輸送船団の隊長、財前則光は恐慌に陥っていた。
いつもの輸送任務と高を括っていた。
護衛の艦は少なかったが航路は前線から遠く、輸送部隊ごときにムキになるだけの戦略的価値は無いと思っていたからだ。
護衛の駆逐艦4隻に対して、襲撃者は軽巡洋艦2隻に駆逐艦4隻。
勝負はあっという間だった。
護衛艦は呆気なく蹴散らされ、襲撃者達は船団を回遊しつつ、散発的に撃ってきている。
明らかにこちらを弄んでいる。
分かっていても、眼前に打ち上がる水柱を見て怯えずにはいられない。
弾着が砲撃毎に近付き、とうとう船団の一隻の積荷に命中した。
(もうお終いだ……)
軍人ではない財前は、頭を抱えて床に這い蹲った。
その時ーーーー
財前の耳に、聞き慣れない音が聞こえた。
飛行機のエンジン音に似た、しかし遥かに軽く、小さい。
財前は起き上がって外を確認した。
抜けるような青空に舞う、数十の機影。
それは、編隊を成して飛ぶ、九七式艦上攻撃機ーーーー
加賀、大鳳から発進した、航空部隊の雄姿だった。
「長門、陸奥は41cm砲と電探。加賀と大鳳は九七式艦攻。北上と大井は魚雷と甲標的を。全員に応急修理女神を積んで!」
直衛の為に編成した艦隊を派遣するにあたり、僕は装備変更の指示を出した。
偵察機からの報告により、敵(?)艦隊は艦娘でも深海棲艦でもない、普通の艦船である事は判明していた。
だが、艦娘達の力がその“未知の敵”に通用するかは分からない。
いつでも撤退出来る準備を整えないと。
加賀と大鳳には最初期装備の艦攻を積んだ。
初撃の航空攻撃で威力偵察を行うためだ。
これが通用しなかったら、輸送船団には悪いが撤退して後詰を派遣する。
後詰の空母『翔鶴』『瑞鶴』には、流星改を用意していた。
僕は発進を控えた艦隊に声を掛ける。
「最優先は生きて還る事、だからね?」
「あぁ、任せておけ。必ず敵を倒して帰還する!」
「……ちょっと通じてない、かな?大丈夫、いざとなったら長門の首に縄掛けてでも帰ってくるから♡」
久しぶりの出撃に張り切る長門。
そういえば、サービス終了前も長いこと使わないでいたっけ。
資源は限界近くまで溜め込んでたんだから、もっと使ってあげれば良かったかな?
長門の妹、陸奥は長らくの不遇にも関わらず、入れ込む事も無く応じてくれている。
この冷静さは有難いな。
「九七艦攻の戦果次第で戦闘継続か撤退かが決まる。よく見極めてね」
「分かりました」
「お任せ下さい!」
加賀の素っ気ない態度は相変わらずだが、だからこそ頼りになる。
恐らくは長門と同じ理由で張り切っているであろう大鳳の事も、上手く御してくれるだろう。
「二人は撤退戦になった場合の要だから、特にダメージには注意してね」
「あ〜、はいはい」
「北上さんは、私が命に代えても守りますからね!」
「じゃあ大井っちは私が命に代えても守りましょうかね〜」
「北上さん♡」
北上に抱きつく大井。
ま、この二人は大丈夫か。
出撃用ドックに居並ぶ艦娘達。
僕の大切な娘達。
サービス終了まで誰一人として沈めなかった事は、密かな自慢だ。
だから、これからも絶対に轟沈させたりはしない。
決意を胸に秘め、僕は命令を下す。
「輸送船団救出艦隊、出撃!」