超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第十八話 助ける為にすべき事

古来から政治と宗教は深い繋がりがある。信仰対象や教祖、或いは教えに多数の人が自身の意思で従うという形は、従わせる側がそっくりそのまま政治家に変える、又は政治家となる事で簡単に民衆から支持される政治を行えるからだ。

そして、戦争…と言うか軍事も宗教と深い繋がりがある。戦いは正義や正当性が無ければ兵の士気は上がらない上に、民衆からの賛同も得られない。そこで便利な正義、正当性となるのが…やはり、宗教だ。

だから、宗教が上手く機能すれば人々の幸福度は上がるし、逆に宗教が暴走か他者による悪用をされると……

 

「さて、考えは変わりませんかなイリゼさん。…いや、ユニミテスの化身、とお呼びしましょうか?」

 

…信仰対象を盲信し、信仰対象が望まぬ為政を行い、その為に事実を捻じ曲げ目的の為に無実の罪で人を公開処刑とも呼べる行いをしようとまで人を駆り立てるのだと…私は痛感した。

 

 

 

 

--------時間は数十分程遡る。

 

「さぁ、そちらへどうぞ」

 

私は所謂取り調べ室的な所へ連行され、優しさの欠片もない瞳をしたイヴォワールさんに奥側の椅子に座るよう支持される。

勿論それに従う私……である。いや、ほら…見てよこれ、私の手首。リーンボックスの雰囲気的にはアリかもしれないけど実際には時代錯誤もいいところの手枷嵌められてるんだよ?手錠ならともかく手枷じゃほんとに手動かせないよ…そして何より屈辱的だよ……。

 

「…私だけこんな場所に連れ込んで何するつもりですか」

「それは今からお話します、それと…くれぐれも暴れないで貰えますかな?まあ最もあの場で投降する事を選んだ貴女であれば心配ないかと思いますが…」

 

そう言いながら後から続いて入って来た軍人(警備員?)風の二人の男性に目配せをする。多分私が不審な行動をしたら即座に……って事だと思う。

 

「…………」

「沈黙は肯定と受け取らせて頂きます。さて、ではまず貴女は何者ですかな?」

「…自分でも分かっていません、変身については…ご想像にお任せします」

「つまり、説明する気がないと?」

「……!する気が無いんじゃなくて本当に……っ…!?」

 

自分の事だったせいかつい感情的に立ち上がりそうになった私は二人の軍人に押さえつけられる。当然手枷のせいで抵抗もままならない私はステンレス製の机の冷たさを思い知る事となった。

 

「…まあ良いでしょう。本題はそこではありませぬからな」

「…なら、何なんですか…」

「なぁに、少々頼み事を訊いて頂きたいだけです」

「頼み事…?」

「ええ、悪しき宗教の信仰者撲滅の為に…死んで貰いたいのです」

 

イヴォワールさんは罪悪感に苛まれた様な苦悶の表情も、悪意が表面に出てきたかの様な凄惨な表情も浮かべず…淡々と、私に告げてきた。後から思えば、それが自国と女神の為になると本気で思っていたからこそあれ程平然と言えていたんだと思う。

 

「な、何を言ってるんですか…何で私が死ぬ事で魔王信仰の撲滅になるんですか…!?」

「貴女の力を見て常人だと思う人はいません。もし貴女がユニミテスの化身とでも言えば信仰者は勿論それ以外の方も信じるでしょう…ここまで言えばお分かりですね?」

「…私をユニミテスの化身と誤解させた上で殺してユニミテスは死んだと思わせる気、ですか…」

 

我々の手で、民衆の前で亡き者にするからこそ意味があるのです、そうイヴォワールさんは言った。単純明快で理解もし易い理屈。…でも、納得出来る訳が無い。

 

「…公開処刑を私が望むとでも?」

「まさか、ですから貴女が素直に処刑されてくれればユニミテスの使者に拐かされた哀れな二人の安全と解放を約束しましょう」

「……っ!…ネプテューヌは…?」

「彼女は出来ませぬ。邪なる者を野放しにする訳にはいきませんからな」

「…………」

「…すぐに答えを出せとは言いません。良き回答をお待ちしますぞ」

 

