超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第九十五話 悪意のシェアの女神

「今、何か聞こえた…よね……?」

 

ゆっくりと、私達は振り返る。振り返り、負のシェアの柱へ…マジェコンヌを飲み込んだそれへと向き直る。

依然としてその場に鎮座する負のシェアの柱。だが、何の変哲もないなどあり得ないという事を、冷えつく私の背筋が伝えてきていた。

 

「まだ、マジェコンヌが生きてるって言うの…?」

「そんな馬鹿な…マジェコンヌの気配は無いし、何よりネプテューヌの一撃は確実に致命傷になってた筈よ」

「じゃあ、別の敵がいるとかですか…?」

「マジェコンヌの味方ならもっと早い段階で姿を現わす筈ですし、マジェコンヌとは仲が良くない…或いは漁夫の利を狙う第三勢力ならば、わたくし達が油断していたついさっきに仕掛けてくる筈ですわ」

「なら、一体何なのかしら…」

 

何かがいる事は分かっている。けど、それが何で何処にいるのかが分からない以上打つ手が無いし、それ以前にモヤモヤとして仕方がない。

何かしらの情報を得ようと周囲に目を走らせる私達。そんな中、ブランが声を漏らす。

 

「……ちょっと待て。…おかしくないか…?」

「おかしい?ブラン、おかしいって何が?」

「…イリゼ、道中で柱はマジェコンヌが制御してるって言ったよな?」

「え?…うん、イストワールさんはそう推測してたけど…ブランは柱の何が気になってるの?」

「あの柱だよ。イストワールの話じゃあれを制御してるのはマジェコンヌなんだろ?だったらマジェコンヌが死んだ今、消えるなり崩れるなりする筈じゃねぇか…なのに何で、柱は微塵も影響を受けてねぇんだよ…」

 

そうだ、その通りだった。負のシェアの柱は元からそこにあった訳ではなく、マジェコンヌ自身の集めた負のシェアとギョウカイ墓場の負のシェアを合わせ、それをマジェコンヌが制御する事で成り立っていた存在。ならば今負のシェアの柱は制御を失った状態になっている筈で、何かしらの変化が起きていなければ話が合わない。

 

「…だったら、やっぱりマジェコンヌは……」

 

再度、マジェコンヌの生存を疑うネプテューヌ。だけど、私達は…そして声音から察する限り、ネプテューヌ自身も分かっている。あれだけの怪我で、生きていられる筈がないと。

となれば、可能性は二つ。マジェコンヌは死んだという推測が間違っているか、マジェコンヌが制御していたという推測が間違っているか。

だが、それを考え様とした時…二度目の、鼓動が聞こえた。

 

「やっぱり、あの柱から聞こえてくるです…」

「とにかく、一度あれを調べなきゃいけないわね。どっちにしろほっとく訳にはいかないし、もし何か起きてるなら早めに対処しないと--------」

 

負のシェアの柱へと近付くネプテューヌ。…が、柱の一部が大きく揺らいだ瞬間、彼女は私達の所まで一足飛びで後退し、即座に大太刀を構える。いや…それだけではなかった。ノワール達も、私すらいつの間にか柱に向けて武器を構えていた。

今までにも咄嗟に武器を構えた事、反射的に武器を向けた事はあった。けど、自分でも気付かぬ間に武器を構えていたのは初めてだった。そして、自らが武器を構えている事に気付いた瞬間、それが何故なのかも何となく理解する。

これは、生存本能や度重なる戦闘で得た条件反射によるものではなく、女神としての…善意のシェアの使い手としての反応だという事を。

だとすれば、こんな反応が起きる相手がどんな存在なのかは大方予想が付く。

そして、私達女神全員が自身の反応に気付いた時…負のシェアの柱の揺らぎから、『悪意のシェアの使い手』が--------顕現した。

 

 

 

 

禍々しき、闇色の柱から姿を現したそれは、ゆっくりと翼を広げた。無機的な、それでいてどこか私達の翼と近しいものを感じる、柱にも劣らぬ闇色の翼を。

そして、それは口を開く。

 

