蒼の彼方のフォーリズム ~少年の空~   作:Aruki

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なんと、今回からあのキャラが出ますよ!
誰かって? あのキャラですよあのキャラ!!






第5話 灰と黒のコントラスト

 ドッグファイト。

 多くの場で用いられる言葉ではあるが、FCにおいては両選手が相手の背中へのタッチで得点を狙い、至近距離で試合が進んでいくことを指す。

 至近距離で戦う、ということからも分かるように、ドッグファイトはファイター同士の試合でよく行われる戦い方だ。

 互いのコントレイルが絡み合い、数々の攻撃が交錯し続ける高速戦闘の応酬は、見るものの視線を釘付けにするほどに美しいものだ。

 だがそれは、一瞬の判断の差が、実力の差が明確に現れてしまうということに他ならない。

 同じスタイル同士の戦いは、小細工よりも実力勝負になってしまうのだ。

 だが同時に、ファイター同士の戦いは一瞬の判断力が勝敗に大きな影響を与えるため、判断力を低下させるような......つまり、プレッシャーなどの精神的なものも試合に大きく影響してくる。

 そしてそれは今回の試合。悠対みさきにおいても同じことが言えた。

 

 

 

 

 

 

 

 3ー3。

 悠対みさきの試合途中のスコアだ。

 このスコアを見たら、誰だって互角のいい試合だな、接戦を繰り広げているな、と思うだろう。

 事実、二人の試合は接戦で、互角の試合になっていた。

 だが、その事実に一番驚いているのはきっと当事者である悠と、みさきのセコンドである晶也だ。

 

 

 悠はこの試合展開に驚き、そして歓喜していた。

 審判は戻ってきた葵がしてくれることになり、葵の掛け声とともに始まった試合。

 試合開始直後、ファーストラインの攻防はセオリー通り生粋のファイターであるみさきがセカンドラインにショートカット。悠はセカンドブイにタッチして1ー0。

 ここまではなんの不思議もない。ごくごく普通な試合展開。

 悠はこのあとブイに触れて得た反発力を利用して加速。一気にみさきに接近してドッグファイトをしかける気だった。

 しかし、ここでみさきの、いや、おそらくは晶也の作戦が発動した。

 みさきはセカンドブイのすぐ目の前で悠を待ち構えていたのだ。

 普通、ショートカットして相手を待ち構える場合、前のブイ寄りに待ち構える。下手に下がって待ち構えても相手をスピードに乗せるだけだし、抜かれるとショートカットする暇もなくポイントを取られて、次のラインに移られてしまうからだ。

 

 

 だがだからといって、みさきほど前のブイ近くで待ち構えるのも良策ではない。

 前のブイの目の前で待ち構えるということは、ブイで加速した瞬間、スピードが変わった瞬間の相手を抑えにいくということだ。

 しかもブイの反発力で加速する際、上方下方、もしくは真っ直ぐに加速するのかも分からないのだ。

 そんな相手を抑えようとするなんて、難易度が高いにもほどがある。

 

 

 止められるわけがない。そう思った悠はみさきがいる場所とは違う、上方へと加速した。

 ......いなかったはずなのに。

 悠が移動した場所にはすでにみさきがいた。

 そして悠はみさきに叩きつけられて一気に下方に弾かれ、体勢を崩したところを背中をタッチされ1ー1。

 先程のみさきのように悠よりも早く移動することは、理論上は可能だ。なにせみさきのシューズはバリバリのファイター設定だ。初速は異常なほど速い。

 だがそれを実行しようと思えば、悠が動き出すのとほぼ同時、いや、それよりもさらに一瞬早く動かなければならない。

 それを可能にするなんて......いったいみさきの反射神経はどれだけ優れているんだ?

