超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第九十九話 全ての思い、その果てに

暗い、暗い、闇色の道。自分が道を通っているのか…いや、それ以前に前へ進んでいるのかすら分からない世界で、感覚だけを頼りに突き進む。天界に足を踏み入れた時には、まさかこんな展開(駄洒落じゃないよ)になるとは、思いもしなかった。

 

「柱の内側がこうなってたとは…」

 

より負のシェアの力が強い所へ行けばマジェコンヌを見つけられる筈、と思って暫く進んだ私。中は特殊な空間になっているのか、外観よりもずっと広かった。

柱の中は広大で、同時に負のシェアに満ち溢れている。推測通り私のシェアと負のシェアが反発してるからか即座に侵食される様な事は無かったけど…身体に影響が出るのは時間の問題の様に感じる。今の私の女神の力が万全ではない事を含めて、とにかく早く探し出したかった。

 

「…これで実はシェア濃度の薄い所にいました、とかなら洒落にならないや…」

 

この上なく精神衛生上悪そうな場所で少しでも気を紛らわせる為、わざわざ独り言をする私。同時に頭の中でポジティブな事を考えているうちに、ここへ突入する直前の事が脳裏に浮かぶ。

今までにも私は言葉や状況を利用して、自分の意見を無理矢理通した事が何度かあった。厳密に言えば無理矢理通したというよりも、『そういう事なら、まぁ…』『仕方ない、こちらが頑張ればイリゼも楽になるだろうし…』みたいな消極的納得や、それっぽい追加条件と引き換えの同意のパターンが多いけれど…今回はそれ等とは違う。今回私は納得させた訳でも同意させた訳でもなく、瞬間的な『封殺』をしてしまった。きっと皆はそれに怒りはしないだろうけど、同時に良い気持ちも抱いていないと思う。

そう考えると、私は自分で自分の首を絞めている様な気がする。私の中で多くの事を占めているのは友達や仲間の存在。なのに今回行なっているのは、境遇の部分で共感や同情が出来るとはいえ、友達でも仲間でもないマジェコンヌの為に、私を大事にしてくれる皆の気持ちを利用してしまった。それは、本当に正しい判断だったのだろうか。ノワールの言う通り、大事なものの見極めを謝れば何かを失う事になるのかもしれない。だったら、マジェコンヌを助ける事なんかよりも、私にとって最も大切な、皆の元へ戻る方が--------

 

「……っ…!?今、私何を……」

 

頭を振るい、今し方考えていた事を振り払う私。私は今、明らかにマジェコンヌの救出を止めようとしていた。実際に引き返した訳じゃなかったけど、そういう思考をし始めていた。あれだけ助けようと思い、皆に悪い事までしてここへ来たのに、マジェコンヌを諦めようとしてしまっていた。

これが私の心変わりなら良い。いや、良い事ではないけど、私は私自身が思ってる程意志の強い人間でも他人の事を思える人間でもなかったというだけで済む。…でも、もしこれが私の心変わりではなく、負のシェアによる精神汚染の影響だったとしたら……

 

「…早く、見つけ出さないと……」

 

ふぅ、と息を吐いて気持ちを切り替え、汚染になんか負けるものかと心の中で自分を鼓舞した私は、速度を上げて突き進むのだった。

 

 

 

 

どれ程進んだ頃だろうか。突然、私の全身にかかる圧力の様なものが消え、周囲の雰囲気が変わった。ただ、何だろうか…五感ですぐ分かる様な悪影響は極端に少なくなったものの、それ等とは違う、凝縮された何かが集まっている様な感じがこの場にはあった。

 

「…誰かは追ってくるだろうと思っていたが、よもや君とはな…」

 

突如聞こえた声にはっとして見回す私。見回した先には案の定、マジェコンヌが居た。…マジェコンヌ以外だったら色々とびっくり過ぎる。

彼女が居たのはこの空間の中心…と言ってもこの空間の外と完全に隔絶されてる訳じゃなさそうだけど…で、朧げに揺らめく『何か』の前に立っていた。

 

「…身体は、大丈夫なの?」

「あぁ。お前も分かっているとは思うが、ここはここの外とは違うからな。さしずめ、台風の目と言ったところだ」

「台風の目…だとしても、今のマジェコンヌは普通の人…コピー能力はあるんだろうけど…なんじゃ?」

「いいや?お前達に倒され力の大部分は失ったが、お前を除く四人の女神の力と昔得た犯罪神の力、それぞれの力の残滓の様なものは残っている。戦闘に使えるレベルではないが、多少のシェア耐性位は有しているのさ」

