蒼の彼方のフォーリズム ~少年の空~   作:Aruki

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やっとレギュラーメンバーたちとの絡みだー!


2章 皆で練習だ!
第4話 突き抜け個性


 事実は小説よりも奇なり。縁は異なもの味なもの。

 そういった言葉が悠の思考をよぎるが、いくらなんでもこれはあんまりではないかと思ってしまう。

 ひょんなことからFC部を作ることになった。高藤に試合に行った。勝った。部ができた。ここまでは良かったはずなのだ。

 だが、そこからが怒濤すぎる。

 昔の師匠の一人である各務葵に出くわして弄られて。合同練習相手のFC部にはなぜか日向晶也がいた。話を聞けばいつからか久奈浜FC部のコーチをしているらしい。

 そんな情報を連続して叩き込まれた悠は、もうこう思うしかなかった。

 

 

 ーー人生、ままならねぇ......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな思考を全部頭のなかになんとか押し込み、今は互いの自己紹介タイムだ。

 自己紹介、と聞いてみなもは学校でのことを思い出したのか顔を真っ青にして木の陰に隠れてしまったが、久奈浜メンバーとみなもは面識があるらしい。だから今は悠だけが自己紹介している。ちなみに葵や隼人は話があるということで今はこの場にはいない。

 自分を中心に半円のように広がっている久奈浜メンバー4人に悠が自己紹介すると、悠と久奈浜メンバー、どちらとも面識がある晶也が口を開いた。

 

「みさきは悠のこと知ってるよな? 前にも何度か会ってるし」

 

 晶也にみさきと呼ばれた女性は「ん?」と声を出して疑問符を浮かべている。

 悠もちょうどみさきのことが気になっていた。

 鳶沢みさき。前にも晶也との会話で上がった名前であり、今目の前にいる少女だ。

 しかしその本人は首をかしげて唸ると。

 

「私、会ったことあったっけ?」

 

「あるだろ......ほら、前に俺にうどん奢らせたとき」

 

「それは、ほら......私、晶也と二人のときは晶也のことしか考えてないから」

 

「晶也センパイ! 私のみさき先輩にちょっかいかけないでください!」

 

「え!? コーチとみさきちゃんいつからそんな関係になってたんですか!?」

 

「みさきが考えてるのは俺が奢るうどんのことだろ.....」

 

「......あのー、話進めてもらってもいいですかー?」

 

「あはは、ごめんごめん。高瀬くんだっけ~? よろしくにゃ~」

 

 このまま放っておくと久奈浜メンバーのボケが永遠に続きそうだと思い悠が割って入る。

 みさきは悠のことは覚えてはいないようだが、これから仲良くしてくれそうなので、悠としてはそれでいい。

 

 

 ということで次に説明されたのは、先ほどの晶也に噛みついていた少女。体は小柄で細身。ツインテールにしている長い色素の薄い髪が特徴的だ。

 

「えっと、有坂真白です。私も1年生、よろしく」

 

「よろしく」

 

 真白はなぜか一定距離を保ったまま悠に挨拶した。

 顔はにこにこと笑っているのに、どこかみなもと同じ空気がするな、と悠は思ったがあえて口にはしない。初対面でそこまで聞くのも野暮と言うものだ。

 だが、真白本人は自分でも今のはよくない態度だったと思ったのか、さらに言葉を付け加えてきた。

 

「好きなものはみさき先輩です!」

 

「わー、この子、初対面の相手にも言い切ったよー」

 

「だってみさき先輩は私の根幹ですから!」

 

「そこはもうちょっと外がいいなー」

 

 そのまままた白黒コンビのボケの応酬が始まったので、悠と晶也二人のことは放っておくことに決めた。

 

 

 最後に、先ほど真白と一緒に騒いでいた少女。

 腰まで届きそうな長い髪に頭のところに羽を模したような髪飾りを着けている少女だ。

 どことなく、ぽやぽやした空気というか、天然そうな雰囲気を感じた。

 

「倉科明日香です! よろしくお願いします!」

 

 明日香は満面の笑顔で言うとぐいっと悠に近づいてきて手を振り回すように握手する。

 どうやらこの少女は元気が有り余っているタイプなんだろうと悠は思った。

 そしてあと部長とマネージャーがいるらしいが、その二人は兄妹で今日は家の都合で休みと晶也から聞く。ただしその二人もかなりキャラが濃いとのこと。

 ......よくもまぁ、ここまで個性的なメンバーを集めたものだと他人事のように考える悠は、自分もそのカテゴリに入っていることに気がつかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?」

