超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第十三話 明かされる真実

「……ふっ…ははっ、あーはっはっはっは!」

 

ラステイションの街に乾いた笑い声が響く。新兵器のデモンストレーションという名目の破壊活動により蹂躙された街には国民の気配が無く、戦闘終了と同時に静まりかえったが故にその笑い声は響き渡っていた。

 

「…何がおかしいんですか」

 

キラーマシンはネプテューヌとノワールが破壊してくれた。マシン系モンスターは私が制圧してディスクも破壊した。そして笑い声を上げている彼、ガナッシュさんはさっきまでひどく狼狽していた。

…なのに、今は心底愉快そうに笑い声を上げている。それが私にとって気がかりでならなかった。

 

「あぁ、これは失礼致しましたね」

「質問に答えて頂けませんか?」

「いやはやまさかキラーマシンが破壊されるとは…これは完全に想定外でした。そのお仲間も含め、流石はノワール様ですね」

「ふん、あんたに賞賛されても全然嬉しくないわよ」

「まあ、そうでしょうね。しかしこんな形でデモンストレーションが終わってしまうとは…」

 

私の質問を半ば無視する形で話し始めるガナッシュさん。その態度はこの状況を理解してないんじゃないかと思う位普段のそれになっていた。

 

「終わったのがデモンストレーションだけだとでも思ってるの?……覚悟は良いでしょうね…」

 

大剣を片手で持ちながらゆっくりと私とガナッシュさんの方へと歩いてくるノワール。その顔は喜びに沸く勝者ではなく、怒りを灯した断罪者の様に見えた。

 

「覚悟、ですか…何をするおつもりで?」

「それが分からない程貴方は馬鹿じゃないでしょう、せめてもの情けとして何か言い残す位の時間はあげるわよ?」

「ここで私を殺した所でどうなると言うんです?教会は掌握され、市場も我が社が独占状態。今回の件に我が社が関わっている事を知る者は少なく、今の貴女に権威はない…ここで我が社が今回の事件の首謀者が貴女で私はその犠牲となった…と、情報を流したらどうなるでしょう?」

「……っ!」

 

歯嚙みをするノワール。正直腑に落ちない点は多いけど、それでも何を言っているかは分かる。

アヴニールは事実を都合の良い形に捻じ曲げられる。ガナッシュさんはそう言っていた。

 

「ですがご安心下さい。腐っても貴女はラステイションに欠かせない存在です。素直に従ってくれるのであれば貴女もお仲間さんも悪い様にはしませんよ」

「…わたし達も悪い様にはしないなんて随分な言い方ね、悪役が合うんじゃないかしら?」

「褒め言葉として受け取っておきますよ」

 

ネプテューヌの言葉も飄々と受け流すガナッシュさん。この場だけで言えば彼は絶望的な状況の筈なのに、ここにいる誰よりも余裕を持っていた。

 

「さぁノワール様、選んで頂けますか?この場でアヴニールの一部に過ぎない私に制裁を下して自分を破滅に追い込むか、我々に投降するか…聡明な貴女であればどちらを選ぶのが正しいのか分かりますよね?」

「……っ…私、は…」

 

ノワールの声は震え、目には燃える様な怒りが宿っている。…でも、どうしようもない、どうにもならない。それが誰よりも分かっているからこそノワールはその怒りを必死に飲み込み、ガナッシュさんの提示した選択に問いを…

 

 

「--------その問いに答える必要は無いよ、ノワール」

『……ーー!?』

 

不意に建物の影から発せられた言葉に全員が驚き、振り向く。そして、ノワールとガナッシュさんが同時にその声の主の名前らしき単語を口にする。

 

「ケイ!?貴女…どうして…!?」

「神宮寺さん…何故、ここに貴女が…?」

 

ショートカットに銀髪に中性的な顔立ちを持つ少女は神宮寺ケイ(…響き的にこうな筈)というらしい。彼女はこの状況に一切の物怖じをする事なく建物の影から離れ嘆息した。

 

