超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第九十八話 絶対に帰ってくるから

ゆっくりと、宙へと溶けて消えてゆく光が二つ。

一つは、悪意のシェアの光。善意を信じ、善意の為に戦い抜いた果てに全てを失い、闇へと身を落とした者の光。彼女のその力は、光と共に消えてゆく。

一つは、善意のシェアの光。人々を信じ、人々の未来を夢見た女性が作り出した、何も持たない少女が唯一有していた力の光。優しき世界によって様々なものを手に入れた彼女のその力も、もうすぐ消えようとしていた。

 

 

 

 

全てを終えたと思った時、勝利の高揚感や世界を救えたという安心感よりも、ただただ安息感の方が強かった。いつの間にか女神化は解けていたけど…体感として、まだ女神化出来ない段階にまで至った訳でもない気がする。身体はボロボロ、下界も無被害では済んでいないだろうけど、それでも十分大団円……

 

「良い一撃だったわ、イリゼ!」

「ラストアタックを譲ってやった甲斐があったぜ!」

「何やらボーナスドロップがありそうな位迷いの無い一刀でしたわね」

「私達現代守護女神以外がトドメ、って言うのはちょっとアレだけど…まぁ良いわ。…あ、貴女も女神ではあるし」

「や、ちょっ…リンチだから!女神化してない相手に女神化状態の四人で肩やら背中やら叩くのは最早リンチだからぁ!」

 

何時ぞやのエキシビションマッチの様な…ダメージ的にはそれ以上の激しい歓迎をされてしまった。しかも全員血だらけ怪我だらけなので…これがまたエグい。ゾンビ映画のワンシーンみたい並みにエグかった。

 

「お疲れ様、皆」

「これまでで一番格好良かったですっ!」

「こんぱ、あいちゃん…勝てたのはわたし達だけの力じゃない。二人が居てくれたおかげよ」

「そうね。二人が居なかった場合、下界に甚大な被害が出ていたのは確実だもの」

「二人…というか、ほんとに全員居たからの勝利だよ。…という訳で守護女神四人は並ぼうか、叩いてあげるから」

「…イリゼ、ここに来てS要素を見せた所で、あからさまなテコ入れにしか見えませんわよ?」

「違うよ!調子乗ってリンチ紛いの事してきた人達への正当な反撃だよ!」

「いやその場でやんなきゃ反撃ではねぇだろ…」

 

途中からいつも通りの…くだらなさとしょうもなさに定評のある談笑を始める私達。裏天界(マジェコンヌが倒れた訳だしあの幻影は消えているのかも)に充満する負のシェアも、ほんの僅かずつだけど薄くなっていく様な気配がある。それでやっと緊張の糸が切れた私達は肩の力が抜けた様に雑談を楽しみ、数分後貧血やら何やらでふらっとし始め、それを見て慌てたコンパと苦笑をするアイエフが応急手当ての準備を……

 

 

「……ぐ、ふっ…まさか…あの私すらを、倒してしまう…とは、な…」

 

その声に、倒れた筈の彼女の声に、終わった筈の戦いに--------戦慄した。

 

 

 

 

「そんな…まだ、生きてるって言うの……!?」

 

悲鳴じみたネプテューヌの声。けど、それも無理のない話。私達は全力で、それこそ倒すと同時にこっちも倒れちゃっても構わない位の気持ちで戦い、やっとの事でマジェコンヌを倒した。この状態でもモンスター一体二体位なら何とかなるけれど…もし、まだマジェコンヌが戦えるとしたら、それはもう絶望的でしかない。

それでも武器を持つ私達。だが、皆に先程までの覇気は無く、私含め気力で何とか持ち堪えてるといった状態だった。

だからこそ、マジェコンヌの次の言葉は私達にとって最も意外だった。

 

「…ありがとう、私を倒してくれて…私を、止めてくれて……」

 

今までにもマジェコンヌが私達に礼を告げてきた事はあった。けど、それはいつも私達を嘲笑うかの様な言葉で、私達としても「あそう、そりゃ良かったですね」みたいな思いしか抱かなかった。

