超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第六十四話 狂信が故の裏切り

普段大人しい人がキレると怖い、普段キレキャラ扱いされてる人がマジギレすると洒落にならない、その二つを国単位で痛感した日の翌日。わたし達はやっと気を納めてくれたブランと共に教会にいた。

 

「…一面の銀世界、澄んだ空気、活気ある国民!やールウィーも中々見所あるよね!」

「あからさまね、ご機嫌取りなんかしなくていいわ」

「だ、だよね……」

 

気を納めてくれた、とはいえ流石のわたしも昨日の今日で普通に話すのはちょっとキツいかな〜…と思って最初はちょっと媚び諂ってみたけど…うん、完全に失敗だったね。これはいつも通りに話した方が良さそうだね。

 

「全く…限度というものを知ってほしいわ」

「え、それをブランが言う?」

「何か文句でも?」

「いえ一切ありません」

 

口調も態度もいつも通り。…いや、ほんとにいつも通りだし実際ブラン自身も言葉の裏に怒気を孕ませてる訳じゃないんだろうけどさ、やっぱ昨日の今日だからねぇ…こりゃ早めに話変えないと……。

と、そこで運の良い事に別の部屋に行っていたこんぱ達がやってくる。

 

「お待たせです…ってあれ?ねぷねぷ早いですね」

「ヒーローは遅れてやってくるものだからね!」

「それは全く逆の意味だにゅ」

「ねぷ子の場合は遅れる原因が寝坊とかでしょうね」

 

ぞろぞろとやってくるパーティーメンバーとぷちこ。この三人はそこまでブランの怒りを買っていた訳じゃなかったからかわたしに比べるとかなり自然な態度だった。

 

「さて、これで全員集まった様ね」

「全員ってのがパーティーの事ならそうだね」

「えぇそれよ。貴女達を呼んだのは今わたしの偽者への対処がどれだけ進んでいるかを知っておいてもらう為よ」

 

各国に現れたわたし達女神の偽者を倒す為に各大陸ごと別れてから数日。ゲームと違って主人公であるわたし達がいない間にも当然時は流れる訳で、ブラン…というかルウィー教会はベールとリーンボックス教会同様に情報収集をしていたらしい(ベールみたいに個人的な手段では調べてなかったっぽいけどね)。

 

「話す、という事は成果があったんですか?」

「その通りよ。偽者の情報収集は勿論、偽者が何もしない何て事は無いと思って国内の警備も強めたわ。皮肉なものだけど、マジェコンヌがルウィーを軍事国家にしようとしたお陰で予算や兵には余裕があったし」

「怪我の功名、といった所かにゅ」

「…そして、その結果首都付近で偽者の発見に成功。それを聞いたわたしが急行して即座に開戦、そのまま進んで…」

「昨日の二人のブランさんの言い合い、という状態になったんですね」

 

こんぱの言葉に頷きつつ、言うべき事は言った、という感じの表情を浮かべるブラン。因みにこの説明の間、わたしは殆ど口を挟まなかった。何せボケどころのない真っ当な説明だったからね。

 

「そうなると、昨日の段階で取り逃がしてしまったのは痛手だにゅ。きっと次からは警備があるものと思って動くにゅ」

「分かってるわ。…けど、認めたくないものね。自分自身の若さ故の過ちというものを」

「過ちを機に病む事はないよ。ただ認めて、次の糧にすれば良いんだから。それが女神の特権だよ」

「真面目に話してるのかふざけてるだけなのか分かり辛いやりとりね…」

 

互いに言葉を述べた後、にやっと笑い合うわたしとブランを見て苦笑するあいちゃん。真面目に話してるのかふざけてるだけなのかって言われたらそりゃまぁ…ふざけてるだけだよね。女神と女神による即興女神コントって奴だよ多分。

 

「それはともかく、実際何か次の手はあるのかにゅ?」

「あるかないかと言われると…ないわ」

「それじゃあ、情報収集するです?」

「そのつもりよ。一応偽者のわたしが飛んで行った方角に探索をしてもらってるけど…ざっくり過ぎるから成果は期待出来ないわ」

「駄目だなーブランは。もっと反省しなきゃだね」

「さっきと言ってる事違う上にネプテューヌにだけは言われたくないわ…」

 

そういう訳でリーンボックスの時と同様、有力な情報が入るまで待つ事となるわたし達。流石に世の中そこまで都合良くは出来ていないのかその日は殆ど情報が入らず、いつどこに偽者のブランが現れるか分からない以上下手にどこかへ行く事も出来なくて、微妙に落ち着かない一日を過ごす事となった。

