超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第二十九話 揃う女神と狂信者

「…で、何か私に言う事があるんじゃないの?」

「えーと…良いお部屋だね…?」

「謝れって言ってんのよ!」

 

静かな事務の場から一転、戦場と成り果てた執務室は台風でも起きたのかという位滅茶苦茶になっていた。…まあ、一部屋の中で女神四人が動き回ったらこうなるのは当然である。

 

「……ごめんなさい」

「ほらベールとブランも!」

「申し訳ありませんわ…」

「悪かったわね……」

「ったく…貴女達のせいで教会内が騒ぎになっちゃったじゃない…」

「それはノワールが間に受けて女神化したから…」

「何か言ったかしら?」

「な、何でもないです…」

 

とても友達に向けるものとは思えない形相で聞き返すノワールにビビって縮みこまるネプテューヌ。普段してやられてるノワールが完全に優位に立っていた瞬間だった。

 

「…ベール、これでも話し合い出来ると思う?」

「いやこれはわたくし達がアレだったというか…過激な遊びが出来たという意味ではやはり話し合い位出来るかと…」

「冗談よ、しかしまあ…まさかここまでなるとは…」

「……ネプテューヌはともかく何でアンタ達まで仲良く話してるのよ、元々仲は悪い方だったわよね?」

 

訝しげな顔をしながらベールとブランを見るノワール。しかしそれは今の女神の、私達の関係を知らない彼女には無理もない話だった。

 

「んとね、わたしの主人公の魅力に惚れ込んだベールとブランがパーティーメンバー入りしたの!」

「イリゼ、アイエフ、説明してくれるかしら?」

「わたし今説明したのに!?」

「あ、じゃあまずはリーンボックスでの出来事からで良いかしら?」

「ええ、順を追って説明して頂戴」

「しかもスルー!?…クール系突っ込みコンビ酷い……」

 

確かに若干ネプテューヌが可哀想ではあったけど…はっきり言ってネプテューヌはスルーしてた方が説明は進むから不満たらたらのネプテューヌはコンパに任せて私とアイエフでこれまでの経緯を説明していく。

 

「…で、アイエフが兵器輸入の情報を掴んでラステイションに来たって訳。おおよそ理解出来た?」

「え、えぇ…出来たには出来たけど…」

「けど?」

「…貴女達行く先行く先で波乱万丈過ぎない…?」

『ですよねー…』

 

それは言われるでもなく自覚していた事ではあったものの、言われると正直苦笑を禁じえない。自分自身が特殊なネプテューヌや私はともかく普通の人である筈のコンパやアイエフまで同じ経験してるんだから凄いもんだよね…。

と、説明が一通り終わったところでブランが口を開く。

 

「…説明が終わったのなら一つ良いかしら?」

「何よ?」

「二人の説明で分かったと思うけど今ルウィーは不味い状態にあるわ。だから…全面的にとは言わないから、せめてこの場でだけでもわたし達に協力して頂戴」

「……へ?」

「…な、何よその反応は…」

「いや、その…ブラン、貴女敵だった相手に頭下げられる様な奴だったの…?」

「うっ…く、国の為だ、勘違いするなよ!?」

 

ブランの言葉に目を丸くするノワールと、その反応を見て慌てるブラン。どうもブランはネプテューヌやベールよりもノワールに近いらしく体裁や周りからの評価を大事にするタイプらしかった。

 

「はいはい…ま、アヴニールが絡んでるなら見過ごす訳にはいかないし協力は惜しまないわ」

「そ、そう…感謝するわ」

「って言うかノワール、何でアヴニールをそのまんまにしてるのさ?」

「好きで野放しにしてる訳じゃないわよ。教会は取り戻せたとはいえまだラステイションはアヴニールの影響力が強いし…何より今無理にアヴニールを潰したら自分の首を絞める事になるのよ」

『……?』

 

ネプテューヌとコンパは最初は普通に聞いていたものの、後半の話には首を傾げる。…あ、もしかして……。

 

