「ようやく撒いた……かな?」
艦娘寮の陰で一息つく僕。
その耳に、信じられない放送が流れてきた。
『ケッコンカッコカリ指輪が発見されました。現在、提督は指輪を持って逃走中。提督とのケッコンカッコカリを希望する者は、提督を確保して下さい』
大淀……金剛に丸め込まれたか。
これは、ほとぼりが冷めるまで逃げ切るしかないか。
不幸中の幸いなのは、僕と積極的にケッコンカッコカリまでしたいと思っている艦娘は然程多くないという事か。
……悲しい事実ではある。
と、ここで聞き慣れたエンジン音。
これは……鎮守府が誇る超高速偵察機『彩雲』!
咄嗟に宙を仰ぐと、上空を征く彩雲の“妖精さん”と、目が合った……ような気がした。
ヤバい、これは捕捉されたか。
慌てて駆け出す僕。
しかし、空母勢にケッコンカッコカリ希望者なんて居たかな?
千歳はどちらかというと、逆セクハラを愉しんでるだけっぽかったけど……
ーーーー居た。
執務室の窓から、こちらを伺う一人の艦娘。
和弓を構えたサイドテールといえばーーーー
加賀⁉︎加賀なのか⁉︎
加賀は弓を番えると、迷い無く撃ってくるーーーーってオイ!
加賀が放った矢は九九艦爆へと姿を変え、僕に迫って来た。
ちょっと待て、艦載機はシャレになってないぞ!
僕は手近な施設ーーーー工廠の扉へ飛び込んだ。
後手に扉を閉め、寄り掛かる。
「あら提督。何か開発でも?」
そこには先客……というか、既に自分の居場所にしている艦娘が。
ポニーテールに纏めた銀髪。
緑色のリボンとスカート。
若干寸足らずの上着のせいでチラリと覗く臍。
実験軽巡洋艦『夕張』だ。
「夕張、ここ裏口ある?」
「なぁに?また金剛さんにでも言い寄られてるの?」
「放送、聞いてなかったの?」
「放送なんかあったの?」
どうやら夕張は開発だか改造だかに夢中で、放送を聞いていなかったらしい。
「まぁいいわ。逃げるならこっちよ」
夕張が付近に垂れ下がったロープを引いた。
ガコン!
奇妙な浮遊感。
僕の視界は急速に上へ流れた……って、落とし穴⁉︎
「後で感想聞かせてね〜♡」
「ふざけんなあぁぁぁぁぁ……」
急速に遠ざかる僕の怒号が夕張に届いたかどうかは、定かではない。
途中から滑り台に変わった落とし穴の出口は鎮守府の地下、機関部とも言える場所だった。
蒼い燐光を放つ巨大な機関が、ゴウンゴウンと重低音を響かせて動いている。
「ちょっと!ここは関係者以外立ち入り禁止……って提督じゃない」
明石か。
「明石はこんなトコのメンテもやってんの?」
「メンテというか、点検みたいなものですかね。ここの技術に関しては私の理解の範疇を超えてるんで、不具合が起きても直せないんですけどね」
苦笑して頭を掻く明石。
偶に工廠にも居ない時があると思ったら、ここに来てたのか。
「ところで……ここでドンパチやったらシャレにならないんで、とっとと出てって下さいね♡」
明石は放送を聞いてたのか。
にこやかに言う明石の目は、笑っていなかった。
大至急出て行きますです、はい。