そう言ってイヴォワールさんは出て行った。勿論、私の監視は解かないままで。

そして、そこから数十秒後…

 

「やーさっきはごめんね、えっと…リゼちゃん?」

「それは某喫茶店の店員だろうが」

「……え…?」

 

今まで硬い表情を貫いてきた二人の軍人風の人がいきなりフランクな雰囲気になって私に話しかけてきた。特に私の名前を間違えた方は180度位変わったんじゃないかな…。

 

「おっとこれは失礼。しかしイヴォワール様も酷な事を言うよねぇ」

「全くだ、どちらを選んでも大損の二択だものな」

「え…いや、あの…はい…?」

「ほんと可哀想だよ…イリゼちゃんだよね?…君は、あー心が痛む、そうだろう?」

「ああ、助けてやりたいさ」

「……!?」

 

あまりにも唐突な話の流れに私は目を見開く。リーンボックスは一枚岩じゃなかったの?と言う疑問と同時に状況打破出来るんじゃないかという希望が私の心の中に生まれる。

 

「ほ、本当…ですか…?」

「勿論さ、女の子の処刑なんて見ても気持ち良くない」

「そもそもそんな事の為にこの仕事に就いた覚えもないしな」

「じゃ、じゃあ……」

「…ただ、無償でって訳にもいかないよね?脱走がバレたら俺らの責任だし協力してたって知られると最早罪に問われちまう」

「……っ…」

 

この流れはさっきもあった。つまり、私に何か要求があるという事。…でも、彼の言う通りこの人達にとってもリスクの高い事な訳だし…私に出来る事なら…。

 

「そういう訳だ。イリゼちゃん、良いかい?」

「…私に出来る事ですよね…?…なら、分かりました…」

「やったね、んじゃ先俺で良い?」

「相変わらずお前は…ふん、途中で変わるんだぞ」

「え……先?途中で変わる…?」

 

意味の分からないやり取りに困惑する私。説明をしてくれるのかと私が待っている最中…二人は下卑た笑みを浮かべながら私へ近付いて来る。

 

「……ッ!?貴方達何を…きゃっ…!」

「あまり大きな声を出すな、外の誰かに聞かれたらここから出るのは不可能になるぞ」

「まぁまぁ落ち着いてよイリゼちゃん。別に暴行をしようって訳じゃないし君もこういう事に興味のある年頃でしょ?」

 

少々無骨な雰囲気の男に手枷ごと腕を拘束され、軽い調子の男が私の身体に指を這わせてくる。この段階になれば誰だって分かる。この男達は最初からこれが目的だったのだ。私の心の中の希望が音を立てて瓦解し始める。

 

「な、無いですっ!止めて下さ…い……っ!」

「ふぅん…じゃ、君はお仲間を見捨てるか処刑されるかの二択だね」

「……ッ!」

「お前それじゃイヴォワール様を非難出来ないな」

「あ、確かに。でもこんな可愛い娘を自由に犯れるチャンスがあるってのに紳士でいられる訳ないじゃん」

「ひ……っ!?」

 

服越しに伝わる感覚に否応無しに震える私の身体。男の指は次第に下へと伸び、腹部…そして私のスカートの中へと……

 

「失礼するわ」

『……ーーッ!?』

 

突然部屋の外からかけられた声と一拍置いてから開く扉。男二人は驚愕の表情を浮かべるもすぐさま私を椅子へと座らせ定位置へと戻る。何もされていない私ではあれば『早っ!?これがピンチの時の人のポテンシャル!?』なんて軽快に突っ込んでいたかもしれない。

 

「…何かありましたか?」

「い、いえ…しかし女神様の付き人である貴女が何故ここへ?」

「そんなのお姉…こほん、女神様からの指示に決まっているわ」

 

幸い(…幸い?)今さっきの事は知らないのか女神様の付き人と呼ばれた濃い緑髪の女性は普通に会話をした後、私を一瞥する。

 

「指示…ですか?」

「ええ、彼女を連れて来いと言う話よ」

「…私を……?」

「な……ッ!?そ、それは出来ません、それでは私達の職務が…」

「あら、女神様の指示より教祖代行の指示を優先するのかしら?」

「そ、それは…」

「そういう訳よ。イリゼさん、アタクシに着いて来て下さい」

「あ……は、はい…」

 

