超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第三十一話 打算無き仲間達

「やっとルウィーまで戻れた…」

 

あれから数時間後、格納庫から脱出した私達は体力を回復させつつも極力急ぎ、ルウィーへと辿り着いた。先頭を歩くブランは最初こそ余裕のない様子だったが、慌てたところで事態は好転しないと判断して平生を保つようにしていた。

 

「安心するのはまだ早いのではなくて?」

「分かってるわ、このまま着いて来て」

 

そう、私達はあくまでルウィーに着いただけであり、襲われているというアジトにはまだ到着していない。だからまだ一息ついている場合ではなかった。

 

「ねーブラン、まだ結構かかるの?近道とか無いの?」

「近道、ね…一つ思いついたものがあるわ」

「え、何々?」

 

ネプテューヌの言葉に顎に指を置いて数秒考えた後、言葉を返すブラン。そしてブランはその反応に興味津々のネプテューヌの後ろへ回り、手にしたハンマーを振りかぶって……

 

「って、ちょ、ちょっとブラン!?まさかそれでホームランバット的な事する気!?」

「天界から落ちても死ななかった貴女なら大丈夫よ」

「大丈夫じゃないよ!?主人公補正とギャグ補正あっても怪我位はしちゃうんだよ!?」

「怪我位で済むのも大分おかしいけどね…」

 

いつも思うけど、うちのパーティーには緊張感というものが無い。特にネプテューヌを筆頭とした女神の面子はそれが顕著で隙あらばボケを入れてくるレベルだった。…事態は急を要するんじゃなかったっけ……。

 

「ねぷねぷ、怪我してもわたしが治してあげるから安心するです」

「それは嬉しいけど出来ればまず怪我をしたくないかな…」

「ふざけてないでさっさと行くわよ、連絡があってから結構時間が経ってるんだから」

「…ブラン、レジスタンス側って戦力どれ位あるの?」

 

少し前から気になっていた事を口にする私。皆もそれを少なからず気にしていたのか雑談を止めてブランの方を見る。

 

「ゼロ…とは言わないけれど、はっきり言って頭数揃えたキラーマシンを相手に出来る程は無いわ」

「そっか…レジスタンスの人達守って、更に周りに被害が出そうならそこも防いで、その上でキラーマシンや偽物のブランを相手にするってなると…結構厳しいね…」

「おまけに慣れない私達にはキツいこの気候…まあでもやるしかないわよ、ブラン様直々の頼みなんだから」

「それに襲われてる人がいるならほっとく訳にもいかないしね」

 

緊張感が無い、とはさっき言ったけど…逆に言えば状況に左右されずモチベーションを維持出来るという事でもある。そしてそれは私達の強さの秘訣の一つだった。

 

 

 

 

レジスタンスのアジト。その名前だけを見ればたいそうな物だろうと誰もが思うが、実際には普通の建物と大差無い。レジスタンス自体が基本的に表立った行動が出来ない為、当然と言えば当然だが……。

そんなアジトの前で二つの勢力が相対していた。

 

「マジェコンヌ…どうして貴女がここに……」

「フィナンシェ、残念だよ。まさか貴様が裏切り者だったとはな」

 

方や多くの機動兵器と兵を従える女性、マジェコンヌ。方や僅かな勢力ながらも気丈に振る舞う少女、フィナンシェ。物量と精神の余裕が比例している二人だった。

 

「わたしが仕えるのはブラン様ただ一人。紛い物の貴女に仕える気などありません」

「大した忠誠心だ。…だが、今回はその忠誠心が仇となった様だな」

「……っ!?まさか…あの情報は貴女が!?」

「教会にスパイがいる事は分かっていた。だからこそそれを利用して偽の情報を流させてもらったのだ」

「そんな……」

 

マジェコンヌの語る事実に衝撃を受けるフィナンシェ。勿論スパイをしている事がバレる可能性は十分に意識していたが…彼女はそれを利用されるとは夢にも思っていなかった。つまり、この件に関しては完全にマジェコンヌが一枚上手だったのだ。

 

