い筈だ。
それに……万が一の時にレア装備である水観を失うのは痛い。
「後は……不測の事態に備えて、迎撃部隊を編成しておくか。長門、陸奥、加賀、大鳳、北上、大井で」
「了解しました」
艦隊編成はゲームと同じ、かな。
とりあえず、偵察の成果を期待するとしよう。