超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative 作:シモツキ
リーンボックスは四大陸の中で一番過ごし易い、っていう話をどっかで聞いたけど、わたしはそれが割と合ってると思う。理由はいくつかあるけど…やっぱりまずは環境。プラネテューヌより自然が身近で、ラステイションよりも綺麗で、ルウィー程厳しくもない。それがリーンボックスの売りらしいし、現にリーンボックスで迎える朝は気持ちの良いものであったけど…
「うぅぅ…昨日は酷い目にあった……」
わたしの起床後の第一声は、こんな感じだった。いや、だってねぇ…寝る前の数時間が大分アレだったし……。
「わたくしは楽しかったですわよ?あいちゃんといちゃいちゃ出来たのは勿論ですけど、貴女とコンパさんの絡みも見ていて中々微笑ましかったですし」
「…ベールってある意味ノワールやブランよりもずっと厄介だよね」
「一筋縄ではいかないのが大人の女性というものですわ」
「わたしからすれば大人なのか子供なのかよく分からないのがベール何だけどなぁ…」
わたしとベールは女神の中じゃゲーム大好き不真面目組として気が合うし、別に仲悪かったりはしないけど、時々こうなるんだよね。うーん…ベールもわたしと同じ引っ掻き回す側だからかな?今回の場合はわたしじゃなくて誰だったとしても精神持ってかれる気がするけど。
『ふぁぁ……』
「あちらの二人は眠そうですわね」
「そりゃそうだよ…片方は普段やらないような事長時間やってた訳だし、もう片方はベールに一晩中ホールドされてた訳だし」
あちらの二人、とはこんぱとあいちゃんの事。ここまで…というか前話を読んでくれた人ならどっちがどっちなのかは分かると思うから説明は割愛!ついでにしれっと前話の宣伝もしちゃったね!
「では、眠気覚ましに紅茶は如何かしら?」
「紅茶?眠気覚ましと言えばコーヒーじゃないの?」
「眠気覚ましに一役買うカフェインは紅茶や緑茶にも入っているんですのよ?」
「あ、じゃあ頂きます…」
「わたしも欲しいです…」
と、いう事でベールに淹れてもらった紅茶を飲むわたし達(わたしも眠くはなかったけど貰った)。わたしは普段紅茶なんて飲むタイプじゃないけど…そんなわたしでも分かる位ベールの淹れてくれた紅茶は美味しかった。淹れ方も何か優雅さを感じられたし、ベールは紅茶には凝ってるのかな?
「ふぅ…ありがとうございますベール様、ちょっと目が覚めた気がします」
「今度美味しい淹れ方を教えてほしいです」
「ふふ、いつでも教えて差し上げますわ」
紅茶が少し熱めだった事もあって、段々と目が覚めてくるこんぱとあいちゃん。その後暫く雑談をした所で、わたしはある事を思い出す。
「…あ、そう言えばさベール。昨日やってた情報収集は進展あった?」
「あぁ、そういえばそうでしたわね。少し待って下さいまし」
そう言ってベールはPCを操作、慣れた手つきで例のサイト画面を開く。
「…結構たくさん情報が載ってるですね」
「えぇ、ですが現段階では些か信憑性に欠けますわね…何件か偽者ではなく本物のわたくしの情報もありますし」
「じゃあどうするんですか?もう少し待ってみます?」
「いえ、その為に他の職員にも調べさせていたんですもの。わたくしの予想ではそろそろ…」
と言いつつベールは部屋の扉の方を向く…と、その瞬間トントン、という音が扉からし、続けてチカの声が聞こえてくる。…え、まさかわたくしの予想ってこれ?タイミング良過ぎない?