 

そういうマジェコンヌの顔は、無理をしている様には見えなかった。シェア耐性云々以前に私がバッサリやっちゃった訳だから助け出した後は即医療機関に運ぶべきだろうけど、一先ず負のシェアに汚染されて倒れたりまた堕ちたりする様な事は無さそうで安心する私。…けど、まだ一先ず安心でしかない。負のシェアの柱をどうにかしない限りは完全に安心とは言えない。

 

「……それは?」

「この柱のコアだ。シェアエナジーではなく、シェアそのものと言うべきものさ」

 

私がマジェコンヌに問いたのは『何か』について。色がある様な無い様な、視認出来る様な出来ない様な、そもそも存在している様なしていない様な…そんな曖昧な存在。それをマジェコンヌはシェアそのものと言った。シェアエナジーはシェアによって生まれた、或いは変化したエネルギー。つまり、シェアそのものと言うのは……

 

「……思い、って事?」

「そういう事だ。だが、それを言うなら先に『シェアそのものって言うのは』を付けた方が良いと思うぞ?」

「うっ……」

 

少々頬が熱くなるのを感じる私。結論部分だけを口にしてしまうこの癖はもう何度目だろうか。毎回恥をかくんだから、いい加減私も学んでくれないかなぁ!

……こほん。

 

「そ、それは気を付けるとして……なら、それさえなんとかすればマジェコンヌはこの柱と運命を共にしなくても済むんだよね?」

「無茶を言うな、これはなんとかするだのしないだののレベルでは無いんだぞ?」

「…運命を共にしなくても済む事自体は否定しないんだね?」

 

その言葉に返答は無い。けど、これは質問ではなく確認であり、確認に返答が無い場合は基本的に同意と取っても問題は無い。少なくとも、この場でマジェコンヌが否定を隠す必要があるとは思えない。

だとすれば、後はもう善は急げの精神で動くのがそれこそ最善。マジェコンヌは勿論私もゆっくりしていられる余裕は無いのだから。

 

「こういう方法は脳筋っぽいからあんまりしたくはないけど……」

「脳筋?急にどうした?」

「こっちの話……やぁぁぁぁッ!」

 

長剣を顕現、両手で持って振りかぶる。幾らシェアそのものでも真っ二つになれば無事では済まない筈。一撃で出来るかどうかは謎だけど、それについてはやってみなければ分からない。

そう考えた私は目標を見据え、真上からの上段斬りを叩き込--------

 

「……あれ?」

 

すかっ。そんな音が聞こえた様な気がした。

私の一太刀は明らかにコアの中心、人であれば正中線がありそうな位置を斬り裂いた……のに、コアには何の影響も無く、私の手にも物を斬った時の感覚が無かった。

…と、いう事は……

 

「…マジェコンヌ、もしかしてこれ……実体、無い……?」

「…気付いてなかったのか?」

 

今更?みたいな顔で返答をするマジェコンヌ。……そうですよ、気付いてなかったんですよ、固形では無いだろうと思ってたけどこんなホログラムを斬る様な感じになるとは思ってなかったんですよ…。

と、正直に言うのは流石に恥ずかし過ぎた為、これは心の中にしまい、努めて澄まし顔をしながら会話を続ける。

 

「……マジェコンヌはこれをどう制御してるの?」

「どう、と言われても困る。自分でも分からない訳では無いが、感覚的なものだからな…」

「私達で言う女神化みたいなものか…ん?女神…?」

 

ふと、私の頭に一つの仮説が浮かぶ。女神というのは信仰という形でシェアを集め、シェアが変化したエネルギーであるシェアエナジーを力とする存在。でも、これはあくまで国を統治し、善意のシェアを使う存在を主にそう呼ぶというだけであって、魔王ユニミテスや先程のマジェコンヌ、それに犯罪神もシェアに関する能力としては女神と変わらない。

そして、善意のシェアと悪意のシェアは真逆の立ち位置にあるけれど、結局の所どちらも『思い』である事には変わりない。善意のシェアの使い手と悪意のシェアの使い手、善意のシェアと悪意のシェアが共にプラスとマイナス、右と左の様に対極でありながら最も近しい存在である、表裏一体の関係だとすれば……私が機能面でコアに干渉出来る可能性は、ある。

