超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

50 / 108
第四十四話 そして選ぶ選択肢

少しずつ変化する通路。最初は魔窟同様の洞窟らしき壁と地面だったものが進むにつれて近代的に…というより、電脳的になってゆく。

当然、こんな電脳的な空間が自然に発生する訳がない。ゲイムギョウ界でもあり得ない事は勿論あるのだ。そして、その非現実的な展開はそこを歩く少女達を否応なく緊張させ……

 

「おぉー!埃っぽい洞窟からこんなサイバーな所に出るなんて…正に革命!君のハートにレボリューションだよ!」

「なんで貴女はそんなにテンション高いのよ…」

「ほら、アレだよ。子供はこういう所来るとはしゃぐでしょ?それと同じ感じだよきっと」

『あー……』

 

なかった。もうびっくりする程いつも通りだった。…いや、だって私達だよ?良くも悪くもぶっ飛び過ぎてる事に定評のある私達がそんな事で緊張する筈ないじゃん。

…とはいえ、能天気なメンバーばかりではないので多少はまともな会話も挟まれる。

 

「しかしここは誰が作ったのでしょうか…」

「先代の女神の修行場な位だし、先代の女神達じゃないかしら?」

「修行の為にわざわざこんな場所を、ですの?」

「わたしに聞かないで、今ある情報から推測しただけだもの」

 

ベールの疑問は最も…というか、全員が抱いていたものだった。洞窟から電脳空間もどきのダンジョンに移り変わったら誰だって疑問に思う。これには何か理由があるんじゃないか、原因があるんじゃないかと思考を巡らせてしまうのも無理がない話である。

 

「んー…あ、それもいーすんに聞けば良いんじゃない?いーすんなら知ってそうな感じするし」

「そうですね、元々いーすんさんを探しに来た訳ですし」

「して、件のイストワールは何処にいるのやら…」

「そもそもどんな形で封印されてるのかな、それ次第で見つける難度も違うんじゃない?」

 

封印されたイストワールさんを見つける為、ちょくちょく周りを見回す私達。壁が蛍光的な分先程までいた魔窟よりは明るかったが、マベちゃんの言う通り探す対象の具体的な形が分からない為捜索は難航していた。

…と、そこで私達は広間の様な開けた場所に出る。

 

「ここがこのダンジョンの最奥部かしら…」

「ならここにいーすんがいるのがセオリーだよね。おーい、いーすーん!」

「いや、封印されてるんだから声を返せる筈が……」

「待っていたぞネプテューヌ!随分遅かったではないか」

 

私の突っ込みを遮る様に奥から響いてくる声。幾度となく聞いたその声の主が誰なのかなど、最早顔を見て確認する必要はない。そう、彼女の名は……

 

「ま…マタドガス!?」

「誰がマタドガスだ!毎回毎回覚えるどころかどんどん離れていってるではないか!馬鹿か、馬鹿なのか貴様は!」

「いやぁ、だってこれってもうお約束じゃーん。けど、なんだかんだ言いつつ突っ込んでくれるマジェっちは好きだぞ!なんちゃってー!」

 

ピリッとした空気が一瞬で崩壊し、謎の漫才的雰囲気が私達とマジェコンヌの間に流れる。その立役者は勿論ネプテューヌ。…うん、なんかここまで来ると逆にちょっとマジェコンヌに同情しちゃうよね。ほんのちょっとだけど。

 

「シリアス展開になると思いきや、コミカル展開に変えるとは流石だな。お前には空気の破壊者(シリアスブレイカー)の二つ名を与えよう」

「楽しい雰囲気に場を変えるのも才能だね」

「ふふ、ねぷねぷは場だけじゃなくて皆も楽しくさせてくれるですよ?」

「ま、それがねぷ子の取り柄だものね」

 

シリアスパートに入りかけていた状況を一撃でギャグパートに路線変更させたネプテューヌについて、ついわいわいと話し始める。完全に雰囲気に飲まれて状況を忘れていた私達だった。

 

「貴様等…私を無視するなぁぁぁぁ!」

「……こほん…貴女がいるという事は、どうやらここにイストワールが封印されていると見て間違いなさそうですわね」

「ふん…その通りだ、鍵の欠片を揃えた貴様等ならきっと辿り着くと思って待っていたぞ」

「…そっか、何か引っかかると思っていたら、そういう事だったのね」

 

