超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第二十二話 逆転と進展

--------自分は、一人だと思っていた。尊敬される女神、信仰される対象、特別な…そして、周りとは一線を画す存在。それが自分なのだと思っていたし、今思えばサブカル…特にネトゲにはまった理由の一つがそれなのかもしれない(あくまで側面的なのですけどね)。

…でも今は違う。自分が一人だと『思い込んでいた』だけだった。会って数日の関係であるにも関わらず、自分の為に共に戦ってくれるネプテューヌ、コンパさん、イリゼさん…いえ、イリゼ。暴走こそしてしまったものの…否、暴走する程にまで自分の為になろうとしてくれたイヴォワール。そして……グリーンハートとしてのわたくし、ベールとしてのわたくしの両方を好いてくれるあいちゃんとチカ。そんな人達のお陰でわたくしは女神としての力を…そして、自分が一人ではない事を知る事が出来た。だから……

 

「もうこれ以上は貴女の好きにはさせませんわ。覚悟して下さいまし」

 

わたくしは、この力をわたくしの大切な人達の為に使いますわ。

 

 

 

 

「ち…力を奪うどころかむしろ奪い返されたか…何故こうも上手くいかんのだ…!」

 

力を失い、元の姿へと戻ったマジェコンヌ。力を取り戻し、女神化をしたベール。それは、圧倒的劣勢に追い込まれていた戦況を変える要素になるであろう事は明白だった。

 

「助かりましたわあいちゃん、イリゼ」

「い、いえ!それより女神の力を取り戻せて良かったですね」

「お安い御用だよ、女神の力をまたマジェコンヌに取られたらそれこそ積みだったし」

「そうですわね…ネプテューヌ、コンパさん大丈夫でして?」

「この位どうって事ない…とは言えないけど、まだやれるわ」

「ねぷねぷが頑張るなら…わたしも頑張るです…!」

 

ネプテューヌとコンパが立ち上がり、私達五人が揃い踏む。全員手負いの状態ではあったものの、ネプテューヌの言う通りまた戦える。勝機は、ある。

 

「ふん、死に損ない共が…!私の手が一つだけだと思うなよ!」

『……!エネミーディスク!?』

 

マジェコンヌが懐から取り出したのはエネミーディスク。雑魚をわらわらと呼び出すのは戦闘開始直後か後の無くなった敵キャラの悪あがきかが定番であり、今回の場合は後者に当たるけど…流石に楽観視は出来ない。数で上回るというアドバンテージが無くなってしまうからだ。

 

「また面倒な物を出されたわね…ベール、あれはモンスターを召喚する道具よ、細かい説明は…」

「えぇ、後回しでいいですわ」

「マジェコンヌとモンスター両方を相手にするのはキツいね…コンパ、アイエフ、モンスターの方はお願い出来る?」

 

モンスターを片付けるだけなら全員で動いた方が手っ取り早いし安全性もある。でも、モンスターと共にいるのはマジェコンヌ、彼女は安易に背を向けられる相手では…無い。

 

「構わないわ、マジェコンヌ相手じゃ分が悪いし」

「モンスターさん退治は任せるです」

「じゃ、行くわよ皆!」

 

ネプテューヌの言葉を合図に私、ネプテューヌ、ベールの女神三人が中央突破、そして慌てて私達の背を狙おうとするモンスター達の背を逆にコンパとアイエフが強襲する。これは五人という人数と女神のスピードがあったからこそ出来た戦法。ただ数を揃えただけのマジェコンヌには取れない戦法だった。

 

「さぁ、年貢の収め時ですわよッ!」

「貴様に収める年貢などあるか!」

 

一直線に突っ込む私達に対し電撃を放つマジェコンヌ。しかし常人ならば回避は困難な雷の槍も女神、それも三人相手に有効打とするには攻撃範囲が狭過ぎた。着弾よりも一瞬早く散開しそこから再び加速した私達はマジェコンヌへの肉薄に成功する。

 

「ちょこまかと鬱陶しい…!このッ!」

「させませんわよ?ネプテューヌ!イリゼ!」

『はぁぁぁぁぁぁッ!』

 

