阿武隈達が雷撃を開始しようとした、その直前。
突如、敵群に水柱が上がった。
むしろ「水壁」とでも言うべき様に、阿武隈達も呆気にとられる。
「第一艦隊の攻撃はまだよね?」
大井が阿武隈に確認する。
阿武隈の返答はYesだ。
「なら、提督だな。……ったく、支援出すなら出すって、先に言っておけっての」
木曾はニヤリと笑みを浮かべて僕に愚痴る。
そう言えば聯合艦隊発進前に支援艦隊の事を伝えてなかったか。
背中に刺さる妙高の無言のツッコミが痛い。
水柱は、別働隊として編成、発進させていた『支援艦隊』のものだった。
駆逐艦『綾波』『敷波』に先導された航空戦艦『扶桑』『山城』『伊勢』『日向』が、敵艦隊側方に回り込んでの一撃。
「伊勢、日向には……」
「負けられないんですよね?姉様♡」
「本人を前に言うかね?普通」
「そんな事より瑞雲の出番はないのか?」
いささか緊張感に欠ける会話も、キャップ未解放とはいえ
「では、後はお任せします」
「大丈夫だとは思うけど、姉様に手間を掛けさせたんだから、サッサと完全勝利してくるのよ!」
「じゃ、頑張ってね〜♪」
「瑞雲は要らないのか……」
僅かな主砲斉射で多大な損害を敵にもたらし、支援艦隊は帰投する。
支援艦隊の砲撃のドサクサに紛れて、阿武隈達は甲標的の“仕込み”を終えていた。
「第一艦隊の砲撃の前に、敵を撹乱します。甲標的、雷撃開始!」
甲標的が一斉に魚雷を発射する。
艦娘達が装備する魚雷は全て『酸素魚雷』だ。
燃料の酸化剤に“普通の空気”ではなく“高濃度の酸素”を用いた酸素魚雷は、燃焼によって生じる炭酸ガスが海水に溶けるため、普通の魚雷と違って白い航跡を残さない。
ましてや模型サイズの魚雷ときては、視認で避けるのは至難の技どころではない。
敵艦隊のそこかしこで水柱が立つ。
今度は支援艦隊の時のような“水壁”ではなく、完全にランダムな位置での発生だ。
恐らく敵は、何処から攻撃を受けているのかと混乱している最中だろう。
「チビ共!足を溜めとけよ!砲撃の後は吶喊だぞ!」
「うん。準備、出来てるよ」
「ハイ!雪風も頑張ります!」
木曾の檄に、二人の駆逐艦にも気合が入る。
「それ私の台詞〜!」
「別に誰が仕切ってもいいじゃん」
「北上さんが指揮すれば戦果倍増よ、きっと♡」
「え?メンドくさそう……あたしはいいや」
「もぉ〜、みんな従ってくださ〜い〜‼︎」
通信からでも阿武隈の苦労が偲ばれる。
頑張れ阿武隈。
無事に帰ったら褒めてやらねば。