蒼の彼方のフォーリズム ~少年の空~   作:Aruki

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お久し振りです。すごい間が空きましたね......
ずっと書き続けてはいるので心配しないでくださいね!



第6話 灰+白=?

 高瀬悠は自他とも認めるFCバカだ。

 しかも戦闘狂のきらいもあるため試合しよー?とでも誘われれば満面の笑みでFCのことしか考えられなくなるほどだ。

 最近は久奈浜との合同練習も始まって部活動も順調。悠の頭のなかはFCのことでフィーバー状態だ。

 ......と言っても。悠は上通社学園の生徒でもある。

 上通社学園は去年にできた新設校で、授業のカリキュラムがまだ不安定なところがある。

 なのでまだ4月なのに授業の進行スピードが無駄に早い授業があったりする。

 つまり授業中までFCのことで頭いっぱいにするわけにはいかないのだ。

 もしもそんな進行が早い授業で他のことで頭をいっぱいにでもしたら.......

 

「金木、この数式はどう解く?」

 

「愛と勇気で頑張ります!」

 

「ほう? お前はそんなにも廊下に行きたいのか?」

 

「でも先生! 私の敬愛するかの正義のヒーローも言ってますよ、愛と勇気だけが友達だって!」

 

「確かにな。先生もそのヒーローは1話から通して大ファンだ。だが友達ならばお前に勉強を頑張るように言うだろうな。廊下に行け」

 

「くそーーー!!!」

 

 こうなってしまうわけだ。

 クラス1のお調子者女子、金木と、学校1のムキムキ教師、一条(通称ラオウ)のコントにどっと笑いが起こる。

 そんな笑いを聞いて、ふと、悠の脳裏によぎったことがあった。

 ーーそういえば、久奈浜の人たちとまだこうして笑いあったことはなかったな、と。

 悠たち上通社FC部は、久奈浜で練習をさせてもらっているみもらっているみ身だ。ならばその互いの選手の関係性についても気を配るのは悠たちだろう。

 特に真白辺りはひどい。未だに悠に対して完全な他人行儀なのだ。

 

(......もうちょっと、歩み寄るべきか)

 

 今日から気を付けようかな、そう、思考が逸れたのがいけなかったのだろうか?

 

「高瀬、ここの答えは?」

 

「愛と勇気で頑張ります」

 

 ガラガラガラ、ピシャン。

 悠と金木が一緒に教室を出る。

 授業残り約30分。彼らの両手にはいつの時代だと問いただしたくなるような水の入ったバケツが。

 ......クラスの中からの視線が、痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそー、あの筋肉だるまめー......」

 

「そんなこと言うからこうやって追加課題出されてるんでしょ」

 

「ええい、だいたいなんだい! 高瀬くんがあそこで上手いこと言わないから追加課題が出たんだよ!」

 

「おおっと、そういう流れで来ますか」

 

「あそこは『友情・努力・勝利で頑張ります』って言ってくれないと」

 

「......金木さんって、結構守備範囲広いね」

 

 そんなこんなで放課後。悠たちは近くの机を向かい合わせて勉強会を開いていた。

 メンバーは悠とみなもと金木を含めた6人。全員の手元にはノートやシャープペンシル、消ゴムなどが転がっている。

 悠以外が女子というのは中々に羨ましい光景ではあるが、女子たちが悠に尊敬していたり何か思うところがあるわけでもないので悠からすればただ肩身が狭いだけである......まぁ、このマイペース少年がそんなことを気にするかと言われると微妙だが。

 

「ふっふっふ、これでも私、毎日7時間は二次元に没頭してるからね、えっへん!」

 

「なるほど、だからこうして居残り勉強させられてるわけね」

 

「うー、私の貴重な二次元タイムが削られていく......だいたい、そんなこと言うあっちゃんはどうなの!? あっちゃんたちも課題あるでしょ!!」

 

 そう、この場に集まったメンバーは悠と金木のサポートのために集まったのではなく、それぞれが急遽課題を出されてしまったのだ。

 もちろん、全員があんパンネタで廊下に立たされる&課題という馬鹿げたコースになったわけではなく、授業後に出た通常の課題が難しくて皆で力をあわせて合わせて取りかかっているからだ。