 

「私は正規の女神じゃないけど…そこはもう一人の私が上手く作ってくれてるであろう事を祈るしかないかな…」

「今度は何の話だ、イリゼ」

「…マジェコンヌ、私がこれの制御を代わるよ。そして、その上で柱を消滅させる…!」

「な……ッ!?ま、待てイリゼ……!」

 

そう言いながらコアへと手を伸ばす私。さっき長剣で触れた時にはすり抜けてしまったけど、あれは思いという非実体…というかそもそも概念的なものに物理的な干渉をしようとしてしまったから。でも、今度は違う。幾ら女神でも全ての思い、全てのシェアが見えて触れる訳じゃないけど、これの様に朧げながらちゃんと見えて、しっかりと『存在』しているものであれば、女神に触られない道理は無い。

そう思って触れようとする私を、途端に慌てた様な声でマジェコンヌが止めようとする。……が、驚いていた分制止が一拍遅れ、止め様とする声が私の耳に届くのと同時に私の手の指先がコアに触れ憎い辛い許さないあいつなんかが悲しい不愉快だ殺してやる無念だふざけるなどっか行けクズのくせに酷いもう嫌だ怖い不細工が何であり得ない消えろ醜い辛辣だ死んでしまえこんな奴が勝手にしろゴミの分際で低脳が分かりたくもない馬鹿が恐い調子に乗るな無能野郎妬ましいあの人ばっかり失敗しろ恐ろしい犯したい--------

 

「っぁぁああああああああああああああっ!!?」

 

弾かれる様に跳び退き、頭を掻き毟りながら私は倒れ込む。

あぁ、駄目だ…吐き気がする、反吐が出る。--------こんなものが、人の抱く感情だって言うの…?

 

「……だから、待てと言ったんだ…」

 

ぽつりとマジェコンヌが呟く。そして、同時に理解する。何故マジェコンヌがコアを何とかする事で柱を消滅させるのではなく、柱と運命を共にしてでも制御だけに留めようとしていたのかを。……こんなもの、人が耐えられるレベルではない。

 

「…はぁ…はぁ……反転、するかと思った……」

「この世全ての悪の様なものだからな、これは。……大丈夫か?」

「人間不信になる人の気持ちがよく分かったけど…大丈夫…」

 

横たわった状態で息を整えてから立ち上がる私。立ち上がりながら見たコアは、先程とまるで変わらない様子をしていた。私は触れただけ、しかもたった一瞬なのだから影響が無いのは当然と言えば当然だけど…ほんの少し、私は絶望しそうだった。

 

「…そりゃ、こんなのに飲み込まれたら人も世界も壊したくなるよね。一人一人がこのレベルの悪意を生み出してる訳じゃなくて、思いを持つ全ての生命の悪意の集合体だって事はよく分かってても…醜悪過ぎてどうしようもない」

「……分かっただろう?コアを何とかなど不可能なんだ。…早く戻れ、この柱の中では何が起こるか分からない」

 

そういうマジェコンヌはまた悲しげな声をしていた。それが、女神でもどうしようもないと改めて分かった事で完全に希望を失ったからなのか、曲がりなりにも女神である私が、人の悪意に対し吐き捨てる様な感想を口にしたからなのか…何れにせよ、マジェコンヌはここに残るつもりだった。もし上手く私を丸め込めたとしたら、制御の役を代わってもらえるのにそれをせず、私達と世界の為に自ら犠牲者となろうとしていた。

……だったら、私はほっとく訳にはいかない。

 

「…ねぇ、マジェコンヌ。この柱を何とかしたら、その後貴女はどうしたい?」

「…何を言っているんだお前は」

「ここで死ぬんだからその後も何もあるか、って?…そうかもしれないね。でも、そうだとしても、考える事位は出来るでしょう?」

「…考えて、それで何になると言うんだ」

「…………」

 

乗り気ではないマジェコンヌ。そんな彼女を私はただ見つめる。すると数秒後、私の思いが伝わった…というよりも、単に観念した様子で口を開く。

 