遠距離での迎撃を諦めマジェコンヌは横薙ぎで一掃を図る。だが、いち早く接近したのは同じく槍使いであるベール。彼女は動きを正確に見定め、自身の槍を割り込ませる事で攻撃を阻止する。

攻撃の止まったマジェコンヌに対する私とネプテューヌの挟撃。間一髪マジェコンヌは後退する事で回避するが…それこそが私達の予想するところだった。そのまま交差する形で駆け抜け道を開ける私とネプテューヌ。そこへ地を蹴ったベールが突貫する。

 

「な……ッ!?」

「まずは…一撃ッ!」

「……ッ!……?…なんだ…この絶妙なチャンスに攻撃を外すとは貴様もまだまだ甘い--------」

「あら、本当にそう思うのでして?」

「…何を言って…んな……ッ!?」

 

すれ違う様にマジェコンヌの横を駆けるベール。自身にダメージが来なかった事でベールのミスだと判断したマジェコンヌだったが…左手を見て驚愕する。そこにあったのは割れたディスク。…ベールは最初からディスクの破壊が目的だったのであり、それは即ちモンスターの増援が打ち止めとなった事を意味していた。

 

「あいちゃん、コンパさん、大丈夫でして?」

「はい、このままなら倒しきれます!」

「貴様……ッ!」

「これでマジェコンヌに専念出来る…ねっ!」

 

無論、攻撃の手を休める私達ではない。戦闘において有利になる程敵の一手で動揺しやすくなるのが戦の定石ではあるものの、慎重になり過ぎると好機を逃しやすくなるのもまた事実。だからこそ大事なのは慎重かつ大胆に、だった。

 

「ぐぅぅ…!何故だ、何故こうもまた…ッ!」

「何故って?そんなの…この世に悪の栄えた試しはないってだけよ!」

「一気に攻め落とすよ、皆!」

 

光の尾を引きながら次々と攻撃を仕掛ける私達。それを辛うじてとはいえ捌くマジェコンヌの技量も大したものではあったが…それはギリギリ耐えている、の域を出るものではなかった。

上昇からの宙返りを行い、流星の様にマジェコンヌへと突進するネプテューヌ。それを察知したマジェコンヌは回避をするも、その回避先にいたのはベール。目を見開くマジェコンヌに対し放たれた鋭い刺突は掲げられた槍を吹き飛ばし、マジェコンヌ自身も後退させる。そして……

 

「チェックメイト、だね」

 

宙へ飛んだ槍に上段斬りを叩き込む私。持ち主を失った槍は当然なすすべもなく、空の彼方へ飛んでいった。

 

「こっちは終わったわね…」

「こっちもですよ」

 

コンパの声に反応して後ろを見ると、そこには二人と注射器とカタールで刺されて消滅していくモンスターの姿があった。あっちも無事終わった様である。

 

「まさか、ここまでやるとは…」

「月並みな言葉ですが、チカやあいちゃんのお陰ですわ」

 

槍を軽く振るい、アイエフとチカさんを一瞥した後声を発するベール。その言葉は優しく美しいものだったが…私、ネプテューヌ、コンパの三人は納得がいかない。

 

「…ベール、わたし達も戦ったんだけど?」

「ベールさん酷いですぅ」

「こう…何かちょっと残念な気持ちになるよね…」

「あ、いえその…今のは差別を考えていた訳ではなく、決して貴女達を無下にしている訳では…」

「冗談よ、無事に力が戻って良かったわね」

「…えぇ、改めてお礼を申し上げますわ」

 

笑みを浮かべ合うネプテューヌとベール。そして二人は再びマジェコンヌへ…私達とリーンボックスを陥れようとした宣教師へ鋭い視線を向ける。

 

「さて…洗いざらいに話してもらいましょうか、貴女のバックにいる存在を」

「ふん、やはり貴様等は生温いな」

「この状況下で何を……」

「悔しいがここは貴様等の勝ちとしてやろう、だが次は貴様等を倒す!さらばだっ!」

「逃げた!?」

 