「どうして首を絞める事になるです?」

「やっぱそこなんだ…今アヴニールが無くなったらラステイションの経済…というか産業の流れが大きく変わっちゃうからじゃない?」

「その通りよ。各企業や工場がアヴニールの関わっていた部分を補って元のラステイションに戻す事が出来ない状態で潰しても国の為にはならないもの」

「ふーん…女神ってそういう事も考えなきゃ何だ、大変なんだね」

『貴女も女神でしょう(が・に)…』

 

守護女神三人から突っ込みを受けるネプテューヌ。戦いの場だったりここぞという時には女神らしい姿も見せるけど…普段は女神らしさなんて欠片もないよね…。

 

「ではあまり協力は望めないんですの?」

「まあ、政治的経済的な方向ではね…でも私個人としては今すぐでも協力出来るわよ?」

「…って事はつまり?」

「パーティーへの再加入って事よ、良いでしょ?」

 

ノワールの言葉に私達は満場一致で合意する。ノワールが強い事は前にパーティーを組んでいた時に確認済みだし、現地での協力者がいる事は私達にとって大変ありがたかった。そして何より……

 

『これでボケと突っ込みの人数比が緩和される…』

「ほんと大変ね貴女達……」

 

私とアイエフの安堵の呟きに苦笑混じりの返答をするノワールだった。

 

 

 

 

ノワールの指揮の元執務室を元通りにした私達(主に原因三名が渋々ながら行っていた)はノワールに案内される形で取引場所であるアヴニール第二格納庫へと向かった。

 

「ここが取引場所ね…」

「ところでブラン、どうやって取引を邪魔する気ですの?」

「わたしが薙ぎ払ってやるわ、全て…」

「ち、力技全開だね……」

 

薙ぎ払う…つまりブランはぶっ壊すつもりらしかった。確かにここにきて作戦考え始めるのは時間が勿体無いしそれが一番手っ取り早いのは分かるけど…女神としてそれで良いのかな…。

 

「まあでもそれで良いのかもしれないわよ?取引物が残ってたんじゃまた取引されかねないし」

「アヴニールを潰す時の為の物的証拠として少しは残しておきたい所だけど…そんな悠長な事は言ってられない様子ね」

「じゃ、すぐ行こうよ。時間かかっちゃうかもだしさ」

 

周りに用心しながら格納庫へ入る私達。警備が手薄なのか或いは偶々取引に使う経路の扉だったのか、扉には鍵がかかっておらずすんなり入れた。

流石にノワールも内部までは知らなかったので格納庫内を歩き回る私達。

 

「全然人がいないです…」

「もしかしてここも前行った工場みたいに廃棄されてるとか?」

「それは無いんじゃない?壁も天井もしっかりしてるし」

「取引を内密に行う為に末端の人間は休みにさせてるとかでしょうね」

 

ぽてぽて、がちゃ、きょろきょろ、ばたん、ぽてぽて…

私達の行動を擬音で表現するとしたらこんな感じだった。正直ちょっと興味の湧く部屋もあったけど一刻を争う状態故に気にしてはいられず、とにかく取引現場を探す。

そんなこんなで十数分、元々あんまり無かった緊張感が完全に途切れそうになった頃……

 

「あ、ここじゃない!?」

 

毎回真っ先に入っては微妙な反応を返していたネプテューヌが今までとは違う声を上げた。そしてそれを聞いて次々と私達も入っていく。

 

「確かにここの様ね…」

「こうもキラーマシンが並んでるとちょっと落ち着かないね…」

「量産までしてたなんて…壊すんでしょ?一気にやっちゃうわよ」

 

ルウィーの治安がかかっている為本気のブランは勿論、ノワールもアヴニールにダメージを与える事には乗り気なのか腕を回してやる気を見せる。女神化すると苛烈な性格になる二人が率先してやってくれるなら楽かなぁ…と思った時、キラーマシンの陰から声が響いた。

 

「そうはさせませんよ、私達の大事な取引物ですからね」

『その声は…ガナッシュ(さん)!?』

 

不敵な笑みを浮かべながらキラーマシンの前に立つガナッシュさん。多数のキラーマシンがその場にある事で余裕を持っているのか、前回してやられた私達に対して気負いの様なものを持っている様子は無かった。

 

