欧州は落ちた。
各国は降伏し、全ての海洋戦力を破棄。
ついでに植民地を持っている国からは植民地を放棄させ、植民地は独立させた。
アフリカ諸国は地図上で切ったような国境線を廃止して、民族/部族の縄張り準拠で区切り直した。
しかし……
ひたすら面倒くさい。
ぶっちゃけ、他人の国の面倒を見るなんて罰ゲームか!というレベルだ。
好き好んで世界征服しようという、フィクションの世界の悪役達の気が知れない。
まぁ、少なくともアフリカや東南アジア諸国からは感謝されるようになったのは収穫か。
植民地を失った“元”大国は、面従腹背といった風情だが、それぞれの国民からは「少なくとも海軍に徴兵される事はなくなった」と消極的な許容は貰えた。
そんなある日ーーーー
「泊水さん、大西洋を航海中のベイ帝籍の貨物船より入電!海賊に襲われているそうです」
泊地水鬼の治める『呉鎮守府(なぜ泊地を与えてくれないのか?と小一時間問い詰められた)』に一報が入ったのは、丁度僕が視察に来た時だった。
『泊水さん』なんて呼ばれてるのか、泊地水鬼は。
ま、親しみやすい呼び名で良い事だ。
ここの秘書艦に就いている妙高が、僕の姿を見つけて慌てて敬礼する。
「提督!?いらしてたんですね。では指揮権は泊水……泊地水鬼さんから提督へ移譲をーーーー」
「いや、いいよ。今日の僕は外野だ」
僕は妙高を制すると、泊地水鬼に視線を転じた。
「お手並み拝見だね」
僕が言うと、泊地水鬼は不敵な笑みを浮かべた。
「敵艦ノ規模ハ判ルカ?」
「駆逐艦一、魚雷艇八との事です」
「最寄リノ艦隊ハアルカ?」
「付近を『睦月』『如月』『菊月』『長月』『三日月』『文月』の艦隊がタンカー護衛の任に就いています」
素早く状況を確認すると、泊地水鬼は黙考した。
貨物船はベイ帝籍だ。
未だ敵対している国で、正直守ってやる義理はない。
泊地水鬼は、どう判断するか……
しかし考え込んだのも数瞬の事、泊地水鬼はすぐさま指示を飛ばした。
「睦月ハ如月ニ指揮ヲ移譲。任意ノ艦一名ヲ選抜シテ現地ニ急行、制圧セヨ」
「了解しました」
決断早っ!
呆然と見守る僕を尻目に、テキパキと処理を進める泊地水鬼と妙高。
悔しいが僕より有能だ、コイツ。
視線に感情が出ていたのか、気付いた泊地水鬼が僕に笑いかけた。
「指揮ハ出来テモ、提督程ニハ艦娘達ノ士気ハ上ゲラレナイ。マダマダダヨ」
……気を使われてしまった……
睦月は僚艦に文月を選び、貨物船に向かった。
「まだ武装してるって事は、オロ社の海賊かな?」
「降伏した国が隠してたとか〜、降伏に不服だ〜!とかいう人達かも〜」
航行中の二人の会話を、無線が拾ってくる。
僕は無線のマイクを手に取った。
「どんな勢力でも構わないさ。殲滅あるのみ!ってね」
「!?提督!?」
「司令官だ〜♡司令官、呉に来てるの〜?」
睦月と文月の声のトーンが上がる。
僕の視線の端で、泊地水鬼が肩をすくめた。
「提督提督!睦月達が帰るまで呉にいる?」
「おぅ、一緒にお土産食べるぞ」
「ぅう〜ん、いい感じ〜♡私、頑張っちゃうね〜♪」
キラキラの光がスピーカーから漏れてきそうな勢いの、睦月達の声。
浮かれるのはいいが、油断するなよ!