「…ノワール、彼女は?」

「神宮寺ケイ、今はアヴニール側の人間であり……元、ラステイション教会の教祖よ」

『…教祖?』

「教会の職員の総括者であり実質的な国のNo.2の事よ…今更何よケイ」

 

ノワールの怒りと悲しみの混じった様な視線を受けたケイさんは特に気にする訳でもなく私達とガナッシュさんの間に来る。

 

「貴女がここに来るとは…いえ、それよりも先程の言葉はどういう意味です?」

「言葉通りの意味さ、ノワールはその質問に答える必要が無い。それだけの話だよ」

「…言い方を変えましょう、何故必要が無いのですか?」

 

互いに落ち着いた態度で話す二人。だが、会話の内容を推測する限りそれは穏便な世間話では無さそうだった。

 

「…ケイ、答えなさい。私もその理由が聞きたいわ」

「まあ、こういう事さ」

 

そう言ってケイさんが取り出したのは書類の束とUSB。私とネプテューヌには意味がさっぱり分からないものだったけど…ガナッシュさんはそれが持つ意味を理解出来たのか今まで浮かべていた余裕の表情が強張る。

 

「…まさか、それは……」

「ご明察、これはアヴニールが隠蔽している違法や非合法な事業及び表沙汰には出来ない情報の束さ」

「……っ!…何のつもりですか…!」

「何のつもり、とは不思議な事を聞くね。…教祖が自国と女神にとって不利益となる存在に従うとでも思うのかい?」

 

ノワールが息を飲むのを感じる。でも、それも当然の事…何故なら、ケイさんは教会に背を向けたのでは無く、むしろ教会と国の為に動いていたと分かったのだから。

 

「ケイ……」

「最初から我々側につくつもりはなかった訳ですか…しかし、その情報とて今のラステイションではデマの一つとして処理されてもおかしくない、力のある後ろ盾のない戯言の域を出ていない…違いますか?」

「違うね、君達アヴニールが思っている程国民はアヴニールを支持していないのさ」

「…ケイ、どういう事よそれ」

 

アヴニールは支持されていない。それはあまりにも意外な言葉だった。価格と品揃えで市場を独占しているアヴニールが支持されていない、なんてそれは軽い矛盾としか思えない。

 

「確かにアヴニールは一時期支持を得ていたね。けど、一度独占状態となれば国民は否応なしにアヴニールから買わざるを得なくなる。そしてアヴニールは独占状態に甘んじて自社最優先の事業を進め続けた。そんな現状でもまだアヴニールが圧倒的支持を得ていると思うのかい?」

「自社最優先の事業…?我々がいつそんな事を…」

「ここラステイションの女神が進める事業は国民と国の事を第一に考えた、国あっての工業だ。それも分からない君達がうちの女神を侮辱するなんて…不愉快極まりないな」

 

今までずっと淡々と言葉を紡いでいたケイさんの声音に一瞬、怒気が篭る。そしてそれを感じた私は直感した。

…あぁ、この人は本当にラステイションの女神様の信仰者なんだ、って。

 

「そして、一部ながらこの騒動はアヴニールが行ったという事とそれを女神様が鎮圧したという事を知っている者もいる。…ガナッシュ、まだノワールへの脅迫を続けるかい?」

「…さしずめ、その書類とデータを廃棄する代わりに要求を飲め、という事でしょうね…」

「話が早くて助かるよ。…僕が要求する事は一つ、アヴニールの教会からの全面退却さ」

「……最大限、働きかけてみる事を約束しますよ…」

 

背を向け去るガナッシュさん。ノワールはそれを追おうとするも…今追うのは必要な事じゃないと思ったのか姿勢を正し、ケイさんの方を向く。

 

「…ケイ…貴女、裏切ったんじゃなかったのね…その、ありが--------」

「ノワール、これは紛れも無く守護女神戦争(ハード戦争)ばかりに意識を傾けて国を二の次にしていた君の自己責任だ。ああは言ったけど君こそ女神の自覚が足りないんじゃないかい?」

