睦月と文月は現場に到着した。
が、現場の誰も睦月達には気付かない。
最初から居る事が想定されている遭難者救助と違い、大海原の中で人影を察知するというのは簡単な事ではない。
小さいというのは、艦娘が実機より有利な点の一つだ。
ましてや、自分達の海賊行為の進捗に夢中になっている状況では、微速前進に切り替えた睦月達を察知しろという方が無理だ。
睦月と文月はそれぞれ、貨物船の周囲を輪形に囲む海賊船の更に外周、貨物船の船首側と船尾側に位置取った。
「睦月ちゃん、準備オッケー」
「じゃ、三で行くよ。いち、に〜の、さん!」
二人の砲が火を噴き、魚雷が発射管から放たれる。
魚雷艇八隻を二人できっちり四隻ずつ沈めるのに、二分かからなかった。
艦娘が実機より有利な点のもう一つが砲塔の旋回能力だ。
艦娘は、例えば睦月型のように砲塔を手持ち武器にしている場合、手首・肘・肩・胴・足と全身を使って攻撃の角度を変えられる。
標的を一つ仕留めてから次の標的に移るまでの時間が格段に早いのだ。
睦月が仲間の轟沈に猛る駆逐艦を挑発している間に、文月は貨物船に乗り移る。
錨を投げて貨物船の縁に掛ける。
おぉ、錨にこんな意外な使い途が。
錨を巻き上げて自身を引き上げる文月。
その頭上に、海賊の一人と思しき男が顔を出した。
その手の小銃が文月をポイントする前に、文月の肩から機関砲が現れた。
そういえば、戯れに25mm単装機銃を装備させてたっけ。
ツインテールの“妖精さん”が、迎撃射撃!
25mmか……人間に向けて撃つようなモンじゃないよなぁ。
銃撃を受けた海賊は、上半身を消し飛ばされて絶命した。
甲板上を歩く文月。
途中で幾度か海賊と邂逅するものの、銃撃を物ともせずに10cm高角砲と25mm機銃の餌食にしてゆく。
その様はまるで『ターミネーター』か『ロボコップ』か、といった風情だ。
海賊のリーダーと思しき男は、貨物船の乗組員を集めて操舵室に立て籠もっていた。
「それ以上近付くと、こいつ等を殺すぞ!」
リーダーは既に恐慌状態だ。
無理もない。
撃たれても平気な幼女が、一撃で仲間を屠りつつ迫ってくる……傍目にはコメディだが、当事者からするとホラーなのだろう。
「ん〜……じゃあ、私が代わりに人質になるとか、どぉ?」
何を言ってるんだ文月!
「艤装は
「ぅ? お、おぉ……」
「ならそれを私に付ければ〜、世にも珍しい艦娘の人質だよ〜」
目の前でその力を見せつけられて尚、リーダーは文月の容姿に惑わされていた。
無理もない事だが。
ダイナマイトを文月に取り付けようとしたリーダーは、文月に手を取られた瞬間、己のミスに気付いた。
ダイナマイトを文月に付ける為には、銃を手放さないとならない。
銃を手放したら……
リーダーは文月に、それはそれは綺麗な一本背負いを食らった。
後日再び呉鎮守府に来ると、文月の姉妹艦『卯月』が、嬉々として新聞を持ってきた。
その後ろから、半ベソで文月が追いかけてくる。
「司令か〜ん、この記事見るぴょん!」
「ふぁああん! 見ないで、見ないでぇ〜!」
記事は貨物船に乗り合わせていた記者が書いた物だった。
そこに一枚の写真が。
それは、文月が一本背負いを決めたシーンを背後からバッチリ捉えていた。
その、捲れ上がったスカートの中まで。