「--------素晴らしいな、シェアの力というものは」

 

それの口から発せられたのは、ある種の満足感と充実感を感じさせる様な…そんな声だった。

その声に対し、ネプテューヌが返す。

 

「……生きていたのね、マジェコンヌ」

 

そう、その姿は正しくマジェコンヌだった。しかしつい数分前の彼女とはまるで違う。傷一つ無い身体、汚れ一つ無い服、そして血の気の戻った顔。先程までの様子は見る影も無く、むしろ戦闘開始前よりも輪をかけて万全、と言わんばかりの姿だった。

…否、それだけではない。

 

「…コンパ、アイエフ。今更逃げてとは言わないから、二人が許容出来るギリギリの位置まで後退して」

「え?それって…」

「ここからの戦闘にお二人を守れる様な余裕は無い、という事ですわ」

 

私の額に冷や汗が垂れる。今のマジェコンヌから感じる覇気は、それまでのマジェコンヌよりも、ユニミテスよりも、私達がこれまでに戦ったどの相手よりも激しく、強大なものだった。それこそ、出来るならば即撤退したい程の。

 

「…それが、てめぇの奥の手って訳かよ」

「あぁ、そういう事だ。最も、先程の事態も今のこの姿も、私の予想外のものだがな」

「一応訊くけど、まだ悪事を働こうと思ってる?それとも改心した?馬鹿は死ななきゃ直らないって言うし、さっき一度死んだ様なものでしょ?」

「愚問だな。死んだ程度で私の野望が潰えるものか」

 

焦燥を内に隠し、飄々とマジェコンヌを煽るノワール。対するマジェコンヌも、焦りや憎悪を剥き出しにせず冷静に返す。

 

「なら、もう一度倒すしか無いわね。あの柱の中で一体何があったのかは知らないけど、例え何があろうとわたし達のする事は一つよ」

「ふん、相変わらず無駄に勇猛だな貴様等は。安心するが良い、もう私に貴様等をいたぶるつもりもじわじわと殺すつもりもない。ただ私の中に溢れる力への高揚感と目的を最優先にする思考、そしてここまで私を追い詰めた事への敬意で持って楽に殺してやる」

「殺す前提とは…そっちこそ相変わらずおめでたいわねッ!」

 

地を蹴るネプテューヌ。敵の力が未知数の場合、敵が本領発揮する前に倒すか力を見極めてから倒すかの二択であり、どちらも一長一短ではあるけど…ネプテューヌは前者を選んだらしい。

翼を広げ、勢いのまま一気に距離を詰めるネプテューヌ。だが、ネプテューヌの大太刀がマジェコンヌを捉える前に、マジェコンヌが新たに手にした杖から発せられた電撃がネプテューヌに襲いかかる。

 

「な……ッ!?」

「疾うに分かっているとは思うが、言っておこうか。……私が先程までの私と同じだと思うなよ?」

「あぐっ……!」

 

ネプテューヌに襲いかかったのは、同じ相手が放ったとは思えない程密度も速度も増した雷の束。直撃の寸前でネプテューヌは身体を捻り、辛うじて避けるものの、その間の一瞬で接近したマジェコンヌに蹴り飛ばされて私達の元へと落ちてくる。

……が、それを見て呆然とする程私達も愚かではない。ネプテューヌを受け止める為に残ったブランを除いた、私達三人は即座に散開し、左右と上方から同時に仕掛ける。

 

「確かに前より強い様ですわね…ならば!」

「こっちもそう思って立ち向かうまでよ!」

「ふん…甘いわッ!」

「……っ…!」

 

それぞれ最短距離…ではなく微妙に弧を描く事で判断を遅れさせようとした私達……だったけど、マジェコンヌは最小限の動きだけで私達三人の位置を捉えると、周囲に三つの紋章を展開。そこから大口径のビームを放ってくる。