そして、そんな一日を過ごした翌日に…事態は動く。

 

 

 

 

「…よくのこのこ面を出せたもんだな。何のつもりだよ?」

 

わたしは別に状況に合わせて口調を変えている訳ではない。単に精神状態が理性>感情となっているか理性<感情となっているかで変化しているだけ(言うまでもないと思うけど、女神化している時はまた別よ)。故に、今わたしが品のない言葉を発しているのはそれだけ不愉快な気分になっていたからであり、その原因は……

 

「それは勿論、敬愛するホワイトハート様の力となるためですよ」

 

忌々しい、ガナッシュその人だった。

ネプテューヌ達に状況を話した日の翌日。相手が相手なだけに不用意に動けないわたしは時間を無駄にしない為に雑務を片付けようとしていた。そんな時に教会に来訪したのが例のガナッシュだった。

…一応言っておくけど、ガナッシュはアヴニールの社員の事よ。いきなりこの話だけ読んでる人はほぼいないと思うから無駄になると思うけど…。

 

「ふん、どの口がそれを言うのやら…」

「物凄い嫌われようにゅ、あんた何したにゅ?」

「それは話すと長くなるからわたしが説明しよう!こほん…かくかくうまうまだよ!」

「それを言うならかくかくしかじかにゅ…でも分かったにゅ」

「今ので伝わったの!?…ねぷ子のネタに対応しつつ理解するとは……」

 

何やらパーティーメンバーが五月蝿いけど、全くもって関係ない話で盛り上がってる訳でもない様な為特に何も言わないわたし。今回はネタ発言漫才発言はあっちに任せるとしようかしら…。

 

「心を入れ替えた、という訳ですよ。それに流石に私も故郷を破壊されてしまうのは気分の良いものではありませんし」

「…その言葉だけで信用しろ、とでも?」

「アヴニールがラステイションの教会管理の下におかれた以上、私にはもう何も出来ませんよ。…まぁ、こればっかりは信じてくれるのを期待するしかありません」

「ねーねー、さっき力になる為って言ってたけど具体的には何する気なの?まさかパーティーメンバー入り?初の男性パーティーメンバー?」

 

あくまでガナッシュの言葉に否定的なわたしに対し、何を思ったのかネプテューヌは一歩進めた質問を投げかける。…ネプテューヌは信用するつもりなのかしら…彼女の場合単に興味本位で訊いただけ、って可能性の方が高いけど。

 

「パーティーメンバー入りではありませんよ、恐らく私はそちらのナースさんより非力ですから」

「わたしよりですか?わたしはでっかい注射器振り回したり戦闘中に手早く応急処置したりねぷねぷ達女神様やあいちゃん達戦闘経験の多い人の援護したりする程度ですよ?」

「…一般人枠だったこんぱも今やわたし達に劣らないぶっ飛びキャラになりつつあるね……」

「朱に交われば赤くなる、って訳ね…じゃなくて、何する気なのかって話でしょ?」

「そうでしたね。私に出来るお力添えはただ一つ、ホワイトハート様の偽者の潜伏場所を伝える事だけです」

『……!』

 

一般人だった(らしい)コンパの変化にパーティーメンバー全員が苦笑し、若干緩い雰囲気になったところで虚を突くかの様にガナッシュの口から放たれた言葉に、わたし達は驚きを露わにする。

 

「偽者の潜伏場所…?…どうして貴方がそれを知っているの…」

「偶然飛行中の偽者のホワイトハート様を見つけ、後を追ってみた所で発見したというだけですよ」

「普通の人間が飛んでる相手を追えるとは思えないにゅ、怪しいにゅ」

「あぁ、貴女とは初対面ですものね。しかし他の皆様なら可能性を感じるのでは?…ホワイトハート様の為にラステイションを本気で潰そうと思っていた私ですよ?」

「そう言われると確かに執念で追いかけられそうかも…」

「謎の説得力があるです……」

 

微妙に自虐感のある台詞でわたし達に一考させるガナッシュ。そんなわたし達を見てブロッコリー…よね?ネプテューヌはぷちこって呼んでいたけど…は怪訝な表情を浮かべていた。…まぁ、ガナッシュについては実際に本性を目にしない限りは理解出来ないのも仕方ない事ね…。

 