それに対して、今のマジェコンヌの言葉はどうだろうか。勿論声はマジェコンヌのもので、倒れたマジェコンヌの口から発せられたものだった。でも、マジェコンヌであってマジェコンヌでない様な、そんな不思議な声だった。

 

「それは、その…ど、どう致しましてで良いのかしら、あいちゃん…」

「わ、私に訊かないでよ。流石の私も本気で殺そうとした相手にお礼を言われる機会なんてないわよ…まさかイリゼ、貴女クランク二尉倒したんじゃないでしょうね…?」

「そ、そんなトンデモ展開になった覚えは無いよ…」

「ふ……戸惑わせてしまったな…イストワールから聞いてはいないか?…私が、元からあの様な存在だった訳ではない、という事を…」

「…え…じゃあ、てめぇはまさか……」

 

マジェコンヌのその言葉に、私達全員が息を飲む。マジェコンヌの悪業の原因であり、そして守護女神戦争(ハード戦争)の発端でもあった犯罪神。その犯罪神の再封印に一躍買った存在がいた。それこそ、

 

「…そう、私は『本来の』マジェコンヌだ…」

 

マジェコンヌ、その人だった。

考えてみれば、納得出来ない事もない。単に覆われたというだけでなく、汚染され歪んでしまったとはいえ、マジェコンヌの性格は負のシェアという外的要因で変わってしまったもの。ならば瀕死の状態となり、負のシェアも身体から抜けきってしまえば元の性格が蘇る事が無いとは思えない。……勿論、それでも私達は驚いていたけれど。

 

「……では、もう敵意は無いという事でして?」

「そういう事になる…というか、今の私はスライヌ一体倒せるかどうかも怪しい状態だ…仮に敵意があっても、勝ち目は万に一つもない、な……」

「なら、一先ずは安心ね。とんだぬか喜びしちゃったかと思ったわ」

「…いいや、まだ安心とは言えんさ…」

 

今度は眉をひそめる私達。マジェコンヌは力を失い、正気にも戻ったのだからもう敵も危機も去った筈。一体まだ何があるのだろうか。

 

「…わたし達の怪我だと、下界に戻るまでに出くわすモンスターも脅威になり兼ねない、って事か?」

「そうではない…うぐっ……」

「わわっ!?そ、そんな大怪我で立とうとしちゃ駄目ですよ!?」

 

ゆっくりと立ち上がるマジェコンヌ。その様子を見たコンパは心配して彼女に制止をかける。…が、マジェコンヌはそれを手で制して負のシェアの柱へと近付く。

 

「私もあまり余裕がないからな、単刀直入に言おう…。……これは、私が倒れたとて消えたりはしない」

『な……ッ!?』

「厳密に言えば、すぐに消える訳ではない…という事だ…。私の制御を失ったこれはゆっくりと自壊するが…それまでに、膨大な量の負のシェアがここにも下界にも散布されるだろう…」

 

ノワールはついさっき、とんだぬか喜びしたかと思ったと言った。その時私は心の中で同意したけど…ここにきてまさか本当にぬか喜びになるとは夢にも思っていなかった。

地味に苦労して裏天界を見つけ、やっとの事でマジェコンヌを倒したのに、まだ世界の危機は去っていない?

 

「……そんな馬鹿な話が、あるって言うの…!?」

「残念だが…それが事実だ…。むしろ、制御を失っただけで即座に消滅した方が不自然とも言えるな…」

「だったら、どうしろってのよ!?教えるだけ教えて、対処法はありませんなんて言わせないわよ!」

「勿論だ、対処法はある…」

 

負のシェアの柱のすぐ側まで来た所で、マジェコンヌは足を止める。

 

「な、なら良かったわ。それで、その方法ってのは何?わたし達に出来る事なら何でもするわ」

「いや、その必要はない…。つまる所、制御を失ったのが原因なのだから、もう一度制御し直せばいい訳だ…」

「制御…ですが、制御していたのは貴女でしょう?ならば、再度の制御など……」

「…そう、私がもう一度制御すれば…それで良い」

 

