超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第四十五話 まるでパンドラの箱を開いたかの様に

目的の為に犠牲を払う。より多くの人を救う為に少数を見捨てる。

命の価値に絶対的な基準は無いし、出来るのならば誰も傷付かずに目的を果たし、全員を救う様にしたい。きっとそれは多くの人が思う事だし、だからこそその思いを抱いた上で何かを捨てるという判断が出来る人は強い精神を持つ、間違いなく凄い人間だと思う。

--------でも、全ての人がその判断を出来る訳じゃないし、大義の為に何かを捨てる判断はある意味では正しいのかもしれないけど、絶対的な正義だとは思えない。だから、私は----私達は--------

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

ネプテューヌの力が、女神の力がマジェコンヌに奪われる。…いや、違う。その力は私達が自ら選んでマジェコンヌに渡したものだった。……私達を想ってくれる、皆の為に。

 

「ネプテューヌ…」

「わたしの…わたし達の女神の力で皆が助かるんだったら、安い取り引き…だよね…」

「ねぷねぷ……」

「ねぷ子……」

 

力を奪われた衝撃で膝から崩れ落ちるネプテューヌと、それを支える私。それでも彼女は笑っていた。強がりでも何でもなく、女神の力と引き換えに皆を助けられるなら安いものだと心からネプテューヌは思っていたから。

 

「ハーッハッハッハッ!やっと…やっと四人の女神の力を全て手に入れたぞ!!ハーッハッハッハハッハッハッハッハッ!!これで私は女神を凌駕する存在に…いや、森羅万象全てを超越する真の神になったのだぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

相手を思いやり合う私達とは対照的に、誰も思いやらず、誰にも思いやられていない存在、マジェコンヌが高らかに、そして喜びと狂気の混じった笑い声を上げる。その笑い声は、超常的存在と状況が入り混じるこの場において、最も異質なものだった。

 

「マジェコンヌ…貴女は一体……」

「あぁ…そう言えばまだ貴様がいたな。くく、正体は未だ不明だが貴様も女神の力を持つ存在。その力をも手に入れたとしたら一体どれだけの強さになるのだろうな…」

「…私も抵抗はしないよ。だから私の力をコピーした後は皆を助けて」

「助ける?つくづくおめでたい頭をしているな、あんな約束誰が守るものか」

『……ーーッ!?』

 

マジェコンヌの言葉に私達二人は愕然とする。約束が守られない、それはつまり……

 

「皆を…全員を殺すつもりなのッ!?」

「約束したじゃん!わたし達の力をあげる代わりに皆を助けてくれるって!嘘つき!!」

「何とでも言え。所詮は弱者…負け犬の遠吠えにしか聞こえん!」

「……ッ!マジェコンヌぅぅぅぅぅぅッ!!」

 

マジェコンヌの言葉に弾かれたかの様に私は地を蹴る。確かにマジェコンヌを信用しきっていた訳ではない。でも…皆の命程ではないとはいえ、大切なものである女神の力を渡した事を完全に蔑ろにしたマジェコンヌの態度に、皆が殺されるという事象に耐えて静かにしているなんて私には出来なかった。

構えもへったくれもない突進からの刺突。だがそれでも虚をついた一撃はマジェコンヌを正確に捉え--------

 

「そんな攻撃で…やれると思うなッ!」

「がは……ッ!?」

 

私の目の前にいたマジェコンヌの姿がぶれる。次の瞬間、私を襲う上からの衝撃。その正体は……

 

「…嘘…でしょ……?」

「残念ながら事実だ。ふっ、良かったじゃないかイリゼ。何せこの私の完全なる力を真っ先に体感する事が出来たのだからな!」

 

あの瞬間、確かに私はマジェコンヌよりも先に動き、実質油断していたマジェコンヌは反応が一瞬遅れた筈だった。にも関わらず私が攻撃を受けたという事はつまり、およそ二手分の差を覆し、逆に私を圧倒出来るだけの力をマジェコンヌが有しているという事だった。

今までにも感じたマジェコンヌとの力の差。だが、ここまで顕著且つ絶望的なのはこれが初めてだった。

 

「さて、では貴様の力も…いや、その前にまず冥土の土産に面白い余興を見せてやろう」

「余興…一体、何のつもり……?」

「そう勘ぐるな、手にした絶対的な力を試したい気分とこの私を相手に今まで善戦してきた貴様等へささやかな手向けをしてやろうという考えが合致しただけだ。…これを見ろ。この本こそ貴様等の探すイストワールが封印された姿だ」