暗い光を放つと同時に消え去るマジェコンヌ。いくら女神と言えど瞬間移動らしき事をした相手までは追う事が出来ない。…しかし、今回あの人何回身体から光放ったんだろう…。

 

「くっ、まさかあんな手があったとは…今度会った時には絶対に捉えてみせますわ…」

「そうね、でも今は一旦戻らない?わたしも皆もボロボロだわ」

「……っ!そうでしたわ、一刻も早くチカの治療をしなくては…!」

「あ!皆、ちょっと待つです!」

 

一息ついた事で思い出したのか、慌ててチカさんを抱えて飛翔しようとしたベールと私達を制止するコンパ。彼女の手には何かが握られていた。

 

「どうしたのコンパ、何か見つけた?」

「はいです、これってもしかして…」

「……!?これは…鍵の欠片!?どうしてここに!?」

 

コンパが手にしていたのは不思議な形の欠片。確かに前にネプテューヌに見せてもらった物と形が似ている。そして、全員がその鍵の欠片に注目した時…どこからか、声が聞こえた。

 

「--------それは、私が説明しましょう」

 

 

 

 

「マジェコンヌも鍵の欠片を集めていたのね…」

「ええ、今回はネプテューヌさん達に鍵の欠片を奪われる事を危惧して回収した帰りだったのだと思います」

 

いーすんことイストワールさんが私達に説明をしてくれる。最初は姿無き声に驚いた私、アイエフ、ベールだったけど…何度も女神化したりモンスターの出てくるディスクを見たりした私達はこういう超常的な事にもすぐ慣れる様になっていた。…それが良い事かどうかは別として。

 

「それと、皆さんに警告しなければなりません。マジェコンヌの力はあくまでコピーであり、他者の力を奪う事ではありません」

「…つまり、どういう事なの?」

「…わたくしの力は無事取り戻す事が出来ましたが、その力をコピーされている可能性がある…という事ではなくて?」

「その通りです。いずれ彼女はコピーしたベールさんの力を最適化し、完全に自分の物とするでしょう」

 

完全に最適化し、自分の物とする。それは裏を返せば先程の力は不完全な物だったという事である。あれ以上に強くなる可能性があると知った私達は、背に悪寒が走る様な感覚を感じた。

 

「ですから、くれぐれも彼女の力には気を付けて下さい」

「…あの、イストワールさん。一つお願い良いですか?」

「はい、なんでしょう?」

 

イストワールさんの話が終わった所で私はあるお願いをイストワールさんに頼み込む。その願いは勿論…

 

「記憶の復元、ですか…。分かりました、お任せ下さい」

「本当ですか!?…やった…やっと私の記憶の糸口が見えた…」

「良かったわね、イリゼ」

「…すみません、どうやら時間の様です。それでは皆さん、鍵の欠片をお願いします」

 

私が喜ぶのも束の間、鍵の欠片のエネルギーが切れてしまったのかイストワールさんの声が聞こえなくなる。彼女の言う通り、話せるのは一時的な物だった。

 

「声、聞こえなくなっちゃったですぅ」

「けど、色々と知る事が出来たわ」

「だね、私も自分の事が大きく前進したし」

「わたくしも二度とこの様な事にならない様気をつけませんと…さて、今度こそ戻りますわよ」

 

チカさんの身を案じいち早く動き出すベール、そしてそれに続く私達。満身創痍の私達は休める場所を求めて自然と足を速めていた。

 

 

 

 

ベットで寝ているチカさん。手当ての為に救急キットを開くコンパ。そして手当てを受ける私達。ダンジョンからリーンボックスの教会に戻ってから数十分が経過していた。

 

「その…コンパさん、チカは大丈夫なんでして?」

「はいです。暫くは激しい運動とかしちゃ駄目ですけど、命に別状は無いですよ」

「ベール様、何度もそれ聞いてますね…」

 

アイエフの言う通り、ベールは何度もチカさんの容態について聞いていた。数えてはいないから厳密な回数は分からないけど…まあ、アイエフがちょっと嫉妬する位には聞いていた。

 