そう言ってマジェコンヌは、負のシェアの柱に触れる。その瞬間、この場での一度目の戦闘後同様に波動が柱から発せられるも、既に痛覚が麻痺してしまっているのかマジェコンヌはその時の様な大きな苦悶の声はあげない。

それでも、私達は不安になる。負のシェアの柱の再度の制御なんて…いや、それ以前にあの柱に触れた時点で、無事で済むとは思えない。

 

「それをして、あんたは大丈夫なの?また負のシェアに飲み込まれて敵に、なんて冗談じゃないわよ?」

「大丈夫さ、もう私は敵とはならん…このまま、柱と共に消えるだけさ…」

「消える…って、まさか死ぬつもり!?」

「それ以外に何があると言うのだ。…負のシェアに飲み込まれていたとは言え、私がした事は許される事ではない…ならば、この位当然の報いさ…」

 

マジェコンヌのその言葉に、あまりにも淡々とした…まるで、事実を述べているだけの様な平坦な声音に、私達は一瞬言葉を失う。言葉の是非だとかではなく、自分の事…しかも命がかかっていると言うのに、他人事の様に語るマジェコンヌの心境こそが、私達にとって想像を絶するものだった。

 

「……っ…お前はそれで良いのかよ…?」

「良いからこう言っているのだ。…それに、他の方法を探している間にも負のシェアの散布は増える。…身を賭してまで守った世界が闇に染まるなど、私も嫌だからな…」

「そういう事ではありませんわ。世界が、ではなく貴女自身がそれで良いのかと聞いているんですわ」

「私自身、か……」

 

マジェコンヌの方から、息を吐き出す様な音が聞こえる。そして、彼女は少しだけ悲しげな声で言う。

 

「…私が闇に堕ちてから、随分と時が経った。一体何人の友が今も生き、今も私を友と呼んでくれるのだろうな。闇に堕ち、全てを捨てた私が生き残ったとして…何が、私の元に残っていてくれるのだろうな…」

 

私達は、何も言えなかった。言葉なら思い浮かぶ。きっとそういう人もいる、何も残ってないとは限らない…そんな言葉なら、幾らでも思い付く。

けど、違う。ただ言葉を並べた所で思いが通じる訳がない。それに、何よりも私にとって、今のマジェコンヌの有り様は……

 

「…最後に会えたのが、君達で良かった。一度は世界を守る側だった身として、未来を託すのが君達ならば安心出来る。本当に済まなかったな。……だから、私は…過去の記憶を抱いて、眠るとするよ…」

「……っ!マジェコンヌっ!」

 

バスタードソードを投げ捨て、私は走る。でも、私がマジェコンヌに触れるより前に、彼女は…きっと、悲哀に満ちた顔をしているであろうマジェコンヌは負のシェアの柱へと沈み--------消えた。

 

 

 

 

私達は、静まり返っていた。マジェコンヌの言う通り、彼女が負のシェアの柱へ入った瞬間から、ゆっくりとだけど目に見えて柱の様子が変わっていった。……マジェコンヌの、犠牲によって。

 

「…どうするですか…?」

「どう、って…悔しいけど、マジェコンヌの判断は妥当よ。考えるにしたってその間にも負のシェアは散布されるし、そもそもこんな馬鹿みたいなサイズのシェアの塊の制御方法なんて、他にあるかどうかも怪しいもの」

「だな。それが正気に戻ったマジェコンヌの犠牲によるものっつーのは喜べねぇが…あいつに何も声をかけてやれなかったわたし達がどうこう出来る事でも無いのかも、な…」

「…後味の悪い終わり方になりますわね」

 

ぽつりぽつりとコンパに言葉を返すノワール達。何となくだけど、三人の言葉の裏には女神としての不甲斐なさが隠れている様に思えた。

別に、三人が冷たいとは思わない。だけど、私は……だからこそ、国を持たない私は、言う。

 

「…私は、認めないよ」

 

女神化する私。女神化した瞬間、身体に鉛でも括り付けられたかの様な重さがあったけど…良かった、まだ女神化は出来る。

そのまま数歩前に出て、柱に手を当てる私。手が触れた瞬間、まるで拒絶されたかの様に手は弾かれる。

 

