超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第四十八話 Alternative Origin

「ふぁ、ぁ…んっ……」

 

大盛り…どころか特盛りてんこ盛りだった日の翌日。疲れていた分ぐっすり寝られたおかげか、すっきりした目覚めで朝を迎える事が出来た。

 

「皆は……まだ寝てるみたいだね」

 

伸びをした後周りを見回した私の目に映ったのは思い思いの場所で寝るパーティーメンバーの皆の姿。流石に一人一部屋が出来る程部屋数がなかったので、ならばいっそという事もあり全員でリビングに寝る事としていた。…コンパの名誉の為に補足しておくけど、決してコンパが貧乏で狭いアパートに住んでる訳じゃないからね?私達全員に個室振り分けるのが出来る住まいなんて豪邸位だからね?

 

「…ふふっ、普段ぶっ飛んでる皆も寝てる時は普通の女の子だよね」

「…ねぷぅ…三食プリンに昼寝とゲーム…これぞリア充……」

「…すぅ…全国一斉コスプレ大会…女神としてこれを発案するわ……」

「…んぅ…あいちゃんとチカとネトゲでオールナイト…ふふふふふ……」

「…くぅ…読書と執筆に没頭して死ぬなら…それも本望よ……」

 

……前言撤回、守護女神は寝てる時でもぶっ飛んでいた。ある意味予想通りのネプテューヌとベールはともかく、ノワールやブランまでこれだから救いようがない。ここまでくると逆にもう天晴れだよね…。

 

「……あれ?」

 

飲み物でも取りに行こうかな、と立ち上がった時、視界の端に浮遊する本が映る。昨日までの私なら「えぇぇ!?」と驚いてたかもしれないけど、その浮遊する本の正体を知っている今は違う。

 

「お早いですね、イストワールさん」

「……!?…あ、おはようございますイリゼ、さん…( ̄O ̄;)」

「……?」

 

私の挨拶にえらい驚くイストワールさん。本人だけでなく、どういう訳か本までビクッとしていた。…うーん…あ、後ろから声かけちゃったからかな…?

 

「…イリゼさんこそ早いですね(´・Д・)」

「偶々ですよ。…そういえば、一つ気になっていた事があるんですけど…」

「気になっていた事、ですか?(・・?)」

「はい、その…イストワールさんが座ってるその本もイストワールさんの一部何ですか…?」

 

イストワールさんは解放されて以降ずっと本の上いて、移動する時は本を空飛ぶ絨毯の様にしていた。別に知っておかなきゃ困る事では無いけど…気になっちゃったものは仕方ないよね。

 

「あ、その事ですか…そうですよ。封印に使われていたのも留め具であって本そのものではないですし( ´ ▽ ` )」

「やっぱりそうなんですね、ありがとうございます」

「因みにですが、本から降りる事も出来ますよ?(^o^)」

 

そう言ってイストワールさんは本から降り、机にちょこんと座る(自立浮遊は出来ないのか、その時本も机に着地していた)。…なんか可愛い。

そしてそのまま二人で雑談…というか互いに質問と回答を繰り返す事十数分。私達の声が大きかった…訳ではなく、単に朝早い時間から普段起きる時間になった事で皆ものそのそと起きだす。

さぁ、今日も一日頑張るよっ!

 

 

 

 

「……って、地の文で意気込んでいたのにどうして私はケーキを食べてるの…?」

 

フォークを片手に呟く私。目の前には甘く柔らかいショートケーキ。

勿論、ケーキに不満がある訳じゃない…というか世の中に数多いる女の子同様甘いものが好きな私にとってショートケーキは満足いくものだったし、仮にケーキが嫌いだったとしてもそれならそれで食べなければ良いだけの話。私が問題にしていたのはまったりとケーキを食べている状況にだった。

 

「それはですねイリゼちゃん、今はユニミテスはいないってどうやったら思ってくれるかの話し合いをしてるからですよ」

「昨日ネプテューヌはやるだけやってみる、という旨の言葉で皆を説得していたが…だからといって具体策が不要だという訳にはいかないだろう」

「だね、街中で考えもなくただ『ユニミテスは架空の存在なんだー!』って叫んでもそれを信じてくれる人は中々いないと思うよ」

 

