超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative 作:シモツキ
「イリゼー!おーい!君の銀河はもう輝いてるのー?」
大通りを歩きつつ、首を左右に振りつつ声を上げる。こんぱのアパートを出てからおよそ数十分。わたし達は手分けしてイリゼを探し回っていた。
「突っ込みが帰ってこない…ここら辺には居ないのかなぁ…」
夜になって外に出ている人は少なくなっていると言えど、中心街なだけあってまだそれなりの人数が外に出ていた。むむ、モブキャラがいるからわたし達メインキャラが輝くとはいえ…こういう状況なんだからもうちょっと外に出てる人数は何とかならないのかなぁ!
「っていうか…手がかりなく探すのは普通に無理があるよ…」
威勢良くアパートを出てきた以上すぐに帰る訳にはいかないし、イリゼをほっとくつもりも全くない。…けど、ノーヒントで一国の中から一人を探せっていうのも無茶でしょ…。
「……あれ、良く考えたらプラネテューヌのどこかにいるとは限らなくない!?」
嫌な事実に気付いてしまった。更に言うと急に大声(しかも一人)を出したせいで何人かの人に変な目で見られてしまった。後者はともかく、前者はかなり困った事である。あーあ、色繋がりで
「うぅ、ゲイムギョウ界全体から探すとか流石にムリゲーだよ…せめていーすんの時みたいに場所絞れれば良いのに……って、ん?」
項垂れてボヤくわたし…だったけど、自分の言葉に何か引っかかる様なものを感じる。女神の皆やあいちゃんならすぐその引っかかりの正体に気付けるんだろうけど、わたしだからなぁ…仕方ない、可能性のあるワードを一つずつ上げてみるかな。
えーと…ゲイムギョウ界…はまず無いし、ムリゲー…も違う気がするし…いーすんは…あ、これだ!
「いーすんだよいーすん!…で、いーすんが何なの?」
当然わたし一人だった為、自問自答みたいな感じになってしまう。引っかかっていたものは分かったけど、イリゼの場所は依然として分からない。…でも他のヒントも無いし、ここは一つ連想してみようかな。
いーすんと言えば…ちっちゃい!…けどだから何だって話だよね。じゃあ…絵文字?…もこれには関係無いし…世界の記録者、だっけ?…も違う様な感じだし…後は封印されてた事だけど…お、何かこれは近い気がする!
「いーすんが封印されてた場所…魔窟の奥……あれ、魔窟って…」
いーすんが封印されてたのは魔窟から繋がるダンジョンだった。そして、魔窟にはそことは別に隠しエリアがあった。そこまで思い出してやっとわたしは一つの可能性に思い当たる。
封印と魔窟、そしてイリゼ…確たる証拠は無かったけどやっと思い当たった一つの手がかりにわたしは期待を込め、走り出す。頼むからそこに居てよ、イリゼ…!
「……意識がある状態でここに来たのは初めて、か…」
偽ネプテューヌとの戦闘の疲れが残る身体を引きずる様にして私は魔窟の隠し部屋…私が封印されていた場所に来ていた。これといって理由は無い。ただ、心の向くままに歩いてきた先がここだった。
「…ここに来たからってどうなるっていうの……」
全面石で出来た部屋にあるのは、幾何学的な紋様の描かれた柱だけ。ネプテューヌとコンパ、アイエフが来た時は私が現れる直前にこの紋様が輝いていたらしいけど、今はその面影は無い。
「…ねぇ、原初の女神さん。貴女は凄い人ですよ、一人でゲイムギョウ界全てを守護して、国民を導いて、最後には国民を信じて…とても、私には真似出来ないや…」
ぽつりぽつりと語り始める私。勿論この場に原初の女神が居る訳もなく、誰かが声を返してくれる訳でもない。