時と場合次第では大人っぽい言動をするベールの言葉によって再び緊張した雰囲気が戻る。そして、ベールとマジェコンヌのやり取りを聞く中で合点がいった様な顔をするノワール。

 

「…ノワール、どういう事?」

「簡単な事だったのよ、鍵の欠片を揃えた私達がここに来る事なんて分かりきった事だったんだわ」

「……!いけない!ねぷ子、イリゼ、あんた達は逃げて!」

「逃げる?せっかく誘い込んだのだ、ゆっくりしていけ」

「ねぷっ!?いつの間にか後ろにモンスターが!?」

 

驚愕の声を上げるネプテューヌ。そしてその声に反応して振り向いた私達の先にいたのは多数のモンスター。ノワールが言った通り、マジェコンヌは偶々ここにいたのではなく、鍵の欠片を揃えた私達はイストワールさんを解放しに来るだろうと予め準備をしていたのだった。

 

「嵌められた…!?」

「面倒な事してくれるわね…でも、モンスターだろうが何だろうが倒せば良いだけよ!」

「はっ!どんなモンスターを出そうが今回もぶっ飛ばしてやるぜ!」

「だと、良いのですが…」

 

罠にかかったという事実に一瞬狼狽えるも、次の瞬間には女神化をし、各々の武器を構える私達。敵が既に臨戦態勢なのであればこちらも戦闘出来る状況にならざるを得ないのが世の常であり、今回もそうだった。

 

「いい?ねぷ子、イリゼ、無理はしないで。あいつの狙いはあんた達なんだから」

「えぇ、分かったわ」

「了解、気を付けるよ」

「ネプちゃん達には指一本触れさせないよ?」

 

マジェコンヌの目的はまだコピーしていない女神の…つまり、私とネプテューヌの力のコピー。だからこそ彼女に安易に背を向ける事もモンスターに集中する事も出来ないのが私とネプテューヌだった。…思う様には戦えない、って訳ね…。

 

「…クックックッ…ハーッハッハッハッ!良いだろう!貴様等がどこまで足掻けるか見せてもらおうじゃないか!」

 

マジェコンヌの声を号砲とするかの様に一斉に襲いかかってくるモンスター。自由に動ける三人の女神を中心に迎撃を始める私達。

イストワールさんの封印と私とネプテューヌの力を賭けた攻防戦が、幕を上げる。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…っく、どんだけ数多い訳…!?」

 

あれから十数分…いや、数十分かもしれない時間が過ぎた。個々の戦闘能力と連携で勝る私達は最初こそモンスター群を圧倒し、瞬く間に数を減らしていったが…一向に減らないモンスターの増援に次第に巻き返され、今となっては逆に劣勢となっていた。

 

「随分と大変そうじゃないか、さっきの威勢はどうした女神共よ」

「モンスターに任せてただ見てるだけのあんたが言うんじゃないわよッ!」

 

目の前のモンスターを大剣で両断しつつもマジェコンヌの挑発に食ってかかるノワール。が、彼女の表情に余裕は見られない。…余裕の無い状態でも挑発に毎回反応する辺り、ある意味凄いのかもしれない。

 

「はぅぅ…このままじゃ体力が持たないですぅ…」

「確かに何か手を打たないとジリ貧は免れないな…!」

「手、ね…この状況を打開出来る手があるとすればそれは……」

 

挟撃を図るモンスターに対し片方を大太刀で受け、その背を狙った二体目へ逆に後ろ蹴りを放って返り討ちにするネプテューヌ。二体のモンスターをあしらった彼女の鋭い視線の先にいるのはマジェコンヌ。その視線一つで私達はネプテューヌの考えを察する。

 

「そういう事ね…でも、ネプちゃんが近付くのは……」

「えぇ、私とイリゼは下手に接近出来ないわ。だからノワール、ベール、ブラン…頼んでも良い?」

「へっ、そんなの答えるまでもねぇだろ?」

「皆さんはわたくし達へ邪魔が入らない様にして下いまし」

「勿論。それ位なら問題なく出来るから…ねッ!」

 