「貴様が裏切り者だったのは残念だよ。せめてレジスタンスの連中諸共一瞬で葬り去ってやろう」

「……っ…」

「ふっ……」

 

目を瞑るフィナンシェ。そんな彼女と対象的に不敵な笑みを浮かべ、前へと出る二人の男性。当然、状況に合わない行動に不信感を持ったマジェコンヌが二人へ視線を向ける。

 

「…何がおかしい」

「いや、少し追い詰めた位で勝利を確信している貴様がおかしくてな」

「何が言いたい…」

「マジェコンヌ、切り札は最後まで取っておくものだよ…」

「切り札だと…?」

 

兄弟の言葉に眉をひそめるマジェコンヌ。状況からすればデマカセと捉えるのが普通、しかし兄弟の余裕に満ちた様子はその言葉に不思議な重みを含ませていた。

…が、良くも悪くも自分の力を疑わないのがマジェコンヌだった。

 

「ふん、馬鹿馬鹿しい…切り札があるならば見せてみるがいい!この兵とラステイションから手に入れた鋼鉄の軍勢を倒せるものならな!」

「…いいのかい?兄者…」

「あぁ、この状況ならやむを得ん…マジェコンヌよ、我ら兄弟を貴様…いや、貴女様の仲間にしてほしい」

『…………はぁ!?』

 

そのあまりにも突飛な、そして想定外の要求にフィナンシェとマジェコンヌの両方が驚愕する。だがそれも無理のない話である、何故なら兄弟のそれは切り札でも何でもない単なる手のひら返しだったのだから。

 

「な、なな何を言っているんですかこの変態兄弟は!?」

「気でも狂ったか…?」

「強き者につく事こそ勝者の摂理さ」

「レジスタンスも悪くなかったが、こうも劣勢になってしまってはな…悪いが寝返らせてもらおう」

「それにブラン様より胸もある事だしね」

 

淡々と理由を語る兄弟にフィナンシェとマジェコンヌは唖然とする。確かに理屈は分かる…が、あまりにも打算的過ぎるのではないか、と。そしてフィナンシェは最後の言葉から一つの確信を持つ。…この兄弟、絶対胸目当てでしょう…!

 

「ふっ…ハーッハッハッハ!面白い連中だ!強き者に服従を誓うとは中々分かっているじゃないか。良いだろう、仲間にしてやるさ」

「ありがたきお言葉」

「例え好みが朽ちようと貴女の胸の為に…」

「ちょっとそこの変態兄弟正気ですか!?貴方達のブラン様への信仰心はどうしてしまったんですか!」

 

今までの緊迫した空気は何処へやら、ルウィーの兵は笑いをこぼしてしまう程に豹変した事態に耐えきれなくなったフィナンシェが口を挟む。彼女個人では立場上の関係が無ければ恐らく目すら合わせてくれないであろう兄弟に入れ込んでいる訳では無かったが…中々どうして彼等はそれなりに有能であり、何より今はそれこそ猫の手でも借りたい程に窮地だったからである。

…が、彼女の言葉への返答は彼等を知る全員が予想した通りのものだった。

 

「我等兄弟の信仰心は胸の大きさに比例する」

「よって、胸の薄い…いや、胸の無いブラン様への信仰心は無いに等しいのさ」

「……っ…貴方達……」

「同じ女として若干の同情を感じるレベルの辛辣さだな…さてフィナンシェ、貴様も女神に見切りをつけたらどうだ?」

「…お断りします」

 

輪をかけて悪化した劣勢にも屈せず、気丈にマジェコンヌに相対するフィナンシェ。対するマジェコンヌもその反応は予想の範疇だったのか然程気にもとめずに当初の目的達成への最後の指示を口にする。

 

「そうか…ならばアジト諸共散るが良い……やれ」

 

マジェコンヌの指示が出ると同時に兵の集団の中から前へと出る一人の女性。そして、その女性が攻撃開始の合図を出した時…街外れの辺境の地は、戦場へと姿を変えた。

 

 

 

 

「……どういう、事…?」

 

