超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative 作:シモツキ
「サイバーコネクトツーちゃんは一緒に来ないの?」
森の中で不意に現れた案内人、サイバーコネクトツーに導かれて数十分後。私達は森を抜けて見晴らしの良い小高な丘へと到着していた。無論、周囲に追っ手と思われる人影は無い。
「うん。わたしはたまたま立ち寄った街で君達の道案内を頼まれただけだからね。それにまだ追っ手は探し回ってるだろうから帰るついでに少し撹乱でもしてくるよ」
「何から何まで悪いわね。それじゃ、気を付けて」
「君達もね!」
雪原を軽快に去っていくサイバーコネクトツー。一人で撹乱するのは少々危ない事だったが…彼女の後ろ姿を見て何となく大丈夫だと思った。少なくともあの動きは素人ではない。
「さて、と…ここで案内お終いって事はこの近くにサイバーコネクトツーに依頼した人がいる訳だよね?」
「だと思いますわ。姿が見えないと言うのは恐らく……」
「はい、職員や兵から身を隠していたからです」
聞き覚えのある声が私達にかけられる。声に反応して振り向いた私達の先にいたのはホワイトハート様の侍従と名乗っていた少女、フィナンシェさん。言うまでもなく…教会側の人間である。
「騙された……!?」
「…いくら女でも私達の邪魔をする様なら斬るわよ?」
「邪魔なんてそんな!その逆です!訳あってサイバーコネクトツーさんに協力してもらったのはわたしなんですから」
「俄かには信じられないわね…」
「時間がありません、着いて来て下さい。…もし、わたしが貴女達を騙す様な真似をした時は斬って頂いて構いませんから」
そう言って頭を下げるフィナンシェさん。普通の人やそれこそサイバーコネクトツーならこの時点で信じる私達だけど…流石に先程私達を倒そうとした組織の一員をほいほいと信じる訳にはいかない。
「って言ってるけどどうする?別にサイバーコネクトツーが騙してたとは思わないけど…」
「うーん…何だか訳ありっぽいしそこまで言うなら信じてあげようよ」
「ネプテューヌ、貴女……」
「そうです、疑う前に信じてあげるです」
「コンパさんまで…全く貴女達ときたらとんだお人好しですわね」
サイバーコネクトツーの時と同様あくまで信じるスタンスらしいネプテューヌとコンパ。ベールはその二人をお人好しと呼んだけれど…呆れている訳ではなく、むしろそういう反応を見れて良かったと思っているかの様な表情を浮かべていた。
「ですね…私も罠だとしたら私達が逃げてからの時間の割に準備が良すぎると思うけどどう?」
「だよね、こんな二度手間な罠用意するとは思えないし」
「ここは伏兵を置くには適してませんし、わたくしも状況の上では罠だと判断するのは早計だと思いますわ」
「皆さん…信じてくれてありがとうございます…。では、着いて来て下さい」
そう言って歩き出すフィナンシェさん。度重なる移動と思案で少々疲れ気味の私達だったけど、状況打破の為に着いて行くのだった。
「…ここまで来れば一安心ですね」
「やったです!遂に街にまで来れたです!」
規模こそ大きくないものの、人気のある街へと無事到着出来た私達。この段階になり私達は、ここに来るまでに追っ手に出会わなかった事、街には一般人らしき人も多くいた事からフィナンシェさんは騙している訳ではないとほぼ確信出来ていた。
「やー信じて良かったね」
「そうね。フィナンシェ、ここに私達を呼んだ人がいる訳?」
「はい、そこまで案内しますね」
「…まさか、この段階に来て女神が先回りしていた…何て事はありませんわよね?」
「えーっと…それは当たらずとも遠からずと言うか何というか……」
ベールの懸案に対し妙に歯切れの悪い返答をするフィナンシェさん。しかしそれについて私達が質問をしようとした丁度その時、赤髪の青年二人が話しかけてきた。
「やぁ、フィナンシェ。久しぶりだね」
「…ふむ、素敵なお嬢さんを二名も連れている様に見える。彼女等が以前君が言っていた例の?」
「はい。教会に追われていた所を何とかお連れする事が出来ました」
フィナンシェさんとの会話を聞く限り、知り合いだと思われる二人の青年。彼等はひとしきりフィナンシェさんと会話した後私達に会話を振ってきた。
「紹介が遅れたね。わたしの名前は…そうだな、兄とでも呼んでくれ。こちらは弟だ」
「兄さんと弟さんです?」
「勿論本当の名前ではないよ。コードネームの様なものさ、ねぇ兄者」
コードネームならコードネームで何故そっちを口にしたの…という突っ込みは一旦置いておき二人を観察する私。リーンボックスで騙されてルウィーでも追われたからか私は友好的に接してくる人をよく見る様になっていた。
…別に割と美形の二人だったからじゃないよ?彼氏募集とかしてないからね?