 

「それでって......何がだ?」

 

「どうして俺たち上通社FC部と合同練習しようと考えたのかって聞いてるんです」

 

 練習開始から1時間後。普段の上通社での練習よりも明らかに質の高い練習をさせてもらい、今は休憩に入った悠が晶也に聞いた。

 空を見上げるとそこでは3人の少女が空を飛び回っている。(みなもは例によって岩の陰に隠れている)

 悠から見て、明日香と真白はまだまだこれから、といった具合だったが、みさきはかなりレベルが高いことが分かった。

 多分みさきの実力ならば、大会でもかなりいいところまで行くだろう。

 そして今日は来ていない部長の人は、生粋のスピーダーだと聞いている。

 つまり、練習環境は実はそこそこいいのだ。生粋のファイターと生粋のスピーダーしかもどちらもかなり上手い。これだけの条件が揃っていれば練習はかなり回るだろう。

 だから、久奈浜側には、あまり悠たちと練習するメリットが見られない。

 すると、晶也は一度ため息をつく。参った、というような空気を感じた。

 

「葵さーー各務先生が合同合宿の予定を作ったんだ」

 

「へぇ......良かったじゃないですか。部を作ったばかりじゃあ中々できないですよ」

 

「そうなんだけどな......その合同合宿の相手、高藤なんだよ」

 

「ぶふぅう!!?」

 

 ゴホゴホっと、晶也のあまりの解答にむせる悠。

 高藤学園。つい先日悠たちが試合に行った学園だ。

 結果として悠は確かに高藤の新入生、市ノ瀬莉佳に圧勝したが、それは莉佳が弱かったからではない。

 つまり、今の久奈浜FC部が高藤と合同練習なんてしたら......いや、そもそも練習にならない気がする。

 みさきはともかく、他の二人はついていけないだろう。

 明日香はつい一、二週間前にグラシュで飛び始めたと悠は晶也に聞いた。そんな彼女がいきなり高藤の練習についていくのはいくらなんでも無理がある。

 

「明日香、次、あれ行くぞ!」

 

 晶也の言葉に上空の明日香は頷くような動作をするとーー体を縦に一回転させて、宙を蹴るように一気に逆方向へと加速して『跳んだ』。

 その光景を見て、悠は目を見開く。

 

「い、今の......エアキックターン......?」

 

「あぁ、明日香は初試合でいきなりあれを成功させたんだ」

 

 ちょっと待て、と悠は自分の思考に呼びかける。

 エアキックターンは、メンブレン自在に動かしてなおかつ体のバランスを少しも崩さずに行う高等技術だ。

 それを、飛び始めてたかが一、二週間の少女ができるものなのか......?

 悠はもう一度空を飛んでいる明日香を見る......今度は自分の標的として。

 目を見開き、観察するように見た明日香はーー現在絶賛、姿勢を崩して空から垂直落下中だった。

 

「コーーーーーチーーーーー!!」

 

「明日香!? 早く両手両足を広げて安定姿勢を取れ!」

 

 晶也の指示に、はいぃい!! と半泣きの明日香の声が練習場に響く。

 エアキックターンなんて高等技術ができて、どうして普通の飛行がままならないのか......

 ......すごいのかすごくないのか、よく分からない少女、明日香。

 それが悠が明日香につけた印象だった。

 

 

 

「......まぁ、とにかく、晶也さんのしたいことは分かりました。試合勘をつけさせてより早い上達を促そう、と」

 

 やはり実戦で得られるものというのはある。そしてそれを知った状態で普段の練習に励めば、効率よく上達する。

 だから試合と練習を適度なバランスで組み合わせていけば、選手はどんどん成長していく。

 だが久奈浜には試合をしたことがある選手が少ない。

 そんな選手同士で試合をしても、それは本当の試合とはほど遠いものにしかならないだろう。

 そこで試合慣れしていて、練習相手を探していた悠......というより上通社FC部に白羽の矢が立ったのだろう。

 ......なんだか最近、いろんな人に利用されてばかりだなぁっと思わなくもない悠。

 だが、これは自分にも悪い話じゃないーー

 

「でも、お前にだって悪い話じゃないだろ?」

 

「......」

 

 まるで悠の思考を読み取ったかのような晶也の言葉に少し驚く。

 晶也は、悠のことを余裕ある笑みを浮かべながら見ていた。

 それを見て、悠は思う。

 

(この人......だいぶ昔に戻ってきたな......)

