超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第五十三話 その想いを胸に

「ん、こんなところかな…」

 

旅の中で少しずつ増やし、大陸を移動する度広げたりしまったりしていた荷物を一つにまとめる。マジェコンヌの動向を探り、必要ならばシェアの獲得と偽女神の対処の為に各大陸へと向かった皆がその目的を達成するまで時間稼ぎをしなければいけない以上、日帰りで戻って来れる筈はないし、時間稼ぎを完遂してここへ戻ってきた後も何かしらの理由でゆっくり出来ない可能性がある。だからこそ、私は今それに備えて荷物をまとめているのであった。…え、普段持っているシーンあった?四次元ポケットでも使ってるのかって?…そういう所は秘密だゾ。

 

「…お一人で大丈夫ですか?>_<」

「はい、別に倒す事が目的じゃないですからね。というか、今更ですけど…マジェコンヌとユニミテスは今どこにいるのか分かります?」

 

やるべき事自体に焦点を当て過ぎていた私…というか私達はその相手がいる場所の事を完全に忘れていた。…まぁ、他の事は元々場所探る必要なかったりしたし、マジェコンヌの方もこちらから出向いて戦いとなったというパターンがなかったから思考から抜けてしまった…ってのもあるんだけどね。

 

「断言は出来ませんが、十中八九ギョウカイ墓場だと思います(・ω・)」

「ギョウカイ墓場…って、先日イストワールさんが説明した場所ですよね?確か、ゲイムギョウ界の中心付近の…」

「そうです。あそこならば姿を隠すのに最適ですし、負のシェアが充満していますからね(-_-)」

「そうなんですか…なら、空路で行こうかな」

 

イストワールさんの話を聞いて私は脳内でギョウカイ墓場までのシュミレートを始める。ほんとはその後もシュミレートしたい所だけど…ギョウカイ墓場内部の作りを知らない以上それは出来ない。

 

「…もう、行かれるんですか?(´・Д・)」」

「いえ、行く前にちょっと寄っておきたい場所…というか会っておきたい人?…がいるのでそちらを片付けてからですよ」

「そうですか。ではもし行く前に何かあればすぐお伝えしますね( ̄^ ̄)ゞ」

「お願いします。…それと、一つ良いですか?」

 

私に恭しく接してくるイストワールさん。そんな彼女に私は一つ要望を…頼み事をしようと思う。

 

「何ですか?(・・?)」

「…イリゼ様、じゃなくて今まで通り他の皆と同じ様に接してくれませんか?」

「え?ですが、イリゼ様はわたしの創造主でありわたしが敬意を払うべき…」

「それは私じゃなくて…原初の女神じゃないですか。私はイストワールさんの言うイリゼ様、ではなくその複製体ですから…」

「……!」

 

私の言葉を聞いたイストワールさんはハッとした様な顔をした後、バツの悪そうな様子を見せた。…でも、それはイストワールさんの勘違いだ、私が言いたいのはそういう事じゃない。

 

「私は複製体のイリゼです。…でも、同時に皆と友達になって一緒に旅をした、守護女神でも、ましてや原初の女神でもないイリゼでもあるんです。そして私は今そんな自分を肯定したいって思ってるんです。だから…イストワールさんも私を今ここにいるイリゼとして接してくれませんか?」

「イリゼ様…そう、ですね…はい。イリゼ様…ではなくイリゼさんがそうしてほしいならその意思を尊重します(⌒▽⌒)」

「ありがとうございます、イストワールさん。…というか、私もイストワールさんも同じ人から生み出された訳ですし、ある意味では姉妹かもしれませんよ?」

「大分恣意的な解釈をすればそうかもしれませんが…では、姉らしく振舞ってみましょうか?(^人^)」

「あはは、冗談ですよ冗談」

 

頬の端をちょっと緩ませながら顔を見合わせる私とイストワールさん。大仕事の前に思っていた事を一つ解決出来たのは勿論、気負いのない雑談が出来た事は私の精神にとってとてもありがたかった。たったこれだけの事でも、余裕が生まれるんだから、ね。

 

「さて、と…それじゃ少し出かけてきますね。遅くても数時間で戻ってくるつもりなのでお留守番お願いします」

「はい、きちんと目的を果たせると良いですねイリゼさん」

 

