超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第十七話 謀略を覆す一筋の希望

「遅いねーあいちゃん」

 

適当な宿を取ってから数十分後、私達は三人で雑談をしながらアイエフを待っていた。

 

「寄り道ですかね?」

「案外グリーンハート様に会いたくてこっそり忍び込んでたりして…」

「…………」

 

取り敢えずアイエフの事だから迷子だとか変な人に絡まれてるとかは無いと思うからその心配は無い。…だから、そこは気になる所じゃない、そこは…。

 

「…イリゼ、あーん」

「へ?あーん……ぶふぅっ!?」

 

思考の迷宮に入りそうになっていた私の口元へ不意に運び込まれる何か。反射的にそれを口に入れた私は…口の中を襲う突然の辛味に目を白黒させる。

 

「辛ぁ!?な、何これ辛いんだけど!?」

「やっぱり?見るからに辛そうだもんねぇ」

「スラまんベスは辛かったんですね」

「私実験台扱い!?」

 

周りにこの二人しかいない場で普通に長考出来ると思った私が軽率だった。あぅぅ…舌がヒリヒリするよ……。

 

「それでイリゼは何考えてたのさ?」

「…考え事してたの分かったの?」

「一人静かにしてたらそう思うです」

「そういう事ね…どうもトントン拍子で話が進み過ぎてると思わない?」

 

教会に魔王信仰の事を話してからの展開はラステイションの時とは対称的に難なく進み過ぎてる気がする。勿論ラステイションが普通って訳ではないと思うけど…それにしても話が上手くいき過ぎるのは逆に怖い。

 

「うーん…そうかな?怪しい宗教の事教会に教えて、そしたらちゃんと聞いてくれて、ご褒美を用意してくれたってそんな変かな?」

「だって私達はイヴォワールさんと会ったばかりで、しかも話の内容は実際見た人じゃなきゃそう簡単には信じられないものなんだよ?なのにすんなり聞いてくれたししかもご褒美がパーティー招待なんて…」

「教会の人なんだから人を信じるようにしよう!って考えてるんじゃない?」

「まあ確かに疑い深い職員さんよりはあり得そうだけど…」

 

私達の相手をしてくれたイヴォワールさんは『優しいおじいさん』と言う感じで人を騙す様な人間には見えなかった。…けど、ガナッシュさんの前例もあるし…。

 

「えっと…イリゼちゃん、イボ爺さんはわたし達を騙してどうする気だと思うです?」

「……え?」

「あれ?わたし何か変な事言ったですか?」

「い、いやそんな事は無いけど…そうだよね、どうにかする気がなきゃ騙さないもんね…」

 

私は展開ばかりに意識が行っていて、予想通りだった場合の動機については一切考えてなかった。有り体に言ってしまえば、私は騙す事による利益があるのかどうか、あるとすればそれは何なのかを失念していた。

 

「…考え過ぎ、って事かなぁ…」

「そうなんじゃない?だって騙される理由無いじゃん」

「まあね…けど何かあるかもだし油断はしないでよ?」

『はーい』

「ただいまー」

 

二人が揃って返事をすると同時に入り口付近から聞こえてくる声。アイエフが帰って来て(って言ってもここはホテルだけど)私達パーティーは合流を果たしたのだった。

 

 

 

 

盛大に並べられた豪勢な料理。気品と高貴さを感じられる会場。その会場に物怖じせずそれぞれの時間を楽しむ招待客。リーンボックス教会の一角は、文字通り立食パーティーの場となっていた。

 

「美味しそうな料理がいっぱいですぅ」

「食べるよーピンクのあくま位食べちゃうよー!」

「あれは最早食べると言うか何でも飲み込むってレベルだよね…?」

「おやおや皆さん、楽しんでいますかな?」

 

私達の姿を見つけ、声をかけてくるイヴォワールさん。彼の表情は…やはり、人を騙す様な輩のそれには見えなかった。

 

「うん、あ…せっかくだからお勧めのお料理教えてくれないかな?こんなに多いと目移りしちゃってさー」

「はっはっは。でしたらこの『山越シェフ特製・トリュフとフォアグラのキャビア添え』はどうじゃ?」

『うわ、凄っ…!』

 

そう言ってイヴォワールさんが紹介してくれた料理は…何というか、凄かった。ほんとに凄い感じだった。

…逆に説明し辛い程凄かっただけであって私の語彙が貧相だとか食レポ下手だとかじゃないんだからね!?