 悠の笑みと思考が、鋭くなる。

 相手を狩るために。思考が冷え、体が熱くなる。

 

 

 そこからは、互いが相手の背中を狙うどろどろのドッグファイトが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 晶也はこの試合展開に驚き、そして認識を改めていた。

 みさきが悠と互角の試合を行えていることには、もちろんタネがある。

 晶也は、悠がどれだけ優秀なスカイウォーカーかを嫌というほどに知っている。総合力ではみさきでは相手にならないだろう。

 FCという枠組みでは勝てないのは分かっていたから、だから、ファイター勝負という点に集中して戦うことにした。

 下手に広い範囲で戦えば、経験差、実力差がもろに出てしまうが、どろどろのドッグファイトに持ち込めばみさきのポテンシャルと、シューズの違いで勝てる......かもしれないと思ったのだ。

 悠とみさきのシューズならば、バリバリのファイター調整にしているみさきの方が有利だ。

 だから晶也がみさきに指示したのは、ごく単純な指示。

 悠から、一瞬も離れるな。

 セカンドブイ近くで待機させたのも、少しでも悠に小細工させないための指示だったが、もちろんこれらの指示を完璧にこなせばみさきが勝てる、とは晶也も考えてはいない。

 これらが偶然たまたま上手くいけば、ようやく勝負になるだろう。と考えたのだ。

 

 

 そして結果は......晶也の想像を大きく越えてきた。

 みさきは、晶也が想像していた以上の動きを見せた。

 まさか本当に悠から一瞬も離れずに、しかも悠の移動先を潰すように飛ぶとは......

 

「みさきちゃん、すごいです......」

 

「あぁ......まさかみさきにここまでのポテンシャルがあるなんて」

 

 明日香の呟きに同意する。

 空では、みさきが悠の攻撃をかわし、悠の背後に回り背中をタッチしようとする。

 だが悠は、後ろに目がついているような正確さで後ろに手を回して、みさきの手を防いでいた。

 これで悠がみさきの後ろからの攻撃を防いだのは5回目だ。偶然とは言えない。

 

「またみさき先輩の攻撃を......高瀬さんって、どうしてあんなに後ろからの攻撃を防御できるんですか?」

 

「悠はな、実際に後ろが見えてるらしいんだ」

 

「後ろが......見えてる?」

 

「空間把握能力って言うのかな......それが異常なほど高くて、実際に背後にいる相手との距離も大体分かるらしい」

 

 空間把握能力だなんて、眉唾ものの能力だが、事実その昔、悠はその能力を活用して世界的スカイウォーカー(今はこの試合の審判)から1ポイント奪っている。

 晶也自身も昔は悠の空間把握能力には苦労させられていた。なにせ背後を取っても高速で揺さぶっても全く見失わずに追ってくるのだから。

 だからその空間把握能力を潰すためにも晶也はみさきにあの指示を出したのだが......結果として、その距離はみさきにとって最高の距離だったのだ。

 

 

 悠はなんとか流れを変えようとして動き回って、攻撃もしているが、みさきとの均衡状態は崩れない。

 晶也も時おりみさきに指示を出しているが、それよりも早くみさきは動き、悠と互角に渡り合う。

 みさきが攻撃し、悠が回避し、悠が攻撃し、みさきが回避し。

 それが延々、延々続く。

 まさにサーカスというように二つのコントレイルが混ざりあい鮮やかな軌跡を描く。

 その光景はこれが練習試合だということを晶也たちに忘れさせるには十分すぎるものだった。

 試合の制限時間はあるのだから、そんなわけがないことはわかっていたが、それでも、この光景はずっと続いていくんじゃないだろうか? そう見ているものに思わせた。

 ......だが、その美しい光景は突如崩れ去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 がくんっっ! と突如みさきの姿勢が崩れ、飛行が乱れる。

 悠の目の前で姿勢を崩したみさきはもう肩で息をして少し動くのも辛いといった具合だった。

 ......スタミナ切れだ。

 それを見て悠はここぞとばかりに一気に攻めこむ。

 横からみさきの体に触れて反発力によって姿勢を崩し、さらに背中にタッチ。7ー5。

 ついに均衡が、崩れたのだ。

 

(まぁ、何となく途中から分かってはいたが......)

