超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第三十七話 騒乱の博覧会

「会場にお越しの皆様。本日はブラックハート様及び教会が主催する総合科学博覧会にお越し頂き、ありがとうございます」

 

ステージへ現れた司会者は見覚えがあった。それもその筈、その司会者はラステイション教会の教祖ケイさんその人だったから。

でもそれもさして意外じゃない。教会主催のイベントなら教祖さんが出てきてもおかしくはないからね。

 

「おー、ビジネスライク感のあるケイが司会やってるとそれっぽいね」

「ですね。…あれ?ブラックハート様と教会主催…?」

「でもブラックハートてかノワールはここに…って、あら?」

 

アイエフが横…つまり、ノワールがいた場所を見るもそこにはノワールの姿は無い。勿論ちょっと移動したとかではなく、少なくとも見回せる限りの距離には彼女はいなかった。それを不審に思い、探す事を提案しようとした時……

 

「ではまず主催者であり、ラステイションの女神でもあるブラックハート様から挨拶を頂きたいと思います」

 

ケイさんの声を合図にステージ中央にライトが当てられる。そしてそこへ現れたのは気品あるドレスを身に纏った女性…そう、女神ブラックハートこと女神化したノワールだった。

 

「会場の皆、今日は私と教会の主催する総合科学博覧会に来場、或いは出展してくれてありがとう。まずはその事をお礼させてもらうわ」

「ノワール、いつの間に…」

「イベントの規模からしてノワールも女神としての職務があるとは思っていましたが…まさか初っ端とは…」

 

私達パーティーはノワールが僅かな時間の間に移動し着替えていた事に、私達以外の人達は女神直々の登場にそれぞれ声を漏らし、にわかに会場が騒つく。しかし流石に皆状況を理解しているのかすぐに話し声は消え、元の静寂な会場へと戻る。そして、それを見計らったかの様にノワールが再度口を開き挨拶を再開する。

 

「…それと、私は皆に謝らなくちゃいけない事があるわ。国の為と勝手に思い込んで女神の本分を疎かにしていた事、それの影響で国内に混乱を招いた事、それらは全て私に責任があるわ。…ごめんなさい、皆」

『ノワール……』

 

殊勝な態度で謝罪を述べるノワールに私達は複雑な気持ちを抱く。勿論ノワールに責任が無いとは思わない。…でも、アヴニールやマジェコンヌが悪事を働き始めた事はアヴニールやマジェコンヌ自身の問題であってノワールが国に仇なす事をした訳じゃないし、その点に関してはむしろノワールも被害者と言える。

…でも、それは旅の中でその様な事を知った私達だからこそ分かる事であり、ラステイションの国民はそれを知る由もない。だから、この場において私達は黙るしかなく、ノワールも真摯に謝る事しか術は--------

 

「ブラックハート様、我々こそブラックハート様の理想に応えられず申し訳ありませんでした!」

「私達は誰も女神様が私達を見捨てたんじゃないかなんて考えていません!女神様はそんなお人ではありませんから!」

「それよりも俺達の努力、是非見て下さい女神様!」

「……っ…貴方達…」

 

会場の方々から上がる声。一人一人内容は違うものの、上がる声全てがノワールを非難するものではなく、温かく力強いものだった。

そう、出来事の真実や裏を知るまでもなくラステイションの国民はノワールを…女神を信頼し、国民としての意思を貫いていたのだった。勿論全ての国民がそうだという確証はない。…でも、少なくとも今この会場には確実にノワールを肯定している国民がいるのだった。

それを知ったノワールは一瞬ハッとした様な顔をするも、すぐに調子を取り戻し言葉を紡ぐ。

 

「…私は本当に良い国民を持ったわ。貴方達の国の女神になれて幸せよ…。……でも、だからこそ私は今のラステイションを立て直して、豊かで誇りある国に直していかなくちゃいけないわ。そして、その第一歩がこの博覧会よ。…皆、自分達の力と技術の粋である作品を私に…ここにいる皆に見せてあげて頂戴。私も楽しみにしているわ」

 