 

「世界三大珍味を惜しげも無く使ったリーンボックス限定の超高級料理じゃ」

「流石リーンボックス!まさに高級食材の三位一体だね!」

「一体どうやって作ってるんです?」

「新鮮なトリュフとフォアグラの上に世界的に有名な山越シェフがキャビアを乗せ、更にもこみちシェフがオリーブオイルをかけた、化学調味料0の素材の味を活かした料理じゃ」

「…無駄に贅沢な料理ね…てか味付けがオリーブオイルだけって…」

「しかもよくよく考えたら名シェフ二人は実質キャビア上に乗せてオリーブオイルかけただけって言うね…」

 

ほんとに凄いのは事実っぽいんだけど…どうも調理工程に突っ込みを入れたくなる料理だった。

そうして私とアイエフが『何ていうか、ねぇ…』みたいなやり取りをしてる間にいち早くネプテューヌがお皿に載せる。

 

「じゃあ、早速この大きいのを頂きまーす」

「あ、じゃあ私も食べ--------」

「……ッ!ねぷ子、食べちゃ駄目っ!」

『……!?』

 

突然血相を変えて叫ぶアイエフに私とコンパはビクッとなる。……が、当のネプテューヌは余程料理に意識が行っていたのか口に入れてしまう。

 

「もぐもぐ…ごくん…おぉー!世界三大珍味とオリーブオイルの何とも言えないハーモニー!」

「…あ、あれ?大丈夫なの…?」

「大丈夫、って…?」

 

ネプテューヌの言葉に目を丸くするアイエフ。少なくともそれは狙っていた料理を取られた人の反応なんかじゃない。

 

「あ、いや…な、何でもないわ。気にしないで」

「なになに?あいちゃんも食べたいならはいどう--------」

『ネプテューヌ(ねぷねぷ・ねぷ子)!?』

 

てから滑り落ちるフォーク、落下し割れるお皿。

----そして、床へ倒れ込むネプテューヌ。それはどう見ても、ドッキリだとか躓いただけの様には…見えない。

 

「……っ…ぅ…」

「ねぷねぷ!急にどうしたです!?ねぷねぷ!?」

「…イボ何とか!貴方ね…ねぷ子に毒を盛ったのは!」

「毒……!?」

 

迂闊だった。動機が無いなら騙す訳がない…それは確かにその通り。…最も、それは本当に動機が無い場合でしかない。そんな単純な事を私は失念していた。

その事に後悔しながら顔を上げた私の先には…冷酷な表情を私達に向けるイヴォワールさんの姿。

 

「…これで彼女が邪の者と証明されましたな」

「邪の者って…あんなの誰が飲んでも猛毒に決まってるじゃない!」

「…待ってアイエフ、アイエフはこの件について何か知ってるの…?」

「……っ…それは…」

「者共、今すぐにこの邪の者四名を捕まえるのだ!此奴等はグリーンハート様に仇なすユニミテスの使いじゃ!」

『……ッ!?』

 

次々と会場になだれ込んできたリーンボックスの教会職員が私達を取り囲む。当然ながら、かごめかごめを始めようとかいう雰囲気など無い。

 

「ユニミテスの使い…!?一体何を…!」

「黙って我々に投降しろ!」

「い、痛いです!離して下さいです!」

「ちょ、痛いってば!お願い離してっ!」

「そのまま連行せよ。なぁに、お主達には暫く牢に入って--------」

「や、止め……止めろって言ってるで…しょうがッ!」

 

こんな一方的な容疑をかけられで黙っていられる私じゃない。女神化と同時に私を捕まえようとする職員を振り払い、同時にネプテューヌ達を掴む職員を蹴り飛ばす。

 

「な……ッ!?その姿は…!?」

「下がって頂けますか?そうで無ければこの場で両断するだけです」

 

私の姿に動揺し、数歩下がる職員達。そんな彼等に対して私は長剣を構える。

 

