超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative 作:シモツキ
「久しいな、イストワール」
無人と思しき部屋に声が響く。その声は高圧的でありながらもどこか忌々しさを孕んでいた。
「…マジェコンヌ、何度来ても無駄です。私は貴女に協力するつもりなどありません」
「分かってるさ、貴様に訊きたいのはネプテューヌの事だ。」
「…まさかネプテューヌさんと会ったのですか?」
「やはりイストワール、貴様だったか。ネプテューヌに入れ知恵をしたのは」
「さて、何の事でしょうか。私は貴女に封じられている身…それは貴女が一番よく知っている筈です」
マジェコンヌは問い詰める様に、イストワールは飄々と言葉を紡いでいく。そこには友好的な雰囲気などは無く、強いて挙げるのであれば友好的とは対極な敵意だった。
「ふん、よくもまぁ白々しい嘘をつけるものだ。…まあいいだろう。所詮奴は記憶喪失、次で仕留めてやるさ…それよりもイストワール、貴様はイリゼ、と言う名の者を知っているか?」
「イリゼ……?」
沈黙するイストワール。その沈黙は黙秘ではなく、自分の記憶を探り…その上で『知らない』という結論に辿り着きつつあるように思えた。
「やはり貴様もそうか…突然変異か何かのまやかしか…まあいい、価値があるなら利用する、邪魔をするなら潰す…それだけだ」
悪意に満ちた笑みを浮かべるマジェコンヌ。イストワールはそれをどこか哀れにも思っていたが、当然それがマジェコンヌに伝わる事は無い。
「私の定めた女神の運命は変わらぬ。さぁ女神達よ、再び戦い合うのだ!ハーハッハッハ!!!」
見渡す限りの工場とそれに関連する建造物。風景と雰囲気を一度に表すとすれば正しく『重厚なる黒』。
そんな大陸、ラステイションに足を踏み入れた私達は…
『はぁ…はぁ…やっと着いた(です)……』
思い切り疲弊していた。調子に乗って本気で競争なんかするからである。特にコンパは疲労困憊状態…別にコンパの名前にかけたギャグじゃないよ?
「結構距離あったね…」
「まあ大陸移動したらすぐ街中、な訳ないものね…我ながら浅はかな事したわ…」
「もー、誰さ競争なんて言い出したのは!」
『いやそれ(ネプテューヌ、ねぷ子)でしょうが!』
「早くどこかで一休みしたいです…」
そんなこんな言いながら進む私達。そう言えば包帯解けてないかな…と不安になったけどコンパが強く締めてくれたおかげか全く解けていなかった。キツいの我慢した甲斐があったなぁ…。
「しかしまあ大分プラネテューヌとは感じが違うよね。こう、なんていうか…鋼鉄島ーって感じ?」
「確かにね、ここの女神様は重工業に力を入れてるのかな?」
「うーん…確かに女神様も力を入れてるとは思うけどあくまで文明は人が作るものだから女神様が、って言うより女神様と国民とを含めたラステイション全体が重工業に力を入れてるってのが正しいと思うわ」
ラステイション全体、か…確かにそうだよね。トップと国民と両方がいて国って成り立つものだし。
「そんな難しく捉えなくても良いと思うけどなぁ…こんぱはこの大陸どう思う?」
「工場とか煙突とかが目立っていて産業革命って感じがするです。でもわたしにはちょっとマニアックな感じかもですぅ」
「まぁ女の子が食いつきそうな感じではないかもね。私は割と好きだけど…それよりも一度教会に行きましょ」
アイエフの言葉にはーい、と答えて街中を進む私達。慣れない場所では旅人のアイエフが特に頼りになるね。
「…あ、そう言えばラステイションの教会は教会なの?」
「はい?そりゃ教会は教会でしょ」
「急に変な事言ってどうしたです?頭ぶつけたですか?」
「あーごめん、私の言い方悪かったね…ラステイションの教会はプラネテューヌの教会みたいに別の建物になってたりするの?って事」
暫く歩いた所で変に端折った質問をしたせいでコンパとアイエフから変に思われてしまった。アホの子認定されない様に今後気を付けないと…。
「あぁ、そういう事…普通に教会らしい建物になってるわ。そもそも教会が教会の形してないのはプラネテューヌだけだった筈だし」
「あいちゃん、じゃあその教会にはまだ着かないの?」
「…おかしいわね…。こっちの方向だと思ったんだけど…」
「もしかして迷ったとか?」
「んー…暫く来てなかったからなぁ。取り敢えず、誰か捕まえて訊いてみましょ」
と言う訳で一旦停止。周りを見回して教会の場所を知っていそうで且つ、訊き易そうな人を探す。
「うーん…中途半端に人がいると逆に誰に訊けば良いのか分からない…」
「じゃあ、あのいかにも冒険者って人はどうかな?あのー、そこの赤髪の人すいませーん」
そう言ってネプテューヌはすぐに赤髪サイドテールの女の子に話しかける。ネプテューヌの即決即断さは凄い。
「ん?あたしに何か用かな?」