 

 悠は、みさきの飛び方にどこかぎこちなさを感じていた。

 言うなれば、泳いでいるとき腕ばかりを動かしてばた足をせずにクロールをしている人を見るような、そんな感覚。

 おそらく、まだシューズに慣れていない、ということだったのだろう。

 しかも慣れていないシューズであそこまで飛ぶことで、普段の倍以上のスピードでスタミナが減っていってしまった。

 だがその慣れないシューズでここまで悠に食らいついた、というのは脅威であり、尊敬に値する。

 それに......まだみさきの目は、この試合を諦めていない。

 

(いいね......ぞくぞくする目だ)

 

 相手に負けない。絶対に倒してやると言わんばかりの、野生の目。みさきから悠に発せられる視線はまさにそれだ。

 ポイントなんか関係なく、悠はまだみさきに勝っていない思った。

 なぜなら、まだみさきは負けを認めていないから。

 そういう相手に手を抜いたプレイをすれば、一瞬で食われ、奪われてしまうことを悠は誰よりも知っている。

 だから......とどめをさしに行く。

 この試合を、勝利への執念を、奪い取るために。

 

「はっ!!」

 

 肩で息をしているみさきに突っ込んでいく。

 みさきもそれに対応して悠の攻撃をかわすが、かわせたのは初撃だけ、続けて襲ってきた右手の振り下ろしはかわしきれず下方に弾かれる。

 ......先程までのみさきならば、悠の攻撃をかわし、逆に攻撃するほどのことはやってのけただろう。だが今はもうできない。それがこの試合の答えだ。

 悠は下方にいるみさきに向かって頭から垂直落下していく。

 そして、全体重とメンブレンを、みさきに向かって叩きつけた。

 

 

 ドォオオオン!! とすさまじい音と水柱をあげて、みさきは海に叩き落とされた。

 

 

 スイシーダ。相手を海面に叩きつけて動きを強制的に止め、体力も根こそぎ奪っていく高等テクニックだ。

 この技はラフプレイに分類される技だが、それゆえに威力は絶大。スタミナが完全に切れているみさきでは、かわすことはおろか、しばらく疲労で動けないかもしれない。

 この技は、悠はあまり試合では使わない。ラフプレイに分類されるだけのことはあり、少ない可能性だが相手に怪我をさせる恐れがあるからだ。

 悠の試合中の興奮を考えれば、やり過ぎてしまう可能性は高くなる。

 それでもみさきにスイシーダを使った理由は......やはり、悠なりの敬意だったのかもしれない。

 

(さて......このまま見下ろし続けても意味はない。次のブイにタッチしてダメ押しーーーーっ!!!??)

 

『悠くん......後ろ......!!』

 

 インカム越しに届いたみなもの声よりも一瞬早く、悠は背筋に冷たいものを感じた。

 まるで......肉食獣に睨まれたような。体がそこにいることを全力で拒んでいるかのような感覚。

 まずい、と思ったときにはすでに悠の体はその場から離れようと動き出していた。

 だが......それよりも、悠の背後に回ったみさきの動きの方が速かった。

 

「はぁああ!!」

 

「がっ.....な、に......!?」

 

 回避しようとしたが間に合わず。

 背中をタッチされて悠の姿勢が崩れる。

 これで7ー6

 

(なんで!? 確かにスイシーダは直撃した......手応えはあった!! まさか食らってからここまで飛んできたのか? そんなことできるわけ......っ!?)

 

 いや、ある。

 グラシュは、地表や海に墜落するような事故が起こらないよう、危険な体勢での飛行高度が設定されている場合が多い。

 競技用のグラシュは海面にギリギリに設定されている。

 それより下にはどうやっても無理な体勢では降りられない。つまりそこはグラシュにとっての地面のようなものだ。

 ならば、そのグラシュの設定を無視して海面に無理矢理降りようとすればどうなる? それよりも降りられないということは、いくらか反発力が発生しているということだ。

 そして反発力は反対からの力に比例して大きくなる。

 今回の場合は悠のスイシーダだ。

 つまり.......

 

(最低高度に足をつけて、そこから反発力で加速しながら飛び上がることで、疑似エアキックターンをしたってことか!?)

 

 その際、スイシーダによって上がった水柱の陰を通れば悠の死角をすり抜け、背後をとることができる。

 と、言葉で言うのは簡単だが、実際にしようと思えばどれだけ難しいか何てことは誰にだって分かる。

 しかもそれを行ったのは履き慣れていないグラシュで、しかも疲れきっているみさきだ。

 本当に末恐ろしい。悠はそう思った。

 同時に、今までにないぐらいに嬉しくなった。

 こんなすごい選手が、今俺と試合をしているのか、と。

 

「鳶沢さん、あんたおもしれぇよ!!」

 

「負け、るもんかあああ!!」

 