「あぁ。ところでそちらの眼鏡の似合うお嬢さん。貴女の名前を我らに教えて頂けないでしょうか?」
「あら、素直な方ですのね。わたくしはベールと申しますわ」
「ベール…何とも慈愛に満ちた豊満なる響き…是非、ベール様と呼ばせて下さい」
「では、ピンクの髪の貴女は何というのですか?」
「わたしです?わたしはコンパって言うです」
「コンパさん…まるで天使の様な豊かな響きの名だ…」
ベールとコンパの名前を聞いて感嘆の声を漏らす二人。…まあ、この時点でどう見ても普通の人じゃなかった。所謂ナンパ好きとかそういう類かな…。
「あ、私はイリゼって言います」
「イリゼ、か…まあ一応名前は覚えておこう」
「わたしネプテューヌ!」
「私はアイエフよ」
「フィナンシェよ、これからこの方々はあの方の所に案内するのだろう?ならば僕達も共に行こう、レディのエスコートをするのは紳士の役目だからね。さぁコンパさんこちらへ」
「ありがとうございますです」
「ベール様もご一緒に。この辺りは滑り易くなっているので気を付けて下さい」
「あら、お気遣いありがとうございますわ」
『…………』
主に付き従う臣下の如くコンパとベールに付き添う兄弟さん。そしてその場に残される私、ネプテューヌ、アイエフ。…何となく今、木枯らしが吹いた気がする。
「ねぇ、あいちゃん…」
「ねぷ子、貴女も気付いてたのね…」
「あの二人わたし達の事無視してるよね!?こんぱとベールだけ贔屓しちゃってさ!」
「何のつもりか分からないけど久しぶりにカチンと来たわ」
「うんうん、こんなあからさまな差別は不愉快だよ」
『イリゼは一応反応されてたでしょ!?』
「え、あ…何かごめんなさい…」
妙に気迫の篭った形相をしてきたネプテューヌとアイエフについ謝ってしまう私。…完全無視される訳でも無い、好待遇を受ける訳でも無い私はどうすれば良いの……。
「すいません。あの二人は胸の大きな女性しか眼中にない特殊な兄弟ですので…どうか気を悪くしないで下さい…」
「…何…だと…!?」
「ここに来て胸で差別!?何なのよこの大陸は!」
「…あー…うん、まあ…女の子の的なタイプの兄弟だね…」
『何ちょっと(わたし・私)達に優越感かんじてるの(さ・よ)イリゼ!』
「だからどうして私に当たるの!?ちょっと感じた事は謝るけどさ!」
またも二人に怒られてしまった私。あんまりにも理不尽な(気持ちは分かるけど)怒りに困り果てていた私だけど…二人も私に当たってもしょうがないという事であの兄弟の方へ視線を向ける。
「もー許せないよね!月に変わってお仕置きちゃうよ!」
「私が許可するわねぷ子、やっちゃいなさい」
「勿論だよ!……あ」
『……?』
女神化の瞬間何かに気付いたかの様な表情をするネプテューヌ。でも既に女神化しつつあったせいか女神の姿となり…どんな高感度センサーを付けてるのか兄弟が即座に寄ってきた。
「な……っ!?あのちんちくりんが居なくなった代わりにまたも豊かなお姉さんが現れただと!?」
「これがわたしの本当の姿よ」
「我ら兄弟、未熟故に見た目の豊かさしか見抜けなかった事をお許し下さい…あの、名はなんと…?」
「ネプテューヌよ」
「あぁ、何という甘美な響き…」
「まるで心が洗われる様な、女神の様な名だ…」
「…ってかおい!裏切るの!?」
そう、ネプテューヌもアイエフも一つ失念していた。ネプテューヌは女神化するとスタイルがガラリと変わる…つまり、あの兄弟好みのスタイルになるという事を。