「い、イリゼ?諦めないって…どうするつもりよ?」

「どうもこうも、後を追うだけだよ」

「後って…その柱に突っ込むつもり!?そりゃ、貴女達女神なら私達よりは身体が強いけど…それでも無茶よ!」

「そんな事は無いよ。今ので分かったけど、善意のシェアと悪意のシェアは対極の存在なだけあって反発し合うんだよ。だから、入り込むのは難しいけど…逆に言えば、反発する力にさえ耐えられれば……!」

 

柱を見据えた私は、長剣を振り上げて一撃。それにより柱に生まれた切り口へと両手を突っ込み、引き戸を開く様に両側へと切り口を広げる。突っ込んだ腕には四方八方から…しかし割と予想通りの衝撃が走るも、ものの十数秒で人一人が入り込めそうな『入り口』が完成する。

 

「反発するからそう簡単には負のシェアには飲まれないと?確かにその理屈は分かりますわ…でも、わたくし達がそれを黙って見てるとでも思って?」

「見れば分かるだろ、柱は少しずつだが消滅…ギョウカイ墓場に戻るだけかもしれねぇが…してるんだ。それまでに出られなきゃ、お前もどうなるかは分からないんだぞ?」

「そうよイリゼ。私達は最初からマジェコンヌを殺すつもりでいた、そうでしょう?…酷い話だってのは分かってるわ、でも…自分の守るもの、大事にしなきゃいけない事を見極められなきゃ、今回は何とかなってもいつかは何かを失う事になるわよ。……危うくラステイションを失いかけた私の様にね」

 

皆が口々に私を止めてくる。皆の言う事は最もで、特にノワールの言葉には重みがあった。いつも思うけど、自分を心配してくれている人の言葉は凄く優しく、その言葉に甘えてしまいたくなる。……でも、私は止める訳にはいかない。だって、マジェコンヌは…あの人は……

 

「…私と同じだから」

「……同じ…?」

「うん。全てを失ったマジェコンヌと、最初から何もなかった私。失ったからこそ過去を求めるマジェコンヌと、何も無かったからこそ過去を求めた私。色々違う所はあるけどさ、過去が思いの多くを占めているって意味じゃ今のマジェコンヌも少し前の私も同じだもん。…だから、私はマジェコンヌを助けるよ。私は誰よりもマジェコンヌの気持ちの分かる人を、よく知ってるから」

 

そう言いながら私は、自分でも少し悪い事をしたなと思う。私にとっての過去の様に、人には触れて欲しくない事、他人がどうこう出来る訳じゃない事があって、相手の事を思っている人程それは声をかけられなくなる。

だから、私は自分自身の過去を出汁にして、私を思ってくれてる皆の気持ちを利用して、皆を黙らせた。…きっと、帰ってきたら怒られちゃうよね。

 

「…ごめんね、皆。でも、私は私自身の犠牲も認めないって気持ちは変わらない。だから、絶対帰ってくる」

 

そして、私はマジェコンヌの後を追う様に負のシェアの柱へと身を投じた。

 

 

 

 

イリゼが自分とマジェコンヌとを重ね合わせた時、わたしは無理にでも止めるべきだったと自分を責めた。あの時のわたしは、場違いにも少し嬉しさを感じていた。だって、魔窟の奥で見た、あの時イリゼと今のイリゼとは違うって、今を…わたし達との今を大切にしてくれているって分かったから。

だけど、そのせいでイリゼを行かせてしまった。一人で行かせてしまった。…ならば、わたしがすべきなのはただ一つ。

 

「……皆、皆は先に戻ってて。わたしはイリゼを助けに----」

「そう言うと思ったわよ。…行かせる訳ないでしょ」

 

柱へと走ろうとしたわたしの腕を掴むノワール。それは、一度冷静にさせようなんていう生易しいものではなく、絶対に行かせないという、強く厳しいものだった。

 

