超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative 作:シモツキ
宗教勧誘と訪問販売は本質的には同じだと思う。一個人が持っていける範囲での情報や物を使って、手八丁口八丁に対象者に勧めるという点において。
だからその勧誘者、販売者には高い技量が求められる。だって話を持ちかけられた側は別に宗教や商品に興味があって自ら訪ねてきた訳じゃないからね。
……と、何故私が開幕早々妙な独白をしているかと言うと…
「魔王様印のマグカップに魔王様シルエットの脂取り紙、魔王ユニミテストレカに魔王様シチュディスク。どれも非売品のレアグッズだよ?」
「ま、またえらく幅広い商品展開をしてるんですね…」
「これだけじゃないよ?今公式ショップではスタンプラリーも開催しててうんたらかんたら……」
『…………』
ダンジョンであった魔王信仰者のとにかく長い勧誘を受けていたからだった。いや、もう体感的には数十分は経ってるんじゃないかな…。
「……と、言う訳でどうかな?魅力的でしょ?」
『すぅ…くぅ…』
「寝てる!?」
「なーんてね。でもお兄さんの説明長過ぎてほんとに眠くなるレベルだったよ?」
「それは語り尽くせない程の魅力があるって事さ」
そう言う青年の顔は怪しい新興宗教の宣教師のそれではなく、毎日が充実してる人のものだった。でも、だからと言って『あ、これ良いなぁ』とは流石に思えない。
「そうかなぁ…そもそも何者なのさ?えっと、魔王…ユニ……?」
「ネプテューヌ、そこで切ると今度ノワールに会った時に殴られるよ?」
「そ、そうだね…えと、ユミニテス?」
「ユミニテスじゃなくてユニミテスだよ」
「バルサミコスさん、です?」
「バルサミコス!?全然合ってないよ!君わざとじゃないのそれ!?」
それは早計だよ青年さん、コンパの天然さを舐めちゃいけない。…なーんて思う位には私達に…魔王ユニミテス?…教は響いていなかった。
「取り敢えず話進めようよ…その魔王ユ○○テスさんは何者なんですか?」
「え、君それどうやって発音してるの…こほん、ユニミテス様は世界を笑いと感動に包んでくれる魔王様さ」
「映画の宣伝みたいな魔王ね…残念だけど入信する気は無いわ。他を当たって頂戴」
「まぁまぁそう言わずに、ほら缶バッチも付けるよ?」
「だから要らないっての!」
「ただより高いものは無いっておじいちゃんも言っていたです。だから返すです」
「僕からの気持ちだから受け取ってよ。それじゃ、僕は次の勧誘があるからこれで!」
青年は半ば押し付ける様な形で私達にグッズセットを渡した後すぐにダンジョンの奥の方へ行ってしまった。そっちに人いるかな…そして大丈夫かな…?