あれよあれよと言ううちに付き人さんに連れて行かれる私。正直、その時の私はもうどうしたら良いか分からずただ着いて行くだけだった。

 

 

 

 

「あの…どうしてベール様まで…?」

 

情報を頼りにダンジョンへと急行した私達だけど…何故か、女神であるベール様まで来ていた。

 

「がーん…酷いですわあいちゃん、わたくしと一緒にいるのが嫌なんですの…?」

「そ、そういう訳じゃないですよ!?え、えっと、その…」

「冗談ですわよ。焦ったあいちゃんも可愛いですわ」

「きゃ、きゃわいい!?」

 

私は自分の頬が熱くなるのを感じる。わ、私が可愛い?しかもそれをベール様が?…あふぅ……。

 

「ベールさん、あいちゃんがぽけーっとしちゃうからあんまり過度な事は言わないで欲しいです」

「ふふっ、そうですわね。でも元々四人パーティーだったものが二人パーティーになってはお二人も大変ではなくて?」

「そ、そういう事だったんですか…ありがとうございます、ベール様」

「けど、ベールさんまで来るとなるとねぷねぷが一人になってしまうです」

 

そう、私達の目的はねぷ子が盛られた毒用の解毒剤の素材確保。でもその為に寝込んでいるねぷ子を一人にしてしまうのは普通に本末転倒よね…。

 

「それなら心配はありませんわ、時間的にもうわたくしの付き人がイリゼさんを連れてわたくしの部屋に入っている筈ですもの」

「あの…前も言っていましたけどその付き人の方って…?」

「そうですわね…自分で言うのもアレではありますけど、わたくしに心酔している子ですので信頼出来ますわ」

「ならきっとあいちゃんみたいな人ですし大丈夫ですね」

「わ、私は心酔まではしてないわよ…」

 

若干の雑談を挟みながらも私達は進む。そして新たなパーティーメンバーであるベール様だけど…

 

「あいちゃん、コンパさん!」

『は、はいっ!』

 

手にする槍で巧みに間合いを取りつつモンスターを倒し、必要であれば無理せず私達に任せるというスタイルですぐに私達に馴染んでいた。…ノワールもだったけど、やっぱり女神様って戦闘に関しては他の追随を許さないわね…。

 

 

 

 

--------数十分後、私達はダンジョンの奥地にまで足を踏み入れていた。

 

「例のモンスターさんがいるのってこの辺なんです?」

「ええ、情報通りならそろそろ見つかると思いますわ」

「…そう言えば…ベールさんは他の女神様みたいに変身しないんですか?」

「変身?…あぁ、女神化の事ですわね」

「……!ベール様、私ベール様の女神化見てみたいです!」

 

女神様は基本的に式典の時には変身…じゃなくて女神化した状態で参加するから当然私も女神状態のベール様を見た事がある。…でも、間近で見る機会があると言うのならそれを逃すのはあまりにも惜しい。

 

「……困りましたわね…女神化は体力を使うのでいざという時にとっておいたのですが…あいちゃんがどうしても見たいと言うのなら『べるべる』か『べーちゃん』の愛称で呼んで下さいな」

「そ、そんな!?ベール様を愛称で呼ぶだなんて…」

「女神化した姿、見たいのでしょう?でしたらほら、恥ずかしがらずに呼んで下さいな」

 

期待する様な目をしながらベール様が私に言ってくる。…こ、これってお願いしてるのどっちだっけ…?

 

「……べ…」

「わくわく…」

「…べ、べる……」

「もう一息ですわあいちゃん」

「…あ、あのー…」

 

私が意を決してベール様を『べるべる』と呼ぼうとしている中コンパが口を挟む。…残念な様な一安心な様な微妙な心境だった。

 

「どうしましたのコンパさん。…あ、もしやコンパさんもわたくしを愛称で呼びたいんですの?」

「いえ、そうじゃなくて…二人のすぐ後ろの林からモンスターさんが…」

「…わたくし達の…」

「…後ろ…?」

 

ゆっくりと振り向いた私とベール様の前にいたのは…宙に浮く、カラフルな色をした鯨の様なモンスター。

 