「…世界を、見て回りたい。私は元々この世界が好きで、この世界と周りの皆を守ろうと思って先代の女神達に協力したんだ。だから、一度は守り、一度は壊そうとしてしまったこの世界を…もう一度、直接自分の目で見たい」

「……マジェコンヌは崇高で…良い、人だね。…だったらやっぱり、マジェコンヌには生き残ってもらわなくちゃ」

 

再び、私はコアの前へと足を運ぶ。今度は私が触れるよりも前にマジェコンヌが止める様声をかけてきたけど…それに私は首を横に降る。

 

「もう一人の私…本物のイリゼが生まれた時代はさ、今よりずっと荒んでたせいで、物凄く負の感情が多かったらしいんだ。でも、もう一人の私はそれこそ全てを賭けて人を守り、繁栄させる事で後の時代の基盤となる国を作ったんだ。……同じイリゼなんだから、私にだってやれない道理は無いよ」

「…お前と原初の女神とやらは、全く同一という訳じゃないだろう。それに、状況も違う…私の為に無理をするな」

「無理じゃない。私は私が思ったからしているだけだから。それに……女神の前に、奇跡の体現者の前に、不可能は存在しない!」

 

私はもう一人の私を自分に重ねる様に啖呵を切った後、両手でコアに触れる。

瞬間、私の中へ流れ込んでくる負の感情の奔流。それを感じた瞬間にはもう脳が焼き切れそうになり、抑えきれない程の悪意が私を飲み込んでいく。

憎い、憎い、世界が…全ての人が憎い。こんなにも醜く、こんなにも浅ましく、こんなにも不愉快で、こんなにも下劣な人の為に、目障りなだけの他人の為に戦うなんて馬鹿げている。そんな人間を守ろうとする女神に至っては最早憐れ、あまりにも愚かしくて、早く殺してやる事こそ正しい様に感じる。私がこう感じるのも世界の生み出した悪意の結果。故に私は被害者であり、私には全ての人を裁く権利がある。

嗚呼そうだ、破壊は救済だ。本当の正義を、真の正義を貫くのであれば、人も物も世界も、全てを抹消し無へと還元するべきだ。

 

 

--------でも、

 

「それでも…それでも私は、世界が…皆が、大好きだからっ!」

 

本当は、ちょっぴり不安だった。こんな膨大な悪意を相手にマジェコンヌを助け、無事に帰れるか不安だった。完全下位互換でしかない私が、もう一人の私と同じ事が出来るか不安だった。

だけど、諦められないから。諦めたくないから。

負の感情によって全てが憎く、全てが悪に感じたけど…それでも尚、私が今まで会った人、お世話になった相手、旅をしてきた場所全てが愛おしくて、恋しくて、無くしたくない、私の宝物だった。上手く説明は出来ないけど、そういう思いが私の中から溢れていた。

こう思えたのは、女神の根底にある『思いの写し鏡』としての性質のおかげかもしれない。もう一人の私の、未来、そして私への祈りのおかげかもしれない。大好きな全てが私に与えてくれた、大切な思いのおかげかもしれない。どれかは分からなかったけど、今はどうでも良かった。私の思いが、負の感情の奔流を押し留め、受け止めている…それは、紛れも無い事実だから。

 

「絶望しなくても良いんだよ。負の感情に頼らなくても良いんだよ。貴方達にも…誰にでも、何にでも、大切なものが…大切にしてくれる何かが、あるんだから…」

 

コアを、負の感情を両手で抱き寄せ、胸元で抱き締める。ただ私は私の思いを伝えたかった。この思いを感じた事で、負の感情が…それを抱いた人が、ほんの少しでも勇気を、希望を持ってくれればそれ以上に嬉しい事は無かった。

私は願う。全ての人が、心に善意を持ってくれる事を。この世界が…次元全部が、幸せを手にしてくれる事を。

--------いつしか、コアは消えていた。

 

 

 

 

負のシェアの柱が動きを止めた。それはネプテューヌとイリゼを待つ私達を歓喜させた。

負のシェアが崩壊を始めた。それはネプテューヌとイリゼ、そしてマジェコンヌを待つ私達を動揺させた。

 

「……っ…何してるのよネプテューヌ達は…」

 

つい貧乏ゆすりをしてしまう私。待つ、というのはいつももどかしいものだけど…今程もどかしく、慌てそうになる事はこれまでもこれからも無いと思う。……多分。少なくとも、本作中は。