私のぼやきにコンパが反応し、MAGES.とマベちゃんが補足をしてくれる。

そう、私達は別におやつの時間を満喫していた訳ではなく、対ユニミテス会議の真っ最中だった。…ううん、真っ最中だった『筈』と言うのが適切だね。だって……

 

「ちょっ、ネプテューヌ何私のケーキの苺取ってんのよ!?」

「そこに苺があるからだよ!」

「スポンジと生クリームは互いに互いを引き立て、支え合う存在。ふふっ、まるでわたくしとあいちゃんの様ですわね」

「べ、ベール様と引き立て合って支え合うなんてめめめ滅相もないですっ!」

「騒がしいわね…あむあむ……」

 

現状フルメンバーの内の半数が本来の主旨とは関係ない事柄に夢中になっていた。これじゃ会議じゃなくてほんとにおやつの時間にしか見えない。しかも私の言葉に返答をしてくれた三人も単に聞こえたから返しただけらしく、それぞれ会話に参加するなりケーキを味わうなりして好きな様に時間を活用していた。…くっ、斯くなる上はこの人しかいない!

 

「イストワールさん!この状況を良しとするんですか!?」

「いや良くはありませんが…これまでの数十分で真面目に考えれば良い案が浮かぶ、という訳ではない事が判明しましたし息抜きという事でここは一つ…(⌒-⌒; )」

「それはそうですけど…むむ、これじゃ私が一人で空回りしてるだけみたいに…」

「え、みたいも何も…実際に空回りしてるよ?」

『うんうん』

「がーん!してるの!?って言うか何故ここで満場一致!?」

 

偶にうちのパーティーは妙な悪ノリをしてくる。普段はネプテューヌが餌食になるんだけど…今回は一人真面目モードを維持していた私が対象になっていた。……これが同調圧力って奴なの…?

 

「ふふっ、イリゼのそのビビットな反応嫌いじゃありませんわ」

「そんな評価要らないよ…」

「貴女の反応期待してノった事はともかく、一旦時間をおく事でそれまで見つけられなかった解決方法を発見出来る様になる事もあるものよ」

「あ、わざとやったの認めたね」

 

色々釈然とはしなかったけど、ブラン、そしてイストワールさんの言う事には一理あった。計算や迷路クイズで行き詰まったら一度最初からやり直してみると良い、というのと発想としては同じ何だと思う。…ただ、一つ言いたい事があるとすれば…

 

「…皆その考え方を免罪符にしてるだけじゃないでしょうね…?」

『…………』

「……はぁ…」

 

わいわいと賑やかだった皆が一斉に黙る。とても分かりやすかった。

 

「まあ良いけどさ…そのキャラを公の場でもぶちまけた結果シェア率ダウンとかしない様にね……」

「職務の時までふざける訳ないでしょ、だいたい私は単に苺取られただけであって--------」

「ノワールストップ。…イリゼ、今何て言った?」

「え?な、何か私失礼な事言っちゃった…?」

「おぉ!古今東西様々な物語で出てくる展開キター!」

「ねぷねぷ、お話の邪魔になる様な事言っちゃ駄目ですよ」

 

ノワールの言葉を遮る形で私に発せられた、問い詰めるかの様な質問(と、ネプテューヌの小ネタとコンパの窘め発言)。その声の主はベールと百合百合していた筈のアイエフだった。その突然の言葉と語調に私は動揺してしまう。

 

「そうじゃないわ、だからもう一度言って頂戴」

「う、うん…えと、そのキャラを公の場でぶちまけてシェア率ダウンしない様に…みたいな感じだったよね?」

「…イストワール、魔王はいないって思わせるのはユニミテスを存在させているシェアの力を失わせる為の手段であってそれ自体が目的な訳じゃないわよね?」

「あ、はい。アイエフさんの言う通りいないと思わせるのがあくまで一番手っ取り早い、というだけですけど…(・・;)」

 

アイエフの言葉に怪訝な顔をするイストワールさん。対するアイエフはイストワールさんの返答を受けた後、数秒の思考時間を経て口元に笑みを見せる。

 

「あいちゃん、何か思い付いたんですの?」

「えぇ…考えてみれば凄く簡単な話だったんです、ただ私達はユニミテスを特別視し過ぎていただけなんですよ」

「…アイエフよ、つまりどういう事なのだ?」

「信仰の方向性や立場は違うけど、魔王も女神様もシェアを力にしてる事には変わりないでしょ?…って事は、魔王もシェア率の競争相手と捉える事は出来るんじゃない?」

 