「わたくしの為に怪我したとなれば心配になるに決まっていますわ。…いっそ灼爛殲鬼(カマエル)霊結晶(セフィラ)を飲ませれば…」

「ここら一帯が火の海になるよ!?そして箱崎シスター編が始まっちゃうよ!?」

「ベールのテンパりぶり半端ないね…」

 

チカさんを過保護な程心配するベールに苦笑を隠せない私達。最初チカさんにお姉様と言われて辟易としてたけど…仲が良いのは間違いないみたいだね。

…と、その時、

 

「……っ…ここは…?」

「……っ!チカ!」

「ひゃい!?」

「べ、ベール様!?」

 

目を覚ましたチカさんと、身体を起こしたチカさんを抱き締めるベール。そしてショックを受けるアイエフ。

なんと、三角関係らしき何かが完成していた。

 

「お、おおおお姉様これは一体…!?」

「身体が弱いのに無理をして…!心配かけさせるんじゃありませんわ…!」

「お姉様…あぅ……」

「……ねぇネプテューヌ、コンパ…私達どうすれば良いと思う?」

『さ、さぁ……』

 

本気で心配していたベールと卒倒しそうになっているチカさんの間に割り込む事は流石に出来ない。と、言う訳で私達は百合百合状態の二人ではなく…アイエフの方に話しかける事にした。

 

「えっと…その、元気出すですよあいちゃん」

「別に…私は元気ですよーだ…」

「あ、あいちゃんがいじけてる…」

「アイエフ、まだ挽回のチャンスはあるよきっと…」

 

何とかアイエフを慰めようとする私達だけど、アイエフが元気になる様子は無い。…となれば、元気にする方法は一つ!

 

「…アイエフ、ちょっとごめんね…ていやっ!」

「わっ!?」

「きゃっ!?」

 

私に背中を押されて前へつんのめるアイエフ。そしてその先にいるのは勿論ベール。私の行動に対しネプテューヌとコンパはサムズアップをしてくれる。やったね。

 

「な、何するのよイリゼ…あの、急にすいませんベール様…」

「あいちゃん…チカもあいちゃんもわたくしの為に頑張ってくれて嬉しかったですわ…」

「ベール様…」

「お姉様…」

 

ベールとチカさんの百合百合フィールドにアイエフが介入、トライアングル百合百合フィールドへと変化する。…って、トライアングル百合百合フィールドって何だろう…。

 

「さてと…あっちは多分暫く戻ってこないだろうしわたし達はどうする?」

「せっかくだしゆっくりしない?リーンボックスに来てからあんまり落ち着いていられる時間ってなかったし」

「そうだね、コンパープリンあるー?」

「ふふっ、そう言うと思って買っておいたですよー」

「流石コンパ!まさに心の友だよ!」

 

三人の様子を温かい目で見守りながらコンパの買ってきたプリンを食べる私達。

まだまだ問題は残っているものの、やっと騒動を解決させる事の出来た私達の間には、穏やかな時間が流れていたのであった…。

 

 

……因みに、その十分後位にイヴォワールさんが部屋に来てぽかーんとするという事があったんだけど…ま、まあこれは語らなくて良いよね、うん…。




今回のパロディ解説

灼爛殲鬼(カマエル)霊結晶(セフィラ)
デート・ア・ライブにおける精霊の天使と精霊化の元となった結晶の事。ある意味義姉妹と言えない事もない(多分)ベールとチカならではのパロディではないでしょうか。

・箱崎シスター
上記と同じくデート・ア・ライブのパロディであり、四巻のタイトル『五河シスター』の事。残念ながら『箱崎』には漢数字が入ってませんがご許し下さい。

・心の友
皆さんご存知ドラえもんシリーズのキャラ、ジャイアン(剛田 武)の代名詞の一つ。元ネタではだいたい言われた相手が困る事が多いですが、パロディなので困ってませんね。

ここ数話において、イリゼ達がまだ知らない筈のマジェコンヌの名を知っていたというミスを犯した事が発覚しましたので、第三話にマジェコンヌが名を名乗る台詞を追加しました。確認が足りていなかった事をお詫びします。

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