ひらひらと手を振ってアパートを後にする。そして私は目的の場所へ…とある人物と話をする為に歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

石で造られた、質素ながらもどこか威風を感じる石室。その部屋の中央に鎮座するのは幾何学的な紋様の描かれた、石像の様な柱。

--------私は、私が眠りについていた場所へと再び来ていた。

 

「久し振り…じゃないね。前回来たの昨日だし」

 

柱の周りをゆっくりと歩いて回りながらそう呟く。当然ここに私以外の人間(私は女神だけど)はおらず、返答が返ってくる訳もない。所謂、独り言というやつである。…まぁ、私としてはある人に話しかけてるつもりなんだけどね。

 

「しかし落ち着いた状態で来てみると…何だろう、どことなく懐かしさを感じられるよ…」

 

私はここに入り浸っていた訳でもなければここを宿としていた訳でもない。それでも私がここに懐かしさを感じるのは、ひとえに私の生い立ちが関係しているんだと思う。

そして、暫く他愛のない事を呟いた後…私は本題に、本当に話したかった事を口にする。

 

「……ごめんなさい。やっぱり私…貴女の様な女神にはなれないと思います」

 

人の為に全てを尽くし、その一心だけで歩み続ける。そんな原初の女神の在り方を知った時、私は少なからずそれを凄いと思った。素直に尊敬の念を抱いた。でも、それと同時に私はもう一つの思いを抱いていた。…きっと、自分にはそれ程の意思も覚悟も無く、持つ事も出来ないだろうと。

 

「…私は弱いです。出来ない事も、分からない事もたくさんありますし、今も未来も誰かに支えてもらえなきゃ生きてゆけないと思います。だから…ごめんなさい、私は貴女の思った様な存在には…貴女の代わりには、なれません」

 

原初の女神が…私の創造主であり、私の元となった人がこんな私をどう思うかは分からない。もしかしたら、失望しているのかもしれない。…けど、それでも自分を見つめ、自分の在り方を決めた今の私はそれをここで伝えておきたかった。私なりの決意表明として、原初の女神ではない一人の存在として生きてゆく事の一歩として。

 

「……だけど、私にも守りたい物があります。私の側にいてくれた人、私を助けてくれた人、私に優しくしてくれた人、私と同じ思いを持つ人。皆私の大事な人達です。だから…」

 

言葉に確固とした意志を乗せ、紋様の走る柱に触れながら私は告げる。

 

「私は、私の周りの大事な人を…大事な人が守りたい世界を守ります。それが、私の…もう一人の原初の女神としての、決意です」

 

柱をしっかりと見据えて言い切る私。この場に私が語りかけていた対象である原初の女神はいないけど、自分自身に言い聞かせる事は出来たし、女神やシェア、魔法やモンスターが実在するゲイムギョウ界ならばもしかしたらこの言葉も伝わっているかもしれない。そう思えるだけで十分だった。

そして私は手を離し、反転して出口へと足を向ける。一刻を争う事態…ではないけれど時間を無駄に出来る程余裕がある訳ではない今は、目的が済んだなら早々に戻るのが最適な筈。そう思った私は最後に一度振り返り、柱を目に収めてからその場を後にしようとして…ある事に気付く。

 

「…あれ?」

 

明るい。無論洞窟から繋がる場所な以上外に比べればかなり暗いのは事実だけど、それでも私がここに来た時よりは明らかに明るかった。暗さに目が慣れたとか、精神状態が関係してだとかそういうレベルではない、言ってみればどこかに光源が発生したかの様な明るさ…その光は、私の後ろからきていた。

 

「……っ…柱が、光ってる…!?」

 

振り向いた私の目に入ったのは紋様に光を灯した柱の姿。これはどう見ても何かが起こっていた。それと同時に思い出す。私が現れたのも今と同じく、ネプテューヌが柱に触れて紋様が輝いてからだった。

そして……

 

 

「--------君の覚悟、しかと聞かせてもらった」

 

強さと威厳…そして、とても馴染み深さを感じさせる声が…柱から、響いた。

 

 

 

 