「…話は聞いていたとは言え…実際に見ると驚きを隠せないものですな……姿ばかりグリーンハート様に似ていて忌々しい…」

「…どういうつもりなのか説明して貰えますか?」

「教会が国、そしてゲイムギョウ界に仇なす者を排除しようとする事に説明が必要ですかな?」

「…ハナからその考えで呼んだって訳ですか…退いて下さい」

 

きちんとした説明を聞く事、誤解を解く事。それが穏便且つ早期の解決に繋がる事は勿論分かってる。でも、相手がまず話し合いをする気がなく、こちら側に余裕がある訳でも無いとなればそんな事は言っていられない。

 

「それは出来ぬ相談じゃ」

「…貴方達が私に勝てるとでも?」

「そちらこそ、この場を『全員で』切り抜けられるとでも?」

「……っ!」

 

イヴォワールさんが手を挙げると同時に各々武器を取り出す職員達。勿論普通の人が相手なら武器のあっても無くても負ける事はまず無い。…包囲されている状態で、意識を失ったネプテューヌと一般人よりは強くても武器持ちの複数人を同時に相手出来る程じゃないコンパとアイエフを守らなきゃいけない状態で無ければ。

 

「さて、どうしますかな?」

「イリゼ…」

「イリゼちゃん…」

「…………」

 

イヴォワールさんを睨み付けた後…長剣を構える腕を下ろし、女神化を解く私。それを見た職員さん達はすぐさま私を取り押さえにかかる。

 

「イリゼ…良いのよ?貴女は逃げても…」

「ううん。私一人逃げられたって…負い目しか残らないから」

 

再び捕らえられる私達。そして、イヴォワールさんの指示の元…私達は教会に拘束される事となった。

 

 

 

 

「…あいちゃん、あれから何時間位だったですか?」

 

コンパの質問にケータイで時間を確認して答える私。最初こそこれで連絡を…と思っていたけど、どういう訳だか(いや、場所的には当然ではあるけど)圏外になっていて全く連絡が取れない。

…私達は、リーンボックス教会の『牢』に閉じ込められていた。

 

「コンパ、ねぷ子の様子は?」

「暗くてよく分からないんですが…息も苦しそうで、体温もどんどん下がってるです。…このままじゃ…」

「…コンパにはどうにか出来ないの?」

「む、無理言わないで欲しいです…。簡単な診断やお薬の選択なら出来るですけど、毒の治療なんて…それに第一、こんな暗くて衛生も良くない場所じゃ…」

 

目に涙を浮かべながら話すコンパの返答を聞いてから私は無茶な事を言ってしまったと後悔する。こんな状況、こんな場所でまともに治療出来る人なんてまずいないのに…。

そして、私達の気分を沈ませる要因はもう一つある。

 

「…イリゼちゃんはどうなったんです…?」

「…分からないわ…イリゼだけ無罪放免、なんてなるとは思えないし別の所に閉じ込められてると思うけど…」

 

あの時、イリゼだけは別の場所に連れて行かれた。理由としてはイリゼの力が関係してるのだと思うけど…ねぷ子同様、排除したいならあの場で毒入り料理を食べさせるでしょうし、わざわざベッドの場所に連れて行く必要性が思い当たらない。

 

「ねぷねぷ…イリゼちゃん…ごめんなさいです…。わたし、二人が大変な状態だって分かってるのに…何もして…あげられないですぅ…」

「……っ…」

 

コンパの言葉に私は胸が締め付けられる様な感覚になる。コンパは何も悪くない、この状況で二人を助けるなんて無理もいい所の話。…本当に、悪いのは……

 

「…私のせいだ…私が、ベール様の事で浮かれて毒の事を忘れてしまってたから……ぐすっ…」

 

視界が歪み、頬に濡れた感覚が伝う。人前で泣くなんて普段の私なら何としても避けたい事だけど…辛くて、悲しくて、自分が許せなくて、涙が止まらない。

そして、私は無意識に助けを求める。

 

「お願い…誰か助けて…助けて、ベール様……」

 

自業自得で招いた災い何だから助けを求めるのはお門違いだし、誰も助けてくれる訳が無い。だから、私の願いは静かな牢の中で、私達以外の耳に触れる事もなく消え--------

 

「わたくしを呼びまして?あいちゃん」

「……ベール、様…?」

 