 

 FCを辞めてからの晶也は、とにかく透明という感じだった。

 心が綺麗という意味ではなく、完璧に磨かれたガラスのように、そこにいてもあまり存在感がないような。いてもいなくても気づかないような存在。

 おそらく晶也にとってFCというのは、本人を構成する成分の中でこれ以上ないぐらいに高い割合だったのだろう。

 それがなぜ、FCを辞めるような話になったのかは詳しくは悠は知らないが、今の晶也の方が、断然いいと思った。

 はぁっと息をつくと、悠はゆっくりと飛び上がり晶也に振り返る。

 

「ま、腑抜けのあんたにはほぼ全く興味はないし、あんたに利用されるっていうのもあんまいい気はしませんけど.....」

 

 悠は明日香たちが飛び回っている空を見上げる。

 その目は、捕食者のようにギラつき始めている。

 そして小さく口を歪ませ、

 

「......あんたが育ててる選手には、興味が湧いてきました......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高瀬悠という少年は、確かに試合は少しも手を抜かないが、かといってさすがにFCを始めて少ししか経っていない少女相手に全力全開でいくほど融通が効かないわけではない。

 相手に手加減してくれと頼まれればそうするぐらいの優しさはあるのだ。

 バチィイ! とメンブレンが弾ける音が響く。

 

「有坂! そんなに大きく動いていたんじゃファイターはすぐにやられるぞ。もっと小回りを利かせろ!」

 

「わ、分かってます!」

 

「姿勢を戻すのが遅い!」

 

「え、ちょっと待って......ぴにゃああああああ!」

 

 ......優しさはあるのだ。多分。1ミリぐらいは。

 メンブレンが弾ける音と真白の悲鳴が響き、それが試合終了の合図となった。

 

 

 砂浜に降りて、悠はスポーツドリンクで喉を潤しながら今まで試合した明日香と真白のことを考える。

 明日香は典型的なオールラウンダーだったが試合したあとでも分かったのはそれぐらい、というのが悠の見解だった。

 悠との試合中、明日香は晶也の指示でエアキックターンを試そうとした場面があったが、それは失敗に終わっていたし、他のローヨーヨーなどの基本動作はまだ身に付いていない。接近戦(ドッグファイト)も悠の圧勝ではあった。

 あったのだが......少々腑に落ちない点もあった。

 明日香と試合をしていると、妙な感覚に襲われるのだ。

 さっき通用したはずの動きをもう一度すると、同じく通用はするのだが、明日香の動きが変わっている。

 最初は悠も色々な手を使ってついてこようとしているのだろうと思ったが、そうではないのだ。

 試合が進んでいくと、いつの間にか明日香は悠の動きを取り入れていたのだ。

 もちろんそれは、悠のものと比べれば天と地ほどの差があるのだが......それでも悠は、明日香にうすら寒いものを覚えずにはいられなかった。

 だというのに明日香本人はぽやぽやとした空気を纏っているから、結局よく分からない。

 

 

 真白はまだまだこれから、としか言えない。

 真白はファイターだったが、ただ一つ一つの動作が大きくて相手にタッチに行くのにも一瞬躊躇しているような印象を受けた。

 それが練習不足が原因ならばこれから練習して直していけばいいのだが、真白はもしかしたらスピーダーの方が合っているかもしれない、と悠は思った。

 

 

 この二人の実力に関しては、大体悠の予想通りだった。

 どれだけコーチや顧問が優れていても、いきなり一気に強くなるなんてことはそうそうない。

 だから悠もこの二人には手加減しつつ、相手と試合が成立するように戦った。

 だが、最後の一人は違う。

 悠は10メートルほど離れた場所にいる、次の相手を見る。

 

「......ん?」

 

 その猫のような少女は、まさに猫のように伸びをしていた。フライングスーツが黒を基調としているいるせいで、余計に黒猫に見えてしまう。

 みさきは中学でもFC部のに所属していたらしく、やはり飛びかたが上手い......が、ただ上手いというのもどこか違うような気が悠はした。

 どこか違うかと聞かれると答えられないのだが、何となく違和感があったのだ。

 

(うーん、倉科さんの違和感が引っ張ってるだけか......?)