ブランの案内に従い、アジトへと急行した私達はその場に広がる戦場に呆然とする。

私達がフィナンシェさんからの連絡を受けてから少なくとも一時間は経っている以上、レジスタンスとマジェコンヌの率いる教会との本格的な戦闘が始まってしまっている可能性は十分に考慮していた。だからそれ自体は良い、私達を呆然とさせたのはそれでは無い。私達を呆然とさせていたのは……

 

「ちっ…薙ぎ払ってしまえキラーマシン!」

「無理に前に出る必要はありません、飽和攻撃を心がけて下さい!」

 

ルウィーの兵へと向けて武器を振るうキラーマシン。それに対して前衛である重装備の兵と後衛である魔法使いが連携して対抗していた。

--------そう、戦闘を繰り広げていたのは二つに分かれたと思われるルウィー教会陣同士だった。

 

「どーなってるのこれ!?え、もしや私達別次元のルウィーに来ちゃった?」

「そんな訳無いでしょ…ブラン様、どういう事か分かりますか?」

「…可能性はあるけど…でも、まさか……」

「ブラン様ーー!皆さーん!」

 

状況が飲み込めず狼狽える私達の元へかけられる声。その声に反応して目を向けた先には、こちらへと駆け寄ってくるフィナンシェさんの姿。

 

「フィナンシェ!?無事だったの!?」

「は、はい。皆さんもご無事でしたか?」

「こちらは問題ありませんわ、味方も増えた事ですし」

「それよりフィナンシェ、この状況は一体…?」

 

手早く互いの無事を確認した後に内戦とも見える戦闘について訊くブラン。それに対しフィナンシェさんは一から説明する方が良いと判断し、マジェコンヌが姿を現した所から説明を始めた。

 

「…そして、マジェコンヌが攻撃を指示した時に……ミナさんが反旗を翻しました」

「やっぱりこれはミナが動いた結果だったの…なら、かなり想定外だけど作戦成功ね」

「ミナ?ブラン、ミナさんって?」

「西沢ミナ、ルウィー教会の教祖であり…フィナンシェとは別の目的で教会側に潜入していたレジスタンスの中核人物の一人よ」

 

恐らく全員が思ったであろう疑問を代表でブランへと聞いた私。ブラン曰く、ミナさんは主に情報を掴む事が目的だったフィナンシェさんとは違い、ある目的の為にずっと教会側に潜入していた様だった。

 

「潜入…貴女の所の教祖もしてたのね」

「うちはラステイションとは違って最初からわたしとミナで立案した元の潜入だけどね」

「う、うっさいわよ!」

「ふむ…言い争いをしている余裕はないと思うぞ?」

 

口喧嘩を始めそうになっていたノワールとブランを制止する様に声を上げるMAGES.。彼女の目線の先には、高出力を活かして無理矢理包囲網を切り崩し始めたキラーマシンの姿。

 

「ルウィーの皆さん押されてるです…」

「私達女神でも手を焼く相手なんだから仕方ないよ、それよりここで傍観してる訳には行かないよね?」

「勿論よ。わたしに仕えてくれる大切な皆がルウィーの為に戦ってくれているんだもの…ここで呑気に傍観なんかしてられるかよッ!」

 

啖呵を切り、女神化と同時に飛翔するブラン。女神としての任を全うしようとする彼女に、私達も続く。

 

 

 

 

「まさかフィナンシェだけでなくミナまでもが裏切るとはな…良いだろう、ならばわたし自ら手を--------」

「出させるかよッ!」

「……ッ!?」

 

放たれた矢の様に空を舞ったブランがマジェコンヌを強襲。それをかろうじて回避するマジェコンヌ。二人の視線が交差する。

 

「ほぉ…まさか生きて帰って来れたとはな。つくづく運の良い奴だ」

「てめぇは中々に運が無いな、味方だと思ってた奴らが実は敵で、嵌めた筈の敵も減るどころか人数を増やして戻ってくるなんて同情するぜ」

「ふん、女神はどいつもこいつも減らず口が絶えないな」

 