「それが、いーすん……」

 

マジェコンヌが華美でない程度の装飾がされた、気品ある本を取り出す。もし、マジェコンヌが真実を述べているとするならば…遂に、私達は私達を導いた謎の人物、イストワールさんを発見した事となる。無論、そのイストワールさんは未だマジェコンヌの手中の中ではあるが。

 

「おいイストワール。聞こえているのだろう?やっと、私は真の女神となったのだ」

「マジェコンヌ…貴女という人は……」

「見ろ!…と、言っても今の貴様にはこの女神共が這いつくばった無様な姿は見えないのだったな。いい眺めなのに残念だよ!」

『……っ…』

 

マジェコンヌの言葉に歯噛みをするしかない私達。彼女の言う通り倒れている私とネプテューヌは勿論、他の皆もモンスターに包囲されている事により反撃の術を失っていた。

 

「…さてイストワール、お前の力…いや、お前の記録を使わせてもらおう」

「私の…記録…?……まさか…っ!」

「あぁそうさ!女神共から奪った力を人々の畏怖、そして史書イストワールの記録を使い、メガミキラーを媒体として私は魔王を召喚する!!」

 

一瞬マジェコンヌが何を言っているのか分からなかった。だが、イストワールさんが封印されている本と逆の手に集まる禍々しくもどこか惹かれる様な力の輝きに私達は本能的に『あれは不味い』と感じた。

そして……

 

「悪夢は再来する。さぁ、控えろ女神共--------魔王の、凱旋だ」

「■■■■■■■■!!!」

 

巨大な、醜悪な、邪悪な魔王(化け物)が----顕現した。

 

 

 

 

「魔、王…あれが……?」

「そんな、嘘でしょ…ユニミテスって女神様達を陥れる為にあいつが広めた架空の魔王じゃなかったの!?」

「その通りだ、だが…架空だろうと人々が想像し、畏怖した以上そこには信仰心が…シェアが生まれる。それと女神の力、そして記録を元に想像したのさ!」

「■■■■ー!!!」

 

魔王ユニミテスは言葉では形容し難い声…もっと言えば雄叫びをあげる。マジェコンヌの話が嘘か誠か、嘘ならばどこまでが嘘なのかは定かでは無かったが、とにかく目の前に魔王が現れた事だけは事実だった。

 

「何よその馬鹿げた話は!」

「そうですわ、きっと何かトリックがあるに違いませんわよ」

「こんな事、信じられるかってんだよ…」

「女神共がこれを否定するか…はっ!確かに馬鹿げているな!物理法則を超えた奇跡そのものであるシェアを、そのシェアを力とする、言わば奇跡の体現者である女神が自身の力と共に否定するとはな!」

『……ーーッ!?』

 

マジェコンヌの言葉に私達…特に女神としての記憶のある三人が驚愕する。確かに、全くもって荒唐無稽な夢物語とは思えない。それでも…女神が、奇跡の体現者……?

 

「まぁ、人によって想像する姿の違う架空の魔王に形を与える最大の一手となったのは、他でもないイストワールの記録だがな。あぁ、イストワールならば魔王への対策も分かるかもしれないぞ?…最も、この状況では無駄だがなぁ!」

 

私達を圧倒し、念願の力を手に入れ、魔王創生すら成した事で気分が高揚しているのか、いつになくマジェコンヌは饒舌になっている。普段ならはそこへ茶々を入れる私達も今回ばかりは驚きが多過ぎて言葉を紡げない。

…だが、そこで動いた者がいた。

 

「…そうです…いーすんさんはねぷねぷやイリゼちゃんの記憶を戻せる位の力があるんです。だったら…」

「…コンパ?」

「こそこそ…こそこそ…ですぅ……」

 

魔王に圧倒されたのは私達だけではなかった。その禍々しい覇気にモンスターも…いや、魔王と同じく人々に恐れられるモンスターだからこそ私達以上に魔王に釘付けとなっていた。そしてコンパはそれを利用したのだった。

 

「余興の締めくくりは魔王ユニミテスによる、女神の殺戮ショー…っと、危ない危ない。危うく更なる力を手に入れるチャンスを捨てる所だったよ」

「く……ッ!」

「安心しろ、貴様の力はコピーだけに済ませてやる。良かったな、魔王相手に悪足掻きが出来るぞ」

「こそこそ…気付かれない様に気を付けるです……」

 

私の頭を押さえつけるマジェコンヌ。マジェコンヌの注意が私に向き、魔王が指示がないせいか攻撃に移らない状況で起死回生の一手を打つ為にただ一人で動いていた。

コンパが隠密行動をとる中、私達はただ一つの事を思っていた。ただ一つ……

 

((聞こえてる!思いっきり聞こえてるぅぅぅぅぅぅ!!))