「お姉様、偽者の情報を纏めて書類に致しましたわ」
「ご苦労様、チカ。偽者のわたくしによる被害の報告はありまして?」
「いいえ、今の所はありませんわ。…しかしお姉様の姿を無許可で借り、お姉様に仇なすとは何と不届きな…見つけたらアタクシの手で制裁を加えたいものですわ…!」
「あ、相変わらずこっちはこっちでベールLOVEだね…」
ベールの事をお姉様と呼んだりベールといる時はベールと同じ口調になったりする辺り、あいちゃんに負けず劣らず…というかあいちゃんと違って羞恥心がない辺り、こっちの方が凄いのかも…良い意味でなのか悪い意味でなのかはチカの尊厳と私の身の為に伏せておくけどね。
書類を受け取ったベールはペラペラと捲って読んだ後、書類とPCの画面を交互に見始める。その顔はさっきまでの穏やかな様子が少し身を潜めて、その分真剣な様子が表れていた。
「お姉様、どうですか…?」
「…これならある程度場所を絞り込めそうですわ。勿論、絶対居るではなく居る可能性が比較的高い、止まりですけど」
「それでも十分だよ。リーンボックスを片っ端から探してたら何日かかるか分かんないし」
「ま、そうですわね」
わたしの言葉に頷いた後、ベールは書類の中にあったリーンボックス領の地図にペンで三つの丸を描く。流石にこの流れでこの丸の意味が分からない人はこの場にはいない。この丸は勿論……
「ここにベールさんの偽者がいるですか?」
「そういう事ですわ。先程言った通り絶対ではありませんけど…ネトゲのゲリラボス位には出てくる見込みがありますわ」
「確率が高いのか低いのか分かり辛いですよそれは…」
「分かりましたわ。では早速教会の者を…」
「いえ、貴女含め職員はここで通常業務をしていて下さいまし」
すぐに部屋を出ようとしていたチカを止めたのはベール。それに対しチカは怪訝な表情を浮かべる。まぁそりゃそうだよね、今の所目立った被害はないとはいえ、非常事態が起こってるのに通常業務を…なんて言われたら、わたしでも頭の上にはてなマーク浮かべちゃうもん。
ベールも理由を言う必要がある事は分かっていたのか、チカやわたしが疑問を口にする前に答えてくれる。
「まず、何度も言う通りこの三ヶ所は比較的可能性が高い、と言うだけであって居ると断定出来ない以上、教会の者まで動かしてここを薄くするのは得策ではありませんわ」
「確かにそれはそうですね、複数箇所で発見されてるって事はその場にずっと留まってる訳じゃない訳ですし」
「それに教会が動くというのは国民の不安を煽りますわ。噂は侮れないもの、既にちらほらとわたくしの偽者の事が風の噂で流れてる中教会が動いたらどうなるか、貴女ならば分かるでしょう?」
「そう、ですわね…。危うく軽はずみな指示を出してしまう所でした、申し訳ありませんお姉様…」
「構いませんわ、チカが教祖としては新人である事は十分に分かっていますもの」
流石にベールも女神、と言った所かかなりしっかりとした説明をしてくれた。いやー、ちょっとこれはわたしには無理かなぁ、記憶喪失のまんまだしさ。
「じゃあさベール、その三ヶ所にはわたし達だけで行く?」
「えぇ、というかネプテューヌ。さも当然の様に『わたし』達と言ってましたけど、女神化出来ない状態でも大丈夫ですの?」
「もっちろんだよ。実際プラネテューヌで偽者のわたし倒してきた訳だし」
「ならば戦力として数えられますわね。相手は偽者とはいえわたくし、あいちゃんもコンパさんも油断大敵ですわ」
そしてわたし達は教会の人に用意してもらった朝食(一応ベールに毒味してもらったよ)を食べた後、三つの場所を確認して外へ出る。
「偽者のベールと戦うのは二度目だよね。一回目は偽者というかマジェちゃんが化けた姿だったけどさ」
「あの時よりわたし達は強くなってるです。だから今回は前より戦える筈です」
「士気は十分ですわね。…しかし、あいちゃんは一体どこへ…?」
「あいちゃんならチカさんに呼ばれてたですよ」
わたし達が外に出る数分前、あいちゃんはチカに呼ばれて…というか、肩を掴まれてどこかへ行ってしまった。ま、まぁあの二人ってなると内容は予想出来るけどね。…あいちゃん無事戻ってくるかなぁ…。
なんて考えていたら、丁度あいちゃんが戻ってくる。
「待たせたわね、皆」
「大丈夫ですわ。それより何の御用でしたの?」