礼をし、幕内へと下がるノワール。その背中へと温かな拍手が送られる。これはセレモニー…というか開会式の最初に行う主催者挨拶であり、基本的に盛り上がる様なものではなかった筈だけど…今の挨拶はまるでそれが今回のメインであるかの様な賑わいを観客が見せる事となった。

 

「…あれアドリブだよね?…こんな大勢の前でその場に合った言葉に変えられるなんてやっぱ女神って凄いね…」

「慣れれば割と出来るものですわよ?」

「というか慣れなきゃ挨拶なんて上手く出来ないわ」

「…って事をさらっと言える辺り、経験が成せる技なのかな……」

 

守護女神の皆と違って私は女神化する事は出来ても大勢の前で話す経験は全く無かった(あったとしても覚えてないから一緒だよね)為に、素直に感心する。…もし私が記憶を取り戻したら、私もこういう事する機会が来るのかな?

 

「ブラックハート様、ありがとうございました。では次に運営委員長からの言葉です」

 

ノワールの挨拶が終わった事でセレモニーは次の行程へ進み、今度は見慣れない人がステージへと出てくる。

そしてそこから十数分。運営委員長の言葉、会場での注意事項、投票について等の堅苦しい行程が続き、ネプテューヌがあからさまに飽きた様子を見せ始めた所でセレモニーは一つの動きを見せた。

 

「…さて、ではここで武器、兵器の実演会を行います。今回は予め希望を取り、実演会に参加する事を表明した企業による実演会です。皆様、くれぐれも実演会中は騒ぎを起こす事のない様にお願いします」

「実演会?実演会って『いつもより多く回っていまーす』ってアレ?」

「それは大道芸だよね…シアンも希望したのかな?」

「えぇ、シアンというかパッセからも希望が来ていたわ」

「あ、やっぱり?…ってノワールいつの間に!?」

 

いつの間にか居なくなっていたノワール、今度はいつの間にか戻ってきていた。…この会場で次また居なくなったら神出鬼没のノワールって呼ぼうかな……。

と、思っているうちに早速始まる実演会。大規模イベントなだけあって確かにどの出展作品も素晴らしく(この場合強く、の方が良いのかな?)、日々モンスターやら何やらと戦っている身としては感心出来る物が誇張なしに多かった。

……が、やはりラステイションと言えど全て完璧という訳にはいかないらしく…

 

「見て下さいこれ。これ一本で肉野菜魚は勿論お菓子作りや郷土料理にも対応出来る優れもの。おまけにほら、どんなに切っても全然刃こぼれがしないんです!」

「…それは万能包丁では?」

「はい、万能包丁です!」

『……え?』

「今から三十分以内にお買い上げの方にはこちらの抗菌まな板も付いてきます!是非お買い上げを!」

『…………』

 

武器でも兵器でもなく調理器具を、しかもテレビショッピング風に紹介(販売)する人がいたり、

 

「武器がありましぇんっ!」

「…つまり、実演どころか出展も出来ないと?」

「あ、はいそうです…」

『…………』

 

開発が間に合わなかったのか持ってくるのを忘れたのか、とにかく何故自分の番になるまで…というかステージに上がるまで言わなかったのかよく分からない人がいたり、

 

「……随分大きなライフルですね」

「ええ、何せ十六メートル強ありますからね。これは量子反応によって対象を分解消滅させる最新型のビーム兵器、その名も重量子反応ビーム……」

『何堂々と他作品の兵器パクってんの!?』

 

会場から総突っ込みを受ける人までいた。それならいっそサイボーグ専用機まで用意すればまた反応は違ったかもしれない。そういう問題じゃないけど。

そんなこんなで数十分。会場が良い意味でも悪い意味でも温まった辺りで私達にとっての本命…パッセ代表、シアンの番がやってくる。

 

「では、次の方宜しくお願いします」

「は、はい……こちらがわたしの…こほん、パッセの出展する作品、『アルマッス』です」

 

出展者、観客共に平均年齢が高い中でステージに立つシアンは緊張を隠せない様子だったけど、まずは完成した武器を見せる事には成功する。

『アルマッス』。私達がシアンと共に作り上げた武器であり、パッセにとっての希望。その決して軽くはないものを背負った武器は、他者の出展した様々な武器や兵器にも引けを取らない雰囲気を放っていた。

 

「…では、早速実演を……」

「あ、何か出て来たです…あれは…竹?」

「その様だな。…斬るのか」

 

MAGES.の見立て通り、出て来た竹に対しアルマッスを構え、ゆっくりと深呼吸をするシアン。構え方こそ素人に毛の生えた程度のものだったけど、その目は真剣そのものだった。……別に武器としての真剣とやる気としての真剣をかけてる訳じゃないからね!?