「どこから情報を掴んだのかは知りませんが、邪魔は止めて頂きたいですね」

「ふん、ラステイションにとって害のあるアヴニールの悪事を見過ごす訳ないでしょ」

「って言うかどうしてアヴニールがルウィーと取引するのさ?儲かるのは分かるけどルウィーが強くなったらラステイション国民としては困るんじゃない?」

 

ネプテューヌのもっとも且つまともな質問に普段のネプテューヌを知る私達は逆にきょとんとする。…が、当のネプテューヌは本当に気になっていたのか私達の反応には気付いていなかった。

 

「それで良いのですよネプテューヌさん。どうやら貴女達は大きな勘違いをしている様だ」

「勘違い?どゆ事?もしかして取引先はルウィーじゃなくて風の王国とか?」

「まさか。ラステイションに住んでいるからといって必ずしも誰もがブラックハート様を信仰してる訳では無いという事ですよ」

「まさか、それって…!」

「私の信仰する女神様はホワイトハート様ただ一人。ホワイトハート様の為ならラステイションなど何度でも滅ぼしてみせましょう」

 

ネプテューヌのボケを三文字で受け流し、彼の本心……否、本性を露わにするガナッシュさん。ブラックハートであるノワールの目の前で言う事に一切の躊躇いを見せない彼からはハッタリらしき雰囲気は微塵も感じられなかった。

 

「まさかアンタがスパイだったなんて…」

「…あれ?これってチャンスじゃない?」

「どうしたですか、ねぷねぷ」

「だってガナッシュはホワイトハートの信者なんでしょ?って事は…」

「わたしが正体を明かせばそれで解決出来る、という訳ね」

 

ネプテューヌの意図を察したブランが言葉を続ける。

確かに良い案…というか絶好のチャンスだった。勿論異論は無く、ネプテューヌとブランは簡単な打ち合わせをした後一歩前へ出る。

 

「控えおろー控えおろー!この顔が目に入らぬかー!ここにおわす方をどなたと心得る!ここにおわすはルウィーの女神、ホワイトハート様であるぞ!」

「何……っ!?」

「たわけ者が!てめぇ、わたしの顔を見忘れたか!」

「な……ッ!?」

 

ネプテューヌが前にもラステイションで聞いた事のある様な台詞を言いながらブランを紹介し、それに合わせてブランが女神化する。若干芝居っぽさが強過ぎる気はするけど…インパクトは十分だった。

 

「ガナッシュとか言ったな、わたしの為に尽くしてくれているのはよく分かった。…だがな、それで他国やルウィーの皆に迷惑をかける事なんざわたしは望んじゃいねぇ。だから、取引を止めてくれないか?」

「…が…う……」

「……がう?」

「…がう……きさ…か…」

「何言ってやがるか分かんねぇよ、はっきり喋りやがれ…」

「貴様なんか…貴様なんか違う!貴様の様な奴がホワイトハート様であってたまるか!さては噂に聞く最近現れた偽物だな!?」

 

ガナッシュの事を案じ説得しようとしたブランに返されたのはガナッシュさんの怒声。今までの様子は何処へやら、女神化前後のネプテューヌ並みにあからさまな変貌だった。

 

「誰が偽物だ!本物はわたしでわたしを偽物扱いしてる方が偽物なんだよ!」

「そんな訳があるか!私の天使なホワイトハート様がそんな乱暴な言葉使いをする訳が無い!よって貴様が偽物だ!」

「あぁ!?」

「…たまにこういう妄信的な信者っているんですわよね」

「分かるわ。信仰してくれるのは嬉しいけど勝手に違う印象を持っておいて、それが違うと分かると途端に怒り出す奴って厄介なのよね…」

 

ブランとガナッシュさんの言い争い(?)を嘆息しながら眺めるノワールとベール。どうやらガナッシュさんみたいなタイプに困るのは女神あるあるらしい。

私達が対応に困り、結果として放置する形になったせいか二人の言い争いはどんどんとエスカレートしていく。

 

「そもそもわたしの口調なんざそれこそわたしの勝手だろうが!てかわたしの信者なのに知らなかったってどんだけ偏見の目でわたしを見ていたんだてめぇは!」

「偏見、ですって…?…今ので確信しました、やはり貴女はホワイトハート様では無い!ホワイトハート様は仕事にとても前向きで信者にも優しく例えいかなる時であっても慈愛の心を忘れないお方だ!この様な暴力的な人では無い!」

