北へ向かう移動要塞『佐世保鎮守府』の中では、今日も今日とて騒動が持ち上がっていた。
「提督ゥ〜、待つデ〜ス!」
僕を追って、金剛が走る。
さすが高速戦艦、どんどん差が縮んでいく。
だが……甘い!
ドン!
僕は曲がり角を曲がった所で壁を叩く。
すると、壁の一部が百八十度回転、僕の身体は壁の向こうに消える。
川内が鎮守府のあちこちに仕掛けた隠し通路の詳細は、僕と川内しか知らない。
「What⁉︎提督ゥ〜、何処行ったデ〜ス?」
壁の向こうで、金剛の声がドップラー効果を発生させつつ消えてゆく。
その先はこの時間、大淀が見回りをしてるエリアだ。
施設内での全力疾走を咎められるであろう金剛に心の中で合掌して、僕は飛び込んだ部屋を出た。
事の発端は、執務室の机の整理だった。
「司令官、これは……」
“今日の秘書艦”である特型駆逐艦『吹雪』が引き出しの奥から発掘したのは、フロッキーの小箱。
紺色のそれは、結局ゲーム中で使う事が無かったアイテム『ケッコンカッコカリ指輪』だ。
ケッコンカッコカリとは文字通り『結婚(仮)』をする為のアイテムだ。
なんでも「艦娘と更なる深い絆を結ぶ事で、より艦娘の性能を引き出す」のだそうだ。
具体的には「一部パラメーターとレベルの成長限界を上げる」のだが……
(仮)とはいえ、結婚となると相手選びが厄介だ。
ーーーーだって、艦娘は一人残らず魅力的なのだから。
優柔不断と呼ぶなら呼べ。
僕には“一等賞”を決めるなんて出来ないのだ。
僕は吹雪から受け取った小箱を弄くりながら、思わず呟いた。
呟いてしまった。
「これもいい加減、どうにかしないとな……」
またそういうタイミングで都合悪く入ってくる艦娘が、居るんだよなぁ。
今日でいうなら、午前中の休憩にとティーセットを持参して来た金剛とか。
金剛は、聞きつけた僕の呟きを盛大に曲解したらしい。
「提督!とうとうケッコンを決心したですカ〜?相手は当然、私ですよネ〜♡」
「あ、いや、今のはそういう意味では……」
グイグイと寄ってくる金剛。
僕はあっという間に壁際まで追い詰められた。
窮地を救ってくれたのは、吹雪だった。
小さな体で金剛に飛びつき、微力ながら羽交い締めにする。
「司令官、今の内にお逃げ下さい!」
「Hey、ブッキー!乙女の恋路を邪魔すると、馬に蹴られてgo to hellだヨ〜!」
僕が執務室を飛び出すのと、金剛が吹雪を振りほどくのは、ほぼ同時だった。
こうして、僕と金剛の将来を賭けた「ある意味リアル鬼ごっこ」が始まったのだった。