超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative 作:シモツキ
「マスター、あの客にマティーニを…」
「ここはBARじゃなくて普通の食堂なんだが…」
カウンター席に座ったネプテューヌのボケ注文に青髪の少女、シアンは困った様な顔をする。少なくともこれはクエストの依頼者と受注者の会話ではない。
「あー…悪いわね、話逸らしちゃって」
「あ、あぁ…じゃあ改めて内容説明をさせて貰うよ」
ホテルに泊まった翌日、私達はとあるクエストを受けた。基本的にクエストはギルドが依頼者と受注者の仲介役になってくれるから直接会う必要はないんだけど、シアンさんは自分から説明したいという事で呼んでくれた。
「ええと、まずアンタ達は交易路の場所知ってるかい?」
「大丈夫、知ってるわ」
「なら話が早い、頼みたいのは交易路のモンスターの事なんだ」
「交易路のモンスターを倒してくれ、って事ですか?」
「そういう事さ。少し前まではモンスターなんていない安全な交易路だったんだが、最近モンスターが出る様になっちまってさ…そのせいでせっかく作った商品の流通が滞ってるんだ」
少し前まではモンスターが居なかったのに最近出る様になった、って事はつまり…
「もしかしてエネミーディスクのせいかもです…?」
「うん、タイミング的にもそうだと思うよ」
「ビンゴね。いいわ、その依頼確かに受けたわ」
「助かる。ただでさえアヴニールのせいでこっちは景気が悪いっていうのに、それにモンスターまで加わってたまったもんじゃなかったんだ」
シアンさんの言葉の中に聞き覚えのない単語が出てくる。でも私は何処かで聞いた覚えがあったのでアレかなぁ〜…と思っていたらこの単語はコンパは知らなかったのか質問をする。
「シアンさんシアンさん。そのアヴニールって何ですか?」
「え、確か地球の四つの経済圏の一つの…」
「それアヴニールじゃなくてアーブラウでしょ…」
私が代わりに説明してあげようと思ったらなんとアイエフに突っ込まれてしまった。まさかの私の勘違いだったのだ。
「えーと…つまりお前らはアヴニールを知らないのか?」
「はいです。ラステイションには今日来たばかりなので何も分からないんです」
「アヴニールって言うのは実質このラステイションを支配している大企業だ。家電から兵器までなんでも作ってて、その製品ラインナップの多さと低価格でほぼ市場を独占していると言っても過言じゃないんだ」
「そ、それはまた物凄い企業ですね…」
企業同士が競争する事を前提とした経済の上で幅広い商品を開発する企業は多くない。競争である以上それなりの物を幅広く揃えるよりも商品展開が乏しくても質の良い物を売り出した方が利益に繋がるからだ。にも関わらず幅広く揃えるという事はつまりアヴニールがそれだけ強い企業だと言う事になる。
「おかげでこっちの商品は種類も価格もアヴニールに負けて物は売れないし下請けさせてくれる訳でもないしで、今月に入ってから知り合いの工場も何件潰れた事か…」
「ひ、酷いです!どくせんきんしほーいはんです!」
「そもそもラステイションに独占禁止法あるのかな…でも仮に無いとしたら変だよね、市場の独占なんてされたら国も国民も困ると思うけど…」
「女神様に相談はしたの?こんな状況余程の事が無い限り女神様が放っておくなんて考えられないわ」
「町工場の仲間連中で何度も相談しようとはしたさ。けど、ブラックハート様の不在期間が長過ぎたんだ…」
シアンさんが今の教会の現状を語り始める。教会がアヴニールに乗っ取られた状態だという事、教会はシアンさん達国民にブラックハート様との対面をさせてくれない事、それらを語るシアンさんの顔は見るからに曇っていた。
「アヴニールは悪い会社なんだね。シアンも街の人も、それで困ってるんでしょ?」
「悪いなんてもんじゃない…バケモノみたいな会社さ!」
「…成る程。ラステイションはそういう事情を抱えていた訳ね。それなら昨日の教会での事も頷けるわ」
昨日教会で私達は教会の職員さんから愛想の無い態度を取られ、門前払いされていた。その時私達はおかしいと思ったけどそれも当然の事だった、教会が本来の状態じゃなかったのだから。
「教会がそんな状況じゃ、女神さんに会う事なんて出来そうにないですね」