「私はイストワールさんに送ってもらった情報の上でしか貴女を知らないから、きっと実際にはもっと凄い人なんだと思います。私より強くて、私より優しくて、私より勇気のある人。……なのに、何でここにいるのは私なんですか…?」
自己否定の句を述べた瞬間、心が締め付けられる様な感覚を覚える。過去に、記憶への期待に否定された私にとって最後の牙城である自分自身。その自分にまで否定された事がきっとこの感覚を生み出しているのだと思う。
それと同時に、自分の事を冷静且つ的確に客観視している自分がいる事に気付く。……そっか、私はもう私自身が『誰』なのか分かんないのか…あはは…。
「貴女が…貴女自身が今の場所に居たら良いじゃないですか…私を生み出せる程の力があるならそれ位出来るでしょう?なのに、何で貴女じゃなくて私なんですか…何で私を生み出したんですか……」
キリキリと痛む私の心。自己否定がこんなに辛いなんて知らなかった。…でも、もうどうでも良い。この痛みも、この辛さも、今ここにいる私も…全部、『作りもの』で『紛いもの』なんだから。だから……
「…
「--------そんな事、言わないでよイリゼ」
声が、聞こえた。
そこに居たのは、薄紫色の髪と紫色の瞳を持つ少女。共にゲイムギョウ界を旅してきた仲間。…私の封印を解いた三人の内の、一人。
「……っ…」
「…やっぱここに居たんだね、探すの大変だったんだよ?」
反射的に一歩下がる。理由は二つ。一つは誰とも会いたく無かったからで、もう一つはつい先程偽物のネプテューヌに襲われたから。でも、今ここへ姿を現したネプテューヌは女神化しておらず、普通に言葉を口にしている。私の見る限りでは、こちらは本物のネプテューヌの様だった。
「…そ、そっか…よくここが分かったね…」
「うん、わたしだって頭捻って考える事は出来るからね」
私のすぐ側まで来るネプテューヌ。私の事など知る由も無い彼女はいつも通りの様子で私に話しかけてくる。そんなネプテューヌに対し、私は咄嗟に今の自分を見られたくないと思った。
「…頭を?……ネプテューヌが?」
「え、何その間…もしやわたしを馬鹿にしてる?」
「冗談だよ、私がネプテューヌを馬鹿になんてする訳ないじゃん」
「いや、時々馬鹿にされてる気がするんだけど…まぁいっか、それよりさ…」
必死に心の辛さを隠し、いつも通りの様子を装う私。ネプテューヌが単純な事もあってか、何事も無かったかの様にいつもの雑談を……
「…嘘、吐くのは止めてよ」
「……っ!?」
「いつも通りを装ってるのバレバレだもん。そりゃわたしも嘘吐いたりするし嘘が駄目、とは言えないけどさ…イリゼ、今すっごく辛そうだよ?」
バレていた。ネプテューヌは実は鋭かったのかもしれない。或いは、私の笑顔がぎこちなく、声が乾いていたのかもしれない。いずれにせよ、私の演技をネプテューヌは見抜いていた。
「…そんな、事……」
「ごめんね、今回は話したくないなら話さなくても良いけどさ…なんて言わないよ?だって、さっきイリゼは生まれなきゃ良かったみたいな事言ってたでしょ?」
「…どこまで訊いてたの…?」
「最後の方だけだよ、イリゼがどれだけ喋ってたかは知らないけどさ」
ネプテューヌは心配そうな、でも強い意志を持った様子を見せる。そう、ネプテューヌはこんな時に限ってふざけてくれない。私は、いつもの雑談で話を逸らして欲しいのに…私の事なんて語りたくないのに……。
「…………」
「話してよ、イリゼ。話してくれなきゃ分からないし、生まれなきゃ良かったなんて言ってほしくないもん」
「そんなの…ネプテューヌには関係ないじゃん…」
「あるよ、だってわたし達友達でしょ?友達ならほっとけないし同じ記憶喪失仲間でもあるじゃん…あ、イリゼは記憶取り戻したから違うのか…でも同じ悩みを持ってた仲間な事は変わりないしさ」