牢に響く声。その声の主は…こんな私にすら手を差し伸べ、私達を救ってくれようとする…敬愛するグリーンハート様その人だった。

 

 

 

 

「どうして私達が捕まってるって分かったんですか?」

 

あれから十数分後、ベール様に助けてもらった私達はベール様の部屋に来ていた。ねぷ子をベール様のベットに降ろし、コンパに軽くベール様の事を説明した後私はずっと気になっていた事を口にする。

 

「女神ですもの、パーティーの参加者を調べる事など容易ですわ」

「じゃあ、ベール様もパーティーに出るつもりだったんです?」

「えぇ、本来ならあの様な退屈なパーティーより積みゲー処理を優先する所でしたのだけど、あいちゃんがゲストで参加するとなれば話は別ですわ。それで、会いに行こうと思ったら…」

「そういう事ですか…。…あの、因みに最近ベール様が部屋に引き篭もっていたのは…」

「積みゲーを崩すのと、ネトゲが忙しかったからですわ」

「あいちゃん、リーンボックスの女神様ってやっぱり…」

 

そう、悔しいけどねぷ子の言う通りベール様は重度のサブカル…特にネトゲ…ユーザーだった。…ま、まあ私は親しみ易くて良いと思うけどね!…節度を持ってくれているのなら…。

 

「…取り敢えず、今回の件の詳しい事情と毒を盛られた彼女の事を話して貰えまして?」

「あ、はい勿論です」

 

コンパと二人でねぷ子の事と経緯を話す私達。ベール様は時々質問をするものの、基本的には黙って聞いてくれた。

 

「…まさかイヴォワールが…それに、ユニミテスの使いと言うのも気になりますわ…」

「これからどうするです…?」

「まずはこの子…ネプテューヌの解毒を優先しますわ、さっきよりも顔色が悪くなってる様ですし」

「どういう毒か分かりますか…?」

「ふふっ、勿論…ここにある通りですわ!」

 

自信満々でネットの匿名掲示板を私達に見せてくるベール様。……う、うぅん…。

 

「…思っていたより、何だか凄い人です…」

「な、何か今コンパさんとあいちゃんとの距離がグッと開いた様な気がしましたわ…気のせいかしら…?」

「き、気のせいですよ!実際毒についても解毒剤についても分かりましたし!…それで、あの…もう一つお願い出来ますか…?」

「えぇ、何ですの?」

 

解毒について一通り分かった所で私はイリゼの事を口に出す。解毒剤は最悪私達だけでも何とかなるけど、教会の中を探し回る必要のあるイリゼはベール様の力を借りなきゃどうにもならない。

 

「さっきも話した通り、イリゼだけは別の場所に連れて行かれちゃったんです…場所、分かりますか…?」

「残念ながら、分かりませんわ…でも、安心して下さいな」

「え…?…もしかして、また匿名掲示板です…?」

「流石にそれはネットで聞いても分かりませんわ…そうではなくて、わたくしが信用している付き人に捜索を頼むのですわ」

「分かりました、じゃあ早速解毒剤の素材収集に行くわよコンパ」

「はいです!」

 

解決の目処は立った。ならば後は行動あるのみよ…ごめんね二人共。だから待ってて頂戴、ねぷ子、イリゼ。

 

「…ぅ…あ…っ……」

「……!?ね、ねぷねぷどうしたです!?」

「そろ…そろ…ボケ、ない…と…キャラ…が……」

 

この時私とコンパは、ずっこける感覚を知ったのだった…ある意味流石よ、ねぷ子…。




今回のパロディ解説

・ピンクのあくま
星のカービィシリーズの主人公、カービィの異名(?)。きっとあの場にいたのがカービィなら料理はあっという間に無くなり、毒も別の料理食べて回復するのでしょう。

・山越シェフ
ネット上でのいたずら心により生まれた、名シェフ『川越シェフ』の派生版…らしいです。何でも他にも『谷越えシェフ』やら『海越シェフ』もいるとか…。

・もこみちシェフ
オリーブオイルで有名(?)な俳優、『速水もこみち』さんの事。実際に料理が趣味らしいですが、いくら何でもオリーブオイルかけるだけって事は無いでしょうね。

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