「コイ コイ シロ コイ」
「ススメ ススメ ヘイタイ ススメ」
「はい。よく出来ました♪」
レ級が辿々しく教科書を読むと、練習巡洋艦『香取』が飲み込みの良さを褒める。
ここ数日、僕の隣で繰り広げられる日常風景だ。
鎮守府の一員として皆に認められたレ級は、喫緊の課題として「コミュニケーション能力の醸成」があった。
白羽の矢が立ったのは、艦隊全員がレベル99を達成して暇を持て余していた練習巡洋艦『香取』だ。
当初は香取一人に任せるつもりだったのだが、呪詛でも打ちかねない迫力で同じ練習巡洋艦『鹿島』に睨まれたので、慌てて二人での持ち回りにした……というのは、ここだけの秘密だ。
で、問題になったのが『教室』だ。
寮の部屋は一人部屋では寂しかろうという事で、比較的余裕がある第六駆逐隊の預かるところとなったのだが、そこで授業となると流石に迷惑だ。
かといって他に空き部屋もなし。
なら食堂で……という僕の意見は、より早い「提督の執務室でいいじゃん」という声に掻き消された。
僕の抵抗は“その日の秘書艦”霧島の無慈悲な一言「却下します」で泡と消え、僕の執務中のBGMは『レ級の国語の授業』となったのであった。
提督の執務机の横に陣取ったレ級は、香取や鹿島に褒められる度に隣の僕を見上げる。
ーーーー物欲しそうな目で。
教師陣の無言のプレッシャーもあり、僕はいつの間にか「授業が一区切りする度にレ級の頭を撫でてやる係」になっていた。
レ級は頭を撫でられるのが好みのようで、目を細めて身を委ねる様は猫を思わせる。
「子供が拾ってきた捨て猫って、結局親が面倒を見る羽目になるんだよな……」
僕の脳裏には、レ級を抱っこしてこちらに差し出す鈴谷の笑顔が浮かんでいた。
まったく、随分とデカいお子様だ。
その日の“授業”も順調に終わり、レ級は香取と共に食堂へと向かった。
食堂では食堂で、赤城と加賀が食事のマナーを教えているそうだ。
あの二人なら問題はなかろうが……
二人の様に「行儀良く大量に食う」フードファイターがまた一人増えるのかと思うと、夕食前なのに胸焼けがする。
とりあえず今日は食堂で三人の大食艦の勇姿を見る事は無さそうだ。
僕はレ級達を見送ると、大淀と長門姉妹、大和姉妹を執務室に迎えた。
「「「「「樺太?」」」」」
僕の提案を五人は全く同じタイミングで聞き返してきた。
「寒中行動の訓練をしたいんだ。今すぐじゃないにしても、いずれは南極探査に行く必要があるし、緋乃本の勢力下での最北端で寒さを経験するのは有意義だと思うんだけど」
僕の説明に、明確な反対を唱える艦娘は居ないようだ。
かくして、当面の鎮守府の行く先は樺太ーーーー緋乃本で言う『
「雪にはしゃぐ駆逐艦達の姿が、今から眼に浮かぶな」
「あら?誰かさんの事が抜けてない?」
「わ、私は別に……雪にはしゃいだりは、しないぞ!」
「誰も長門の事とは言ってないわよ♪」
「!⁉︎」
長門と陸奥のコンビは相変わらずだな。
「寒さ対策なら、加賀さんに密着すればいいんじゃないんですか?」
「大和……それ、本人には絶対に言うなよ」
なんだかんだで、大和と武蔵も北の大地は楽しみな様子だ。
普段では聞かれない大和のジョークに、それが現れている。
「では、鎮守府は樺太……じゃない、樺宇土に舵を取ります」
大淀は極めて事務的に事を進める。
いささか態度が堅いのは、秘書艦を持ち回りにしたからか。
とにかく、鎮守府は緋乃本の北限を目指して進むのであった。