 そして再び始まるドッグファイト。

 みさきはもう体力の限界のはずなのに、悠に食らいついてくる。

 その姿は、その目は、黒猫だなんて表現では生易しい。まるで黒豹だ。

 狼と黒豹が、空を駆け回り、互いを食らい合う。

 そしてーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅぉおお......か、体が......」

 

 試合に勝った代償は全身筋肉痛だった。

 

「悠くん......大丈、夫......?」

 

「だ、大丈夫......」

 

 ふらふらふらふらと、いつもの悠からしたら考えられないような不安定さで飛ぶ。

 真っ直ぐ飛ぼうと飛行姿勢を安定させようとすると体の節々に痛みが走って、結局ふらふらしてしまう。

 だがそれも無理からぬことだ。いくら学校各所でお宅訪問風味で試合をしていた悠でも、みさきとの試合ほどずっとドッグファイト一辺倒で動き回ったことはなかったのだから。

 ちなみにそのみさきも試合後全身筋肉痛に襲われ、久奈浜の浜辺で動けなくなっている。ついでに真白に襲われかけている、なんてことは帰宅途中の悠もみなもも知らない。

 

「それで......みなもさん? 今日はずっと飛んでいなかったわけだけど......」

 

「う......だ、だって......」

 

「だって?」

 

「......は、恥ずかしい......」

 

「......」

 

 みなもさんや、それじゃあ何のためにFC部を立ち上げて久奈浜に合同練習しに行ってるのか分からないですよ。

 と、思わなくもない悠だったが、それでもみなものひとみしりを考えれば仕方がないとも思った。

 だが、それが仕方ないということにして、じゃあどうするかが問題だ。

 みなもは自分がFCに関われればいい、と思っているわけではない。自分も上手くなって、大会で勝ち進みたいと思っている、ということはこれまで一緒に練習してきて悠も理解している。

 それ故に、みなもが悠が試合しているとき、羨ましそうに空を見上げていたことも。

 

「......」

 

 どうにか、してあげられないものかな。

 夕日が水平線に沈んでいくなか、どこか悲しそうに顔に影を落としているみなもを見て、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、どうにかしてみた。

 

「わっはっはっは!! 今日からはこの私、謎の覆面も練習に参加してやるぞ、感謝するがよい!!」

 

「「「......はい?」」」

 

 翌日。久奈浜の練習場にはまさに謎の覆面を被っている謎の覆面選手が現れた。

 グラシュを履いてフライングスーツを着ているからスカイウォーカーということは誰もがなんとか理解していたが......

 

(((なんだ、このキャラは......)))

 

 全員がそう思わざるを得なかった。

 だって、覆面をしているのだ。子供が書くようなへのへのもへじの顔がそのまま描かれている覆面を!

 しかも性格は傲慢不遜。こんなキャラをした人がいきなり練習場に現れたら誰だって頭の中が疑問符だらけになってしまうだろう。(いや、これで性格が気弱とか言われてもそれはそれで反応しづらいが)

 

「お、おい悠。この人誰だ......? というか、今日みなもちゃんは休みか?」

 

「ははは。あの人は謎の覆面選手。上通社FC部の部員にして隠し兵器です。みなもは今日から休みです。ちょっと用事が入っちゃったので」

 

「コーチ。よろしく頼む!!」

 

「え、えぇ......よろしくお願いします......」

 

 覆面選手の強気な態度とどこか変声器越しのような声に晶也が引き気味に答える。

 それは悠にとっていつもなら心が潤う瞬間だが、今に限ってはさすがにやり過ぎたかと思った。

 

(いや、だって......俺も隼人さんもノリノリになりすぎたんだよ......しかも実際に被せてみたら本人もノリノリだし......いや、謎の覆面さんの中身は俺も知らないよ、うん。だって謎だしね)

 

 恥ずかしいのなら顔を隠せばいいじゃない。気弱なら傲慢になればいいじゃない。声でバレるなら変声器を使えばいいじゃない。等々。

 そんな悠と隼人の合作の発想でできたのが、謎の覆面選手だ。もちろん、中身が誰かは永遠の謎だ。神すらも知らないだろう。

 まぁ、とにかく。

 

「うわっはっはっは!!」

 

 ......ああして高笑いしている覆面を見て、とりあえずこれで全員練習できるからいいか、と思うことにした悠だった。

 

 




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