 

突っ込みだった。頭を押さえつけられている中ちらりと目だけを動かしマジェコンヌの顔を見た所、彼女もどうしたらいいか分からない、と言った顔をしていた。いやコンパこそこそって擬音だから!口で言ったってバレるだけでしょうが!どうするのこの状況!?敵であるマジェコンヌですら多分『こ、これは気付かない振りするべきなのか…?』みたいな事考えてるよ!?

 

「……っ!ええぃ!とにかく今は貴様の力を頂くぞ!正体不明の貴様の力、私が明かし我が力としてやろう!」

「……っ!」

 

妙な迷いを振り払い、私を掴む手にコピー時特有の闇色の輝きを纏わせる。絶望的な状況だけに遂に年貢の納め時か、とそれに私がどこか達観した様な思いを浮かべ、コピーによる衝撃を想像して目を瞑った瞬間……

 

『……ーーッ!?』

 

私の身体は床に押さえつけられ、マジェコンヌの身体は宙へと舞っていた。マジェコンヌが跳んだ訳ではない。誰かが攻撃を仕掛けた訳でもない。だが、コピーをしようとした瞬間磁石の同極同士が反発するかの様な、まるでコピーの力を拒絶するかの様な『何か』が働いた。

 

「……!今ですっ!」

「コンパさん……っ!」

 

私から吹き飛ばされた衝撃で本を落とすマジェコンヌ。その本をコンパが走り込み、ヘッドスライディングばりの勢いで飛び込む。

息を飲む私達。立ち上がったコンパの手には…本。

 

「いーすんさん、ゲットですぅ!」

「……っ!MAGES.、強化お願いッ!」

「強化…そういう事か!」

 

コンパが本を手に入れたのを見るや否や広間の中心へと走り、床に向けて何かを叩きつけるマベちゃん。そしてその何かが床に着いた瞬間衝撃で破裂、周囲へ煙を振りまき始める。

そう、彼女が叩きつけたのは視界を奪う煙玉だった。更にそこへMAGES.が魔術を付加。煙に一瞬魔方陣が浮かび、次の瞬間には煙の勢いと量が格段に増す。

 

「な……ッ!?目眩しだと!?」

「皆!出口に向かって走って!」

「イリゼ!ねぷ子を頼んだわよッ!」

「……っ!行くよネプテューヌ!」

 

先程の衝撃のダメージが残る身体を無理矢理跳ね起こし、未だ脱力状態から抜けられていないネプテューヌを抱えて出口へと飛ぶ。それに対してマジェコンヌは全方位へと広がる煙玉を挟んで奥側にいた為私達をかなり捕捉し辛く、また私同様の衝撃と先の戦闘による怪我が痛むのが影響しているのか、即座に追いつかれる様子は無かった。

…そう、マジェコンヌは。

 

『キシャアァァァァァァッ!』

「も、モンスターさん達は迷わず襲ってきたですぅ!?」

「くっ…知性が低い分感覚気管が強いって奴なの!?」

「…ここはわたくし達に任せて下さいまし」

 

パーティーの集団の中から守護女神三人が突出。私達の行く手を阻む様に広がるモンスターの輪に接近し……女神化する。

マジェコンヌはシェアと女神の力、そしてイストワールさんの記録を使い、私を除く女神の力を封じていた『メガミキラー』を媒体にユニミテスを召喚していた。それは逆に言えばメガミキラーが消滅…つまり、女神化を封じる力がこの場から無くなっていたという事だった。

 

『邪魔を…するなぁぁぁぁぁぁッ!』

 

ベールが一点集中の突撃でモンスターの輪の一角を破壊、そこへノワールとブランが飛び込んで左右から斬り崩していく。

私とネプテューヌが行った連携の再現の様な攻撃で開かれた突破口。そこへ私達が次々と駆ける。

 