 

 理由は分からなかったが......とにかく、だ。

 みさきの実力はかなり高い。それは悠の感覚が告げている。

 感覚なんて曖昧なもの、と言われてしまうかもしれないが、FCは一瞬一瞬の刹那的思考が重要になってくる、試合展開がかなり早いスポーツだ。こういった感覚は案外バカにできない。

 

「みなも、相手はファイターのみさきさんだ。多分セコンドに頼ることもあると思うけど......大丈夫?」

 

「うん......空、だけ見てたら......多分大丈夫......」

 

 それは、空じゃない何かを見たらまたド緊張の赤面状態になるんですよね? と聞き返したくなったが、悠は意地とプライドと根性でそれを堪えた。

 ここでそれを聞いてしまったら、みなもはまた木だの岩だの海の中だのに隠れてしまう可能性があるからだ。

 悠は小さく息をついて、再び宙に浮かぶ。

 みさきはファイターだ。悠とはスタイルが被っていることからも、ガチガチのドッグファイトになることが予想される。

 悠もいくらか相手の位置を掴むのには自信があるがファイター同士のドッグファイトは互いの位置が目まぐるしく入れ替わるので相手を見失いやすい。

 だが悠もドッグファイトには強いこだわりがあるのだ。負けるわけにはいかない。

 よし、と一度活を入れると悠は一気にファーストブイに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みさき。集中していけよ」

 

「分かってるよー。晶也は心配性だねー」

 

「みさき先輩ですよ? 大丈夫に決まってます! あの手加減を知らない人にも勝ってくれますよ!」

 

「みさきちゃん、頑張ってください!」

 

 悠たちに対して、久奈浜メンバー側はどこかゆったりとした空気が流れていた。

 といってもそれはみさきのマイペースさが場を支配しているだけであって、晶也はいつも以上に真剣にみさきに話しかけていたが。

 晶也は頭が痛そうに一度額に触れると、みさきに言い聞かせるように言う。

 

「いいかみさき。悠は正直な話、高藤の選手相手にだってそうそう負けない本物の選手だ。しかも戦闘狂のきらいもあるからな、さっきからみさきをロックオンしてるぞ」

 

「へー......でも、なんで私? 明日香じゃなくて?」

 

「今のメンバーだったら、一番強いのはみさきだからじゃないか?」

 

「一番強い......ふーん、ま、そう言ってもらえるのは嫌じゃないにゃー」

 

 みさきは気分良さそうに鼻唄を小さく奏でるとグラシュの履き心地を確かめるように爪先を足元でたたく。

 みさきが履いているグラシュは、インベイドという海外メーカーのレーヴァテインというシューズだ。

 このグラシュはとてもピーキーなのが特徴で、メンブレンの反応がよすぎて使いづらいが、過敏な反応が可能というシューズだ。

 だがみさきがこのグラシュを履き始めてまだ1週間弱。みさきはまだ履きこなせてはいないのだ。

 これは非常にウィークポイントになってしまうのだが。

 

「みさきがシューズを履きこなせていないのは、多分悠は気づいてない」

 

「え、どうしてですか?」

 

「あいつは昔から飛行姿勢とか上は見るけど、グラシュとか下は視界から外しちゃう癖があるんだ」

 

 その癖を昔はよく葵に怒られていたことを晶也は思い出すが、意識してそれをどこかに追いやる。

 これは今考えるべきことではないと。

 みさきは驚異的なセンスで、扱いの難しいレーヴァテインも基本飛行においてはそこまで問題がないレベルに飛べるようになっているから、先程の通常練習では悠はみさきのグラシュに気がつくことはないだろう。だが試合中には必ずばれてしまう。ならばバレるよりも早く攻める......つまり最初からガンガン攻めていかなければ、みさきは悠に一太刀も浴びせられないだろう。

 そのことをみさきに話すと、みさきは宙に浮かび上がりながら言う。

 

「なんか、晶也の話聞いてると、相手の胸を借りてこいって感じに聞こえるんだけど?」

 

「まぁ、そういうニュアンスで言ってるからな」

 

「そんなのつまんない。やるからには勝ちに行くよ」

 

「そうですよコーチ! やるからには全力でしないと、相手に失礼です!」

 

「......」

 

 明日香の言い回しに、晶也は昔の誰かを思い出した。

 そう、あの時も試合関係だった。ただし、あの時は試合が終わったあとの話だったが。

 一瞬脳裏をよぎった思い出に小さく苦笑いして、すぐさまいつもの表情に戻ると晶也はみさきを見上げた。

 

「そうだな。よし、やるからには勝ちに行くぞ!」

 

「おー、晶也のそういうとこ、結構好きよー?」

 

 にひひひ、と笑うとみさきはふらふらとマイペースにファーストブイに向かった。

 

 

 

 

 ーーさぁ、悠。久し振りに勝負だ。

 

 

 

 

 

 




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