 さばさばしていることでクラスで男女ともから人気があるあっちゃんこと相澤は、つまらなそうにペンをくるくると回しながら、

 

「いや、もう全員終わったわよ。あとは金木待ちだから」

 

「えっ!? そんな馬鹿な......」

 

「だってあなた、少しでも問題に詰まったらすぐに誰か構い出すじゃない。そりゃあ終わるものも終わらないわよ」

 

「そんなことないってばー! ねぇ、我が同志の高瀬くん! 君も終わってないよねー?」

 

「みなも、そこは先に代入した方が綺麗にまとまるよ」

 

「あ......ほんとだ、ありがと......」

 

「すでに終わっているどころか、嫁といちゃラブしているだと!!!??」

 

 わざとらしい金木の反応に、他の女子3人も黄色い反応を示す。

 この光景はこのクラスが始まってからもう何度も繰り返されている。それこそ本当にループ世界に紛れ込んでしまったのではないかと悠が錯覚しそうになるぐらいには。

 

「......あのさ、毎回言ってるけど、俺らそういう関係じゃないよ? ただの幼馴染みだし」

 

「うん......恋人じゃ、ないよ......?」

 

「いやー、そうは仰いますがねお二方? 二人の会話とか行動とか。もう友達とか幼馴染みとかって言葉じゃ明らかに違う感じだし」

 

「そう言われても......」

 

「でも、高瀬くんもみなもちゃんも、互いのこと悪くは思ってないでしょ?」

 

 金木の問いに、二人は迷うことなくうなずく。

 悠とみなもは何度も言うが幼馴染み同士。今じゃ思い出すのも少し恥ずかしいが一緒の布団で寝たこともあるし、ほとんど家族同然のようなところはある。

 だがあくまでもそれは仲がいいという範囲の話であって、愛情云々の話ではない。

 悠のそんな考えがみなもと同じかどうかは聞いたことはなかったが、きっと同じだろうと思っていたし、事実みなももほとんど同じ考えだった。

 そんな暗黙のルールのようなものが二人の間には長い年月をかけて自然と作り上げられていた。

 だから今回もそれに従って『仲のいい友人として』うなずいたのだが......金木たちはさらに黄色い歓声を上げた。

 そこから再び話がどんどん転がっていくが......金木は勉強はいいのだろうか?と思わなくもない。

 

「でも高瀬くんって確かに隠れ人気みたいなものあるんだよねー」

 

「そうそう、落ち着いてて、ガキ臭くないとことか」

 

「ちょいちょい細かいところに気づける優しさもポイント高いよね」

 

「......それを本人の前で言うその心は?」

 

「だって君、そういうの聞いてもそんなに気にしないでしょ?」

 

 なるほど、確かにそうだと納得させられてしまった高瀬悠(16才)。思春期真っ盛りでその反応は少々枯れすぎではないだろうか?

 そんな女子からの評価なんて興味なしの悠だったが。

 

「ねぇねぇみなもちゃん! 高瀬くんのことってどういう人だと思ってるの? やっぱりただの幼馴染み?」

 

「え......?」

 

「......」

 

 この質問もそこまで珍しいものではない。今までも何度も聞かれたこと。

 だが、いや、特にこれといって深い理由はないのだが、悠の視線は隣に座るみなもに向けられる。

 盗み見たみなもの表情は......いつものごとく、おどおどと相手の様子を伺うような少し怯えたものだった。

 まぁそりゃそうだ、と誰にでもなく悠は心のなかで愚痴る。

 そんな悠の様子に気づかずに、みなもはゆっくりと口を開ける。

 

「えと......うん、優しいよ......私のこと、いつも気にかけてくれるし、部活だって、色々手伝ってくれて......それに、私じゃ気づけないことにも、たくさん気づいて、くれて......」

 

「「「う......」」」

 

 みなものあまりにも純粋な返しに金木たちが唸る。そして悠も少し居心地が悪そうに体を揺らす。

 みなもが言っている内容そのものは金木たちが挙げた悠の長所とほとんど変わらない、が、みなもの言葉にはそれを本質として理解しているような、妙な説得力があった。

 だからこそ、その場にいた水面以外の人物は、しばらく顔の赤さを消すことができないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふはははは!! 今日もこの覆面が練習に来てやったぞ、感謝するがよい!!」