「…大丈夫よ、わたしは主人公。女神を守る女神のネプテューヌ……」

「そういうのはいいのよ。私は、貴女を行かせたりはしないわ」

「……っ…そりゃ、マジェコンヌの時はわたしだって迷ったわ。でも、イリゼまで行ったとなれば話は別よ、そうでしょう?」

「そうね、全然違うわ。…それでも、私は貴女を行かせたりしない」

 

いつになく強情な様子を見せるノワール。今までにもノワールと意見が食い違う事はよくあったけど、今回は何か違う気がする。皆もわたしと同じ違和感を抱いたのか、怪訝な様子でノワールを見つめる。

 

「…ノワール、貴女自分の言ってる事が分かってるの?」

「分かってるわよ。ネプテューヌこそ、自分がやろうとしてる事の無謀さを、分かってる訳?」

「分かってる…ううん、分かってるからこそ、わたしは行かなきゃいけないわ。イリゼ一人に無理させる訳にはいかないもの」

「…貴女、好きじゃない。『信じる』って。…私達と待つって発想は無いの?信じて待つって手もあるのが分からない?」

「……っ…!?」

 

ノワールのその言葉を聞いた瞬間、わたしはノワールの手を無理矢理振り解いた。

今、ノワールはなんと言った?信じるのが好きなら、信じて待て?……違う。それは…違う!

 

「ふざけないでよノワール…信じるって言葉を保身の為の道具にするんじゃないわよ!信じて待つって手もあるのは分かるわ、でも保身の為に待つ気は無いし、そんな事に信じるって言葉を使う気もさらさらないわ!……ノワールはそんな事言う人じゃないと思ったのに…失望したわ」

「……っ…」

「…貴女がイリゼをどう思ってるかは知らないし、どう思うかはノワールの勝手よ。…でも、それをわたしに押し付けないで。わたしにとってイリゼは大事な、大切な友達なんだから」

 

吐き捨てる様に言って、ノワールに背を向けるわたし。正直自分でも少し感情的になり過ぎだとは思ったけど、イリゼの事を思うと冷静ではいられなかった。…もし、ここでわたしが少しでも冷静さを取り戻していたら、この時点でノワールの気持ちを汲めたのかもしれないのに。

 

「…誰に止められようと、わたしは行くわ。皆、待つ辛さってのもあるとは分かってるけど…それでも、待ってて頂戴」

「……そんなに、イリゼが大事なの…?」

 

そう言って、イリゼと同じ方法で負のシェアの柱へ突入しようとするわたし。

そんな時だった。ノワールの声音が違う事が…さっきまでの、冷静さを失っていたわたしには気持ちの分からなかった声とは違う、何かとても大切な思いが込められている様な声が聞こえてきた。

 

「…ノワール……?」

「そんなに、そんなにイリゼが大切?私よりも大切だって言うの?」

「な、何を言って……ーーっ!?」

「私がイリゼをどう思っているか?…私だって大切な友達だと思ってるわよ。でも…それ以上に貴女を、それ以上に特別な思いを、ネプテューヌに抱いてるのよ!だからすぐ無茶しようとする、向こう見ずな貴女が心配で心配でしょうがなくて、このまま行かせた結果として貴女を失ってしまうのが怖くて、だから止めてるのよ!友達が大切だとか、主人公だとか言うなら…私の気持ち位分かりなさいよ、馬鹿ぁっ!」

 

ノワールらしからぬ声音と言葉に不審感を持ったわたしは振り向いて…唖然とする。だって、ノワールは泣いていたから。あの強くて気丈なノワールが、瞳に大粒の涙を溜めていたから。

 

「の、ノワール…貴女、それって……」

「ねぇネプテューヌ、貴女にとって私は何?私は貴女の友達じゃないの?」

「そ、そんな訳ないじゃない!ノワールだってわたしの大切な友達よ!」

「なら残ってよ!私の事大切な友達だと思ってくれてるなら…残ってよ……」

 

涙で顔をぐしゃぐしゃにしたノワールはわたしの胸元に顔を埋めてくる。わたしはそれにすぐ声を返す事も、慌てる事も…ましてや弄ったりからかったり出来よう筈もなく、暫し呆然としてしまう。そしてその後、激しい後悔に襲われる。