多少ズラした程度では回避しきれないレベルの攻撃を、三人へ同時に撃ち込んで来るとは思ってなかった私達。攻撃を諦めて回避行動を取るけど…ここまでは想定内。攻撃が成功するに越した事はないけど、失敗なら失敗で想定していた次の攻撃に入れば良いだけの話。

 

「それは…こっちの台詞だよッ!」

「悪いけど、数の差を利用させてもらうわッ!」

 

空中で体勢を立て直し、即座に再度の突撃をかける私達。それと同時に、ブランとブランに受け止めてもらっていたネプテューヌも私達に合わせて突進する。

五方向からの、完全同時攻撃。先の三人同時攻撃と違い、今度は私が死角に入っているから一瞬で位置を確認して迎撃、なんて芸当が出来る訳がない。だから少なくとも一撃は与えられる筈。そう、私達は思っていた。……突撃をかけ始めた瞬間までは。

 

「--------数の差?それこそ、こっちの台詞だな」

『……ーーッ!?』

 

攻撃が当たる直前、マジェコンヌの周囲に複数の光芒が降り注ぐ。それに目を剥いたのは私達。光芒はマジェコンヌの周囲に降り注いだもののマジェコンヌには一条たりとも当たる事なく、むしろ私達の攻撃からマジェコンヌを守る為に撃ち込まれたかの様な軌道だった。

それぞれが大きく旋回する事で光芒に激突するのを避ける私達。マジェコンヌには伏兵がいたのかと思って走らせた視線の先には……刃を彷彿とさせる、鋭い羽根の束。

 

「まさか、これって……」

『オールレンジ兵装…!?』

 

再び目を剥く私達。ちらりとマジェコンヌの方へ視線を移すと、確かにそれまで翼にあった筈の羽根の約八割が消えており、あれがマジェコンヌの射出したものであるという裏付けとなった。

 

「悪いが…これの操作は些か難しいんだ。一撃であの世に送れない可能性もある故、予め謝っておこう」

「謝る位なら…初めから使うんじゃないわよ…ッ!」

「くっ…ストフリか救世魔王(サタン)を相手にしてる気分ですわ…ッ!」

 

マジェコンヌが口元を歪ませると同時に、それまで空中で停止していた羽根が鋭い軌道を描きながら私達の周囲に再展開し、次々とビームを放ってくる。それを見て、歯噛みしながら回避に専念する私達。

羽根の総数は十を超えているとはいえ、それが同じ数のモンスターなら面倒、だとか油断ならない、程度にしかならない。それぞれが独立した意思を持っているなら完璧な連携は難しいし、それぞれが別の個体の意思を完全には読みきれない以上、フレンドリーファイアを防ぐ為にどれか一体に近付けば攻撃は緩くなる。

けど、それが全て遠隔操作端末だった場合は違う。射出した全ての端末を使いこなす技量が使用者にあるならば完璧な連携も取れるし、使用者がミスしない限りは端末同士による事故も起きる筈もなく、もっと言ってしまえば数機を犠牲にして敵を討つ、と言った様な個々が独立した生物ならばそうそう取れない手段も容易に打ててしまう。だから遠隔操作端末は厄介極まりないし、雰囲気にそぐわないベールのボケにも誰も突っ込まなかった。…というか、ほんとにスーパーコーディネーターや反転精霊を相手にしている気分だった。

 

「これじゃ、攻撃もままならない…!このッ!」

 

次々と迫るビームを紙一重で回避し、反撃とばかりにその瞬間、視界に捉えている羽根全てへ精製したナイフを射出する。…が、私はガンナーでない上に標的は小さく、更にバレル無しの射撃故に一本もナイフは当たる事なく、攻撃に使ったシェア全てが無駄になってしまう。

そんな中、ベールとブランが動いた。

 

「ちっ…ベール!一瞬で良い、わたし達とマジェコンヌの間に空白を作ってくれ!」

「……っ!無理は禁物ですわよ!」

 