「ならさ、ラステイションの女神様…えっと、ブラックバード様だっけ?その人の住んでる所に直接乗り込んで話を訊いて貰おうよ!わたし達も鍵の欠片の情報が手に入って、シアンもお願いを聞いて貰えてきっと二倍お得だよ」
「ブラックバード様じゃなくてブラックハート様な…」
ネプテューヌの案に対しコンパは同意の様な表情を見せるが、私とアイエフとシアンさんは同意しかねていた。
「それは止めといた方が良いんじゃない?直接って言っても場所が分からない以上手早く進める訳ないし」
「そう?やってみなきゃ分かんないよ?」
「今回は諦めときなさいねぷ子、下手に動いて失敗したら尚更ガードが堅くなるだけよ?そうなったら私達だけじゃなく、シアン達にも迷惑をかける事になるわ」
「そもそも今回の目的はクエスト、だしね」
「むー…まあ、そうだね」
一応の納得をしてくれたのかネプテューヌは乗り込む案を下げてくれる。
「じゃあ…とにかくモンスター退治を頼むよ。アヴニールの有無に関わらず交易路が使えないのは困るんだ」
「はい、任せて下さいです」
「おっけー、パパッと片付けてクリーンな交易路にしてあげるよ!」
「え、退治だけじゃなく清掃活動までするの?偉いね…」
相変わらずの会話をしながら食堂を出る私達。色々思う所は有るけど…まずはシアンさんからのクエストを達成しないとね。
「帰ったわ…って言っても、誰も迎えてくれる筈ないか」
教会の一室。外から戻り、所謂帰宅の挨拶をするも昔の様に温かく迎えてくれる声はない。帰ってくるのはよそよそしい、業務的な反応だけだった。
「女神様。公務以外の外出は困りますと何度も申している筈ですか」
「自分の時間位どこで何しようが私の勝手よ」
女神様。そう、私は女神ブラックハートでありノワール。自慢ではなく事実として私は信仰され、敬意を払われる対象『だった』。
「それとも何?私を教会に軟禁しようとでもしているのかしら、お飾りはお飾りらしく座ってろって言う訳?」
「……っ!そ、そういう訳ではありません。もし我々の目の届かぬ所で女神様の身に何かあっては…」
私の皮肉めいた言葉に動揺を見せる職員。
これが今の教会の現状だった。私のいない間にアヴニールに乗っ取られ、私は事実上の軟禁状態。でも、それを責める事は出来ない…理由はどうあれこれは
「ふぅん…ま、そういう事にしておいてあげるわ。で、私が留守の間に何か変わった事はあった?」
「いえ、特に何も」
「…『特に』って事は何かしらあったみたいね」
「些細な事ですので、女神様のお耳に入れる程の内容は…」
「命令よ。いいから話しなさい」
私が問い詰めると職員はやっと話し始めた。何でも私に会いに来た人がいたらしい。個人的にちょっと嬉しかったけど職員の目の前という事もあり我慢し、話を続けさせる。
「ただの女の子が三人です。…確か、そのうちの一人の名前がネプチューヌだったかネプテューンとかそんな名前だった様な…」
「っ!?もしかしてそれってネプテューヌじゃない!?髪の毛が薄紫色で、左右に跳ねてツンツンしていなかった!?」
もし来たのがネプテューヌだとしたら…幸か不幸か、何れにせよ見逃せない情報ね…(因みにこの後も暫く職員はネプテューヌの名前を言い間違え続けていたけど流石に可哀想だから描写は飛ばしてあげる事にしたわ)。
「ごほん。そのネプ何とかという少女ですが、確かに見た目もそんな感じだった気がします。…お知り合いですか?」
「知り合いどころの関係じゃないわ。私を訪ねてわざわざラステイションに来るなんて、一体何が目的かしら…」
「会いに行かれるんですか?でしたら行くだけ無駄だと思いますよ?どうやらネプ何とかという少女は記憶喪失らしく手がかりになるものを得るために女神様に会いに来たと言っていました」
「記憶喪失ですって!?」
驚きの情報だった。記憶喪失…断定は出来ないけどあの時の戦いが原因の可能性はあるわね…。
「…ノワール様?」
(…記憶が戻ったネプテューヌと戦ったら私が勝てるかどうかは分からない…けど、記憶のないネプテューヌなら今の私でも勝てる筈。そして、記憶がなくても女神を倒したとなればラステイションでの私の権威を取り戻せるかもしれない…)
「あの、ノワール様…?」
「よし、そうと決まったら早速ネプテューヌを追いかけるわよ!」
「ノワール様!?どちらへ行かれるのですか!?」
現状打破の糸口が見えた私はすぐさま教会を後にする。職員が何か言ってたけど関係ないわ、今は女神として返り咲く事が最優先よ!
