超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative 作:シモツキ
--------声が聞こえる。言葉の内容はよく分からないが、自分に対してかけられている言葉だという事は分かる。
--------揺れを感じる。どの様な形でなのかはよく分からないが、自分を動かし、移動させているのだという事は分かる。
----------------では、自分とは……誰?
「……っ…」
うっすらと開いた目に景色が入り込む。自分は寝た覚えがないんだからきっと何らかの理由で気絶した…んだと思う。意識を失う前の事を覚えてないから確信はないけど。
(……壁?)
目の前にある物は壁状なのだから壁だろう。少なくとも私の記憶の中では壁という名称だ。
だが、自分が横になっている事に気付いた私は考えを訂正する。目の前の物は壁ではなく天井だった。意識を失っていたんだから横になっているのは当然なのにそれに気付かなかった辺り、頭がまだはっきりしてないんだろう。
…そう、はっきりしてないのだ。決して元からアホだとかそういう訳ではない。そう信じたい。
「…あ、起きた?」
声をかけられる。声のした方を向くとそこには紫色の髪の少女がいた。
「やー良かったよ。ずっと意識失ったままじゃこっちも困っちゃうからね…あ、ちょっと待ってて」
「え…ちょ……」
言うだけ言って少女は部屋を出ていってしまった。普通状況説明とか体調確認とかするものなんじゃ…?
などと思っていたら先程出ていった少女が二人の少女を連れて戻ってきた。
「目が覚めたみたいで良かったですぅ。ちょっと失礼するですよ?」
(…え、何?なんで私は目にライトっぽいので光受けたり額触られたりしてるの!?)
「コンパ、いきなりそんな事したらびっくりさせちゃう…というかびっくりさせてるわよ?」
「え?あ…ごめんなさいです…」
茶色の髪の少女に注意されていきなり私を調べ始めた少女が手を止める。…良かった……。
「驚かせて悪いわね。大丈夫かしら?」
「は、はい…えと、あの…ここはどこで皆さんはどちら様でしょうか…」
「え…わたし達の事分からないの!?」
紫色の髪の少女が驚いた様な表情をする。え、嘘…もしかして知り合いだったの…?じゃあ、私はもしや……
「いや、普通に初対面でしょ」
……違った。寝起きの私にはあまりにも酷な嘘だったが、良心的な突っ込みのおかげで私の平静は保たれた。確実に茶髪の子は良い人だ。
「もう、あいちゃんここは乗ってよー」
「ねぷねぷ、びっくりさせちゃ駄目ですよ?」
「さっきいきなり診療して驚かせたこんぱがそれ言う…?」
「…あの…ですから、ここはどこで皆さんは一体…?」
今までの会話で三人のそれぞれの性格がなんとなく分かったけど、このままでは私の聞きたい事にいつまでも辿り着かない気がするので再び聞く。
「っと、悪かったわね…じゃあまず自己紹介からしましょうか。私はアイエフ、ゲイムギョウ界に咲く一陣の風とは私の事よ」
(……ゲイムギョウ界に咲く一陣の風?)
そんな職業もそんな役職も聞いた事がない。私が無知でないのであれば恐らく二つ名という奴だろう。…自称でない事を祈りたい。
「どうかした?」
「い、いえ…アイエフさん、ですね」
「じゃあ次はわたしがするです。わたしはコンパって言うです、これでも看護学生なんですよ?」
「看護学生…あ、だからさっき私に診療らしき事を…」
たった今コンパさんという人が謎の行為をする人ではなく医学知識に基づいた診療を行った学生なのだと判明した。不安要素が一つ減ってほっとした。
「それじゃ、最後はわたしの番だね」
「そ、そうですね…」
先程ねぷねぷと呼ばれた人が言う。多分愛称だと思うが…ちゃんと自己紹介してくれるのだろうか?