正面から襲いくるビームを槍で斬り払い、自身の前から放つ形で『シレットスピアー』を使うベール。シェアによって編まれた槍は一直線に伸び、射線上のビームを穿ちながらマジェコンヌへと迫る。そして次の瞬間、マジェコンヌが巨大な槍を打ち払おうとした瞬間にその槍は消滅する。

せっかく発動したのに直撃寸前で消えてしまった槍に対し、マジェコンヌはおろか、私達ですら疑問を覚える。だが、ベール自身と、ベールに提案を持ちかけたブランは違う。彼女は捻り込む様な動きでビームを掻い潜るとベールの前へ滑り込み、そのまま前へ…『シレットスピアー』によってビームが一掃された道を駆ける。

それに気付いたマジェコンヌは羽根を再展開して迎撃しようとするも、もう遅い。放たれたビームはブランが一瞬前にいた位置を貫くに留まり、ギリギリ間に合った一条もブランはプロセッサユニットの籠手部分で弾いてマジェコンヌへ肉薄する。

 

「こうやって近付けば…てめぇもそう簡単に撃てねぇだろッ!」

「乱暴な口調の癖して頭を使うじゃないか…だが、私が接近戦能力を犠牲にしているとでも思ったか?」

「……!?…そう、思ってたよ…クソがッ!」

 

振り出された戦斧の一撃を、杖の先から発振した刃で受け止めるマジェコンヌ。誤射をしても端末が一機減るだけの端末同士とは違う、誤射が即敗北に繋がりかねない状況に持ち込んだブラン。けど、マジェコンヌの言う通りブランも私も一つ勘違いをしていた。マジェコンヌは接近戦能力が低下しているだろう、と。それは武器が槍から杖に変わっており、遠隔攻撃がかなり強力になったのだから、きっとそうなのだろうという短絡的な思考からくる勘違いで、マジェコンヌによってブランが弾かれる前に、それに気付くべきだったと私達は後悔した。

再び私達を襲うビームの乱舞。しかも一度突破された事で警戒心を強めたのかマジェコンヌ自身も電撃や光弾を放ち始め、何とか凌いでいた状況が更に悪化する。

少しずつ、少しずつ追い詰められていく私達。側面から迫り来る光弾を回避は難しいと瞬時に判断し、長剣で斬り払うも、その瞬間死角から放たれた二条のビームが私の左肩口と右脚のふくらはぎを掠める。それ自体は不幸中の幸いというべきか、皮膚と表面近くの肉が焼かれるだけで済んだけど…痛みに一瞬動きが鈍った事は最悪の二次被害だった。

やられる、そう思って目を瞑りそうになった私。しかし追撃が来る事はなく、私達の周囲を疾駆していた羽根は翼へと戻っていく。

 

「…どういう、事……?」

「多分、充電切れよ。あの羽根が、私達の想像する遠隔操作端末なら、だけど」

「ふっ、その通りだノワール。負のシェアの女神と言えど、全てが思い通りになる訳ではないからな」

「……待ちなさい、今…なんて言ったの…?」

「うん?…あぁ、そうか。説明をしていなかったなぁ…」

 

見回せば、皆私と同じ様に体の何ヶ所かに攻撃を受け、プロセッサを血で濡らしている。それも勿論心配ではあるけど…それよりも、今マジェコンヌの言った言葉が私達に衝撃を与えていた。今、マジェコンヌは『負のシェアの女神』…そう言わなかった……?