「い、いつの間に!?」

「あいちゃんとベールさんが百合百合しいた間ですぅ…」

「な、ななな何言ってるのよコンパ!?わ、私は別にベール様と百合百合だなんて…!」

「照れてるあいちゃんは可愛いですわ…やはり普段の凛々しいあいちゃんとのギャップが…」

「……ベールさん」

「…こほん、敵を目の前に見とれている場合ではありませんわね。お二人共、このモンスターが探していたモンスターですわ」

「本当ですか!?なら…」

「えぇ、サクッと倒してお友達の元へ帰りますわよ」

 

そう言って槍を構えるベール様。コンパは勿論、私も冷静さを取り戻して抜刀する。そんな私達を見て戦闘態勢に入るモンスター。

 

「わたくしが前に出ますわ!あいちゃんはわたくしの援護、コンパさんは逆からの攻撃を!」

 

言うが早いかモンスターへ突進をかけるベール様。モンスターは巨体であるのが仇になったのか先制攻撃を受ける。

 

「ーーーー!」

「させないっ!」

「助かりますわあいちゃん!」

 

反撃とばかりにヒレを振ろうとしたモンスター、でもそれを許す私じゃない。ヒレが振り下ろされる前に根元へカタールの刃を滑り込ませる事でそれを阻止する。

そして、動きが止まったモンスターへとすぐさま注射針を刺すコンパ。最初はただ注射器を振り回すだけだったコンパも今となってはパーティーメンバーとして力不足の様子は全く無かった。

 

「畳み掛けますか、ベール様?」

「いいえ、このサイズのモンスター相手に無理に畳み掛けるのはむしろ危険ですわ…ですので…!」

 

槍を水平に構えて素早く三連突きを行い、反撃が来る前に後ろへ跳ぶベール様。所謂ヒットアンドアウェイでモンスターの注意を引きつつ着実にダメージを与えていた。

 

「ベールさん凄いです…」

「そうね、でもねぷ子の為に私達も負けてられないわ…!」

 

モンスターの注意が完全に私達から逸れた所で正確な一撃を与え、時には二人がかりでモンスターを翻弄してベール様の負担を減らす。派手さこそ無いものの、堅実さのある戦法のおかげでモンスターは段々と弱っていき…

 

「グ…グゥゥ……」

「後一息ですわね…わたくしがチャンスを作りますわ、お二人はトドメを」

「はい、任せて下さい」

「分かったです!」

 

モンスターのブレス攻撃を左右に分かれて避ける私達。そこで私とコンパより一足早く動いたベール様は一気に距離を詰め、下段からの突き上げでモンスターを仰け反らせる。

 

「今ですわ!」

『はぁぁぁぁっ!』

 

腹を見せたモンスターに肉薄し同時に突きを行う私とコンパ。防御もままならないモンスターはそれをもろに受け…沈む。----私達の勝利だ。

 

「やったです!」

「ええ、お疲れ様ですベール様…ベール様?」

 

ベール様に労いの言葉を送ろうとした私は言葉に詰まる。理由は簡単、ベール様が何かを掲げて空を見ていたからである。

 

「…あぁ、リーンボックスの国色的にリンクの真似でもしておこうかと思いまして」

「そ、そうですか…それは?」

「件の解毒剤用の素材ですわ」

 

いくらモンスターを倒せても目的の素材が手に入らなければ意味が無い。だからベール様がその素材を見せてくれた時、私とコンパは安堵のため息を吐く。

 

「さて、素材も手に入りましたし帰りましょうか」

「はいです、もうすぐですよねぷねぷ…」

 

そうして帰路につく私達。

もう少しだけ待ってて頂戴、ねぷ子。これをすぐに持ち帰って貴女を助けてあげるわ…!




今回のパロディ解説

・某喫茶店の店員
ご注文はうさぎですか?の登場キャラの一人、天々座 理世の事。これは彼女の通称『リゼ』とイリゼの名前が似ているからであり、見た目が似ている訳ではありません。

・リンク
ゼルダの伝説シリーズの主人公の事。正直ベールとリンクの共通点なんて髪の色とパーソナルカラー位ですが…誰でもアイテムゲットしたらあのポーズしたくなりますよね。

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