「…どうするのよ、これ」
「要らないとはいえここに捨てていく訳にはいかないし…」
「お持ち帰り決定、ですね…」
と、私達は若干げんなりしてるのに対し、ネプテューヌはどういう訳だかグッズセットをごそごそやっていた。
「おぉー!ユミニテスには全然興味ないけどグッズは結構良い感じだよ?」
「ユニミテスね…まあ、八百万の神とか言うし埃被らせとくよりは使った方が良いかもね」
「でしょ?特にこのディスクなんかプラネテューヌやラステイションで見つけたのと似た感じの……え?」
『え?』
「…光りだしたんだけど、どうしよう…」
『似た感じって言うかもろ同じ物じゃん!』
例のディスクと同じ輝きを見せる魔王様シチュディスク。それと同時に私達の袋の中のディスクも輝きを見せる。まあ、簡単に言えば…バトルパートである。
「騙したわね…!」
「ねぷねぷ、イリゼちゃん、変身です!」
「勿論!」
「あいあいさー!……うーん…」
「…ねぷねぷ?」
私とネプテューヌは威勢良く女神化を…と思いきや、何故かネプテューヌは腕を組んで考え込み始める。
「いやほら、ノワールは変身する時『アクセス!』って言ってたでしょ?やっぱ掛け声って良いなーと思って…」
「え…それ今考える事…?」
「今考える事だよ!フェアライズとかトランスとか良い感じじゃない?」
「うん、それ両方パートナーが必要な奴じゃん」
「そっかぁ…じゃあ何が良いかなぁ…」
「別に単語じゃなくても良いんじゃない?文になっててもそれはそれで…」
「良いから早く変身しなさいよ!」
自分にも関わる事なのでつい会議に参加してたらアイエフに怒られてしまった。流石に二人に戦闘を任せる訳にはいかないので私とネプテューヌは急いで決めて言い放つ。
「よーし、いくよイリゼ!」
「うん、せーのっ!」
「ねっぷねぷにしてやんよー!」
「パーティーメンバーを震撼させた力を今、ここに!」
「これで良かったのでしょうか…?」
「ええ、成功です。きっとユニミテス様も喜んでおられるでしょう」
「で、では約束通りこのスタンプカードにスタンプを!」
「はい、これで宜しいですね?」
ダンジョン奥地の一角にて会話をする二つの人影。一方はスタンプが埋まった事を子供の様に喜ぶ青年。もう一方はその青年と、青年から聞いた結果を前にどこか含みのある笑みを浮かべる女性。
「これで魔王様抱き枕が手に入る!…ところでコンペルサシオン様はこれからどちらへ?」
「私は再びリーンボックスへと向かいます」
特に深い意味は無かったのか、それを聞いた後その場を去る青年。その後ろ姿を見ながら女性は満足そうに呟く。
「…貴方のおかげでネプテューヌ達がモンスターを呼び出す証拠を作れたのですからね」
抱き枕を貰える権利を得た事で浮かれている青年は、自身が四人の少女を陥れる悪事に加担していた事を知る由も無い…。
「今度こそ面会出来ると良いんだけど…」
私達はダンジョンを越えた先の街で優雅なティータイム…という訳にはいかず、急いで元の街へ戻ってきた。流石にさっきの出来事をスルーする訳にはいかないし、更に…
「あいちゃん、さっきの話は本当です?」
「ええ、ユニミテスの使いを名乗る魔王信者が増えてるらしいのよ…でも、そんな魔王聞いた事ないわ」
「ていうかエネミーディスク配る宗教が流行る訳ないよねー」
とこの様にどんどんキナ臭くなって来たからである。そして数分後、
「やっほーイボ何とかさーん、また来たよー」
「またお邪魔しますです」
「おやおや、貴女方は確か先程の…」
私達は目的地である教会へと入った。ラステイションと違ってまともに機能してるならここに報告するのが最善だもんね。
「急用なんだけど良いかしら?」
「と、申しますと?」
「さっき魔王様信仰の人達に勧誘されて、モンスターが出てくるディスクを貰ったです」
「むむっ!?モンスターが出てくるディスクとな!?その話、詳しく聞かせてくれんか?」
「え、えぇ…ではまず経緯ですけど……」
予想外に食いついてくるイヴォワールさん。ただこれはむしろありがたい反応なので私達は早速説明を始める。そしてそれをイヴォワールさんは疑う事無く聞いてくれた。
「…とまあこんな感じよ。だからすぐにグリーンハート様に伝えて欲しいの」
「…確かに、ラステイションの様になる事だけは避けねばならぬな」
『…ラステイション(です?)』
「早速グリーンハート様に伝えさせてもらおう」
着々と話が進む中、私はコンパと顔を見合わせる。理由は簡単、私達の説明の中でラステイションなんて単語は一度も出なかったからだ。
しかしそれを訊く前に話は進んでしまう。
「お主達、良くぞこの事を伝えてくれた。褒美に今夜開催しれるパーティーに特別に招待しよう」
「おおっ!イボっち太っ腹!やっぱ美味しいものたくさん出るの?後々女神様も来る?」
「イボっち!?…こほん、保証は出来ませんがもしかしたら出席なさるかもしれませんな」
「本当!?」
「会えると良いですね、あいちゃん」
パーティーへの出席許可、女神様へ会える可能性の浮上。もうびっくりする位都合の良い事が重なって皆は上機嫌になるけど…私は反対にある人物を思い出す。
----ガナッシュさん。優しく丁寧な方だと思いきや、私達を嵌めた主犯格の人物。…もし、二度も同じ様な事が起きるとしたら?