嗚呼、なんてわたしは馬鹿なのか。わたしは周りの人の気持ちを考えずに動いてしまう事があるって、ユニミテス戦の時に思ったのに。あれから、きちんと反省した筈なのに。なのに、わたしはノワールを泣かせてしまった。こんなにもわたしの事を思ってくれていたノワールの気持ちに気付かず、涙を流させてしまった。

--------なら、わたしはきちんとノワールに言葉を返さなければいけない。拙くても、ちゃんとわたしの気持ちを伝えなきゃいけない。そうでなければ、わたしはただのクズ女神でしかなくなる。

 

「……ごめんなさい、ノワール。貴女の気持ちに気付かなくて…貴女の気持ちを、分かってあげられなくて」

「…………」

「貴女の気持ちは、本当に嬉しいわ。だってわたしはノワールが大好きだもの。…でも、やっぱりノワールの言う事は……聞けないわ」

 

ノワールの返答はない。ただ、嗚咽と鼻をすする音が聞こえてくるだけ。…それがわたしの言葉をちゃんと聞いてくれてるからだと信じて、わたしは続ける。

 

「言ったでしょ?わたしは皆で最高のハッピーエンドを見るって。ノワールも、イリゼも…誰か一人でも欠けたら、それは出来なくなっちゃうもの。だからわたしは皆で見る為に、全てを尽くす。…それだけは、譲れないわ」

「……やっぱり…そう言うのね…」

「えぇ。…それに、わたしはここでイリゼを助けに行かなかったら、もう貴女の隣には立てない。大切な仲間を、友達を助けに行かないわたしなんか、ノワールの隣に立つ資格なんか無いわ。…貴女の隣にこれからも立つ為にも、わたしを行かせて、ノワール」

 

そう言ってから、ノワールを強く抱き締めるわたし。そしてわたしがノワールの背から手を離した時、ノワールもわたしから離れてくれた。その時のノワールの顔は、まだ真っ赤で、涙と鼻水に濡れていたけど、手の甲で目元を拭った次の瞬間には…いつも通りの、凛々しく格好良い、わたしの大好きなノワールの笑みが浮かんでいた。

 

「全く…ほんと、ネプテューヌはわたしの言う事を聞いてくれないのね」

「そうね。でも、ノワールの言う事をよく聞くわたしも嫌でしょ?」

「そりゃ勿論。……なら、絶対帰ってきなさいよ?もし帰ってこなかったら…その時は絶交なんだからね!」

「ノワールと絶交する位なら、それこそ死んだ方がマシね。…絶対帰ってくるわ」

 

そう言うとノワールはこくんと頷いて、わたしを送り出す様に肩を叩いてくれる。

目線を少しあげると、そこには皆の姿。その瞳には、わたしへの応援の気持ちが…わたしの背中を押す気持ちが溢れていた。

 

「頑張れよネプテューヌ。お前の言うハッピーエンド、わたしも期待してるんだからな?」

「ふふっ、期待してて頂戴。それ以上のハッピーエンドを見せてあげるから」

「全部終わったら、皆で打ち上げをしようと思ってるんですの。…音頭は、任せましたわよ?」

「任せなさい。わたしが音頭を取るんだから、過去最高の打ち上げになるわよ?」

「ねぷねぷ」

「ねぷ子」

 

 

『行ってらっしゃい(です)』

 

本当に、わたしは良い友達を持った。…だから、帰ってこなきゃいけないわね、絶対に。

 

「えぇ、皆…行ってきます」




今回のパロディ解説

・ボーナスドロップ
ソードアート・オンラインシリーズにおける、ラストアタックボーナスの事。残念ながら本作も原作もLAシステムは無いので、ラストアタックの意味は特に無いです。

・クランク二尉
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズに登場する、敵サイドのキャラの事。もし倒したのが二尉ならば、本作は終盤どころか序盤も序盤、最序盤になってしまいますね。

・女神を守る女神
コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜の主人公、人吉爾郎の名台詞の一つのパロディ。基本どの女神も別の女神を守ろうとすると思いますが…そういうのは不粋ですね。

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