 

「ハッタリ…では、無さそうですわね…」

「何、簡単な話だ。シェアエナジーを力に変える存在を女神と言うならば、今の私も女神に違いないだろう?」

「……じゃあ、貴女は負のシェアの柱の中で負のシェアを使いこなす力を得たって事?」

「そういう事だ。ネプテューヌが善意のシェアの奇跡によって女神に生まれ変わったのと同様に、私も悪意のシェアの奇跡によって女神の力を…コピーによる、『力』の部分だけではない、正真正銘の女神となったのだ。……そうだ、納得し易くなる様に見せてやろうじゃないか」

 

そう言ってマジェコンヌは手を掲げる。すると、マジェコンヌが現れた時よりも大きな揺らぎが柱に発生し……次の瞬間、柱から発せられる負のシェアエナジーの量が突如増大する。

 

「ーー!?こ、これって…こんぱ!あいちゃん!大丈夫!?」

「だ、大丈夫…です…」

「今はまだ、大丈夫よ…」

「おいおいネプテューヌよ、心配するのは二人だけで良いのか?」

「…え?貴女、何を言って……まさか!?」

「そうさ、負のシェアの放出量が増えたのはここだけではない。これから下界では爆発的に汚染モンスターの数が増え、段々と人々にも影響が出てくるだろう」

 

もう何度目か分からない驚きに包まれる私達。それと同時に、私達の胸中に大きな不安が押し寄せてくる。イストワールさんは現段階では大丈夫と言っていたけど、裏を返せばそれは状況が悪化したら不味いという事。そして今、マジェコンヌはその状況を一気に悪くさせる手を投じてきたのだった。

 

「さぁ焦るが良い女神共。焦って判断力が鈍れば万々歳だ」

「……っ!誰が、誰が貴女の口車になんか…!」

「ほぅ?ならばもう一つ手を打つとしよう」

 

再び手を振るうマジェコンヌ。今度は負のシェアの柱の一角から小さな球体が分離し、その場に浮遊をしながら少しずつ大きくなっていく。

 

「…焦らせる事が目的なら、それが何なのか説明してくれるんでしょうね?」

「勿論だ。これは攻撃さ、ここから下界に大きなクレーターを一つ作る為のね」

「はぁ?そんな小さな球一つでクレーター?そもそもここと下界は直接繋がってなんか…」

「シェアは超える事が出来る、そうだろう?」

 

笑みを浮かべながらノワールの言葉を遮るマジェコンヌ。その一言で、私達は理解した。そして、理解した次の瞬間には動き出していた。

 

「そんな事…させるかよッ!」

「天界と下界の境界を無理やり超えるだけのシェアを瞬時には溜められない筈、ならばその間に倒すだけですわッ!」

 

弾丸の様にマジェコンヌへと突進する私。羽根はまだ再射出出来ないのか、今まで然程動かなかったマジェコンヌも動き出す。

やはり、というべきか、マジェコンヌは本人の速度もそれまでより増していた。接近戦能力の件を踏まえてそれを予想していた私達は呆気に取られる事こそなかったものの、それでも速いものは速い。全く追随出来ないというレベルではないのが幸いで、何とかマジェコンヌの遠隔攻撃を避けながら接近する事は出来るものの…一人二人が攻撃した程度では、マジェコンヌは打ち倒せない。何人かが火力支援をする、動きを予測して先回りをする、わざと下手を打ってマジェコンヌを誘き寄せるなどと色々な手を取ってみるも全てマジェコンヌには通用せず、ただ時間だけが過ぎていく。そして時間が過ぎるという事は即ち、負のシェアの散布と球体のチャージが進んでしまうという事だった。

次第に焦り始める私達。マジェコンヌの口車に乗るつもりはないし、焦っている自覚もある。けれど、攻撃を当てる事も叶わず、劣勢になっていく一方で、しかも時間を追うごとに下界の危機は大きくなるという実情はあまりにも私達には重く、とても冷静にはなれなかった。

 

「はぁ…はぁ…早く、何とかしなきゃいけないのに…!」

「…ネプテューヌ、それに皆もちょっと聞いて」

 

側にいたネプテューヌを出来る限り落ち着かせつつ、皆に声をかける私達。わざわざ自らが攻める事をしなくても、一秒ごとに私達が劣勢になっていく事が分かっているマジェコンヌは私達が攻撃の手を緩めたのを見てその場に止まる。…その油断が、命取りになるとも知らずに。

 