私の顔を覗き込みながら手を握ってくるネプテューヌ。多分、ネプテューヌはただただ純粋に私の為を思って言ってくれているんだと思う。けど、そんなネプテューヌの想いは…自分が紛いもので、自分には何もないと思っていた私には--------絶望の淵に沈む私を嘲笑う様にしか感じられなかった。
「…………でよ…」
「え……?」
「ネプテューヌが…よりにもよってネプテューヌが知った様な口聞かないでよッ!」
「……ッ!?」
そしてまた、私はやり場を無くした感情を爆発させる。
わたしは、イリゼの為を思って語りかけていた。辛そうにしている友達を見過ごす事なんて出来ないから、イリゼの為にもほっとくべきじゃないから…そう思っていたわたしは…そう思っていたからこそわたしは最初、イリゼの気持ちに気付いてあげられなかった。
「私は空っぽなの!記憶喪失じゃなくて最初から何も無かったの!私は唯一無二の存在として望まれたネプテューヌと違って、原初の女神が保険で作っておいた万が一の備えなの!それも知らないで…勝手な事言わないでよネプテューヌ!」
暗く沈んだ様な雰囲気から一転、今までに見た事もない様な荒々しさを見せるイリゼ。…でも、その頬には涙が伝っていた。瞳からは大粒の涙が溢れていた。
「ネプテューヌは自分の事を知っている人が何人もいたじゃん!プラネテューヌの守護女神っていう自分だけの場所があったじゃん!たくさんの信仰者さんだっているじゃん!そんなネプテューヌが私と一緒?記憶喪失仲間?ふざけないで…ふざけないでよッ!」
「そ、そんなつもりじゃ…」
「私は誰でもない!何でもないんだよ!イストワールさんですら情報としての私しか知らなかったんだよ!私は使命以外何一つ無いまま生み出されて、ずーっと眠っていた存在!だから…私には…何もないんだよぉ……」
力尽きたかの様に膝をつき、涙に濡れた顔を両手で覆うイリゼ。わたしはイリゼをこんな追い詰める為に言った訳じゃなかった。話を聞いて、ちょっとでも楽にしてあげようと思っていただけだった。よく考えもせずに言ったせいでイリゼを苦しめてしまい、自己嫌悪に陥るわたし。わたし以外だったら、もう少しイリゼも楽だったのかな…。
「…ごめん、イリゼ……」
「もう…帰ってよ…お願いだから……」
イリゼは消え去りそうな声でわたしを拒絶する。その懇願する様な様子は、あまりにも痛々しくて、そうしてしまったのが自分のせいだと考えると凄く辛くて、イリゼの言う通りこの場から姿を消したくなった。
胸の前で手を握りながらイリゼに背を向けるわたし。そして、イリゼの想いを汲み取ってその場から離れ……
--------それで、良いの?
わたしの中のもう一人のわたしが、そう声を上げた。
----良いんだよ、これで。
イリゼに背を向けさせたわたしがそう返す。だって、これがイリゼの為だから。イリゼの、望みだから。
----本物にそう思っているの?貴女は、それでイリゼが救われると思っているのかしら?
----そうだよ、だってイリゼがそう言ったんだもん。わたしはイリゼの気持ちを見抜けなかった。そんなわたし何だから、言葉通りに受け取るしかないじゃん。
相手も自分だからか、普段なら言わない様な弱気な発言をするわたし。そんなわたしを、もう一人のわたしは…イリゼを放っておこうと思ってしまったわたしと違って、投げ出したりなんてしなかった。
----そうね。そうかもしれないわ。…でも、貴女はイリゼの真意を見抜けないんでしょ?なのに言葉だけで判断しようとしているの?それに、わたしが言ってるのはイリゼの事じゃないわ。
----……じゃあ、誰の事なのさ…。
----貴女の事よ。イリゼがどうこうじゃないわ。…貴女は、イリゼとの関係を、友達との絆をこんな所で終わらせたいの?