「わたしはネプテューヌ。今作での主人公だよ、宜しくね」
…なんて返答したら良いのだろうか。と、私が予想の斜め上の自己紹介に困惑しているとアイエフさんとコンパさんが補足をしてくれる。
「ねぷ子はこういうキャラなのよ、早めに慣れた方が良いと思うわよ」
「ねぷねぷは記憶喪失さんなので自分の事はよく知らないんです」
「記憶喪失…あ、だからこんなキャラに…」
「失礼だなぁ、元からこんなキャラだよ?多分」
…天然、という訳ではなさそう(どちらかと言えばコンパさんが天然の様に思える)だけど、ちょっとアレな子感が否めないのでアイエフさんの言う通り早めに慣れたい。
「ええと…ネプテューヌ…さんは愛称で呼んだ方が良いんですか?」
「ううん、そのままでもねぷねぷでもねぷ子でも呼びやすい様に呼んでくれればいいよ?もっと言えば敬語じゃなくてもいいしさ、でしょ?」
「そうね、私も構わないわ」
「はい、わたしもです」
「…皆さん……はい、分かりま…ううん、分かったよ」
…良い人達だ。まだ知って少ししか経っていないけど見も知らぬ私と気さくに話してくれる彼女達はきっとそうなんだと思う。
「じゃ、次はここはどこか、ね…」
「ここはわたしの借りてるアパートです」
「えと…ごめん、出来ればどこにあるアパートなのか教えてくれる…?」
「あ、ごめんなさいです…プラネテューヌにあるアパートですよ」
「…プラネテューヌ…?」
聞き覚えのない単語だった。場所について聞いたんだから恐らく国名や大陸名と言った地名だと思うけど…。
「…どうかしたですか?」
「…変な事聞くかもしれないけど…プラネテューヌって、地名?」
「地名というか国名だけど…まさか知らないの?」
コンパとアイエフの二人が顔を見合わせ、その後ネプテューヌを見る。それの意味するところは想像出来るが…その事実を認めたくない私は慌てて言葉を紡ぐ。
「そ、それより私も自己紹介しなきゃだよね?」
「そうだね、わたし達は君の事を全然知らないし」
ネプテューヌが話に乗ってくれる。さっきちょっとアレな子と思ったけどそれは訂正しておこう。
「それもそうね…じゃあまず名前を教えてくれる?」
「…え……?」
別に質問の意味が分からなかった訳じゃない。名前、つまり自分という一個人の固有名詞を聞かれているという事は分かるけど…
「…分からない、です?」
「う、ううん待って…えっと、私の名前は……」
ぼんやりとだが頭の中に単語が浮かぶ。それが自分を指す単語だという確信は無いけど、他に思い当たるものも無いのでその単語を口にする。
「……イリゼ…私の名前はイリゼ、です」
口にした瞬間、ただの単語でしかなかった『イリゼ』が自分の名前だと確信が持てた。そう、私はイリゼだ。
「そっか、じゃあこれからイリゼって呼ぶね」
返答をしてくれるネプテューヌ。だがコンパとアイエフは彼女達の中に生まれた推測の当否を確かめる為に次の質問をしてくる。
「イリゼ、貴女が意識を失う前の事は覚えてる?」
「それは……」
「お友達や家族の名前は分かるですか?」
「…………」
答えられない。分からないから。
口に出せない。思い出せないから。
コンパとアイエフに質問され、ネプテューヌという現在進行形での体験者を前に私は否応なしに理解させられる。
そう、あの嘘はある意味で真実だったのだ。
私はネプテューヌと恐らく同じ…コンパとアイエフ、そして私の推測通りの…
--------記憶喪失、だった…。
未知の感覚だった。
鼻腔をくすぐる芳醇な匂い。一回り大きさを変え、元より格段に硬くなったそれを自分の内側に入れる事には抵抗があったが、記憶喪失という事実を認識した直後の私には冷静な判断など出来ず、言われるがままにそれを受け入れてしまった。
私の中に入り込んだそれは落ち着く暇も無く私へ刺激を与えてくる。驚き動揺する私の心とは裏腹に、身体はそれが与える感覚を抗う事無く享受している。
こんなの知らない。それが私の奥へと入った頃には身体だけではなく心まで掌握され、いつしかそれを自ら求めていた。
「もっと…頂戴……」
嗚呼、言ってしまった。もう拒否など出来ない。だが、それで良いのかもしれない…私はそれを欲しているのだから…。
私がそれの虜となっている事に気付いた者は満足気な笑みを浮かべると共に、再び私の前へ…
「ふふっ、イリゼちゃんがプリンを気に入ってくれて良かったです」
「やっぱりこんぱの作るプリンは絶品だよね」
そうだ、プリンだった。私は今部屋を移動し三人と共にプリンを食べている訳だが…どうして私はプリンを一貫して『それ』なんて呼び、湾曲した表現をしながら食べていたんだろう…まあ、考えてもしょうがないので気にしない事としよう。
「うん、それよりごめんね。私の為に気を使わせちゃって…」
「謝る事なんてないわよ。気付かせたのは私とコンパな訳だし、そもそも記憶喪失なら落ち込むのも仕方ない事よ」
「いや、でもネプテューヌは記憶喪失だとは思えないレベルで元気だし…」
「それはむしろねぷ子が変なのよ…」
まあ、実際そうなんだろうとは思うけど…それでも気を使わせてしまっている様な気がしてならない。これは理屈じゃなくて感情的なものなんだから。
「…ネプテューヌはどうしてそんなに明るくいられるの?何か秘訣があったりするの?」
「え、別に無いけど?」
即答された。…な、無いの…?