「…良い作戦でも思い付いたんですの?」

「そうじゃなきゃ、皆を呼んだりしないよ。皆、今一番何とかしなきゃ不味いのはどれだと思う?」

「どれって…そりゃあの球体でしょうね。まぁマジェコンヌを倒せるのが一番ではあるけど」

「だよね?ならさ…別にマジェコンヌを狙う必要はないよね?」

 

私は最後まで言った訳ではない。けど、これだけで私の意図を理解した皆は即座に飛び、別々の方向からマジェコンヌへと迫る。そしてそれに少し遅れる形で向かう私。

マジェコンヌは光弾で私達を散らし、電撃で進路を塞ぎ、衝撃波で追い払う。仮に全てを突破し、マジェコンヌの動きに追い付いたとしてもマジェコンヌに軽くあしらわれてしまう。それは今回も同じで、タイミングを見計らった事で迎撃を上手くすり抜けた私も最終的には弾き飛ばされてしまう。

くるくると回りながら飛んでいく私。けど、これで良い。これで何の問題もない。だって……私が飛ばされた先にあるのは、例の球体なのだから。

翼を広げて姿勢制御を行う私。目の前には、いつの間にか私の数倍の大きさとなった球体。圧縮したシェアを溜めているのか、近寄るだけで球体が圧倒的なエネルギーを有しているのが分かる。これを一撃で斬り裂くのは難しいかもしれない。けど、チャージ中のエネルギーは不安定なものであり、少しダメージを与えるだけでも十分な効果があると私は踏んでいた。

大きく長剣を振り上げる私。

 

「私が作戦を伝えるだけの時間を与えたのが仇となったね、マジェコンヌ!」

「しまっ……!?」

 

動揺したかの様な声を上げるマジェコンヌ。けど、気付いた時にはもう遅い。私の振り下ろした長剣は、マジェコンヌが私へ攻撃をするよりも先に球体を捉え--------

 

 

「……とでも言うと思ったか?」

 

ビームが、私の目の前を駆け抜けた。

 

「なっ…え……?」

「悪くはない作戦だった。惜しむべきは…充電スピードを見誤った事だな」

 

後ろから聞こえてくるマジェコンヌの声。そして私の視界の端に漂うのは、今し方私へビームを放った羽根。

読まれていた。読みが甘かった。--------失敗した。その事実に私は呆然としてしまいそうになり…頭を振って武器を構え直す。

そう、確かに失敗はしてしまった。だが、まだ撃たれた訳ではない。こんなチャンスがもう一度あるかは怪しいけれど、時間が残る限りは全力で止める為に奮闘を……

 

 

そう思った瞬間、私の身体は衝撃波で吹き飛ばされた。地面に叩きつけられ、思わず目を瞑ってしまう。そして次に私が目を開けた時、私の目に映っていたのは……あの大きさから更に、何倍にも膨れ上がった負のシェアの球体だった。

同時に、私は気付いてしまう。それが、境界を超えて下界へダメージを与える程のエネルギーに達した事の合図だと。

 

「…これ一つで人類を滅亡させる事など到底不可能だが…それでも、数千数万の人を死滅させ、数十万数百万の人を恐怖させるには十分だろう。--------吹き飛べ、愚かな人類よ」

 

そして、収束した負のシェアの光芒は放たれる。マジェコンヌの声を合図に、目を灼く程の光芒が、下界へと向かって放たれる。それを私達は…ただ、見ている事しか出来なかった……。




今回のパロディ解説

・ストフリ、スーパーコーディネーター
機動戦士ガンダムSEED destinyに登場する主人公機の一つ及び用語。女神VSストフリ…結構ガンダムシリーズとのクロスオーバー多いですし探せば普通にありそうですね。

救世魔王(サタン)、反転精霊
デート・ア・ライブに登場する天使及び用語の事。ネプテューヌシリーズとデートとはイラストレーターを始め繋がりが割とあるので、女神VS精霊も探せばありそうですね。

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