私達の後ろが突如暗くなり、そこに雷が落ちる!…というのは勿論冗談だけど、そんな感じのエフェクトが出てきそうな位の衝撃が私達の間を走る。

確かにアイエフの言う通り、凄く簡単な話であり、ユニミテスを特別視し過ぎていただけだった。人は日々生まれるものだけどそれでも無限にいる訳ではない。ならば、各女神がシェア率を上げれば相対的にユニミテスのシェア率は下がる筈。アイエフが言っていたのはそういう事だった。

 

「流石あいちゃん!やっぱあいちゃんは一味違うね!」

「正に逆転の発想、伊達に世界を旅してきた訳じゃないのね」

「私達女神がそれに気付かなくてどうすんのよ、って感じでもあるけど…それはともかく助かったわ」

「妙案を思い付くなんて偉いですわあいちゃん、ぎゅーってしてあげますわ」

「い、いやそれ程でも…ってベール様!?ぎゅーはちょくちょくされてる…じゃなくてそこまでしなくて良いですから!こんな皆に注目されてる中でなんて…あぅ……」

 

四女神にベタ褒めされた上にベールに抱き着かれるアイエフ。特に最後のベールのスキンシップがクリティカルだったらしく顔を真っ赤にして黙り込んでしまう。その姿が何とも愛らしく、全員でそのアイエフを数分程愛でていた私達。それもあってか、結果としてアイエフは平常心を取り戻すまでおよそ十分位かかっていた。

 

「うぅ…まさかこんな展開になるなんて…」

「あはは…でもやっぱりネプちゃん達パーティーは面白いよね」

「ねぷねぷといると時間も忘れちゃうです」

「それがネプテューヌさんの魅力かもしれませんね。……あ(・□・;)」

 

我がパーティーのムードメーカーであり一応リーダーっぽい立場にいるネプテューヌ。そんなネプテューヌの明るさを魅力、と形容したイストワールさんは何か思い出したかの様な表情を浮かべる。

 

「いーすんどしたの?」

「あの、別の話を優先させていたせいでネプテューヌさんとイリゼさんとの約束を忘れていた事を思い出して…~_~;」

「……っ!」

「約束?わたし達っていーすんと約束なんてしたっけ?」

「したっけ?…って、ネプテューヌまさか忘れたの?……え、まさか記憶喪失だけに、ってネタじゃないよね?」

 

きょとんとした顔をするネプテューヌに私はちょっと驚く。

記憶の復元。それはイストワールさんが私とネプテューヌに用意してくれた報酬の様なものであり、過去の事が一切分からない私にとっては凄く凄く重要な約束だった。

 

「そう言われればそんな約束してたね、ごめんごめんすっかり忘れてたよ」

「そ、そうなんですか…(ー ー;)」

「イストワール、せっかくだから聞きたいのだけど、記憶喪失を治すなんて先進医療でも難しい事を貴女はどうやって行うつもりなの?」

 

ふとした様子でイストワールさんに疑問を投げかけるブラン。その言葉を聞いて私は「あ、言われてみると確かに…」と思った。そもそも記憶は形ある訳でもデータ化されている訳でもないんだから、それを治すなんて方法がまず思い付かないもん。…ぶっ叩くとか民間療法は別としてね。

 

「そういえば話していませんでしたね。私は昨日言った通り世界の記録者として全ての事柄を記録しています。そして記憶の修復方法とは…修復させる対象に関する情報を対象に送るんです( ^_^)/~~~」

『情報を送る……?』

「はい。すると自分に関する情報を受けた事で脳が刺激され、脳の奥底に残る情報と送られた情報を元に記憶が復元される…という事なんです( ^ω^ )」

「ふぅん…連想みたいなものなの?」

「その解釈で合ってますよノワールさん。外傷や精神的ショックでの記憶喪失ならこれで治る筈ですo(^_-)O」

 

情報を送る方法についてはいまいちよく分からないままだったけど、とにかく素朴な疑問が一つ解決した。ググれカス、なんて言葉が世の中にはあるけどそんな冷たい事は言わないこのパーティー、これからも続けていきたいね。

