「提督殿、乗り心地は如何でありましょうか?」
「うん、思ってた以上に快適だよ」
南極へと向かう探索艦隊。
その一行には僕も加わっていた。
ちょっと気になる事があって、司令室で踏ん反り返ってるワケにはいかなかったのだ。
僕はあきつ丸の装備である『特二式内火艇』に乗り込み、あきつ丸に搭載される形で南極を目指す。
『特二式内火艇』は、あきつ丸の装備『大発動艇』から開発したものだ。
これと『ドラム缶(輸送用)』は、艦娘の装備としては他と一線を画する特徴がある。
ーーーー大きさが変わるのだ。
普段はミニチュアな装備として艦娘に搭載されるが、輸送の為に艦娘から降ろされると原寸大になる。
大きくなったドラム缶や大発動艇に資材を積んで艦娘が装備すると、中身ごとミニチュア化するという、ちょっと御都合な能力を有している。
僕は内火艇に乗り込んだ上であきつ丸に装備されーーーーつまり、ミニチュア化されて運ばれていた。
「寒くはありませんか?」
「大丈夫。あきつ丸は平気?」
「ハッ!自分は問題無いであります!」
艦娘達は(無論僕もそうだが)帽子、マフラー、コートなど厳重なまでに防寒具を着込んでモコモコだ。
寒さは問題ないのだが、この状態では『術式で艦載機を召喚する隼鷹と龍驤以外は戦闘不可能』なのが、問題といえば問題だ。
もし敵対勢力と遭遇したら、防寒具は破棄しなければならない。
そうして勝ったとしても、防寒具が無ければそれ以上の探索は不可能になる。
軽空母達は神経質なまでに偵察機を飛ばしている……らしい。
「らしい」というのは、内火艇に乗っていると外部との連絡が取れないのだ。
一応あきつ丸とは話せるのだが、外の様子は分からないし、他の艦娘とも話せない。
外の状況に関しては、あきつ丸の実況に頼る他ない。
「僕等の他に誰か居そう?」
「自分達の他には艦影無し。海は凪。静かなものであります」
「油断するなよ。赤城がいつも言ってるだろ?」
「『慢心は禁物』でありますな。了解であります!」
あきつ丸の堅苦しい軍人口調が、今は頼もしい。
現状、南極に艦隊を出す余力がある国など無いだろう。
だが、それでも遭遇戦の可能性は消えない。
そう、ここに深海棲艦が居るとして、それがレ級の様にコミュニケーション可能だとは限らないのだから。
無事、南極大陸に辿り着いた僕等は、あきつ丸が召喚して実物大になった内火艇に乗り込んで奥地へと歩を進めた。
内火艇の運転は、あきつ丸が務める。
さすが陸軍艦、といったところか。
「これでちっとは寒さも凌げるなぁ」
龍驤が手に息を吐いて呟く。
龍驤と隼鷹は艦載機召喚の際に印を組むので、ここまで素手で来ていた。
「龍驤、ちょっと拝んでみて」
「なんやいきなり」
「いいから、いいから」
頭にハテナを浮かべながら手を合わせる龍驤。
その手を僕の手で挟む。
おぉ、冷たい!
「な、なななな何すんねん!」
「この方があったまるだろ?」
途端に真っ赤になる龍驤。
どうやら身体もあったまったようだ。
「良いなぁ……誰かアタシにもしとくれよぉ」
「ギャー!冷たい手で触るニャ!」
「私の手は基本、冷たいから意味ないよ」
「隼鷹も提督にしてもらえばいいじゃない。少し待ちなさいよ」
「え⁉︎……いや……そう!アタシは早くあったまりたいんだよぉ!」
何故か隼鷹も赤くなって手を他の艦娘に密着させようと暴れる。
何やってんだ。
「隼鷹」
「何さ?」
振り向いた隼鷹の手を握る。
当たり前だが、こっちも冷たい。
「ここまでご苦労様」
「ひぇ……あの……あわわ……」
普段の快活さは何処に行ったのか、口ごもる隼鷹。
新鮮なもんだな。
これが「ギャップ萌え」という奴か。
などと、和気藹々とした雰囲気の中、内火艇は進む。
「慢心してるのは提督殿の方なのであります」
内火艇の操縦をしながら、あきつ丸は深い溜息をついた。