「我等ヲ、艦娘ニ……ダト? フフ……」
突拍子も無い提案を笑い飛ばす声も、力無い。
もっとこう、“三段笑い”くらいされるかと思ったんだけど……
「まぁ“艦娘に”は大袈裟か。正しくは『より艦娘に近しい存在』になってもらうという事さ」
「何ダト?」
「その上で、ウチの艦娘達には……より深海棲艦に近しい存在になってもらう」
南方棲戦姫は無言だ。
続きを言え、という事か。
「価値観を変える時が来たんだ。君等は奪うべき海を失った、僕は君等に新しい価値観を与えてあげる」
「ダカラ貴様ニ協力シロ……カ」
「悪い取引じゃないと思うよ。このまま現れる事のない玉座の主を待って朽ちるより、全然ね」
南方棲戦姫は玉座を眺めた。
この座に着くはずだった存在は、恐らくこの世界に転送されず、データごと存在を消去されたのだろう。
「デ、奪ウベキ海ト滅ボスベキ敵ヲ失ッタ我等ハ、如何スベキダト思ウノダ?」
「『仲間』を守るため……」
「仲間?」
「北方棲姫は見たかい? あの娘は『僕なら君等を癒せるかも知れない』と、僕を招き入れた。例えば、あの娘の為に、さ。立ち上がらないか?」
南方棲戦姫は今度は広間の入口に目をやった。
少しだけ開いた扉から、片目だけを恐る恐る覗かせて、北方棲姫が様子を伺っている。
「我等ニ出来ルノハ、破壊ダケダゾ?」
「僕はそれだけだとは思わないけど、そうだったとしてもモノは使いようだよ」
「我等ニ、マダヤレル事ガ……成セル事ガアルト言ウノダナ?」
いつの間にか、広間の深海棲艦達の全てが、僕と南方棲戦姫を注視していた。
「多分ね。絶望するなら、外の世界を見てからでも遅くないだろ?」
僕は南方棲戦姫に手を差し伸べる。
随分と部の悪い賭けだ。
我ながら呆れる。
でももし、僕の手が拒絶されて深海棲艦との戦端が開いたとしても……
その時は、艦娘の存在が世界を守る鍵になる。
この世界で、深海棲艦に対抗できるのは艦娘だけだろう。
そうなれば、国際社会に爪弾きにされかけている現状を回復できる。
どちらに転んでも、艦娘達の為にはなる。
例えこの場で殺されるとしても、本望だ。
僕は無意識に笑んでいた。
「変ナ奴メ……ダガ、面白イ!」
白く、細い指が僕の手に巻き付いた。
その様子を見届けた他の深海棲艦達が、立ち上がる。
「我等ニ、『新シイ世界』トヤラヲ見セテモラオウカ!」
南方棲戦姫の赤い瞳に、炎が灯る。
同時に、他の深海棲艦達にも。
誰かが雄叫びを上げ、広間の全員に波及した。
オオオオオオォォォォォ!
砦をも揺るがす勢いの轟咆に、入口で様子を見ていた北方棲姫の顔も希望に輝いていた。
強大だった敵が、味方として復活する。
いかにも王道な少年マンガ的展開だけど、当事者ともなると感動はひとしおだ。
さて、鎮守府のみんなはどう反応するかな?
いや、それよりも外で待ってる内火艇の連中はどうだろうか?
艦娘達の驚く顔を想像して、僕はほくそ笑んでいた。