 

「お二人さえ良ければ今すぐにでも記憶の修復を行いますよ?(^.^)」

「あー、それパス。やっぱあの約束なし」

「じゃあ私も同じく……って、へ?」

 

てっきりネプテューヌは「うん、早速お願いね!」とか言うと思っていた私。そのせいでベタな反応を見せてしまう。

 

「どうしてですか、ねぷねぷ。せっかくいーすんさんが治してくれるですよ?」

「そうよ、その為に今まで頑張ってきたんじゃない」

「んー…確かにそうなんだけど、取り戻しちゃ駄目な気がするんだ」

 

頬に指を当てて答えるネプテューヌ。一瞬何を馬鹿な事を…と思ったけど、ネプテューヌの目を見てその考えは消える。口調こそいつも通りなものの、瞳は真剣そのものだった。

 

「どうしてよ?」

「だって、わたしがこうやってノワール達とお友達になれたのは皆が憎いっていう記憶がなかったからだと思うんだ。…だから、記憶を取り戻しても今まで通り皆と付き合えるか不安なんだよね…」

「…確かに、ネプテューヌのおかげで今わたし達はここにいる」

「バラバラだったわたくし達をネプテューヌが結び付けたと言っても過言ではありませんわね」

「そういう事。せっかく一致団結したのにここでわたしが輪を乱す訳にはいかないよ」

 

ちょっとだけ複雑そうにしながら考えを口にするネプテューヌ。ネプテューヌとしては珍しく理屈の通った考えだった事もあり、ベールとブランはすぐに納得する。…でも、ノワールは違った。

 

「…ネプテューヌ、貴女の本心はどうなの?さっきから聞いていれば私達の事ばかりじゃない。貴女はそれで良いの?」

「ありがと、ノワール。気遣ってくれて。…けど、わたしの本心も変わらないよ。せっかく仲良くなったノワール達とは楽しい思い出ばかりなのに、今更憎み合ってた戦いだけの記憶なんて要らないよ」

「…全く、貴女らしいわね」

 

どこか呆れた様な、それでいて安心した様な表情を見せるノワール。そんなノワールににこっと笑顔を返すネプテューヌ。……本当に、仲良いね二人は…。

 

「そういう事だからいーすん、せっかく治してくれようとしてたのにごめんね」

「いいですよ、ネプテューヌさんが自らそれを選んだんですから(^_^)」

「そっか。…えと、何か一人で考え変えちゃってごめんねイリゼ。イリゼは記憶治してもらうでしょ?」

「……っ…それは…」

 

ネプテューヌの言葉に口ごもってしまう私。誰が見ても分かる位に私は記憶を修復して欲しい、とは言い辛い雰囲気がこの場には出来ていた。これが記憶の事以外なら恐らく場に合わせていたと思う。…記憶の事以外、なら。

 

「…ごめんね、私はやっぱり記憶を取り戻したい。私は私の名前と力の事しか分からないもん。どこで生まれて、誰が知り合いで、どんな夢を持ってどんな生き方をしてたのか…ううん、私が誰なのかすら分からないのは…凄く、嫌なんだ……」

「イリゼ…だ、だよね!うんそりゃそうだよ、わたしはノワール達やいーすんみたいにわたしを知ってる人がいたから出来た選択だし、イリゼは記憶を取り戻すべきだよ!」

「…うん…だから、イストワールさんお願いします」

「……分かりました。…では、付いてきて下さい(-_-)」

 

そう言って隣の部屋へと移動するイストワールさんとそれに着いて行く私。部屋を出る際、ちらっと見えたイストワールさんの顔は…何故だか、複雑そうだった。

 

 

 

 

--------不思議な感覚だった。勿論記憶は取り戻したいし、別に不安がある訳ではない。だから、この感覚はきっと…失った記憶というある意味での未知の領域に触れようとしているから感じているのだと思う。

 

「…あの、イストワールさん。部屋移動したのは一体…」

「……イリゼさん、先程私はどの様な場合なら記憶を修復出来るか、覚えてますか?{(-_-)}」

「え……?…外傷や精神的ショックなら、でしたよね…?」

 

予想してたのとは違う言葉に戸惑う私。イストワールさんは関係ない雑談を意味もなく入れてくる人ではない。つまり、この話も何かしら意味があるという事であり…それが、私の中に一抹の不安を呼び寄せる。