 

「あはは......ありがとうございます......」

 

 久奈浜メンバーの高藤への合同合宿がだいぶ近づいてきたこの日も、久奈浜の練習場には謎の覆面選手の笑い声が響く。

 その覆面によって覆われている素顔を知るものはどこにもいない。謎の覆面選手は多くの謎を抱えているからこそ、謎の覆面選手なのだ。

 ......などと覆面選手を見ながら軽く現実逃避していた悠は、意識をなんとか自分の思考に戻す。

 とりあえず覆面選手の対応に追われている明るい感じの女性に声をかける。

 

「青柳先輩。そこまでその人に畏まらなくていいですよ。覆面選手は俺と同じ1年生ですから」

 

「あ、そうなの......いやー、でも妙に強気にこられるもんだから、なんだか下手に出なきゃいけないのかなーって」

 

「覆面は偉いからな! 相手が下手に出るなど、当然のこと!」

 

 覆面選手の言い分にあはは......と困ったように笑う青みがかった癖っ毛の髪が特徴的な女性。

 青柳窓果。初日にはいなかった兄妹の妹の方だ。久奈浜のマネージャーをしていて、明るくメンバーのなかでもムードメーカーやボケ役を担っている。

 普通におバカキャラなのかと最初は悠も思ったのだが、話してみると中々に回りを見ているできる人だと分かる......多分。

 

 そして窓果の兄であり、久奈浜の部長でもある青柳紫苑は、筋肉質で熱血漢。熱すぎるところはあるものの、かなり人柄がよく、悠も普通に話ができる仲になっていた。今は砂浜の反対側で晶也と明日香と共に何か話し合っている。最近明日香は悠やみさきとファイターとばかり試合していたから、生粋のスピーダータイプである紫苑と試合させよういう晶也の考えだろう。

 

「っと、そうだ。青柳先輩」

 

「ん? どうしたの」

 

「俺のこと、どう思ってます?」

 

「............それは、新手のナンパってことでいいのかな?」

 

 いきなりの問いかけとその内容にボケるのが正しいのか真面目に返すのが正しいのか分からないという風に苦笑いを返してくる窓果。

 しまった、今のはさすがに聞き方が悪かった。そう悠が反省したときにはもう遅い。

 

「え、何々!? 高瀬くん、窓果狙いなの!? 意外だにゃー......でも、私は応援するから!」

 

「みさき先輩が応援するのなら私もしますよ! 窓果先輩、この人基本嫌な人ですけど、頑張ってください!」

 

「なに!? そういうことならば、この覆面も力になることもやぶさかではない!」

 

「おいこら白黒コンビ。どこから沸いてきた、というか有坂に至っては応援のニュアンス違うじゃん。覆面選手も意外とノリノリですね」

 

 久奈浜に来てから、これも最近は日常風景になりつつある。

 白黒コンビことみさきと真白。普段から一緒にいるせいか息があっていて、悠(もしくは晶也)をからかうときに無駄にレベルの高いコンビネーションで攻めてくる。

 しかもみさきは悠のことが気に入っているのかよく絡んでくるのでからかう頻度がおばちゃんの話に夫の愚痴が出てくるぐらい高い。

 いつもなら適当に流すか二人を晶也に押し付けるのだが、今回はそういうわけにはいかない。なのでありのまま考えていたことを話す。

 

「そうじゃなくてさ。一緒に練習させてもらってるんだから、もうちょっと歩み寄るべきかなって思ったんだよ。だから何か悪いところとか、あれば良いところとか教えてほしいなって話」

 

「そういうこと......うーん、あ、謎の覆面選手のキャラが濃いすぎる!」

 

「いや、それって俺の問題じゃないし......半分は」

 

「ふっふっふ、お前たちは覆面のキャラの濃ゆさの前に埋もれていく運命にあるのだ!!」

 

「そのキャラってそういう目的だったの!?」

 

「青柳先輩、そんなわけないでしょ......」

 