「そういう訳で、もしホワイトハート様が私を信用してくれるのであれば私はそれをお話します。潜伏場所と言っても拠点を築いている訳ではない様なので、あまり遅くなると場所を移される可能性がありますよ?」

「……タイミング、内容、そして選択を急かす様な発言…どうも胡散臭いわね」

「そうですね、話が出来過ぎな気がします」

「んー…でもさ、ここは信じてみるのもアリじゃない?」

 

罠であれば勿論行くのは危険だし、例え罠でなくともこの状況下で不用意に教会から離れるのは得策ではない。何でも鵜呑みにするのではなく、情報の取捨選択こそが重要…と思っていたところでネプテューヌが肯定的な意見を述べる。…ほんとにわたし達の意見を聞いた上での『でも』なのかしら…。

 

「流石ネプテューヌ様、信じて頂けるんですね」

「でしょ?あ、何ならわたしの信者になる?」

「それは結構、ホワイトハート様以外を信仰する気はないので」

「あそう…まぁとにかく信じてみても良いんじゃないかな?」

 

ちっ、ここでガナッシュがネプテューヌに鞍替えしてくれれば良いものを…。……こほん。

勧誘を即座に拒否られるネプテューヌ。けど最初から冗談として言っていたのか然程ショックを受けた様子もなく、再度同じ旨の意見を述べる。

 

「…本気?私達は一回騙されて閉じ込められたのよ?」

「うん、それは分かってるしわたしもガナッシュがほんとに改心してるかどうか怪しいなぁとは思ってるよ。…けど、今は手詰まり状態である事も事実でしょ?」

「手詰まりだからこそ慎重になるのも大事よ。急いては事を仕損じるという言葉もあるわ」

 

ネプテューヌの言う事も分かる。実際偽者のわたしの情報は喉から手が出る程欲しいし、もしガナッシュの情報が真実ならわたし達は絶好のチャンスを失う事になる。だけど、罠だった場合かなりの痛手となるのは目に見えている。失敗は成功のもと、とは言うけどそれはあくまで失敗が痛手にならない、或いは後に十分回復出来る程度である事が前提にあってこその言葉であって何でもかんでもチャレンジするのが正しい、という訳ではない。

……けど、次のネプテューヌの言葉でわたしはある重要な事を思い出す事となる。

 

「----わたし達がこっちで時間かけていればかけている程、イリゼが長く戦わなきゃいけなくなるよね?…わたしはイリゼの為にも、出来る限り早めに片付けたいな」

「それは……そうね、いつまでも待ってる訳にはいかないのも事実だったわね…」

「だよね?だからそこも加味して考えてほしいなー」

「……分かったわ。ガナッシュ、話しなさい」

 

わたしの言葉に満足気な顔を浮かべ、頷いた後に場所を話し始めるガナッシュ。勿論ガナッシュを信じた訳ではない。あくまでネプテューヌの言葉、そして今も戦ってくれている筈のイリゼを少しでも助ける為にガナッシュを信用するという選択をしただけよ、勘違いしないで頂戴。

…って、わたしは誰に何を言い訳してるのかしら…これはノワールの専売特許ね……。

 

 

 

 

「いや、確かに流れ的にその可能性はあったしそういう展開は原作にもあるけどさ…よりにもよってモンスターの跋扈してる場所に潜伏するって何なのさ…」

 

ブランがガナッシュの協力を認めてから数時間後、わたし達は偽者のブランがいるというダンジョンに来ていた。因みに、信用に欠けるという事でガナッシュにも同行してもらっていた。…プラネテューヌでの職員のおにーさんの時といい、最近男の人が同行する事多くなったなぁ。

 

「ダンジョンなら探しに来る人もいないだろうって踏んだんじゃない?」

「敢えて女神化を解除する様な奴ならそれ位思い付いてもおかしくないにゅ」

「ガナッシュ、ダンジョンの中まで入って偽者の姿を確認したの?」

「いえ、先程も言いましたが私は非力ですからね。しかし中に入る所は見たので間違いはないかと」

 

道中のモンスターを倒しつつ、リーンボックスの時と同様に偽者を探しながら進むわたし達。偽者のブランがわたし達に気付いて逃走を図る、それか奇襲を仕掛けてくる可能性がある、という事で普段より慎重に進む事となっていた。

 

「…ところでさ、ぷちこに一つ訊いておきたい事があるんだけど良い?」

「急に何だにゅ」

「その面白いバランスボールみたいなのは何?」

 