「え?いや、まぁ…わざわざベール様が気にする事ではないですよ、いやほんとに」
「そう、ですの?」
「あいちゃん、今回はしっかり戦わないとチカがテレポートしてくるかもね。キャラや口調的に某レベル4さんっぽいし」
「止めなさいよねぷ子、ほんとに来たらどうすんのよ…」
妙に察しの悪いベールと何ともいえない表情を浮かべるあいちゃん。こんぱは元々こういう事に疎い事もあって現状一番分かってるのはわたしっぽかった。分かったからってだから何だ、って話だけどね。
まぁ、そんなこんなで目的の三ヶ所へと向かうわたし達だった。
「あ、見て見て!子猫見つけたよ子猫!」
「ねぷねぷ、子猫さんを追いかけてどっか行っちゃ駄目ですよ?」
リーンボックスの教会を後にしてから数時間後、わたし達は木々が左右に並ぶ道…林道って言うのかな?…を歩いていた?…あぁ、もう子猫見えなくなっちゃった……。
「ベール様、次の目的地まで後どれ位何ですか?」
「後五分もあれば着く筈ですわ、実際に歩いて調べた訳ではないのですけどね」
「次こそベールの偽者居るといいな〜」
わたし達は既に一ヶ所…三ヶ所の中で教会に一番近いダンジョンへと訪れていた。…けど、そこは空振りだったんだよねぇ。二ヶ所目へ向かってる事から分かると思うけどさ。
「そういえば、ベールさんは偽者さんをまだ見かけてないですか?」
「見かけてませんわ。見かけてたらその時点で倒しますもの」
「…実は本物のベールは別の場所にいて、ここにいるベールの方が偽者だったりして……」
「あら、よく分かりましたわねネプテューヌ。では覚悟するのですわ」
「ちょっ!?槍の先っちょでツンツンするの止めて!地味に痛いしこれプラネテューヌであいちゃんにもやられたネタだから!」
突っ込みの代わりに結構酷い仕打ちが帰ってきた。…ベールは怒ってるって訳じゃないっぽいし、ギャグが通じない訳でもない…どころかむしろノってくれてるからそれは嬉しいけど…ちょっとこれは悪ノリにしてもキツいって…。
「ふふ、やはりわたくしとあいちゃんは相性が良いんですのね。まぁそれはともかく、偽者ではありませんので安心して下さいまし」
「わ、分かってるよ…うぅ、こんぱ手当てしてー」
「この位なら…痛いの痛いの飛んでけ〜、です」
「いやそれは手当てでも何でも…ってあれ、何だかほんとに痛くなくなってきた様な……」
どう見てもこんぱが医療キットを使った様にも、治癒魔法を使った様にも見えない。なのに痛みが引くって…も、もしやこんぱは精霊とか天使なの!?こんぱちゃんマジ天使なの!?
「単純なネプテューヌとほんわか雰囲気のコンパさんだと相乗効果であんな事が起きるんですのね…」
「ある意味羨ましいですよ、ほんとにある意味で…」
「ほぇ?何の話をしてるですか?」
「何でもないわ、それより目的地へ…って、あら?」
雑談を終わらせて先を進もうとしたあいちゃんがいきなり止まる。これは確実に何かあったパターンだね。…なんて思ってたわたしも前を見た瞬間同じく止まる。理由は簡単、道の反対側から一人の少女が歩いてきたからだった。
郊外、特にダンジョンへの道で一人の人と会う事は少ない。ダンジョンに用がある人でも基本は複数人で行くし、そもそも大体の人はダンジョンに用事なんてないもんね。だからこういう所に一人でいるのは複雑な事情があるか、わたし達みたいに一人でもそれなりに戦えるかのどっちかだけど…今回の場合は後者かな。だって見るからに格闘技が得意そうな見た目だもん。
「おーい、鉄拳ちゃーん!」
「あ、ネプテューヌさん!」
「知り合いですの?」
「うん、前にリーンボックスに来た時に地図くれた良い子だよ」
灰色の髪に激戦を繰り広げた後の様な服。わたしの思った通り向こうから来ていたのは鉄拳ちゃんだった。
「こんな所で会うなんて久し振りだね。またお仕事?」
「うん、そうだよ。鉄拳ちゃんこそこんな所で何してるの?」
「えっとね、この辺りで女神化したベールさんに似ている人が徘徊してるって噂を聞いて確かめにきたんだ」
意外にも鉄拳ちゃんの目的はわたし達と同じだった。…あれ、でも確かファルコムも偽者のわたしの情報を得て地下プラントに来てたんだよね…もしかして鉄拳ちゃんやファルコムと同じ様に動いてる人は他にもいるのかな?