「だって落ち込むも何も、何にも覚えてないのに何を落ち込めばいいのさ?それにまだ記憶が戻らないって決まった訳でもないし」
あっけらかんと答えるネプテューヌ。そう思う事が出来たら苦労しない…と言う口から出かかった反論を私は飲み込む。
確かにその通りだ。私の中に渦巻いている不安は漠然としたものであり、記憶を失った事への悲壮感も具体性のないぼんやりとした感覚。どっちも何となく辛い、何となく悲しいでしかないのだ。
それに気付いた瞬間、私の胸が少し軽くなった(精神的な意味だ。断じて物理的ではない、物理的に軽くなって堪るか)。まだ不安は残っているが一歩前進した気がする。
「…ネプテューヌ、ありがと」
「どう致しまして…って、わたし何かしたっけ?」
「ううん、全然」
「そっか…ってそれはそれで酷くない!?」
ネプテューヌから突っ込まれる。うん、やはり私は確実にさっきより元気になってる。
「イリゼちゃんちょっと元気出てきたですね」
「ええ、意外にもねぷ子の性格が功を奏したわね」
「あ、皆ちょっと質問良い?」
軽い雑談の後、私は気になっていた事を口にする。
「何です?」
「さっき私を見つけた場所については聞いたけど、どうして魔窟…だっけ?…にいたの?まさか観光じゃないよね?」
「あー、それはかくかくしかじかでね」
「……はい?」
全く意味が分からなかった。何故ならネプテューヌは説明ではなく文字通り『かくかくしかじか』と言ったのだ。活字では説明している様に見えるかもしれないけど…って私は誰に言ってるんだろ…。
「私としては旅の一環。ねぷ子とコンパはねぷ子の記憶の手がかり探し兼クエストだったらしいわ」
「へぇ…クエスト?」
「ギルドって所に来る依頼を受けるお仕事みたいなものです」
クエストにギルド…生きる以上仕事は必要だと思うし覚えておかないと。……よし。
「…ついてっちゃ、駄目かな?」
『え?』
「その、クエストとかダンジョンに…また行くんでしょ?」
「そりゃまあ、イリゼを運ぶ為に中断して戻った訳だしそうだけど…大丈夫なの?」
「大丈夫、ちゃんと身体は動くしそれに…皆には助けて貰ったからお返ししたいの」
「…そうね、その気持ちを無下にするのも気分が悪いし良いと思うわ」
「わたしもです、それにねぷねぷは駄目だったけどイリゼちゃんは途中で何か思い出すかもしれないです」
「うんうん、わたしもパーティーメンバーが増えればその分休める…じゃなくて安心出来るから大賛成だよ!」
「皆……」
若干アレな言葉も聞こえたけど皆快く了承してくれた。…記憶喪失になった事は不幸だけど、最初に会えたのがこの三人だった事は本当に幸運なんだと思う。
「…皆、私頑張る、コンパの言う通り記憶を取り戻す手がかりを見つけられるかもしれないし…何より皆に恩返ししたいから、頑張るよ!」
決まった…!と、私は自分の宣言に満足していざダンジョン……
「ええと…イリゼちゃん、ほっぺにプリン付いてるです…」
「…………」
…ではなく、恥ずかしさのあまり自分の寝ていた部屋のベットへ逃走したのだった…。
読んで下さりありがとうございます。連日投稿は大変ですね、次は少しペースが落ちるかもしれません…。
さて、次から原作ストーリーの流れに入り始める(と思う)ので、過度でない程度に期待して下さるとありがたいです。