 

「……ッ!はぁぁっ!」

 

急転直下の如く構えた状態から声を上げ、竹を袈裟懸けにするシアン。斜めに斬り裂かれ、切り口から上が床へと滑り落ちる竹。会場におぉ…という声が溢れる。

剣…というか刀で竹を斬るというのは魅せる為の演技としては珍しくなく、竹がスパっと斬れる様子からは楽々斬っている様に思われがちだが、それは正しくない。あれは刀の斬れ味だけでなく使用者の技量も必要であり、仮に同じ刀を使ったとしても素人では竹の半ばで止まってしまうか、最悪刀が折れてしまう。にも関わらず、少なくとも刀の使い手ではないシアンが一撃の元斬り落とせたのはつまり使い手の技量を完全にカバーしてしまうという規格外の斬れ味を有していたという事になる。知識のある者ならば、そんな名刀を見て感嘆の声を漏らさない訳がない。

 

「…この様に、高い出力を誇る光学実体複合の刀身と、出力や乱暴な振り方にも耐えるフレーム、そして使用者への負荷を減らす柄。これがアルマッスの持ち味です。……あ、ええと…以上です」

「はい、ありがとうございました。では次の…」

「いやー素晴らしい。高い性能を持ちながらも非力な者でも使う事が出来るとは正に名刀。同じ武器、兵器開発に携わる者として素直に賞賛を送ろうと思いますよ」

「……!ガナッシュ…!?」

 

シアンがステージから下がろうとした所で観客席から声が上がり、一人の青年がステージへと上がる。

慇懃無礼な言葉遣いとその裏に隠された悪意。最早見なくても分かる私達の敵、ガナッシュさんその人だった。

 

「…アヴニールの実演はパッセの次ではありませんし、彼女が下がりきるまではパッセの持ち時間となっています。…これらはルールとして実演希望の際に全員にご確認頂いた筈ですが?」

「えぇ、分かっておりますとも教祖様。ですがどうでしょう?我が社の兵器とパッセの武器によるエキシビションマッチというのは」

「ルールを理解しながらも守ろうとしない企業の提案を受ける道理はありません。これ以上言うのであれば運営判断として出展禁止を命じます」

「ふむ…それは困りますね。仕方ありません、今の話はなかった事に…」

「わたしはエキシビションマッチに賛成だよ!」

 

聞き覚えのある…というか毎日聞いている声が響き、ステージに第二の乱入者が現れる。…と、言うかネプテューヌだった。いや何してんのネプテューヌ!?

 

「おや、貴女が賛成してくれるとは…」

「正直ガナッシュの提案に賛成するのはすっごく嫌だけどね。でもこれはわたし達にとってありがたい展開何だよ!」

「何だよ!…じゃないでしょネプテューヌ…!取り敢えず引き下がらせないと…」

「いや…確かにこれはむしろ好都合よ。ネプテューヌが降りそうになったら引き留めて頂戴」

「え、ちょ…ノワール……!?」

 

そう言って再びどこかへ行ってしまうノワール。…一言言ってったから神出鬼没のノワールの名はあげられないかな。…じゃなくて、これをどうしろと…?

