樺太ーーーーもとい、樺宇土に到着した鎮守府は、南極探索に向けて寒中行動の訓練を始めた。
緋乃本には南極の話は伝えず、表向きはあくまでも「対オロ社に備えた訓練」としている。
「こ、こここここの程度の寒さ、なななな何でもない、のであります」
南極探索艦隊の旗艦を任せる予定の揚陸艦『あきつ丸』が、歯をガチガチ鳴らしながら敬礼する。
うん、痩せ我慢乙。
とりあえず、あきつ丸がこの有様から脱せる様にしなければ、だな。
駆逐艦達と長門が雪遊びに興じる中、明石と夕張は工廠に籠って防寒装備の開発、探索艦隊のメンバーに抜擢した阿武隈、多摩、龍驤、隼鷹、ヴェールヌイとあきつ丸は連携や陣形の再確認と、開発された装備の試験などを行った。
あきつ丸はともかく、他の艦娘は元となった実機が北方海域での活動実績がある娘ばかりだったので、訓練に関しての不具合は皆無。
途中、オロ社の哨戒艦隊が小競り合いを仕掛けてきたものの鎧袖一触で退け、全ては順調に進んでいた。
そう、進んで“いた”のだ。
その日、テーブルを仕舞って全食卓を炬燵に換装した食堂でテレビを見ていたところ、ニュースが飛び込んできた。
ベイ帝が鎮守府の存在を世界に公表し、批判したのだ。
同時にオロ社も、沿岸の町が鎮守府に襲われて壊滅したと報じてきた。
ベイ帝はバイモン海域で壊滅した艦隊の残骸と犠牲者を映し、オロ社に至っては実際に虐殺が行われる様を放送していた。
この世界のジャーナリズムは過激だなぁ。
「提督、これは……」
久方ぶりに秘書艦に就任した大淀が、不安そうに聞いてくる。
「結構早かったな。正直、もう少しくらいはマトモにぶつかって玉砕してくれるかと思ったけど」
「提督はこの事態を予測されていたんですか?」
「まぁね。武力で太刀打ち出来ない相手をどうにかするとなると、情報戦や謀略に頼るしかないだろ?」
しかしオロ社のやり方は凄いの一言だ。
この世界の技術レベルでCGや特撮はないだろう。
つまり、彼等は自国の民を自分達で虐殺し、その映像を鎮守府の仕業として公開したのだ。
胸糞悪い話だ。
「この後、どうなると推測されますか?」
「大淀がベイ帝やオロ社だったらどうする?」
「え〜っと……分かりません」
「国際的に包囲網を構築するだろうね。『ABCD包囲網再び』だ。っと、この世界じゃ初めてになるだろうから“再び”じゃあないか」
二大大国の行動に、緋乃本はどう出るか。
僕の脳裏に、横菅の志摩田司令の凶相が浮かんだ。
堂豪元帥は良い人だったけど、あの人の思考がイコール緋乃本の思考というわけでもないんだよな。
緋乃本という国がいまいち信用に足りない以上、動くなら今の内か。
「南極に向かおう」
「え⁉︎まだ装備開発は万全ではありませんが……」
「開発は道中でも出来るさ。『兵は拙速を尊ぶ』とも言うし、早目に出発と行こう」
「了解しました」
常識的な対案を出して選択肢の再確認を促しつつ、それでも出された司令には従う。
大淀の気遣いには感謝するより他ない。
「大淀、ありがとうな」
「は?はぁ……」
唐突な僕の言葉に、対応に困る大淀。
ともかく、これで方針は決まった。
緋乃本から行動の自由を約束されている内に、南極だけは調べておきたい。
鎮守府は再び南方へと舵を切った。