互いに相手を煽るブランとマジェコンヌ。そのブランに並ぶ様に次々と降り立つ私達。マジェコンヌは私含めた女神全員が揃い踏みしている姿を見て忌々しそうな表情を浮かべる。

 

「…これは貴様の仕業かネプテューヌ」

「わたしは自分が正しいと思った事をしてきただけよ」

「正しい事?女神同士で馴れ合う事が正しいとは笑わせてくれる」

「笑いたいのなら笑えば良いわ。貴女がどう思おうが皆がわたしの大事な仲間であり友達である事は変わらないもの」

 

マジェコンヌの目を見据え、堂々と言い放つネプテューヌ。そのネプテューヌの言葉が余程気に入らなかったのか睨みつけるマジェコンヌ。少しずつ緊張が高まっていく。

 

「こいつがマジェコンヌ…確かにケバい見た目してるわね」

「スタイルはまあまあよろしい様ですけど、人間性が完全にそれを無駄にしてますわよね」

「黙れ女神共が!…そうだ、貴様等には私の新たな仲間を紹介していなかったな」

「仲間…?」

「さぁお前達、女神に何か言ってやるが良い!」

「ベール様、よくぞご無事で戻られましたな」

「おぉ、美しい胸を持つ女性が増えているよ兄者!」

『……は?』

 

相変わらずの調子で私達とマジェコンヌの間に出てきたのは兄弟の二人。その二人の様子に私達は勿論、呼んだ筈のマジェコンヌさえ目を瞬かせる。

 

「な……き、貴様等何のつもりだ!」

「マジェコンヌ、君こそ私達が本当に君についたと思っていたのかい?」

「表立った行動を避けてきたミナ君が出てきたという事はつまり、反旗を翻すつもりだという事。… ならば時間稼ぎと油断を誘うのが最善というだけの話だ」

「…って事は…お二人共あれは演技だったんですか…?」

 

私達に追いついたフィナンシェさんが驚きの声をあげる。会話の内容から推測する限り、兄弟の二人はマジェコンヌの側についていた(様に見せかけていた)らしい。

 

「そういう事さフィナンシェ」

「で、でも何で…貴方達は胸の大きな人にしか興味が無かった筈じゃ……」

「その通りだよフィナンシェ。でも、僕等兄弟だって長年国民として世話になった女神様への恩義位は感じているさ」

「我ら兄弟が欲望でしか動いていないと思ったら大間違いだ。…まぁ、余程の事が無い限り欲望最優先だがね」

 

妙に締まらない、でもどこか芯の感じられる言葉を紡ぐ兄弟。そんな二人を知る私達は彼等への評価をちょっとだけ上方修正し、改めてマジェコンヌに目を向ける。

 

「…らしいねマジェコンヌ。所詮力と利益、そして嘘でしか人を動かせない貴女じゃ本当の仲間なんか出来ないよ」

「本当の仲間…?…馬鹿馬鹿しい、そんな信用のならない関係性を持つ事など愚か者のする事だ」

「その結果孤立したら意味が無いでしょ…!」

「元々利用していただけの奴等なぞ最初から頭数には入れていない」

「…説得は無駄よイリゼ、言って分かる相手ならここまでの事はしないわ」

 

私とマジェコンヌのやり取りを打ち切らせるネプテューヌ。それを合図に全員が武器を構え、マジェコンヌを護衛する様に展開していた兵器も臨戦態勢へと移行する。

そして…

 

「一堂に集まったと言うだけで勝てると思うなよ女神共が!」

「てめぇこそ覚悟を決めるんだな!さぁ、お前の罪を数えやがれ!」

 

私達とマジェコンヌの、三度目の戦闘が始まる。




今回のパロディ解説

・ホームランバット
大乱闘スマッシュブラザーズシリーズに登場するアイテムの一つ。普段ハンマーという重い鈍器を取り回しているブランならはゲーム通り吹っ飛ばす事も可能でしょう。

・「さぁ、お前の罪を数えやがれ!」
仮面ライダーWのキャッチコピーであり、二人の主人公の決め台詞の一つ。シリアスパートにパロディを入れるのは大変なのですが、ネタ次第ではしっくりくるんですね。

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