…兄弟にもてはやされたネプテューヌはちょっと満足気だった。
「…そっか、その手があった……」
「イリゼ!?まさか貴女も女神化する気!?」
「ごめんなさいあいちゃん、これもわたしの姿だから…」
「ね…ね…ねぷ子の裏切り者ぉぉぉぉぉぉっ!」
刻一刻と暗さを増すルウィーの街には、アイエフの叫びが響き渡っていた…。
同じ国内、同じ雪の降る場でも自然のままになっている雪原や森と人の手によって舗装された街中では歩く時の疲労度が全く違う。だから逃げ回った後の私達にはありがたかったけど…道中での会話は色々な意味で気苦労のあるものだった。
「変わってしまったホワイトハート様に対するレジスタンス、ね…」
「はい、わたし達も国民の皆さんも変わってしまう前のホワイトハート様とルウィーが好きでしたから」
フィナンシェさんは当然の事として、巨乳大好き兄弟もこの事には憂いを感じているらしく、真面目にルウィーの現状について語ってくれた。
実質的な独裁政治による他国侵略を想定した軍事国家化。勿論軍事国家化自体は悪では無いし、他国侵略もあまり良い印象は無いけど政治の一環と捉える事も出来る。…それが、国民の同意の上であれば。
「だから、わたし達はかつてのルウィーを取り戻す為にレジスタンスを結成したんです」
「まさかルウィーがその様な状態になっていたとは…全く知りませんでしたわ…あいちゃんは知っていまして?」
「どうせ私は小さいですよーだ…別に好きで小さくしてる訳じゃないのに何だってのよ…うぅ……」
『(アイエフ・あいちゃん)……』
あの後もネプテューヌは女神化を解除せず、兄弟もアイエフを無視し続けた結果アイエフは完全にやさぐれていた。巨乳の方々は勿論、淡白ながら話しかければ一応反応して貰える私の励ましも今のアイエフには届かず、酷くなる一方だった…。
「思っていた以上に気にしてたのね、あいちゃん…」
「えーと…ほら、私とかどっち付かずの微妙なサイズだしアイエフは慎ましやか方が好きって人に人気出るよきっと!」
「イリゼ…それは暗に貴女は貧乳だと言い放ってるのと同義よ……」
「そ、それは確かに…ごめん……」
最早ネガティヴオーラっぽいものが出始めてるアイエフをどうする事も出来ない私達。…だから、自然と唯一アイエフを立ち直らせる可能性のある彼女…ベールに視線が集まる。
「…あいちゃん。いい加減にしないとわたくし、あいちゃんの事嫌いになってしまいますわよ?」
「……え…!?」
「クールで格好良くて、そしてたまに見せる可愛らしい面がわたくしの好きなあいちゃんでしたのに…今の腐った魚のような眼をしたやさぐれあいちゃんなんてわたくしのあいちゃんじゃありませんわ」
「私の情報によればルウィーが軍事国家に転換したのは数ヶ月前。何でもある日突然人が変わったみたいにホワイトハート様が過激な方になったらしいです」
キリッとした表情で情報を語るアイエフ。ベールの言葉は効果てきめんだった。…それはもう、劇薬の如く…。
「何という変わり身の早さなの…」
「ねぷ子もそろそろ元に戻ったら?長時間その姿でいると疲れるんでしょ?」
「それもそうね…」
「一体ホワイトハート様に何があったです?」
アイエフがいつも通り…というかいつも以上に元気になった事に安心した私達は再び動き出し…とある場所に到着する。