 このままじゃ私たちの部活が乗っ取られるー!!と二人で騒ぎはじめるみさきと窓果。この二人はかなりノリがいいのか覆面選手と相性が良かったりする。

 ......まぁ、そのせいもあって覆面選手がどんどん変な方向に増長していってしまっているのだが......楽しそうだからいいか、と色んなものを見て見ぬふりする悠。

 このまままたギャグに話を持っていかれるかなーっと悠が微妙に諦めかけていると窓果がごめんごめんと笑いながら言ってきた。

 

「それで、高瀬くんの良いところ悪いところだったっけ? じゃあ、真白っちから」

 

 いきなり私ですか!?と驚きつつも真白はすぐに落ち着いててほとんどノータイムで言ってきた。

 

「手加減を知らない鬼畜指導者、ですかね」

 

「いきなり重いの来たな......俺って結構手加減してると思うんだけど」

 

「どこがですか!? 初心者相手に待ったも聞かずめった打ちにするどこに手加減があるんですか!?」

 

「だってそんなこと言ってたらいつまで経っても試合に慣れないでしょ? 大丈夫、やられ続けたらいつか慣れるよ」

 

「やっぱりこの人ドSだー!! みさき先輩ーー!!」

 

 ドS()から逃げるようにしてみさきに抱きつく真白。ドSと言われても、俺や晶也はこうして葵さんにFCを叩き込まれたのだが......あ、なるほど、葵さんは確かにドSだ、と本人にばれたら即大変なことが勃発するだろうことを考える。

 

 だが今回のこの悠の印象質問の狙いは悠がまだ距離がある真白とも仲良くできるように、というのが主だったりするので、いきなり全否定気味のことを言われるともうお手上げだ。

 悠は小さくため息をつきつつ他の二人にも意見を聞く。

 みさきは小さく唸ると持ち前のさっぱりとした性格そのままに言ってくる。

 

「基本善人だけど試合中は怖い人かな」

 

「あー......それはよく言われますね。青柳先輩は?」

 

「うーん......重要なツッコミ要員?」

 

「............」

 

(どうしてこの部活はこんなに変な人しか集まってこないんだろう? これもきっと晶也さんのせいだきっとそうだ)

 

 さすがにボケられ過ぎて疲れた悠は、たまったストレスを恨みに変えて砂浜の反対側にいる晶也を睨むことで発散することにした。

 ......八つ当たり、という言葉は今だけはどこかに放っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予想通り、その後は明日香と紫苑の模擬試合が行われた。

 試合結果はこれもまた予想通り、紫苑の圧勝ではあったが、後半は明日香も食らいついていた。

 ......と、これだけを言えば明日香も後半頑張ったんだな、という話に聞こえるかもしれないが、話はそう簡単なものではない。

 スピーダー有利の展開で試合が進んだ場合というのは、つまりスピーダーのスピードが乗りに乗った状態が続くということだ。

 マックススピードまで乗ったスピーダーを止めるというのは悠でも骨を折るレベルの難しいことだ。

 それを明日香は、食らいつくことができた。

 その事実に、やはり空寒い、言い様のない妙な感覚を覚える悠だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーしっ、練習も終わったし、何か食べに行こー!!」

 

 練習が終わり、各々が帰る準備を終えた頃にみさきがそう叫んだ。

 その叫び声に晶也たちがまたか、というような反応を示していたが悠にはなんのことか分からない。

 悠の疑問に答えるように明日香が苦笑い気味にみさきに言った。

 

「みさきちゃん、また買い食いしちゃうんですか......? 一昨日も食べたばかりですよ?」

 

「それは違うよ明日香。昨日も食べたから毎日だね!」

 

「予想と違う方向に否定されました!? むぅ......なのにどうしてそんなにスタイルいいんですか、羨ましいです」

 

「えー? でもみさきさ、最近お腹回りがちょっと......」

 

「そんなことない、夢だ幻覚だ幻だー!! 聞こえないー!!」

 

 両耳に手を当てて回りの声と自分の体の変化という現実を全てシャットアウトするみさき、それに対してうりうりとみさきの腹回りを楽しそうに揉み始める窓果。しかもそれに便乗して真白もみさきに絡み始めたのでカオスの出来上がりだ。

 百合、何て言葉があるがそれはきっとこんな風景とはかけ離れた綺麗なものなんだろうなぁ、とどこかずれたことを悠が考えていると、絡みについていけなくなった明日香が悠の傍に寄ってきた。