短い会話で意思疎通を図った私達は気を見計らいながらも少しずつ固まっていく。敵の数は未だ多く、親玉であるマジェコンヌは私達一人一人ではどうにもならない程の力を有している。そんな状況で私達が一発逆転を成すには何よりもタイミングが重要だった。

 

「イリゼ、わたしに合わせて頂戴。一気に道を切り開くわよ」

「任せて、しかし主人公二人がそろって露払いやる事になるとはねぇ」

「何ねぷ子みたいな事言ってるのよイリゼ…」

「ふふっ、イリゼも言う様になったじゃない…じゃあ、いくわよッ!」

 

交錯する私とネプテューヌの視線。次の瞬間には私達は地を蹴り、私達とマジェコンヌを隔てるモンスターの壁を穿つべく肉薄する。

 

『……ーー!?』

「喰らいなさいッ!『32式エクスブレイド』!」

「散れッ!『天舞壱式・桜』!」

 

ネプテューヌの力によって顕現するシェアエナジーの大剣。その剣はネプテューヌが手を振るうと同時に放たれ、文字通りモンスターの壁に穴を開ける。そしてその穴へと踏み込む私。全方位へ次々と振るわれる長剣によって、穴を埋めようと動いたモンスターは咲き誇り、その後風に吹かれて散る桜の様に一気に斬り裂かれていく。

モンスター消滅時の光に彩られた花道を駆ける三人の女神。彼女等を追おうとするモンスターはその後ろを走るコンパ達四人に討ち払われる。

一瞬でも遅れれば瓦解する危うい連携。だが、今まで仲間として戦い、友達として笑い合った私達はそれを容易にこなせるまでに成長していた。

 

「な……ッ!?」

「もらったわマジェコンヌッ!」

「決めさせて頂きますわッ!」

「てめぇも年貢の納め時だなッ!」

 

マジェコンヌの正面と側面、その三面へ同時に攻撃が放たれる。それに対するマジェコンヌも流石と言うべきか、殆ど反射的に後ろへと跳ぶ…が、全速力の女神の一撃をその程度で回避出来る筈も無い。

興奮と緊張の影響からか、目の前の光景がスローモーションに見える。そのゆっくりとした世界の中で三人の獲物がマジェコンヌを貫き裂こうとする刹那--------

……爆発が、起こった。

 

 

 

 

立ち上がる煙、その煙に穴を開けるかの様に吹き飛んでくるノワール、ベール、ブラン。三人は…否、私の隣にいたネプテューヌを含めた守護女神四人は女神の姿から人の姿へと戻っていた。

 

「え、ど、どゆ事!?」

「それに、今の爆発は一体…?」

「----残念だったなぁ、女神共よ」

『ーーっ!』

 

煙の中から姿を現すマジェコンヌ。三人の攻撃は辛うじて届いていたのか、致命傷とは言わずとも大きな傷を与えていた。だが、それだけである。マジェコンヌは、健在だった。

そして、マジェコンヌに付き従う様に現れる大きな影。その正体は……博覧会で相見えた『ハードブレイカー』を彷彿とさせる大型マシンだった。

 

「そんな…何でその機体がまだあるのよ!?アヴニールは確かに私が解体した筈なのに!」

「ハードブレイカーの予備機とやらを解体前に手に入れていただけさ。残念ながら私は技術者じゃない分性能も女神封印システムも多少落ちてはいるが…どうやら十分だった様だな」

「だからわたし達の女神化が解けたのね…」

「ふん、イリゼの女神化は相変わらず解けていないがな。しかし今のは冷や汗を禁じえなかったぞ、油断せずこいつを用意しておいて正解だったな」

 

してやった、と言わんばかりの表情を浮かべるマジェコンヌ。対する私達は勝利目前まで進んでいた分余計に強い衝撃を受け、動きを止めてしまう。…それは、この場において最悪の悪手だった。

 

『きゃぁぁぁぁぁぁ!?』

「……ッ!皆…!」

「ハーッハッハッハッ!全体としての戦力が大幅に低下した貴様等ではモンスターすらどうにもならないだろうなぁ!」

 

足を止めた私達へ一斉に襲いかかるモンスター。守護女神の四人が女神化状態で戦っても劣勢を強いられていた相手を私以外は女神化不能の状態で凌ぎ切れる筈がない。幸い固まっていたおかげで各個撃破される様な事こそ無かったものの、全滅するのは火を見るよりも明らかだった。