「…リゼ…イリゼ、何ぼーっとしてるの?」
「へ?あ…ごめん、ちょっと考え事をね…」
「ふぅん…パーティーの時間までに宿を取りに行くんだってさ、ぼーっとしてないで着いてきてよ?」
「うん…あれ?アイエフは?」
ネプテューヌとコンパは出入り口に足を向けているのに対してアイエフは少し不思議そうな顔をしながら留まっている。…何故に?
「あいちゃんはイボ爺さんに話があるって言われたんです」
「アイエフ一人に?」
「えぇ、どういう訳だか私一人によ」
「そう…じゃ、先に行ってるね」
一人だけというのに一抹の不安は感じるけど…まあ、アイエフなら大丈夫だよね。
そう思った私は二人の後を着いて行き、宿を探しに行くのだった。
「…で、何よ話したい事って?」
ねぷ子達が教会を出たのを確認してから私はイヴォワールに問いかける。それに対しイヴォワールは今までよりも厳しい顔をしながら口を開く。
「その前に一つ。貴女はグリーンハート様を信仰しているものの、この国の者ではない…更に言えば、どの国にも所属していない根無し草である。違いますか?」
「…調べたのね」
「失礼ながら調べさせて頂きました」
国の主要機関である教会の力を持ってすれば私の情報を調べる事は困難じゃない。問題は、何故私の情報を調べたか…。そう思案を巡らせる私の頭に一つの噂が浮かぶ。
「…リーンボックス教会の長は自国民以外は他国の信者を一切認めないと聞くわ、それが貴方だったのね…私を異端者として始末する気?」
「本来ならばそうしていただろう。だが、今はこの奇妙な巡り合わせに感謝しましょう」
「…どういう意味?」
「貴女の連れにいる少女…ネプテューヌを始末して貰いたいのです」
「……っ!?」
イヴォワールの口から出た言葉は私の予想を大いに越えていた。ねぷ子を始末?…冗談じゃない。
「意味分かんないわよ!どうしてリーンボックスの教会がねぷ子を始末して欲しいなんて言うのよ!」
「あの者はグリーンハート様だけでなく、ゲイムギョウ界全体に災いをもたらす者。遅かれ早かれグリーンハート様が制裁を下すだろうが、私は女神様が御手を汚す事は出来る限りして欲しくない」
「…だから代わりに始末しろって言うの?」
「見事、彼女を亡き者に出来たなら貴女をリーンボックスの正式な一員として認めよう」
「…私が、リーンボックスに…?」
自分で選んだ生き方とは言え、自国が無いのは正直寂しい。そして、憧れのグリーンハート様の信仰者として認められると言うのは願っても無いチャンス。魅力を感じないと言えば嘘になる。
……でも、
「…だからって、ねぷ子を殺すなんて出来ないわ…!」
「なら、尚の事この毒薬を受け取るのです。この毒薬は邪なる者にのみ効果を発揮し、清き者には無害とされているのです」
「な、何よその妙に都合の良い毒薬は…」
「貴女があの者を清き者と信じるのであれば、堂々と飲ませれば良いだけの話です」
誰にでも効果のある毒薬でありながら、特定の者にのみ効果があると宣伝する事で対象を陥れる。…まるで魔女狩りみたいね、リーンボックスの雰囲気的には微妙に合うかもしれないけど。
「…もし、断ったら?」
「例え国民に不安を与えてしまおうが、邪なる者の疑いがある者は軍隊を使ってでも排除するだけじゃ」
…それはつまり、私に選択肢など無い、という事だった…。
「…わたくしと、お友達になって下さいな」
一見すれば、それは単なる仲良くなった相手からの言葉。それを言うのも返答するのも多少の気恥ずかしさこそあれど、決して特別でも何でも無い言葉。
…でも、もしそれが普通の相手じゃなかったなら?