 

「そうだ、倉科先輩。みんなはいつもどこに食べに行ってるんですか? 良かったら俺、良いところ知ってますよ?」

 

「良いところ、ですか?」

 

「はい、俺の家食べ物屋やってるんですよ。だからよかったら来ないかなって。俺ん家のーー」

 

 そしてみさきに未だ絡んでいる(肉体的に)真白とみさきの会話も聞こえてくる。

 

「みさき先輩は食べても奇跡のプロポーションを保てるから大丈夫ですよ!! それに運動してるからエネルギーも消費してますし!」

 

「そうそれ! 真白良いこと言った!」

 

「ありがとうございます! だから早く行きましょう、私の家のーー」

 

 

 

「蕎麦を食べに!」

「うどんを食べに!」

 

 

 

「「.......................................あ?」」

 

 長い沈黙のあと、声が被った二人の疑問が再び被った。

 ただしその心情は、声色から察するにあまりいいものとは言えない。

 というか、ほとんど最悪の部類だった。

 無言のまま互いが互いの顔を認識する。

 そして......二人とも同時ににこりと微笑んだ。

 

「やだなぁ、高瀬くん。こっちの方では蕎麦なんかよりもうどんの方が主流じゃないですか?」

 

「いやいや、そんなことないよ有坂。最近ではこっちの方にも蕎麦は進出してきてるし、いわゆるニューブランドだよニューブランド」

 

「それでもやっぱり根強い人気があるのはうどんですよ。テレビでもうどんの方が出ること多いですし」

 

「それいつの話? 蕎麦は日本を代表する食べ物だよ。外国人にだって人気がある」

 

「......」

 

「......」

 

 再び訪れる沈黙。無言の空間。さらに笑みを深くする二人。

 二人の間には、外交でいかに自国の要求を相手に飲ませようかとせめぎ合う、見えない戦闘が繰り広げられている気がした。

 そんな二人の空気に耐えきれなくなった何人かは、バレないようこっそりとその場から逃げ出したりもしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ましろうどん』

 真白の家であり、久奈浜学園近くのうどん屋では味がいいということでそこそこ有名な店だ。

 店の内装は和風できっちり揃えていて、昔ながらの『味』のようなものを感じさせる。日本独特の落ち着く感じを全面に出した店だ。

 その店の一角には、仏頂面で腕を組みながら席についている真白と、それを少し引き気味に見ながら同じく座っているみさき。他のメンバーはそれぞれ用事があるからと言って逃げたようだ。

 今回の真白の対戦者である悠もこの場にいないが、それは逃げたわけではなく、自分の家の蕎麦を『ましろうどん』に持ってくるためにひとっ飛びしているからだ。

 

「もう......何も他のお店の子と喧嘩しなくてもいいのに」

 

 仏頂面のまま表情をキープしていた真白にエプロンを着た女性が嗜めるように声をかける。真白の母親である牡丹だ。

 真白と同じく色素の薄い髪を持っているが、身に纏う雰囲気は真白とは逆にとても落ち着いたものだ。

 

「お母さん、大事なことだよ! うちのうどんが負けてもいいの!?」

 

「はぁ、真白、いつからそんなにうちのうどん好きになったのよ......嬉しいけどね」

 

 ふー!と息をはいて敵の訪問を待ち構える真白。

 ......別に、真白は蕎麦が嫌いというわけではない。どちらかと言えば好きな方だ。

 だが真白が嫌だったのは、みさきが自分の家のうどんではなく、悠の家の蕎麦を食べに行くかもしれない、という可能性だ。

 みさきを取られるかもしれないと思ったのだ。

 

(ただでさえ、最近みさき先輩、高瀬くんに興味持ってるしここは負けられない!!)