「殿は私達に任せなさい!皆は早くダンジョンの外まで走って!」

「了解!しっかり捕まっててよ!」

「う、うん……!」

 

動けないネプテューヌを抱えた私が高速で離脱し、その後を追う様にコンパ達が走る。ノワール達女神三人は散発的に攻撃を放ってモンスターの追撃を阻止する。

全員が体力の限り走り、飛ぶ。後となってはどこをどう進んだのかいまいち思い出せない程の極限状態で駆け続け…

 

「はぁ…はぁ……」

「も、もう…走れない、ですぅ……」

「ふ、ふふ…魔術師にも、体力は必要…という事か…」

「でも、何とか…マジェコンヌもモンスターも振り切れた様だぜ…」

 

夕焼けに染まる空、いつの間にか見えなくなったダンジョンの入り口。私達は、逃げ切れていた。

 

「二人共、大丈夫ですか…?」

「うん…皆ごめんね、こんな事になっちゃって…」

「こんな事って…ねぷ子もイリゼも私達の事を想ってマジェコンヌに力を渡そうとしたんでしょ?…なら怒れやしないわよ」

「あいちゃん…」

「…皆さん、まずは落ち着ける所まで移動してはどうですか?色々と話す事はあると思いますが、ここでは別のモンスターに襲われる可能性がありますし」

 

イストワールさんが鍵の欠片を使った通信ではなく、そのままの声で私達に話しかけてくる。その意見は至極全うであった為、私達は疲れた身体を動かし、コンパのアパートへと向かう。

イストワールさんは救出する事が出来た。でも、引き換えにネプテューヌの女神の力は奪われ、マジェコンヌのより一層の強敵化と誰も予想だにしなかった魔王の顕現という最悪の事態も招いてしまった。互いに当初の目的は果たせた形になったとはいえ、今後起こりうる事態はあまりにも危険且つ脅威になる事を薄々感じていた私達は複雑な心境で帰路につくのだった。

 

 

 

 

「…逃げられたか……」

 

煙の晴れた広間に佇む一人の女性。身体は傷付き、敵にも逃げられた彼女だったが、念願の力と圧倒的戦力を手中に収められた事もあり、然程不機嫌そうではなかった。

だが、彼女には懸念事項もあった。

 

「イストワールが奪われなければ磐石だったのだろうな…それに、イリゼ…奴は本当に何者なんだ……」

 

イリゼの力のコピーに失敗したのは力の不発でも無ければ偶然でもない。それはもっと単純明解であり、だからこそ彼女が認めたくない理由……

 

「奴の力は私の…四女神の力を有した私の力ですら到底及ばない程の高位のものだとでもいうのか…?」

 

コピーの力の持ち主であり、何度もその力を使ってきた彼女だからこそ分かる事実。しかし、彼女がそれを素直に認められる訳がない。現に彼女はイリゼの不意打ちを軽くあしらい、力の差を見せつけたのだから。

 

「そうだ…私は強い。イリゼよりも、他の女神よりも…この次元に存在する誰よりも!ふん、たかがコピーを防がれただけじゃないか!奴もイストワールも女神も今の私には恐れるに足りん!ゲイムギョウ界諸共まとめて葬ってやるわ!ハーッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

--------マジェコンヌは高らかに笑い、魔王とモンスターを従えその場を去る。

そして彼女は向かう。負の感情と闇の存在が跋扈し、ゲイムギョウ界において行き場を失ったものが辿り着く『墓場』へと。

 




今回のパロディ解説

・「そんな攻撃で…やれると思うなッ!」
機動戦士ガンダムSEED destinyの主人公の一人、シン・アスカの台詞。原作ではVPSで弾いたとはいえクスィフィアスⅢを喰らっていたので本作とな状況が違いますね。

・「〜〜さぁ、控えろ女神共。魔王の--------凱旋だ」
デート・ア・ライブの登場キャラ、アイザック・レイ・ペラム・ウェストコットの台詞の一部。無論マジェコンヌが作中で召喚した魔王は反転した精霊じゃありませんよ?

・「いーすんさん、ゲットですぅ!」
アニメ版ポケットモンスターの主人公、サトシの決め台詞のパロディ。…ですが、正直パロディと言うには元の台詞と被る部分が少ないので結構微妙かもしれません。

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