その声は幻聴ではなかった。更に言えば私にだけ聞こえる様なものでもなく、確実に、明らかに音として発せられた声だった。…女神化した私と、寸分違わぬ声だった。

 

「なっ…え……?」

「…初めまして、だ。最も、私にとっては久し振りなのだがね」

 

驚き動揺する私を他所にその声は話し始める。何がどうなって発生しているのか分からない謎の声…ただ、声が聞こえたその瞬間から声の主が誰なのかだけははっきりと理解出来ていた。

 

「や…いや、あの…ええと……」

「まずは君に謝らなければならないな。私は…」

「ちょっ、ちょっと待ってくれませんか!?お、落ち着く為の時間を下さい!」

「あ、あぁ…申し訳ない、私がいささか無配慮だったか…」

 

完全に冷静さを失っていた私と普通に続けようとする声。当然先にストップをかけたのは私だった。対する柱からの声は、そんな私の反応にすまなそうな声音で返してくる。どうやら声の主は傍若無人な人ではない様だった。

 

「い、いえ…それよりも、謝る…ですか?」

「そうだ。私は人の為、人の未来の為に君を生み出した。その事は一切間違ってはいないと認識しているし、最善の選択だったとも思っている」

「はい、知っています。…イストワールさんに聞きましたから」

「イストワール?…だから君は私の事を知っていたのか…ふふ、彼女も元気なのだな」

 

イストワールさんの名前を聞いた声の主は、その声に若干の喜びを籠らせる。…これ聞いたらイストワールさんも喜ぶんじゃないかな。

 

「…こほん。だから私は君を生み出した事は正しかったと思っている。…だが、君に重い責務を持たせてしまった事、君の生き方に制限を与えてしまった事だけは心残りだった。…私が人の力を信じる前ならば、それも思わなかっただろうが、ね」

「それは……?」

「いつか分かる日が来る。…だが、安心したよ。君は私が与えてしまった重荷を背負い、その上で前を向いて歩んでいる。…君を生み出して、君に後を託して良かった」

「……っ…そんな事、無いですよ…聞きましたよね?私は貴女の様には…」

「私は大切な人々を、人々が守りたいと思った生活や未来、幸せを守った。…規模は確かに違うかもしれないが、君の周りの大事な人を、大事な人が守りたい世界を守るというのと志は全く同じであろう?少なくとも、私はそう思っている」

 

その声はとても優しく、誇らしげだった。そんな声をかけられた私は感銘と…心の底から湧き上がる嬉しさを感じる。偉大な存在である声の主に自分と同じだと言われたからかもしれない、もしかしたら私の決意を非難されるかも…という心配が不要になったからかもしれない。…けど、多分きっとそんな小難しい事ではなく単に、自分と声の主に繋がりを感じられたから、なのだと思う。

 

「…ありがとう、ございます……」

「礼は不要だ、私が述べたい事を口にしただけなのだからな。…君はやる事があるのだろう?」

「はい。私の守りたいものの為に、やるべき事があります」

「ならばここに長く引き止める訳にはいかぬか、本当はもう少し話したかった所だが…せめて、言葉を送らせてもらえるかな?」

「…勿論、ですよ」

 

私より上の立場な筈の声の主が私に許可を求めてくる。…この人は、もしかしたら下手に出る人なのかもしれない。そんな彼女は、一拍置いた後…私に言葉をかける。

 

「君は君の思う様に生き、思う様に進んでくれれば良い。君の正義は私が保証する。君は私の誇りであり、私の期待そのものだ。時には迷う事もあるだろう、だがその時は自分を…守りたいものを、信じるのだ。それが君の道標となってくれる。だから、イリゼ()……が、頑張って…下、さい…っ!」

 

私への想いが込められた言葉。そしてその言葉と同時に紋様から光の帯が伸びて私を包む。その言葉は、何よりも私の心を打ち、私の背中を押してくれた。だから、私は返す。私へ声をかけてくれた相手に…原初の女神、イリゼに応える。

 

「はい、頑張ります。…だから見守っててね、イリゼ()

 

 

 

 

「ただいま戻りましたー…って、へ?」

 

もう一人の私…原初の女神との対話を終え、コンパのアパートへと戻った私を迎えてくれたのは意外な人達だった。

 