「お、おおお友達!?わわわ私が女神様とですか!?」
美しくも愛らしさのある表情、女神の名に恥じぬ豊満なスタイル、聴く者を虜とする声…私の目の前にいるのは、紛れもなく女神グリーンハート様だった。
「…やはり、女神とそういった近しい関係になるのは抵抗があるのですね」
「いえいえいえいえ!むしろ光栄です!」
「では、今からわたくし達はお友達ですわ。宜しくね、あいちゃん」
「あ、あい…あいちゃん……!?」
憧れのグリーンハート様に愛称で呼ばれて、私の頭は沸騰しそうになる。
きっかけはたまたま間違えてグリーンハート様の部屋に入ってしまった事。普通ならすぐに出て終わりだけど…偶然に偶然が重なった結果…今、私はグリーンハート様とお友達となった……ちょっとマジで信じられないわ。
「お友達なのですから良いではないですか。なのであいちゃんもわたくしを『ベール』と呼んで下さいな」
「ベール…それがグリーンハート様の本名なんですね」
「えぇ。あ、でも親しみを込めてべるべるでもべるちゃんでも好きな様に呼んでも構いませんのよ?」
「あいちゃん…べるべる…はぅぅ……」
「あ、あいちゃん!?」
グリーンハート様とお友達になれて、更に愛称で呼び合う事を想像した私は緊張と興奮と幸福感に包まれ気絶してしまうのだった…。
「ふふっ、可愛かったですわあいちゃん…」
あれから数時間後。目を覚ましたあいちゃんとわたくしは色んなお話をし、最後にはメアド交換も行いましたわ…もうこれは紛れもなくお友達ですわね!
「…今より平和な時にあいちゃんと出会えていればもっとたくさんお話が出来たりゲームをやれたりしましたのに……いえ、むしろこれは…」
グリーンハートことわたくしベールは現状かなり大きな問題を抱えていますわ。それを人に話す訳にはいかず、これまでは一人で解決するしかないと思っていましたが…
「…あいちゃん。貴女なら、もしかして……」
もしかしたらあいちゃんを危険に合わせてしまうかもしれない。嫌われてしまうかもしれない。それでも、わたくしは…彼女に、勝手なお願いをしてみようと決める。
「…わたくしに見せてくれたあの笑顔…信じてみますわ」
今回のパロディ解説
・バルサミコス
果実種の一つである『バルサミコ酢』の事。確かにユニミテスは初耳時には覚え辛いものですが…どれだけ天然ならばそれをバルサミコスと間違えるのでしょうか。
・フェアライズ
FFFことフェアリーフェンサーエフの所謂変身時の台詞。これはフェンサー、パートナー妖聖、フューリーの全てが揃わないと無理なので当然ネプテューヌは出来ません。
・トランス
ラクエン・ロジックでの所謂変身時の台詞。こちらも盟約を結んだ女神か人がいなければ無理です。…女神?…コンパかアイエフが盟約者になればいける可能性が…?
・ねっぷねぷにしてやんよ
ボーカロイド・初音ミクの『みっくみくにしてあげる』の変化バージョン。台詞としては可愛いものではありますが…ねっぷねぷとは一体…?
・パーティーメンバーを震撼させた力を今、ここに!
マクロスF最終話でのルカ・アンジェロー二の台詞。別に三機の無人機があり得ない機動でモンスター殲滅なんてしてないので安心して下さい。