「な……っ!?」

「全く…大陸統一しても国民がついてこなければ本末顛倒だと常々言っていた筈だよ?」

「そ、それは…って言うか、そういうケイだって…!」

「…だが、これは国どころか君に任された教会すら守りきれなかった僕にも責任はある…すまなかったね、ノワール」

「…いえ、貴女は良くやってくれたと思うわ…ケイが教祖で助かっていたもの、私こそ悪かったわ…」

 

言葉を交わし合う二人の少女。そこへ吹いた一陣の風は二人の銀髪を優しく揺らしていた。

 

 

 

 

「さぁノワール、洗いざらいに話してもらおーか!」

「何で取り調べ風なのよ…」

 

ケイさんと共に教会(驚く事にもうアヴニール派の職員さんはいなくなってた。ガナッシュさん仕事早っ!)へと移動した私達はノワールから色々と話を聞く事とした。…勿論、ノワールの状態について、ね。

 

「いやーちょっと雰囲気出したくてさー…で、ほんとにさっきの姿は何だったの?」

「変身したねぷねぷにそっくりだったです」

「まあまずはそれよね、さっきの会話で予想したかもしれないけど実は私ラステイションの女神なのよ」

『え!?』

「訳あって正体を隠してたのよ、悪かったわね…それと、貴女達のおかげでここまで取り戻す事が出来たわ、ありがとう」

 

ノワールの告白に目を丸くするネプテューヌとコンパをよそに彼女はさらっと話していく。…結構重要な秘密を話してる筈なのにノワール軽過ぎない…?

 

「ま、まさかノワールがラステイションの女神様だったなんて…」

「ねぷねぷが変身した時と同じ位びっくりですぅ」

「…ま、私は大分前から気付いていたけどね」

「嘘ぉ!?」

「…いや、ノワール…流石にこれは気付くから…」

「って事はイリゼもなの!?」

 

…どうやらノワールは完璧に隠せてたつもりらしかった。そりゃ確かに確証は持てなかったけど…ちょっとノワールって抜けてるところあるよね…。

 

「いきなりびっくりだよ…あ!ノワールはわたしの事知ってるんでしょ?お願い、教えて」

「んー、どうしようかしら…」

「まさかの焦らしプレイ!?ノワールぅ、勿体ぶらずに教えてよ〜」

 

擦り寄るネプテューヌ、それをあしらうノワールの顔はどこかまんざらでもなさそうな様子だった。

 

「どうせもう殆ど答えが出てる様なものなんだから教えてあげたら?」

「あいちゃんはもう分かってるですか?」

「えぇ、ノワールが変身した時にね」

「…え?って…うぇぇぇぇえぇぇっ!?ね、ねぷねぷがもしかして…もしかするです!?」

「ここまでくれば流石に分かるよね、情報マトリクスが四つ貯まった状態レベルだし」

「ちょ…何で皆分かるのさ!?アレ!?わたし一話か二話飛ばしちゃった!?」

 

一人だけ分からずテンパってるネプテューヌを眺める私。そんな私をアイエフは妙な顔で見ていた…何故?

そしてついにノワールがネプテューヌの正体を口にする。

 

「やれやれ、仕方ないわね…ネプテューヌ、貴女はプラネテューヌの女神パープルハートよ」

「……マジっすか?」

「マジっすよ?…って独特な返しさせるんじゃないわよ」

「マジなんだ……え、わたしで良いの…?」

「良いの?じゃなくて貴女が女神なのよ」

「あ…!だからねぷねぷは空から降ってきたんですね…」

「ええ、空から降ってきたり地面に刺さったり変身したりと人間らしくない点は多かったじゃない」

「いや、女神でも空から地面に突き刺さったら普通死ぬわよ…」

 

空から降って地面に突き刺さる。これは普通にギャグ漫画の域だよね、下手するとギャグ漫画ですら無事じゃ済まないレベルだし。

 

「…じゃ、次はイリゼの事ね」

「へ?私?」

「私?って…貴女、自分の事をよーく思い出してみなさい」

「……?…うーんと…」

 

私の事…1.記憶喪失、2.変身出来る、3.返信した姿はネプテューヌやノワールと似てる、4.遺跡で眠ってた、5.まあまあスタイルは良い方(自称)…って事位かな?……へ?