「ブラックハート様って女神様に会いたいんだけど、どこに行けばいいか知ってたら教えて欲しいんだ」
「ブラックハート様…?あぁ、ノワール様の事か」
少女は一瞬不思議そうにするもすぐに私達が誰の事を言っているのか気付く。
「それなら、この道を真っ直ぐ行って突き当たりを右に曲がった所に教会があるよ」
「どうやら方向は合ってたみたいね。助かったわ」
「困った時はお互い様だからね」
「ここで会ったのも何かの縁だし、名前教えてよ。わたしはネプテューヌ!それでこっちがこんぱとあいちゃん、それにイリゼだよ」
「あたしはファルコム。駆け出しの冒険者なんだ」
名前を聞いて一瞬頭の中にキャプテンなファルコンさんが思い浮かぶけどすぐに間違いに気付く。この赤髪の子はファルコ『ム』さんだしどう見ても謎のヘルメットとグラサンをかけてるムキムキのあの人ではない。
「こっちで会ったのも何かの縁だし、もし困った事があったら声をかけてくれれば力になるよ」
「ほんと!やったね」
「…こっち?あれ?皆は前に会った事あるの?」
「無かったと思うです」
「あ、ううん気にしないで。それこそこっちの話だし」
「そう…とにかく助かったわ。それじゃ、私達は急いでるからこれで失礼するわね。また会いましょ」
「うん、またね」
教会の場所が分かった為ファルコムさんに別れを告げて歩き出す私達。一人目で場所が分かるなんて幸運だったなぁ…。
「…ふぅ。まさか、こっちの世界に来てすぐにネプテューヌさん達と出会うなんてちょっとびっくりしたかも。…でもイリゼって子はこっちの世界にしかいない子なのかな…?」
私達が去った後、私の疑問の答えとも思える言葉をファルコムさんが発していたけど、当然私達がその言葉を耳にする事は出来なかった。
「誰だ貴様等は。生憎ここは子供が遊びに来る様な場所ではない」
やっと辿り着いたラステイションの教会。そこで私達は教会の職員さんに門前払いされていた。
「ねぷねぷの記憶を取り戻すのにどうしても女神さんに聞きたい事があるです。お願いしますです」
「…あ!もしかして『誰だ貴様等は』って聞かれたって事は、名前さえ言えば会わせてくれたりするのかな?だったらわたしはネプテューヌ!で、こっちはこんぱとあいちゃんとイリゼ!」
「いや出席確認じゃないんだしそういう意味で聞かれたんじゃないと思うけど…」
「その通りだ。どんな事情があろうが関係ない、仕事の邪魔ださっさと出て行け」
案の定突っぱねられる。取り付く島もないとは正にこの事である。…なんて感心していられる程私達の心に余裕はない。ブラックハート様、又はノワール様に何かしら用事があるならともかくこんな断られ方をされて納得出来るわけないじゃん。
そして私と同じ考えだったらしいアイエフが口を開く。
「…教会って随分不親切なのね。女神様に仕える貴方達がそんなんじゃブラックハート様も大した事ないんじゃない?」
「何とでも言え。たかが女神をどう言われようが痛くも痒くもないわ」
「……皆、ここは一度戻りましょ。きっとこれ以上は時間の無駄よ」
「なんでさ!あいちゃんはここで諦めちゃっていいの!?諦めたらそこで試合終了だよ」
「…え?私達職員さんと試合中だったの?」
「いいからさっさと帰るわよ」
不満げなネプテューヌをなだめつつ教会を後にする。そして教会が見えない辺りまで来たところで今後の事を話し合うべく立ち止まる。
「あーもう!あったまくるなー!あの教会の人もだけど、あいちゃんもあいちゃんだよ!どうして引き下がっちゃうの!?」
「気付かなかったの?あの人、女神様に仕える身でありながら女神様を呼び捨てにしていたわ」
「確かに言われてみればあの人、女神さんを呼び捨てにしてたです。呼び捨てにするなんて絶対におかしいです」
そう、それは私も感じていた事だ。今まで会ってきた人達は謎の女性を除いて皆女神様、女神さんと呼んでいた。どう考えてもそれは不自然だった。
「どうして?実は超仲良しだからこそお互いを呼び捨ててるって可能性はないの?」
「それはないんじゃない?超仲良しならアイエフがブラックハート様を貶す様な事言った時怒る筈でしょ?」
「その通りよ。普通教会の職員さんはプラネテューヌみたいに女神様がその場にいなくても敬意を持って呼ばれるものなの」
「なのにここじゃ『たかが女神』扱い…絶対変だね」
おかしい。それが私達の出した結論だった。その後旅人であるアイエフが何か知らないかコンパと聞いてみるも成果なし。でもやっとネプテューヌが落ち着いてきた事で雰囲気はいつも通りになる。
「旅人キャラなのにいざという時に頼りないなー、あいちゃんはー」
「仕方ないじゃない…私はどの国にも均等に行ってる訳じゃないんだから」
「まぁまぁ安心して。だからってこんな事でノシする程ブラックなパーティーじゃないから!例えレベルが低くてもラスボスどころか次回作までずーっと一緒だよ!」