 

「そうです、そしてそれは言い換えれば…私にも治せない場合があるんです( ̄ー ̄)」

「……ーーッ!」

 

直接言われた訳ではない。でも、ここまで言われれば誰でも何を言いたいのかは分かる。理解したくなくても、反論したくても…一度分かってしまえば、そこが覆る事はない。

 

「……私の記憶は取り戻せないんですね…」

「…そうじゃ、ありません(¬_¬)」

「いや、良いんです無理にフォローしなくても。…そう、ですよね…世の中絶対なんてそうそうありませんし、私こそ無茶なお願いしちゃってすいませ--------」

「違うんです。記憶の修復が出来ない訳では…記憶を治せない訳じゃないんです」

 

イストワールさんの台詞から顔文字が消える。普段の私ならそれが何故なのか気にしていた所だけど…今の私にはそんな事は気にならなかった。

記憶の修復が出来ない訳じゃない?記憶を治せない訳じゃない?…どう考えてもついさっきの言葉と食い違っている。意味が分からない。治せない訳じゃないならすぐにイストワールさんが治してくれない理由が、イストワールさんがそんな回りくどい言い方をする事が。

 

「イリゼさん、そもそも治すとは何でしょう?」

「な、何でしょう…って…そんなの、壊れたものを元通りにする事じゃ…」

「えぇ、私もそう思います。…では、治すのに一番必要なのは何でしょう?」

「……治す方、法…?」

「それも必要ですね。ですが、もっと必要なものが…根本的なものがあります」

「…何を言いたいんですか…治すのに必要な、根本的なもの…なん、て……」

 

目的の見えない問いに応えようとして…イストワールさんが考えている事を理解しようとして…気付く。

……いや、違う。そんな訳がない。だって私の身体は既に成長していて、記憶こそないものの知識はきちんとあって、何より名前という自分自身を表す一番の要素を覚えていて。だから、そんな訳はない。そんな訳は…

 

「…………治すべき…もの…」

「…そういう事です、イリゼさん。…貴女は記憶を失ったのではなく…最初から、記憶が『無かった』んです」

 

嗚呼、そうか、そうだったのか。

私の心とは乖離する様に開かれた口から紡がれた言葉。その言葉を受けて事実を伝える世界の記録者。そして…その事実を認識する、私。

それならば辻褄が合う。如何に私の情報を私の脳に送ったとしても、脳に残る記憶が無ければ復元しようがないのも当然の話。

だが、それはつまり…私の追い求めていたものは、私がずっと欲していた記憶は存在しないという事だ。認めたくない、認められる訳がない。…でも、頭はそれを認識し、あろう事かそういうものだと納得させようとしてくる。おかしい、私の事なのに私の中で考えが食い違う。そんな馬鹿な、何で、どうして……。

視界が歪む、まるで私が追いかけてきたものを潰すかの様に視界が……

 

「もう一つ、伝えなければならない事があります。…イリゼさんの、正体です」

「…ぁ…ぇ……?」

 

分からない。最早世界の記録者が何を言っているのか、何を喋っているのかすら分からない。なのに、私の耳はその言葉を聞き逃さぬよう研ぎ澄まされ、脳は理解しようとフル稼働する。

意識があるのか無いのか分からない、ただ何故か記録者の言葉だけがクリアに聞こえる中で……世界の記録者は、告げる。

 

 

「イリゼさん。…いえ、イリゼ様。貴女は私の創造主であり、紀元前に存在したゲイムギョウ界最古にして最大規模の国、『オデッセフィア』の守護者--------『原初の女神』によって生み出された、原初の女神の複製体なのです」

 

原初の女神の複製体。その言葉が私の耳に届き、脳がその意味を理解した瞬間--------私の意識は、途絶えた。




今回のパロディ解説

・「そこに苺があるからだよ!」
登山家、ジョージ・マロリーさんの名言のパロディ。割と汎用性の高い文ですし、皆さんの中にも「そこに○○があるから」という言葉を聞いた事ある方も多いと思います。

・ググれカス
ググレカスとは古代ローマ帝国の元老院議員さんの事。…え?そっちで使ってたのかって?…その通り、私は質問に対するネットスラングの一つの方をパロりました、はい。

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