 

「え、いや…え!?マジなの!?」

「いや誰に何聞いてるのよ…取り敢えず落ち着きなさい」

「いやいや落ち着けないよ!ノワール、私は!?私はどうなの!?」

「あー…うん、隠す事でもないし正直に話すわ」

 

頭を軽くかきながらのノワールの言葉に私の期待は跳ね上がる。遂に…やっと、私の事について分かる日が…

 

「…知らないわ」

「……え?」

「知らないのよ、貴女の事は。私は守護女神全員の顔と本名を知ってるけど貴女の顔は今まで知らなかったしイリゼって名前も初耳だったわ」

「…そん、な……」

 

私の中で期待が音を立てて崩れさる。今までで一番可能性を感じた分、それが外れたと分かった時のショックは完全に私の予想を超えていた。

 

「イリゼ…」

「力になれなくて悪いわね…でも、その力は十中八九女神の力よ、だからどこかに貴女の事を知っている人がいると思うわ」

「ほんとに…?」

「ええ、誰にも知られていない女神なんてそもそも女神化出来ないもの」

「それこそイリゼの事はいーすんが知ってるんじゃない?知ってそうなキャラだしさ」

「知ってそうなキャラって…でも、まあ…そうだよね」

 

前の…って言ってもまだ数ヶ月も経ってないけど…私なら落ち込んでいたかもしれない。でも今の私なら、まだ希望が潰えた訳じゃない、可能性はまだ残ってるって思える。そう思えるのは、きっと…

 

「…イリゼちゃん、急に皆を眺め出してどうしたんです?」

「ううん、何でもないよ」

 

皆の…友達の、お陰なんだと心から思う。

 

「さて、と…取り敢えずこんな感じで良いかしら?」

「うん、教えてくれてありがとねノワール」

「良いわよ別に、それより貴女達はホテルに戻るの?」

「ええ、もう日も暮れちゃったからね」

「なら今日は教会に泊まっていくと良いわ、貴女達はここの恩人でもあるもの」

 

ノワールからのお誘いに私達は顔を見合わせた後、満場一致で頷く。ホテルも何かしらの被害を受けてるかもしれないし、そもそも断る理由も無いもんね。

 

「とか言って実はノワールが泊まって欲しいだけなんじゃないの?」

「ち、違うわよ!そういう方向に持って行かないでくれる!?」

「…素直になった方が楽だよ、ノワール…」

「だから…何で取り調べ風なのよっ!」

 

最早見慣れた光景となったネプテューヌとノワールのやり取りを苦笑いしながら眺める私達。

ノワールが女神ブラックハートであった事。ネプテューヌが女神パープルハートであった事。それを知っても私達の仲は全く変わらなかった。それが良い事なのかどうなのかは私には分からないけど……

 

「…これが、ずっと続いてくれたら良いな」

「全然良くないわよ!もうネプテューヌしつこい!」

「え?アカこうらみたい?照れるなぁ」

「そうは言ってないし褒めてもいないわよぉぉぉぉぉぉっ!」

 

今日も、私達パーティーはとっても賑やかだった。




今回のパロディ解説

・情報マトリクスが四つ貯まった状態
Fate/EXTRAでのシステムの一つ。四つ貯まった状態=相手(のサーヴァント)の真名が分かった状態なので既に正体がバレバレなノワールは正にその状態じゃないでしょうか。

・アカこうら
マリオカートシリーズのアイテム、アカこうらの事。SFにおけるマイクロミサイル級の追尾能力がある(気がする)アカこうらに苦しめられた方は皆様の中にもいるのでは?

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