相変わらずのメタ発言をしながら謎のフォローをするネプテューヌ。さっきまで怒り心頭だった彼女はどこへやら、いつの間にか平常運転だった。
「…悪かったわね、頼りなくて。てか記憶喪失のアンタには言われたくないわよ!」
「あははははっ、ごめんごめん」
「…えーっと…じゃあ、これからどうするの?教会について調べる?」
「おっけー、じゃアンパンと牛乳買ってくるよ!」
「張り込みするですか?」
「いや張り込みしないから、張り込みした所で何か分かるとも思えないし大陸移動と慣れない土地で皆疲れてるでしょ?」
「大陸移動で疲れたのは皆で調子に乗ったのが原因の一端だけどね…」
反対意見は特に無し、という事で一旦この件は保留にして泊まる場所を探し始める。
「こういう時ってどういう所に泊まるのがベストなの?」
「特にベストとかはないと思うわ。強いて言えば懐を圧迫しない程度の所って位よ」
「いやそれより若い女の子四人でホテルとかって危なくない?エロゲ的展開は御免だよ?」
「そういう事言うとフラグになるから止めようよ…」
「イリゼちゃん、その突っ込みもフラグになり兼ねないです…」
そうこう言ってるうちに丁度良さそうなホテル(決して不純な類いではない、私達は悪い子じゃないもん)を発見しチェックイン。指定された部屋へ行き一息つく。
「ふぅ…今日はここでゆっくりするとして明日はどうするの?RPGの定番、街の人への聞き込みとかする?」
「RPGみたいに全員に聞いてたら何日かかるか分からないわよ…それよりクエストね」
「クエスト?まだまだお金は沢山あるんじゃなかった?…もしかしてあいちゃんわたし達に内緒でこっそり使い込んじゃったとか!?」
「別に路銀が心細くなった訳でもなければ、ねぷ子みたいにこっそりプリンを買い食いしてる訳でもないわ」
「ぎくっ!?バレてたの!?」
「バレてたの!?…も何もあからさまにいなくなった後やけに幸せそうにしながら戻って来る事多かったじゃん…」
「…もしかして、気付かないと思ってたの?」
「う、うん…まさかバレてたなんて…」
「ねぷねぷ、プリンの食べ過ぎはめっ、です!」
「あぅ、こんぱに怒られた…」
えらいショックを受けているネプテューヌだったけど、コンパの怒り方は怖いというかむしろ可愛かった。そんな二人のやり取りを苦笑しながら見た後話を戻す。
「じゃ、どういう目的でクエストするの?」
「思い出してみて。プラネテューヌではエネミーディスクがあった場所に鍵の欠片もあったのよ?ならラステイションでもその可能性があると思わない?」
「おおっ!確かに!さっきは頼りないとか言ったけど前言撤回だよー!正しく汚名挽回!流石はあいちゃん様です!」
「ねぷねぷ、それ色々間違ってるです…。そして、死亡フラグです…」
ネプテューヌの何だかよく分からない称賛に気が抜ける私達。でも明日の目的はちゃんと決まった、なんだかんだでちゃんと話が進むのがこのパーティーである。
そうして各々休息を取る私達。明日はいざエネミーディスクと鍵の欠片探しへ!
…と、その前に……
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ…後はうろ覚えだから普通に数えてっと…」
「何してるです?」
「お金のお勘定だよ。はい、これで借金返済終了だよね」
バスタードソードを買う為に借りたお金を皆に返す私。ずっと気になってた事だから済んで良かったぁ…。
「お疲れ様イリゼ。これでやっとたぬきちさんのお店使えるね!」
「いや私家の借金はしてないしどこぞの森の住人でもないよ!?」
…借金返済ですらボケにしてくるネプテューヌだった。
今回のパロディ解説
・鋼鉄島
ポケットモンスターダイヤモンド・パール・プラチナにて登場する島の一つ。名前的にはそれっぽいが実際の鋼鉄島は岩山でありラステイションと似てはいない。
・キャプテンなファルコン
F-ZEROシリーズの主人公、キャプテン・ファルコンの事。作中の地の文の通り名前がちょっと似ているだけであり、外見はほぼ180度違っている。
・諦めたらそこで試合終了だよ
SLAM DUNKに登場する安西先生の台詞。それに続く「安西先生…!!バスケがしたいです…」と共に多くの人が知る漫画の名台詞の一つとなっている。
・汚名挽回
汚名返上と名誉挽回が混じった結果生まれた誤用。意味的には一旦良くなった後再び悪くなる…という感じらしい。パロディと呼べるかは微妙です。
・流石はあいちゃん様です
魔法科高校の劣等生の代名詞とも言える台詞で元は「流石はお兄様です」。元ネタは略してさすおにになるのでアイエフの場合は略してさすあい、でしょう。
・たぬきちさんのお店
どうぶつの森シリーズで植物の種から家具まで幅広く扱うたぬきち系列のお店及びそこでのバイトイベントの事。断じてイリゼはローンで家を買ってません。