 

「あ、ありがたい展開って…わたしはそんな想定なんてしてないぞ…!?」

「大丈夫だよシアン、わたしもそんな想定してなかったもん…という訳でケイ、エキシビションマッチ良いでしょ?」

「どういう訳で良いと思ったんだ君は……」

 

二人の乱入者、しかも二人目はどこの誰だか分からない、でもどこかで見た事ある様な気もする少女という事で今日何度目か分からない騒めきを見せる会場。教祖であるケイさんも流石にこれには冷静さを保てなかったのか素が出てしまう。

 

「賛成してくれる事は感謝しますが…そこまで余裕のある様子を見せられるのは少々癪ですね」

「ふふん、巷じゃ余裕のねぷちゃんって呼ばれてるからね!」

「余裕のよっちゃんじゃないのか…いや、ネプテューヌだから当然っちゃ当然だろうけど…」

「ほんとに何なんだ君達は……最後通牒です、今すぐ下がらなければ二人共即刻退場を--------」

「エキシビションマッチはこのブラックハートが許可するわ」

『……!?』

 

ケイさんが最後通牒を突きつけかけた瞬間に再度女神姿でステージへと現れたノワール。ラステイションの女神であり主催者でもあるノワールのその言葉は正に鶴の一声であり、その瞬間に会場からの賛成を受ける形でパッセの武器とアヴニールの兵器によるエキシビションマッチ開催が決定となった。

 

 

 

 

『と、言う訳でエキシビションマッチをする事になった(よ・わ)』

『いやいやいやいや……』

 

部活の練習試合の相手を見つけてきたマネージャーみたいな感覚で私達に報告しにくるネプテューヌと女神化を解いたノワール。そんな二人に私達は当然ながら呆れ気味に返す。

 

「あまりにも強引過ぎますでしょうに…」

「非常識な行動に職権乱用…貴女達女神を何だと思ってるの…」

「でもアヴニールの兵器を壊す絶好のチャンス何だよ?」

「ネプテューヌの言う通りよ。それにここで私達…というかパッセのアルマッスの方が強いって示す事が出来ればアヴニールに大打撃を与える事が出来るもの」

「でもせめてシアンに合意を得てからすべきだったんじゃないの?」

『うっ……』

 

その事については自覚していたのか、痛い所を突かれたかの様に言葉に詰まる二人。…が、その二人に助け船を出したのは他でもないシアン自身だった。

 

「いや、この際構わないさ。確かにステージではいきなりで驚いたが別に悪い話じゃない…というか追加で実演の時間を貰えた様なものだからな。それに、技術者としてこんな事で困る程甘い仕事はしてないさ」

「シアン…まあ、シアンがそう言うなら良いとは思うけど…」

「となると…問題は誰がアルマッスの担い手となるかだろう」

「まあ、候補としては普段剣を使ってるねぷ子とイリゼ、それにノワールのうちの誰かじゃないかしら?」

 

アイエフの言葉により呼ばれた三人に視線が集まる。刀、バスタードソード、片手剣とそれぞれ獲物は違うもののどれも刀剣類である以上確かにアイエフの言葉は最もだと私も思う。

 

「あ、悪いけど私は出来ないわ。女神化しなくても前に出て戦ったらブラックハートだってバレちゃうし、そしたら女神が片方を贔屓してるって思われかねないもの」

「じゃあここは主人公であるわたしが…」

『ならイリゼ(ちゃん)しかない(です、わね、ですわね、な)』

「ちょ、何で!?こういうのってまず立候補制じゃない!?」

「だってネプテューヌじゃヘマしそうだもの。日頃の行いの違いよ」

「イリゼちゃん、頑張るです!」

「アルマッスを頼むぞ」

「え…あ、うん……」

 

と、いう訳でアルマッスを使いアヴニールの兵器とエキシビションマッチをする事となった私。

----『もし私が記憶を取り戻したら、私もこういう事する機会が来るのかな?』

数刻前思った事は、私が思っていたのとは半分程違う形で、私が思っていたのよりずっと早く実現する事となってしまった……。




今回のパロディ解説

・「武器はありましぇんっ!」
ドラマ、101回目のプロポーズの主人公星野達郎の有名な台詞のパロディ。「僕は死にましぇん」のつもりでしたが…活字だと凄く分かり辛いですね、すいません。

・「〜〜重量子反応ビーム…」
マクロスシリーズに登場する光学兵器、重量子反応ビーム砲の事。マクロスFをご存知の方ならばお分かりだとは思いますが、この文冒頭の十六メートル強も原作の通りです。

・サイボーグ専用機
マクロスFに登場する可変戦闘機、VF-27(ルシファー)の事。上記の重量子反応ビーム砲はこの機体の主兵装である為、上記とセットで一つのパロディとも言えますね。


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