「なら目的は一致してるね。それで偽者のベールは見つかった?」
「ううん、残念だけど見つからなかったんだ…それでだけど、そういうって事はネプテューヌさん達も探してるんだよね?ならわたしも一緒に行って良いかな?一人だと寂しくて…」
「全然オッケーだよ!鉄拳ちゃん見るからに強そうだし、それはこっちが嬉しい位だもん」
「そうですわね。ネプテューヌが女神化出来ない以上、戦力が増えるのはありがたいですわ」
わたしとベールは勿論、こんぱとあいちゃんも鉄拳ちゃんの加入に文句は無いという事ですぐに加入が決定する。鉄拳ちゃんは見た目的に戦闘関連はともかく、それ以外なら常識人だと思うしこのパーティーでのわたしの負担減るよね、きっと。
「それじゃ、前とは面子が違うみたいだしこっちのベールさん達はわたしの事知らないだろうから改めて自己紹介するね。わたしは鉄拳、宜しくね」
「わたしはこんぱっていうです、こっちこそ宜しくです」
「こっちの、って事は貴女も別次元組なのね。なら知ってるかもしれないけど私はアイエフよ」
「ご存知の様ですがわたくしはベールですわ、超未来戦士さん」
「それは鉄拳は鉄拳でも芸人さんの方だよぉ!」
「冗談ですわ、というかコンパさんに近いほんわかとした雰囲気の割にいい突っ込みしますわね…」
初対面の人にアレなボケをかましたベールはさておき、わたしを除くパーティーメンバーと鉄拳ちゃんとの自己紹介が終わる。こんな場所じゃゆっくり話も出来ないし、目的が済んだ訳でもないから探索を再開したい所だけど…
「見つからなかった、って事はこの先にも偽者のベールは居ないんだよね?じゃあ、三つ目の所行く?」
「そうなるわね。ゲームじゃあるまいし、同行メンバー次第で出てくるかどうか決まるなんて事があるとは思えないわ」
「あいちゃん、本作はともかく原作は普通にゲームだよ?」
「あのねぇ…まさか本気で言ってる?」
「まさか。三つ目の場所も案内お願いね、ベール」
と、いう訳で道を引き返し、最後の目的地へと向かうわたし達。鉄拳ちゃんの加入という、見逃したらかなり後悔しそうなイベントを取りこぼさなかった事は嬉しいけど、本来の目的である偽者のベールは未だ見つかってないんだよね。次も見つからなかったら捜索は大分難しくなるし、作品のテンポの為にも見つかってほしいなぁ…。
「……あ」
「どうしたのよねぷ子」
「いや、ほら…今までぽよんとぺたんの割合が中間の人がいた事もあって5:5かぺたんの方が多いかだったのに、今回鉄拳ちゃんが加入した事で遂にぽよんの方が多く……」
「…嫌な事に気付いちゃったわね……」
「うん、嫌な事に気付いちゃったよ……」
鉄拳ちゃんが加入した後の十数分間、こんぱ、ベール、鉄拳ちゃんには分からない悩みで肩を落とすわたしとあいちゃんだった…。…め、女神化すればぽよん側だもん!今は出来ないけどいつか力を取り戻してどっちの側にも立てる様になるんだもんねっ!
今回のパロディ解説
・某レベル4
とある魔術の禁書目録及びその系列作品に登場するキャラ、白井黒子の事。作中で言った通り両者は見た目こそ違いますが、お姉様云々や口調等似ている点が多いですね。
・こんぱちゃんマジ天使
AngelBeats!!に登場する天使こと立華葵の可愛さを示す言葉のパロディ。因みに、原作でもとあるネズミが言いますが別にネプテューヌがそれを意識したのではないです。
・超未来戦士
お笑い芸人、鉄拳さんの事(事情)。名前が似てる、とかではなく完全に同じ字なので、多くの原作ユーザーはこの方を一度は連想したのではないでしょうか?