「うわぁ…真面目な堅物だと思ってたけどやっぱ人間好きなものを語る時ってキャラ変わるんだね…」

「わたしはちょっとドン引きですぅ…」

「理想って暴走すると怖いものなんだね…」

 

はっきり言って最早ガナッシュさんは手が付けられないレベルだった。理想のホワイトハートを語る時の輝く様な表情とブランを偽物だと言う憤怒の表情が代わる代わる出てきて意味の分からない事になっている。

 

「ここまで妄信的ですと説得は無理そうですわね…まさかブランの性格が仇になるとは…」

「悪かったな…」

「はぁ、はぁ…こほん、最後のお話は終わりましたか?」

「あ、キャラが戻った」

「生憎取引の時間が迫っていますので、手短に偽物共々貴女方を排除させてもらいますよ」

 

息を整えたガナッシュさんが手にした端末らしき物を操作すると同時にそれぞれの駆動音を響かせ、キラーマシンが動き始める。

 

「結局戦う事になっちゃったわね…まあ、ブラン様の言う通りどちらにせよ壊すつもりだったけど」

「私は野蛮な事は嫌いでしてね。このキラーマシンMK-Ⅲが相手をしてあげます」

「いや、それ直接か間接かの違いだけで野蛮な事には変わりないんじゃ…」

「そんな突っ込みしてる余裕はなさそうだぜイリゼ…」

 

キラーマシンMK-Ⅲと呼ばれた機体は複数いる事を意識してか周囲に散開し始める。…一体ずつ相手をする、って訳にはいかないんだね…。

 

「ねぷねぷ、女神化するです!」

「おっけーこんぱ!」

「ベール様、お願いします!」

「その期待、応えてみせますわ」

「あー…またこの流れだ…まあもう慣れたけどね…」

「この流れ?何の事かは分からないけど私達もさっさと女神化するわよ、アクセス!」

「それは分かってるよ…よしっ!」

 

それぞれの形で女神化し、五人で揃い踏む私達。自分達の事ながら結構壮観なんだろうなぁ…と思いつつも武器を構え、キラーマシンMK-Ⅲを見据える。

 

「流石にこれでは容易に勝つ事は難しそうですね…まあ、負けるとも思いませんが」

「勝手に言ってやがれ、前言通り薙ぎ払ってやるよ!」

「せっかくのチャンスだしアンタ達のせいで溜まったストレスを解消させて貰うわ!」

「…ネプテューヌ、ベール、二人が先行したら私達で援護しようか……」

「そうですわね…心強い事は心強いですけど…」

「一抹の不安を感じ得ない、わね」

 

今にも飛び出しそうな二人と、その二人を見る事でむしろ冷静となる三人。そしてネプテューヌが言い終わると同時に私達へ仕掛けてくるキラーマシンMK-Ⅲ。誰が見るまでもなくそれは…開戦の合図だった。

 




今回のパロディ解説

・「わたしが薙ぎ払ってやるわ、全て…」
機動戦士ガンダムSEEDdestinyの主人公の一人、シン・アスカの台詞。原作での状況とテンション的には人間状態より女神化状態の方が合いそうな台詞ですね。

・風の王国
マクロスΔに登場するメインの国の一つ。キラーマシンとリル・ドラケン、どちらも高性能無人機ですが…全く違う作品なだけあって見た目も全然違いますね。

・「控えおろー!〜〜であるぞ!」
水戸黄門シリーズで主に不届き者を成敗する時に使われる台詞。そしてこれは天丼ネタでもありますね、作中でも出た通り第十四話でも出たパロディなので。

・「たわけ者が!〜〜見忘れたか!」
暴れん坊将軍シリーズの主人公、徳川吉宗さんの台詞。ブランがこのネタを使ったという事は自分の性格について何かしら思う所があったのでしょうか…。

今後の本作についてのアンケートを近況報告に載せました。時間のある方はそちらも読み、返答をして下さるとありがたいです。

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