 

「お邪魔しまーす」

 

 真白が想いを新たにしていると、店内に割子蕎麦をいくつか積んで持ってきた悠が入ってきた。その動作に割子蕎麦を持つ所作に不馴れな点が見当たらないところからも、普段から出前などをしているのかもしれない。

 悠は自分を待っていた真白の顔を見ると試合の時ほどではないにしろ獰猛に笑い、持ってきた割子蕎麦を一人一人に配る。

 最後に真白の前に置くと、それに合わせるようにして、牡丹がそれぞれの前にうどんを配膳した。

 悠が持ってきた蕎麦も、『ましろうどん』のうどんも通常の半分の量にしているので食べられなくて残る、というようなこともない。

 そしてこれも最後に真白の向かいに座った悠の前に置かれると悠と真白は示し合わせたように同時に合掌した。

 

 

 負けるわけがない、と真白は考えていた。

 蕎麦という食べ物そのものを貶すわけではないのだが、それでもここ仇州ではうどんの方がメジャーであるし、なによりも『ましろうどん』は名前もそこそこ通っている名店だ。その実績、そして自分の両親の頑張りを一番近い場所から見てきた真白は、負ける可能性なんて微塵も考慮していなかった。

 自分の家のうどんの勝利を告げる準備をしながら目の前の蕎麦を口に運ぶ。

 

 

 これはキツいかもしれない、と悠は考えていた。

 蕎麦を取りに行く前、悠は『ましろうどん』の店内に入ったが、その時から少しまずいと思っていた。

 部活が終わってこの店に来たのだから時刻は夕飯時よりも少し早い時間、つまりピーク時にはまだ至っていないはずなのだ。

 それなのに、店内にはそこそこの人数客が入っていた。これは『ましろうどん』の商品の味がいいことに他ならない。

 それでも自分の家の蕎麦だって味には確かなものがある。ただただ負けるわけにはいかない。いや、勝つ気で行く。

 自分の家の蕎麦の力を改めて信じながら、目の前のうどんを口に運ぶ。

 

 

 

 

「......旨い!」

「......おいしい!」

 

 

 

 

 その場にいた悠と真白、みさきの声が重なった。

 悠も真白も手を止めることなく食べ進む。

 まず悠が食べている『ましろうどん』の肉うどん。具材として砂糖醤油と酒で炒めた牛肉と刻んだネギ、かまぼこをうどんの上に盛り付けたという簡素なものだが、それ故に味は引き締まっていた。

 肉についた味付けがとびうおから作ったと思われるあごだしに染み出し、さらにネギの辛味もアクセントとして引き出されて味に飽きが来ることはない。

 

 

 そして真白が食べている悠の家の割子蕎麦。これは出雲蕎麦と呼ばれるちょっとしたブランドものだ。

 本来蕎麦の麺はソバの実と呼ばれる木の実の果肉を粉状にし、それを練って麺にしている。だが出雲蕎麦は、木の実の皮も使うことでより深い味わいを作り出しているのだ。皮も使うぶん麺の色は暗い灰色になってしまうのだが、そのぶんわさびなどサイドのものを明るい色に配色することでより食欲をそそるものになっている。

 もちろんつゆにもこだわりがあり、つゆそのものは薄めの味付けであっさりとしていて、そこに好みで先程も言ったわさび等を入れることで好みの味付けに調整しやすくなっているのだ。

 薄めにも濃いめにも味付けできるつゆは、蕎麦を食べる者の手を止めさせることはないだろう。

 

 

「......おいしいですね、このお蕎麦」

 

「この肉うどんも旨い。肉の味付けもめちゃくちゃいいな」

 

「......」

 

「......」

 

 ずるずるとうどんと蕎麦を食べる音、そしてみさきの感激する声が店の一角を包む。

 ずるずるずるずる、うまーい、おいしー!!

 

「......なぁ、真白」

 

「......なんですか?」

 

「......こんな争い、この味の前には無意味だよな」

 

「......そうですね、こんなに美味しいんですから、どっちが美味しいとか、そういう話は無粋ですよね」

 

「......」

 

「......」

 

 ずるずるずるずるずる。

 そしてついに全員が蕎麦とうどんを食べ終わると、悠と真白はなにも言わずに立ち上がり、そのままぐっと互いの手を握った。

 互いを認めあった者たちこそができる、友好の架け橋を意味する握手だ。

 この場に、蕎麦うどん友好条約が締結されたのであった。

 




突然の食テロどーん!
真白がうどん(白)なら悠は蕎麦(灰)かなーっと思った感じです


今回は2話投稿です! 次は三時間後なのでお楽しみに!
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