 

「……っ…イリゼ!ネプテューヌを連れて逃げて!」

「アイエフ!?何を言って…」

「マジェコンヌの目的は貴女達よ、それは分かってるでしょ!?」

「でも…皆を置いてくなんて出来ないよ!」

「美しい友情劇だな…だが、もし貴様等二人が逃げればここにいる連中はどうなる?まさかモンスターを殲滅出来るとでも思っているのか?」

 

そう、現状はマジェコンヌが圧倒的優位であり、私達全員が無事に逃げられる可能性は限りなくゼロに近い。だが、私達二人だけならまだ可能性はあり、尚且つマジェコンヌの目的を阻止出来る。…つまり、皆を見捨てるのが賢明…そんな最悪の状況に私とネプテューヌは直面していた。

 

「さて…ここで一つで取り引きをしようじゃないか。貴様等の力を差し出せば、こいつらの命は助けてやろう」

「わたし達の、力と交換…?」

「そうだ、悪い条件じゃないだろう?だがネプテューヌ、貴様等の力はコピーではなく差し出してもらおうか」

「そんな事をしたらねぷねぷが女神さんじゃなくなってしまうです!」

「ネプテューヌには何度も苦汁を飲まされてきたのだからな。力そのものを頂く!」

 

マジェコンヌは私達には…特にネプテューヌに対し悪魔の取り引きを持ちかける。確かにマジェコンヌの目的が達成され、しかもネプテューヌは力を失うという多大なデメリットがあるのは事実だが…それでも、私は彼女の言う通り悪くない条件だと思ってしまった。『こいつらの命は助けてやろう』。記憶も無く、自分を知る人もいない私にとって皆という存在はその最低の取り引きに応じるかどうか思案しようと思えるまでに大切で、かけがえのないものだった。

そして、その想いはネプテューヌも同じなのだと、彼女の表情を見て気付く。

 

「ねぷねぷ、イリゼちゃん、逃げて下さいです!」

「こんな取り引き応じる必要無いわ!早く逃げて!」

「狂気の魔術師はこんな事で命が惜しくなる程ヤワではない。いいから行け!」

「誰かを守る事こそ忍の役目、だから逃げて!」

 

声が聞こえる。女神だから、ではなく友達として私達の身を案じ、そして自分の命よりも私達の事を想ってくれる皆の声が。

 

「てめぇ等の力まで奪われたらこの世界は終わりなんだ!構わず逃げろ!」

「わたくし達も、貴女達も女神ですのよ?…ならば、何を一番大切にしなければいけないから分かっているでしょう!」

「皆貴女達の為に覚悟を決めてるのよ!いつまで迷ってるの!」

 

声が聞こえる。私達の為に、そして国…世界の為にはなから自分の命を助ける相手の勘定に入れていない誇り高き皆の声が。

 

『…………』

「揃いも揃って自らの命を捨てるか…理解出来ないな」

 

ネプテューヌと顔を見合わせる。言葉は交わさない。何故ならそんな事をしなくても、互いが何を思っているかなんて容易に想像する事が出来たから。

そして、二人で答える。

 

「……分かったよ、皆…イリゼも良いよね?」

「うん、ネプテューヌこそ良いの?」

「勿論だよ。…ううん、ほんとは最初から迷うまでも無かった筈だよね」

「答えは決まった様だな。さぁ、聞かせてもらおうか」

 

 

「…マジェコンヌ。私達の力を貴女にあげる」

「だから、皆を助けてあげて」

 

私達は選ぶべきではない選択肢を…私達にとって一番大切なものを救う選択肢を、選んだ。




今回のパロディ解説

・「〜〜君のハートにレボリューション〜〜」
お笑い芸人、ゴー☆ジャスさんのネタの一つ。最近話題のこの人は前にとブレイクした再ブレイク芸人ですよね。…あ、勿論ゴー☆ジャスさんを貶してる訳ではないですよ?

・マタドガス
ポケットモンスターシリーズに登場するポケモンの内の一つ(一匹?)。ここまでくるとほんとに誰だか分からなくなりますね、マジェコンヌさんごめんなさい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。