 

「あらあら、まるで夫の帰りを待つ妻の様ですわね」

「はぁっ!?だ、誰がネプテューヌの妻よ!妙な事言わないでよねッ!」

「いやベールはネプテューヌの妻とは言ってねぇだろ…」

 

余裕の無いところにきたどキツいネタのせいで、酷い墓穴を掘ってしまう私。…指摘したブランを含め、後で殴っておかないと……。

色々際どいやり取りをする中、コンパとアイエフは誰が見ても分かるレベルで心配そうだった。最悪柱に突入出来る私達と違うのが、大きな要因かもしれない。

 

「もし、もしねぷねぷとイリゼちゃんが帰って来なかったら…」

「そ、そういう事言うんじゃないわよコンパ。…こっちまで、余計不安になるじゃない…」

「あいちゃん……」

 

更に不安げになってしまう二人。何か声をかけてあげようかと思った私だけど…その瞬間、柱の崩壊が加速する。

 

「……!おいおい、これは冗談抜きにヤバいぞ…」

「せめて、わたくし達にも何か出来る事があれば…」

「それが、待つ事でしょ。突入したって合流出来るかは分からないし、普通の柱と違って補強なんか……」

 

出来ない。そう言おうとしたところで私は止まる。

本当に?本当に補強出来ない?……いいや、そんな事はない筈。突入した時は柱に干渉する事で突入口を作ったんだから、触れない筈がない。

そして、私は……シェアのプロフェッショナルに他ならない。

ベールとブランに視線を送る私。二人も私の言いかけの言葉で同じ事を思い付いたのか、その場で頷く。三方に別れ、柱へと近付く私達。

 

「…何をする気なんですか……?」

「二人がマジェコンヌを連れて戻ってくるまでの時間稼ぎですわ」

「時間稼ぎ…どうやってです…?」

「わたし達が外側から掴んで、この柱のシェアを押し留めるんだよ。どれだけ効果があるかは分からねぇが…やってみる価値はあるぜ」

 

三人同時に柱へと手を突っ込み、爪を立てる様に掴む私達。地面を踏み締め、歯を食いしばって私達を弾こうとする力へと対抗する。

 

「やっぱり、ただ待つのは性に合わないわね…私達の力で、二人が戻ってこれる様にしてやるわ!」

 

女神は友達の為に、大事な人の為に力を振るう時が一番強い。そう信じて私は、私達は柱の崩壊に対抗した。

 

 

 

 

「終わ、ったぁ……」

 

ぺたんとその場に座り込む私。ここまで精神をすり減らしたのは初めてだった。精神的疲労がオーバーロードして身体的疲労にまでなっていたけど、そんなのは気にならなかった。だって、今の私には分かっているから。コアを失った柱は一気に崩壊し、消滅すると。

 

「…まさか、本当に何とかしてしまうとは……」

「私も驚きだよ…正直、第二のマジェコンヌになる可能性も十分あったし…」

「とんだ博打打ちだな、それは…」

 

呆れた様な顔をするマジェコンヌ。頬をかきながら苦笑を浮かべる私。マジェコンヌはぱっと見呆れ顔だったけど…私の目には、どこか安堵している様にも見えた。

 

「……これで、世界を見て回れるね、マジェコンヌ」

「…そう、だな……ふっ、諦めていた私すら助け出してしまうとは。凄い女神だな、お前は」

「それは勿論。だって私は…原初の女神・イリゼの複製体、もう一人の原初、オリジンハートだから」

 

にっ、と自慢げな笑顔を見せた後、立ち上がる私。連戦の上度重なる驚き、そしてこの場での精神的疲労と完全に私は疲労困憊だったけど、ここでまったりしていたら柱の崩壊に巻き込まれてしまう。せっかくここまでやったのに、最後の最後で脱出失敗なんて洒落にもならない。

 

「脱出するよマジェコンヌ。…今のマジェコンヌって女神より速く飛べる?」

「いや、絶対に無理だ」

「そっか…OK。完全消滅までの時間的に全力で飛ばないと不味そうだから、ちょっと手荒な飛行になるよ?」

「構わないさ、死ぬのに比べれば安いものだ」

 

コアに触れていたからか、私は柱の崩壊速度が大体分かっていた。脱出経路については空間が空間だけに『ここを通るのが最短!』みたいなものは分からなかったけど、行きとは逆に負のシェアの薄い方へと向かえば脱出出来るだろうと踏んでいた。