「それはわたしの口から説明するより、これから皆さんに会わせる方に聞いた方が早いと思いますよ、ではこちらに」
「ここは…?」
「…失礼します。こちらが先日ご説明した強力な助っ人の方々です」
「…今忙しいの、悪いけど帰ってもらって」
『えぇぇぇぇぇぇっ!?』
フィナンシェさんに案内されて入った部屋では本の山の中で寝転がって本を読む一人の少女が居た。肩にかかるかどうか位の茶髪に深い蒼の瞳。その姿は見紛う事も無い…教会で出会ったホワイトハート様のものだった。
「な、なんでホワイトハート様がここに!?」
「ここはわたしの部屋よ。居て何か文句ある?」
「こちらに居られるのはレジスタンスのリーダーであり、ルウィーの女神であるホワイトハート様ことブラン様です」
「ブラン様!?何さ、そんな…何でっ!」
ネプテューヌは何故か某スーパーエースみたいな反応をしてたけど…驚いたのは私達も同じだった。わざわざ私達を呼ぶ位だから普通の人では無いと思っていたけど…いくら何でもこれは斜め上過ぎだよ……。
「五月蝿いわね…騒ぐなら外で騒いで」
「…何となくですが、状況が飲み込めてきましたわ。フィナンシェ、このブランが本物なんですわね」
「はい、その通りです」
「え…どういう事?」
「ベール一人だけ分かってずるーい」
一人納得した様な顔するベール。それに対しまだよく分かってない私達。…やっぱベールってちょっと探偵とかそういう系の才があるんじゃ…?
「ええっとですわね…わたくしより分かっている筈ですし、フィナンシェ後は説明して下さりまして?」
「いや、ここはベール様のために私が説明しましょう」
「コンパさんの為に僕も補足するよ」
「いや、あの…別にわたしが説明しても良いんですが…」
「しかしベール様と比べて相変わらずブラン様は……」
「…わたしが何?」
「いえ何でもありません!」
一瞬顔を暗くしたホワイトハート…もとい、ブランに慌てて謝る兄さん。…あれ?ブランには普通に話すんだ…。
「結論から説明すると、ブラン様はとある人物に力を奪われ、能力ごと偽物のブラン様に乗っ取られてしまったんです」
「コンパさん達が教会であったであろうブラン様は偽物。宣教師コンベルサシオンの化けた姿さ」
『コンベルサシオン!?』
弟さんが語ったのはその名は忘れもしないあの宣教師の名前だった。力を奪う、偽物、コンベルサシオン…兄弟の二人の言葉から私の中で情報のピースが繋がっていく。
「コンベルサシオンって…まさか……」
「うん、これはリーンボックスの時と同じだね…」
この瞬間に私達は…あのマジェコンヌの魔の手がリーンボックス同様…否、リーンボックス以上にルウィーに振り返っている事を理解したのだった…。
今回のパロディ解説
・…何…だと…!?
週刊少年ジャンプの看板作品の一つ、BLEACHの中で使われた台詞。…ただ、これはそこまで特異な言葉でも無いのでこの言葉単体でパロディと言うかは微妙です。
・月に変わってお仕置きしちゃうよ
魔法少女の先駆けとも言える名作、美少女戦士セーラームーンの主人公月野うさぎの代名詞。名前的にセーラーネプチューンならぬセーラーネプテューヌになれそうですね。
・『ブラン様!?何さ、そんな…何でっ!』
機動戦士ガンダムSEEDdestinyの主人公の一人、シン・アスカの台詞。別にブランは一度落とされたりはしてませんが…まあその位のショックだったという事でしょう。