「あ、お帰りなさいイリゼさん(・ω・)ノ」

「目的は済んだのかい?」

「あまりアタクシ達を待たせないで欲しいわ」

「これでこちらも目的を果たせますね」

 

ケイさん、チカさん、ミナさん。イストワールさんは勿論だけど、各国の教祖さん達まで部屋の中に居た。当然、私は教祖さん達が来るなんて聞いていない。…えーっと…

 

「教祖だョ!全員集合…とかですか?」

「いや何言ってるのよ貴女…」

「私達がコメディ番組をしたら確実にカオスなものになりますね…」

 

チカさんは呆れ気味に、ミナさんは苦笑いしながら私の疑問に答えてくれる。…いや、勿論本気でそう思ってた訳じゃないよ?

 

「では、どの様なご用事で?」

「僕達はそれぞれノワール達に頼まれて君にこれを渡しに来たのさ」

 

そう言ってケイさんは私に数個の結晶を見せる。それに続く様に各々結晶を見せてくれる教祖さん達。

紫、黒、緑、白の四色の結晶。私はその結晶を見たのは初めてだったけど、その結晶は女神にとても深く関わる物だったからか瞬時にどういうものなのか理解が及ぶ。

 

「これって…シェアエナジーの結晶体、ですか…?」

「はい、シェアエナジーを凝縮させ、エネルギー状態から固体へと変えた物…これは『シェアクリスタル』と呼ばれるものです( ̄^ ̄)」

「シェアクリスタル…え、それを私に?」

 

シェアエナジーといえば女神の力の源であり、女神にとっては大切なものの筈。ましてや今はそれぞれが戦いに臨む以上、軽々しく他人に与えられる様な物だとは到底思えなかった。そんな私の疑問に、教祖さん達はそれぞれ答えてくれる。

 

「わたし達は貴女と共に戦えないからせめてこれを、という事らしいですよ」

「君の事は聞いたよ。これがあればある程度は本来の力に近付けるんじゃないのかい?」

「マジェコンヌと魔王とやら相手に一人で戦うなら、これはあって困らないでしょう?」

「ネプテューヌさんは女神の力を失ってしまいましたが、シェアは残っていました。気にせず使ってくれとの事です( ̄▽ ̄)」

「皆……」

 

自分の知らない所で自分の為に何かをしてもらえた、という事に私は胸が温かくなるのを感じる。私の為にしてくれた皆の優しさを噛み締めながら、私はシェアクリスタルを受け取る。

 

「…皆に伝えておいて下さい。ありがとう、皆の思いは絶対に無駄にしないって」

「分かりました。ですが無理は禁物ですよ?(。-_-。)」

「僕達も君には期待している。この期待に応えてくれる事を願うよ」

「お姉様のご好意なんだから、ありがたく使いなさいよ?」

「ブラン様達も頑張っています。…なので、お願いしますね」

 

教祖さん達四人の言葉に頷き、ギョウカイ墓場へと向かう事を伝えてから私はシェアクリスタルを含む必要な物を持って、外へと出る。

友達が、今までに関わった人達が、そして…原初の女神までもが私の背中を押してくれる。ちょっぴりそれにプレッシャーも感じるけれど、それよりもずっと感謝と幸福感が私を満たしていた。

私への期待に応えたい。この大切な日々をこれからも続けたい。皆を、守りたい。その想いを、意志を胸に私は女神化し、飛翔する。目指すはギョウカイ墓場、強大な敵となったマジェコンヌと魔王ユニミテス。…でも、恐怖はない。だって…

 

「私には…皆がついてるからね」

 

そうして私は空へと舞い上がり、ゲイムギョウ界中心部へと向かい…皆の為の戦いに臨むのだった。




今回のパロディ解説

・四次元ポケット
ドラえもんシリーズに登場するひみつ道具の一つ。本作や原作に関わらず、明らかに持てない量や大きさの荷物を持ち歩いてる作品は多いですか…突っ込むのは野暮ですね。

・教祖だョ!全員集合
コメディ番組、8時だョ!全員集合のパロディ。作中でも突っ込まれていますが、ゲイムギョウ界の教祖でコントをやったら…さぞシュールなものになるでしょうね。

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