「…ねぇ、アイエフ」
「何かしら?」
「交易路ってこんな山道の事を指す言葉だっけ…?」
工場『パッセ』及びその隣の食堂から出て数刻後、私達は岩山気味の山道を歩いていた。本当にこんな所が交易路なのかな…。
「今までは徒歩以外の交通手段があったんじゃない?で、モンスターが出てきたせいでそれが使えなくなったとか」
「あー…ならモンスター退治しても交通手段を復活させる為に整備しなきゃいけないだろうし早急に退治しなきゃだね」
「はぁ…はぁ…あいちゃぁー…ん…イリゼぇー…待ってぇ……疲れたよぉ…」
最初こそ意気揚々と突っ走っていたネプテューヌだったけど、今はそれが裏目に出てへとへとになっている。山道で走ればそりゃそうなるよ…。
「ねぷ子、アンタねぇ…疲労度とかいうシステムだからステータスはないんじゃなかったの?」
「た、確かに言ったけどさぁ…思ってた以上に坂道が多いんだもん、卑怯だよぉ…」
「わたしも足の裏が痛くてもう一歩も歩けないですぅ…」
「あはは…まあ確かにちょっとキツいよね。アイエフ、二人がへばっちゃってるしちょっと休憩しない?」
「もう、二人共だらしないわね…まあいいわ、休憩しましょ」
「やっと休めるですぅ…」
腰を下ろすネプテューヌとコンパ。正直私も疲れてきたのであからさまにへろへろになってくれた二人に心の中で感謝する。
「そうだ!せっかくだし休憩ついでに皆でおやつ食べようよ!街を出る前にプリンを買っておいたんだよねー」
「いいわね…って言いたい所だけど、実は例のモンスターが出没するのってこの辺りなのよね」
「……え?」
プリンを取り出そうとしたまま固まるネプテューヌ。その視線の先には…
「…あ、あのぉー…あいちゃん?この明らかに今まで戦った事の無いようなモンスターってもしかして…」
「えぇ、シアンからの情報通りよ。そいつでまちがい無いわ」
「またまたぁ、そんな冗談に騙されるわたしじゃないぞ☆アニメじゃ無いんだからさぁ〜」
「…ネプテューヌ、本当の事だよ」
「モンスターさん…もう少し空気を読んで欲しいです、KYですぅ…」
「うぅ…せっかく美味しくプリンを食べれると思ったのにー!」
そう言いながら変身するネプテューヌ、珍しく戦闘に対しアクティブだった。
「仏のネプテューヌと言われたこのわたしも、今日ばかりは鬼になるわ!」
「いや沸点低っ!て言うかそんな呼ばれ方してたっけ!?」
「相変わらずねぷねぷは変身すると見た目だけじゃなく性格もまるっきし変わるですね」
「皆!雑談なんてしてないでさっさと倒すわよ!」
「はうぅ、わたしはまだへとへとなままなんですが…」
「ねぷ子もやる気満々の様だし、もう一頑張りしましょ」
「うん、じゃ…私も…!」
魔窟での感覚を思い出し変身する私。こちらが臨戦態勢に入ったのを感じたのか巨大な鳥型のモンスターが突進してくる。
「イリゼ、まずはわたし達であいつを地面に叩き落とすわよ!」
「了解っ!」
飛んで突進を回避すると同時に剣を振るう私とネプテューヌ。それに対しモンスターはそのまま突っ切る事で回避、暫く二人と一体による空中戦となる。
「あいちゃん、わたし達はどうするです…?」
「飛べない以上出来る事は限られるわね…」
下ではコンパとアイエフが見守っている。早めに叩き落したい所だけど…。
「くっ…鳥だけあって速い…!」
「一瞬でも動きが止まれば行ける筈…イリゼ、何か手はある?」
「ごめん、思いつかない…」
「なら、私に任せなさい!」
下からアイエフの声が響くと同時に一対のカタールがモンスターに向かって飛ぶ。残念ながらそのカタールはモンスターの一撃で弾かれたけど…その隙は、私達にとって絶好のチャンスだった。
「上ががら空きよ!」
「貰ったッ!」
それぞれの翼を広げ、一瞬でモンスターの上へと舞い上がる私達。それに気付いたモンスターが体を捻るが…もう遅い。同時に放たれた斬撃は正確にモンスターの体を捉え、ダメージを与えつつ地へ落とす。そして落ちた先には万全の体勢をしているコンパの姿。
「今よコンパ!」
「はいですっ!」
コンパの注射器の針がモンスターに刺さる。それを振り払おうとするモンスターだったが、次の瞬間動きが鈍る。注射器内の薬品がモンスターにとっては毒だったのだ。
『はぁぁぁぁぁぁッ!』
動きの鈍ったモンスターにトドメと言わんばかりに私達が上空から斬り裂く。その攻撃を受けたモンスターは甲高い鳴き声をあげ……消滅した。
「…ふぅ。中々の強敵だったわね」
「でも、皆のおかげで楽勝だったです」
そう言って力を抜く私達。これでクエストは達成、交易路は再び使える様になった筈だ。
だが、それに喜んでいられるのは束の間だった。何故なら、強力な敵との戦いがすぐそばまで近付いていたのだから……。
「……?イリゼちゃん、何不穏なモノローグしてるですか?」
「雰囲気ぶち壊す様なメタ発言しないでよコンパ…」
今回のパロディ解説
・アーブラウ
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズに登場する四大経済圏の一つ。字面だとちょっとしか似ていないが、声に出すと似ている…様な気がしないでもないですね。
・「〜〜アニメじゃ無いんだからさぁ〜」「…ネプテューヌ、本当の事だよ」
こちらは機動戦士ガンダムZZの主題歌「アニメじゃない〜夢を忘れた古い地球人よ〜」のワンフレーズ。アニメじゃない、本当の事でもない、これは小説投稿サイトです。