一度深呼吸をし、翼に力を込める私。さぁ、帰ろう。皆の待つ外へ…私の、居場所へ--------

 

 

「……え…?」

 

翼の感覚が無くなった。翼だけじゃない。身体を包むプロセッサの感覚も無くなり、見える景色が僅かながら変化した。

この感覚は前にもあった。そう、これは……

 

「女神化が…解けた……?」

 

汚染モンスター討伐と同じ……いや、違う。あの時とは違う…何かが、抜け落ちてしまった様な感覚。

そして、私は気付く。私が私である上で重要な、決定的なものが失われてしまった事を。

 

「…イリゼ……?」

「……ごめんなさい、マジェコンヌ…脱出は、もう無理かも…」

「無理……?」

「あは、は…私、もう…女神化、出来ないんだ……」

 

乾いた笑いを零す私。考えてみれば、当然だ。既に女神化が危ぶまれている中何度も戦い、惜しみなくシェアを引き出し、挙句こんな無茶をしたんだから、力を失うのも仕方のない話。計算が甘かった…楽観視し過ぎていた、私の自業自得。

そう、頭では分かっていた。……頭では。

 

「…やっと…全部終わったのに…助け出せたのに…後、ちょっとだけもってくれればそれで良かったのに…どうして、今……っ!」

 

今度は膝から崩れ落ちる様に座り込む私。辛くて、あまりにも悔しくて、思いがそのまま口から溢れる。

私に起きた事態を察してくれたのか、肩に手を置いてくれるマジェコンヌ。そこで私ははっとする。マジェコンヌに、酷い事をしてしまったと。

 

「…ごめん、本当にごめんなさいマジェコンヌ…」

「…どうして謝る」

「だって、私はぬか喜びさせちゃったから…一度希望を抱かせた後、それを私自身で打ち砕いちゃったから…」

「その事か…気にするな。確かにぬか喜びにはなったが…お前が来てくれなければ、制御をしていた私の魂は死後も負のシェアに囚われていただろう。普通に死ねる様にしてくれただけでもありがたいさ」

 

マジェコンヌの言葉は、私を慰める為に思いもしない事を言っている様には思えなかった。でも、それで私の気持ちが晴れる様な事はない。マジェコンヌを助けられなかったのは変わらぬ事実だし、何よりも…私は皆の元へ帰れなくなってしまったのだから。

 

「……っ…ごめん、皆…ごめん……」

「謝る事は無い、お前は最後まで立派だった。少なくとも、お前に非は一切無いと私は断言しよう」

「そう、かもしれないけど…そうじゃ、なくて…私は…皆の、所に…帰りたいよ……っ!」

 

視界が歪む。頬を涙が伝い、ぽろぽろと落ちる。このままもう二度と皆には会えないと思うと、お別れすら言えずに終わると思うと、寂しくて悲しくてたまらなくなる。

嫌だ。こんな最後は嫌だ。ちゃんと帰るって言ったのに、最後に言った言葉が嘘になるなんて嫌だ。もっと、もっと皆と遊びたい。どこかへ行きたい。笑い合いたい。もっと……

 

「もっと、一緒に居たいよ…居たいよぉっ……」

 

 

「--------なら、一緒に帰りましょ、イリゼ」

 

彼女は、私の前に現れた。いつか、私が絶望したあの時の様に。そして、私自身は覚えてないけれど、私がこの時代で目覚めるきっかけとなった、あの時の様に。彼女は……ネプテューヌは、私に手を差し伸べてくれた。




今回のパロディ解説

・反転
デート・ア・ライブに登場する、精霊がもう一つの姿になる現象の事。別に女神は反転なんかしません。というかそもそも女神は女神の姿が本当の姿なのですから。

・この世全ての悪
Fateシリーズに登場するサーヴァントの名前や用語のパロディ。「〜の様な」と言っている通り、作中のコアはそれっぽいだけであり、実際には全ての悪ではありません。

・私には全ての人を裁く権利がある
機動戦士ガンダムSEEDの敵メインキャラ、ラウ・ル・クルーゼの名台詞の一つのパロディ。元ネタも本作中でも本人がそう思ってるだけで、そんな権利は多分ありません。
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