----それは…そんなの、嫌だよ。絶対嫌。…でも、イリゼをこれ以上傷付けたくないよ……。
----なら尚更ここで背を向けちゃ駄目よ。今までわたしはどんな事にも全力で、真っ直ぐ向かってきた、そうでしょ?…自分の強さを、見失うんじゃないわよネプテューヌ。
そうだ。わたしはずっと自分の想いのまま、信じた道を進んできた。たくさんの友達が出来たのも、憎み合ってた女神の皆と分かり合えたのもそのおかげだった。……うん、わたしの言う通りだよ。
----……ありがと、パープルハート。
----気にしなくて良いわ、わたしも含めて一人の人間だし、わたしだってイリゼを失いたくはないもの。だから…頑張りなさい。
わたしは振り向く。イリゼの為じゃなく、自分の為に。例えこれがエゴでも、わたしの気持ちの押し付けでも良い。だって…わたしは、イリゼを救いたいんだから。
「……帰らないよ、イリゼ。わたしは、イリゼの友達だから」
「……っ…!…だから…ネプテューヌが知った様な口--------」
「そうだよ!わたしはイリゼの生い立ちなんか知らないもん!原初の女神なんて今初めて聞いたもん!だからイリゼの過去なんて何にも分かんないよ!わたしが知ってるのは…わたしの仲間の、友達のイリゼの事だけだもん!」
もしかしたら余計イリゼを追い詰めてしまうかもしれない。後からもっと良い方法があったと思うかもしれない。けど、今ここで背を向けたら確実に後悔する。それだけは、絶対に嫌だった。
「友達なんて…軽々しく言わないでよ!私とネプテューヌとはこんなにも違うのに……」
「違うからって何さ!違っても友達位なったって良いじゃん!わたしはイリゼと友達でいたいよ、イリゼは違うの?」
「それ、は……」
「それにイリゼには何にもない、なんて事ないよ。わたしはイリゼが優しい事も、真面目だけどふざけるのも好きだって事も、皆アレな女神の中で一番女の子らしい事も、わたし達皆を大事にしてる事も全部知ってるもん。…ううん、わたしだけじゃない。こんぱも、あいちゃんも、ノワールもベールもブランもMAGES.もマベちゃんもいーすんも、教祖の皆や旅の中で助けてくれた皆だってその事は分かってるよ。…だから、イリゼは何にもなくないし、空っぽでもないんだよ」
イリゼが手を顔から離す。涙でぐちゃぐちゃで、目が真っ赤なイリゼの顔。そんな顔を見て、わたしはやっと気付く。イリゼはわたしを拒絶なんてしてなかった、最初からずっとわたしに助けを求めていたんだって。…それに気付けないんじゃ、わたしもまだまだだな……。
「でも…私、は…過去が無くて…記憶も、皆に話せる事も無くて……」
「大丈夫だよ。そんな事でわたしはイリゼを突き放したりしないし、皆だって気にせずイリゼと接してくれるよ」
「ネプ、テューヌ…」
ぽたぽたと涙を床に落としながらイリゼはわたしを見つめてくる。わたしはそんなイリゼをしっかりと見つめ返す。
「…ほんとに…?空っぽの私でも…紛いものの私でも…良いの……?」
「わたしにとってイリゼは紛いものじゃなくて本物だよ。一緒に旅をして、一緒に戦って、一緒に笑いあったのはわたしの目の前に居るイリゼだもん。…イリゼ、どうしても自分に何もないって思うなら、空っぽだって思うなら、わたしがイリゼにとっての特別になってあげる。イリゼの思う空の場所はわたしが埋めてあげる。…イリゼはわたしの…わたし達の大切な友達だよ、だから一緒に帰ろうよ」
イリゼを胸元に抱き寄せる。これでわたしの気持ちがきちんと全部伝わったかどうかは分からない。これで正しかったのかどうかも分からない。それでも、わたしの想いは全部伝える事が出来た。後はイリゼの強さを信じるだけ、だよね。
「…ぁ…うぁ…あり…がとう…ネプテューヌ…ぐすっ……」
嗚咽を漏らしながら、絞り出す様に声を上げるイリゼ。そんなイリゼの様子を見て、わたしはイリゼの頭を撫でる。他意があった訳じゃない。ただ、イリゼにこうしてあげたかっただけ。そしてそれを受けたイリゼはわたしの背中に手を回し、ぎゅっとわたしに抱き付く。体格の問題で、わたしが抱っこされている様な形になっていたけれど、それはこの際どうでもよかった。わたしの想いが通じたのなら、イリゼの心を救う事が出来たのなら、わたしは満足だった。
「…帰ろう、イリゼ。皆の所に」
そんなわたしの言葉に帰ってきたのは、たった一言。でもその言葉にはイリゼの想いが全部詰まっている事を、やっとわたしの知っているイリゼが戻ってきた事をわたしは感じた。
--------うん。
今回のパロディ解説
・「〜〜君の銀河はもう輝いているのー?」
STARDRIVER 輝きのタクトの主人公、ツナシ・タクトの台詞の一つのパロディ。状況的に大分アレな感じですが、説明通り突っ込みがあるか無いかで判別してるのです。
・
ジョジョの奇妙な冒険第三部以降に登場するスタンドの一つ。原作でもこのスタンドは使い手が二人いる設定なので、もしかしたらネプテューヌも…何て事ないですよね。