道中、中々偽者のブランが見つからなくて手持ち無沙汰になったわたしはぷちこが常に持ち歩いている、黄色い玉の様な物について質問する。…あ、どんな感じなのか知りたい人は原作やるなりネットで調べるなりしてね。もしぷちことボールっぽいのを挿し絵として書いてくれる親切な人がいるなら是非頼むけどね。

 

「これかにゅ?これはゲマだにゅ」

「ゲマ?主人公を人質にとったあいつ?」

「そっちじゃないにゅ、ねぷ子の目は節穴かにゅ」

「酷いなぁ…で、それは何に使うの?クッション?」

 

ぷちこは時々、それこそバランスボールみたいにそのゲマに乗っかっていた。ぷちこの様子を見る限りバランスボールみたいに安定して乗るのが大変って訳じゃなさそうだけどね。

 

「色々な事に使えるにゅ。ここに持って来てる事からも分かる通り、武器にもなるんだにゅ」

「へぇ、強いの?ちょっとガナッシュに使ってみてよ」

「分かったにゅ、ぶっ飛ばしてやるにゅ」

「な、なんで私で試す事になるんですか!そしてブロッコリーさんも何故そんなやる気満々なんですか!?」

「一時的とはいえわたし達に同行するんだから、こういうネタにも対応しなきゃ駄目なんだよガナッシュ」

「そんな無茶な……」

 

わたし達のノリに着いていけない様子のガナッシュはげんなりしていた。んー、あの兄弟は勿論職員のおにーさんやイボおじいちゃんも個性立ってるしギャグパートにも対応出来るんだからガナッシュも名有りとしてこの位は出来なきゃほんと駄目だよね、うん。

 

「ねぷねぷは誰に対してもキャラがぶれないですね」

「自由奔放もここまでくるといっそ天晴よね」

「あれ、わたし褒められてる?やったね」

「物は言いよう…いや、多分どんな言い方してもポジティブに受け取りそうね、ネプテューヌは」

 

バランスボールっぽいのについて訊いてた筈がいつの間にかわたしが褒められる展開になっている(ブランが何か水を差す様な事言ってたけど…まぁいっか)けど、それがわたし達脱線しまくりパーティーにとっては割りと普通な事だから特に気にせず先へ進む。それがわたし達クオリティーだもんね。

…と、そこで広間の様な所に出る。

 

「ここは…このダンジョンの最奥の様ね」

「ここに来るまでにブランさんの偽者には会わなかったですね」

「ガナッシュ、これはどういう事かしら?」

「お、お待ち下さい。絶対にここにいる筈なんですよ」

 

ブランの問い詰めに対し、狼狽えながらも広間の中心へと向かうガナッシュ。そして彼は丁度真ん中の辺りまで進んだところで立ち止まる。

 

「なら、どうして偽者のわたしがいないのか説明出来るわよね?」

「……えぇ、そうですね。説明しましょう…何故ホワイトハート様の偽者がいないのか、それは…」

「それは?」

「--------私が、ホワイトハート様の命で貴女方をここへ誘い込んだからですよ」

『な……ッ!?』

 

ゆっくりと振り向くガナッシュ、その顔には悪意の籠った笑みが浮かんでいた。

そして次の瞬間、岩陰から次々と姿を現わすモンスター。モンスター達は一直線にわたし達の元へと突進してくる。

その段階に至るまでに、もう私達は気付いていた。これがブランやあいちゃんの危惧した通り、罠であった事。わたし達が嵌められたという事に。けど、モンスターはわたしが反省するのを待ってはくれない。故に、わたし達は落ち着く間もガナッシュを糾弾する間もなく戦闘へと移行していくのだった…。




今回のパロディ解説

・「〜〜認めたくないものね。自分自身の若さ故の過ちというものを」
機動戦士ガンダムに登場するライバルキャラ、シャア・アズナブルの名台詞のパロディ。下記のパロディと合わせてお楽しみ頂ければ幸いかな、と思っております。

・「過ちを機に〜〜特権だよ」
機動戦士ガンダムUCに登場するラスボス、フル・フロンタルの名台詞のパロディ。上記のパロディと元ネタ含めてのネタとなっておりますので、合わせてお楽しみ(以下略。

・主人公を人質にとったあいつ
ドラゴンクエストⅤに登場する敵幹部クラスのモンスター、ゲマの事。名前こそ同じですが、見た目も中身も全くもって違うので、普通に考えれば間違えませんよね。

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